9.戸惑い
私は自室に戻ってからは、まるで心ここにあらずな状態でぼーっとしていた。
あの後、私はどうして良いか分からず、逃げるようにグロウの部屋を後にした。
思い出すと肌に残っているグロウの温もりを感じて、再び胸の鼓動がバクバクとうるさい程に鳴り響く。あんな質の悪い冗談を言うなんて酷い…!と心の奥で叫びながらも、あの時冗談で言っている様には聞こえなかったと考えを巡らる。しかしいくら考えても受け入れることなど出来ず、ただ胸の中がいつまでもざわめいていた。
どうして、こんなことになってしまったのだろう。
グロウが好きだったのは、ナーシャではなく私だったの…?
だけど…、私たちは実の姉弟で、こんなことはあってはならないことなのに…。
あの時見たグロウの切なげな表情を思い出すと、胸の奥がチクチクと痛み始めた。
そして私はどうすればいいのかを考えても、結論なんていつまで経っても見つからなかった。
明日からどんな顔でグロウと会えば良いのだろう、今までと同じ様に接することが出来るのだろうかなどと考えれば考える程分からなくなっていく。
私の頭の中はぐちゃぐちゃだ。
*****
翌日、完全に私は寝不足に陥っていた。
昨日は一睡も出来なかった。グロウと顔を合わせることが怖いし、どんな顔をして合えばいいのか分からない。
私が避けたらきっとグロウが傷つくことは想像出来たけど、今までと同じように平然を装うことが出来るほど私は出来た人間ではない。きっとすぐ顔に出てしまうだろう。
そんな事を考えてるといつまで経ってもベッドから抜け出せないでいた。
「お嬢様、どうされましたか…?」
心配そうにメイドが私に声をかけてくれた。
「ちょっと寝不足で…なんだか頭がくらくらするから今日はお休みしようと思うの…」
「大丈夫ですか…?医者を呼びますか…?」
「医者は大丈夫。少し寝てれば良くなると思う。心配かけてごめんなさい」
「わかりました。それではゆっくりお休みになられていてくださいね。何かあればすぐに呼んでください」
「ありがとう…」
メイドが部屋を出て行くのを確認して、はぁ…、と私はため息を小さく漏らした。
(……さぼっちゃった。ダメだな、私は…。)
1日顔を合わさなければなんとかなる問題でもないのに。
きっと避ければ避ける程、ぎくしゃくしてしまうのも分かっていたはずなのに…。
グロウが傷つく顔は見たくない。
私にとってグロウは大切な弟であり、幸せになって欲しいと今でも思っている。
だけどその相手は私ではない。
きっと私が甘やかしたせいで、近く居すぎたせいで勘違いをさせてしまったのだろう。
完全に私が悪い。そう思うと罪悪感を重く感じてしまう。
今日は時間が流れるのがとてもゆっくりに感じる。
昨日眠れなかった所為もあり、なんだか体がだるい気がする。
考えなきゃいけないことはたくさんあるのに、頭は全くまわらない。
目を閉じると心地の良い浮遊感を感じて、いつしか私は深い眠りに落ちて行った。
*****
「……んー…」
どれくらい時間が経ったのだろう、窓から差し込む光はオレンジ色に染まっていた。
「姉さん、起きたの?」
「…え?うわっ、グロウ…!?」
声のする方向へと視線を向けると、そこにはグロウの姿があった。
そしてすぐ近くで心配そうな顔で私の事を見つめている。
どうしよう!
いきなりグロウがいる展開に、私はとにかく焦っていた。
「体調悪くなったのって俺のせいだよな…ごめん」
「……私の方こそ、なんかごめん」
「「………」」
少しの間沈黙が続く。
その時間がとても長く感じて、何か喋らなきゃと思っているけど…言葉が出て来ない。
「昨日のこと…俺、謝らないから」
「え…?」
「姉さんの事好きなこともやめない」
「……っ…」
「優しい姉さんなら、思うくらいは許してくれるでしょ?」
グロウは切なげに小さく笑った。
その表情を見ると胸が締め付けられる様に痛くなり、私は泣きそうな顔をしていたのかもしれない。
私には、どうしてあげることも出来ないのだから…。
「悲しそうな顔はしないで?そんな顔されるとまた触りたくなる…」
「……っ!」
グロウはそう言うと、クスッと悪戯そうに笑い、私の額にそっと静かに口付けた。
額に口付けられただけなのに、顔に熱が籠っていく様だ。
「顔、真っ赤…可愛い」
「ふざけないでっ…」
私は顔を真っ赤に染めながら、慌てる様に額に手を当てた。
「そんな顔を見せるのは、俺の前だけならいいのに…」
「……っ…」
グロウは優しく微笑みながら、愛しそうに呟いた。
私が返事に困ってると、グロウは私の頭を優しく撫でてくれた。
「今日は体調が悪いんだからゆっくり休んで。これ以上、俺のせいで姉さんの体調が悪くなったら俺が耐えられない…」
「ごめん…」
「謝らないで。言ったでしょ?俺は諦めるつもりはないって…。だから謝る必要なんて無いよ」
「そんなの困るよっ…」
私は視線を逸らして困った様にぼそりと呟くと、グロウは小さく笑った。
そして私の耳元で「おやすみ、姉さん」と優しい口調で囁くと、グロウは立ち上がり部屋から出て行った。
またしてもグロウによってドキドキさせられてはしまったが、少しほっとしていた。
グロウが思っていた以上に普通で安心した。




