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魔法使いの知らないソラ   作者: IKA
最終章 友と明日のソラ編
22/27

第一話 築き上げたもの

――――――漆黒が包む、夜の世界。


二階建ての一軒家の屋根。


五階建てのマンションの屋上。


次に学園の屋上。


他にも色んな家の屋根や屋上を、道具を使わず、その身体で飛び越えて移動する。


なんでそんな移動をするかというと、地上を走って移動するよりも、建物を飛び越えて移動した方が速いと考えたからだ。


普通の人間ではなく、魔法使いである身体でならば、建物を飛び移りながらの移動は容易だろう。


そして彼は今、物凄く急いでいたのだ。



「どこだ‥‥‥どこだっ」



体力を消費し、息を荒げながら移動する。


魔力を脚力上昇と、視力上昇に使用することで、常人ではありえない移動能力と、天体望遠鏡にも勝るとも劣らない視力を手にすることができる。


高いところに移動し、その視力で探す。


見つからなければ、また別の場所に移動して同じことをする。


‥‥‥それを繰り返して、何十時間が経過しただろうか?


休憩も、睡眠もとっていない今の彼の体力は、限界をとうに超えていた。


それでも、彼は止まれなかった。


頭で考えるよりも、体が勝手に動いてしまう。


だから探し続ける。


自分の本能が赴くがままに、彼女を探し続ける。


それを続けているうちに、気づけば灯火町のほとんどの場所を探していた。


そして彼――――――相良翔は一人、自分が通う灯火学園の屋上にいた。



「はぁ、はぁ、はぁ‥‥‥っ」



始めての休憩をとろうと、その場で仰向けに大の字で倒れると、今までの疲れが大量の押し寄せて、関節のあらゆる場所から激痛が襲い来る。


夜に吹く、冬の冷たい風が全身の熱を奪っていく。


気持ちよさと同時に、疲労から睡魔が襲いかかってくる。



「いかん、いかんっと!」



寝てしまいそうだった翔は、上半身を起こして胡座になる。


両手を屋上の床につけると、ひんやりとした冷たさが伝わって気持ちが良かった。


しばらく翔は、風の音に心落ち着かせていた。



「はぁ~‥‥‥。 すぅ~‥‥‥はぁぁ~」



深呼吸を繰り返すと、冷たい空気が喉を通って肺に達し、内側からも熱を奪っていった。


吐息は純白で、ソラはどこまでも黒かった。


そんな当たり前のことが、今は違和感だった。


特別なものではなく、いつもの光景なはずなのに、どうして今はこんなにも心が落ち着かないのだろうか。



「ルチア‥‥‥」



そして、どうしてこんなにも、彼女のことを想ってしまうのだろうか?


今、彼女は何をしているのだろうか?


冷羅魏と仲良く会話をしているのだろうか?


冷羅魏と心を通わせているのだろうか?



「‥‥‥くっそぉっ!」



その場に落ちていた小石を、右手人差し指と中指の第一関節で挟み、ダーツのように前方に向けて、力いっぱいに放った。


指から離れる瞬間、大気を引きちぎり、放たれた小石は弾丸のように真っ直ぐに飛ぶ。


小石は屋上の出入り口である扉の鍵穴に吸い込まれるように直撃し、貫通して穴を開けた。



(器物破損で、怒られるかな‥‥‥)



