10.舞踏会の日
王家主催の舞踏会の日がやってきた。
今日はルディスにパートナーとしての参加を頼まれた。
ルディスは気楽に参加すればいいと言ってくれたが、今まで兄弟にくっついて行くことしか無かった為、既に私は緊張していた。さっきから胸の奥がバクバクと激しく鳴っている。
仮にもルディスは公爵家の人間で、ただでさえ目立つのに…、私が失敗をすればルディスに迷惑をかけてしまうことになるだろう。
はぁ…、どうしよう。
思った以上に緊張して、私はさっきからずっとそわそわしている。
準備を終えると、じっとしていることが出来ず、廊下に出て何故かうろうろと歩き回っていた。
大人しくていると、どうも落ち着かない。
淡い青色のフリルとレースがふんだんにあしらわれた可愛らしいドレスに、髪型はアップにしている。
ルディスのパートナーとしていく事が決まったのが先々週だったため、新しいドレスを新調する時間が無かった。きっと大人っぽいルディスの隣に立てば、私は浮いて見える事間違いなしだろう。
(こんな事なら、大人っぽいドレスも一着くらい持っておくべきだったわ…)
今頃そんなことを考えても遅いが、これを機に今度新しいドレスを新調するときは落ち着いた雰囲気のドレスも作ってもらおうと心に決めた。
「ライラ、さっきからずっと廊下を歩き回っている様だけど…、緊張しているのか?」
「あ、お兄様…」
そこにいたのは兄である、キースだった。
私の2つ上でふんわりした雰囲気の優しい兄だ。
まさに自慢のお兄様!
兄には婚約者が既にいて、近々結婚する予定だ。
それは嬉しい反面、少し寂しい気持ちもある。
「私、お兄様やグロウ以外と方とパーティーに参加するの初めてで…。どうも落ち着かないんです」
「そうだね、ライラは僕達以外と行くのは初めてだったね」
私は困った顔をしながら答えると、キースは優しい口調で返してくれた。
「はい…、しかも相手はあのルディス様なので余計に緊張してしまいます」
「彼もついに行動に出たってことか」
「なんの話ですか…?」
「今までライラに婚約者が決まらなかったのは何故だと思う?」
「私に人気がないから…?」
私と同い年の令嬢達の大半は既に婚約者が決まっている。
学園を卒業したら結婚というのが貴族の中では定着しているらしい。
私は容姿的にはそこそこいけてると思うし、性格だってそんなに飛びぬけて酷いわけでも無いと思う。
良く周りからは抜けてる所があるとか言われてたりするが、そこまで酷いのだろうか?
伯爵令嬢だし、家柄だって悪くはないはずだ。
しかし、今まで婚約者が欲しいと思ったことはなかったし、弟であるグロウの婚約者も決まっていない。別に急いで結婚したい理由も無かったし、それに対して深く考える事もしなかった。
「ライラは知らないかもしれないけど、ライラと結婚したいと婚約を申し込んで来る子息は多いんだよ」
「そんな話、一度も聞いたことがありませんけど…」
その時、以前カエサルが言っていた言葉を思い出した。
あれは別人だと勘違いで言っているのだと思っていたけど、私の事だったの?
「断っているのは父さんだからね。僕も詳しい事は良く分からないけど、ライラの婚約に関しては慎重になっているみたいだよ」
「そんな話、初めて聞きました…」
「きっとライラには幸せになってもらいたいと本気で思っているんだろうね。だからライラが心から思える相手と無図ばれて欲しいと考えているのだと思うよ」
「心から思える相手…ですか」
その言葉を聞いても、残念ながら思い当たる人物はいなかった。
きっとそれは今の私にとって、そう思える相手がいないからなのだろう。
それも当然だ。私は恋なんてしたことが無いのだから…。
「だけどライラが卒業までに自分で見つけられなかった場合、恐らく申し入れをしている者の中から決めることになるだろうね。そうなったら間違いなく婚約者に決まるのは彼だろうな」
「彼…?」
「どうしてもライラとの婚約を結びたいと思っている男がいるってことだよ。一応ある程度の事情は伝えている様だけどね…」
「そんな話、初めて聞きました…。私って結構モテるんですね、びっくりです!」
「ふふっ、そうだよ。ライラは十分に可愛いよ」
そう言ってキースは柔らかく微笑んだ。
「そういえば、グロウは…?」
「ああ、グロウなら少し前に出て行ったよ。今年はちゃんとパートナーが見つかったみたいだからね。ついにグロウも姉離れ出来たのかな…」
「……」
キースの言葉に胸がチクっと痛くなった。
姉離れは出来ていないし、それ以上に複雑なことになっている。
つい最近グロウから好きだと告白をされて、しかも諦めないとまで言われてしまった。
当然そんな話を兄にすることも出来ない。
私はその場では、ただ苦笑するしかなかった。
「グロウの相手って…?」
「あれ?あの子じゃないの…?ライラが応援してた…」
「ナーシャさん?」
「そうそう、僕はまだ直接会った事ないけど、会場に着いたら挨拶しながらどんな子か拝見させてもらうよ。ライラが推す位だから可愛い子なんだろうね」
「そりゃあもう。私が見惚れるくらい可愛いです!でもお兄様は惚れたら駄目ですよ!」
「ははっ、そんなに可愛いの?だけど、僕には大切な婚約者がいるからね。彼女以外に惚れることはないよ」
そんな話をしているとルディスが到着したとの連絡を受けた。
そして私はキースと別れ、ルディスの元へと向かった。
***
「ルディス様、お迎えに来ていただきありがとうございます。今日は宜しくお願いします」
「俺の頼みを聞いてくれて、こちらこそありがとう。それにしても今日は一段と可愛いな…」
ルディスはにっこりと微笑みながら、私の事を真直ぐに見つめていた。
そんなに見られてしまうと、恥ずかしくなり僅かに頬が熱くなる。
「恥ずかしいので、あまり見ないでください…」
「本当に君は可愛らしい人だね…。ずっと見ていたい気もするけど遅れてしまうから行こうか」
「はいっ…」
ルディスは私の手を取ってくれて、馬車に乗り込んだ。
正装を着ていると本当にルディスは絵になるほど美しく見える。
制服姿も素敵だが、こういう服を着こなせてる辺り貴族の格の違いを感じる。
髪型もパーティー仕様で大人っぽいし、それでいて色気もいつも以上に出ている様だ。
この人が私と同級生だなんてどう見たって思えない。
だけど本当に横にいるのが私で良かったのかな?
馬車に揺られながらそんな事を考えていた。