微笑混じりにそう思い、心の中で軽く謝罪をした。



「――――――こんなところで、何やってるんですか?」


「え‥‥‥」



不意に、背後から聞き覚えのある女性の声が聞こえた。


反射的に後ろを振り向き、確認するとそこには井上静香がいた。



「見つからなかったんですね」


「‥‥‥はい」



静香は、翔が何をしているのかを聞くまでもなく理解していた。


――――――相良翔が退院して二日、学校を休んでまでしてルチアを探していることを、静香は分かっていた。


彼はいつものように誰にも言わなかったが、それが分からない静香ではなかった。


翔は言い訳や嘘を言わず、素直に答えていた。



「手がかりもなしに闇雲に探しても埒が開きませんよ」


「わかってます。 けど、このまま黙って何もしないなんてできない」


「‥‥‥でしょう、ね」



静香はしんみりとした表情で翔を見つめてそう言うと、彼の顔を見るのが辛くなってソラを見上げた。


翔がルチアのことを想っている‥‥‥その事実を痛感することから逃げたのだ。


逃げながらも静香は、自分の言える言葉で今できることを伝えた。



「翔さん。 たまには、お友達を頼ってみてはいかがですか?」


「‥‥‥人海戦術を使えってことですか?」


「はい。 今のあなたにとって、それが最善の選択だと思います」


「‥‥‥」



その選択を、彼は一度も考えていなかった。


なぜなら彼は、誰かに頼ると言う経験がほとんどなかったからだ。


親がおらず、甘えると言うことを覚えられず、孤児院では共同生活の中で一人で出来ることは一人でなんとかしてきた。


護河家に住むようになっても、家族になりきれず、頼ることができなかった。


それが今までの彼だ。


‥‥‥だが、今の彼は違う。



「あなたはこの灯火町に来て、様々な人と出会っていきました。 それは決して、良いことばかりではなかったでしょう。 けれど、そのおかげであなたは多くの友人を作れました。 今こそ、出会ってきた皆さんを‥‥‥私達を、信じる時なのではないですか?」



優しくも、真っ直ぐな言葉が、翔の心に突き刺さる。


「信じる」‥‥‥たったそれだけの事を、一番に知らなかったのは、紛れもなく彼だった。


だけどそれは、灯火町に来る前までの彼であって、今の彼は全く違う。


最初は理解できなかっただろう。


最初は違和感だっただろう。


だが、彼はルチア=ダルクと出会い、魔法使いとして覚醒したことで知らなかったことを多く知ることができた。


魔法使いとして様々な事件に関わる中で、人の心を多く知ることができた。


それは、とても種類が多くて、十人十色で、その一つ一つが新鮮に感じた。


どれ一つ、無駄なことなんてなかった。


そして友達、仲間、戦友、兄妹、義兄妹など、様々な人の関係性を知っていき、その大切さを知った。


大切さを知る中で、失った絆も、時にはあった。


互いの意見が食い違い、ぶつかり合うこともあった。


けれど、その度に友達や仲間と呼べる人は助けてくれた。


この灯火町という小さな場所で手に入れた大きな絆を、今こそ使うときなのだと翔は思った。



「分かりました。 皆を、信じたいと思います。 もちろん、静香さんも」


「はい。 それが良いでしょう」



その時、静香が見たのは、迷いの霧が晴れた澄空のような、清々しそうな笑顔だった。


そして、彼はもう大丈夫だと確信した。


どんな苦難があろうと、彼はこの町で築き上げてきた関係を正しく使い、乗り越えて見せるだろう。



「‥‥‥よしっ」



翔は右ポケットの中に手を入れると、中から愛用しているスマートフォンを取り出した。


画面に触れると、待受画面がついた。


翔は右手で持ちながら、その右手の親指で画面に触れ、スライドさせていく。


すると画面は切り替わり、翔は通話機能をタッチする。


そこには、今まで出会ってきた人のアドレスが大量に載っていた。


改めて見ると、ここに載っているのは全員、この町で出会ってきた人なのだと気づく。


灯火町に来る前は、人と接することをしなかったために、アドレス交換なんてやらなかった。


だけど、この町に来て、様々な事件を経験していったことで色んな人の情報を交換し合えた。


だから翔は、皆の名前を見ながら改めて思う。



「この町に来て、この場所に来て、――――――ほんとに良かった」



そして翔は迷いもなく、全員のメールアドレスをタッチする。


全員に、一斉メールを送るのだ。


メール内容はシンプルに、急ぎながらも丁寧に書いた。



『こんな時間に悪い! だけど頼む! 俺に、力を貸してほしいんだ!』



それだけの短い文を入力した翔は迷うことなく送信ボタンをタッチした。


すると今日は電波が良いようで、一斉メールは五秒もかからずに送信完了した。


それを確認した翔はスマートフォンの画面を消すと、再び右ポケットにしまう。


そして静香を見つめて言った。



「静香さん。 今から二手に分かれて、ルチアを探します。 お願いできますか?」


「もちろん。 翔さんのお願いであれば、喜んでお引き受けします」



ニコリと笑顔で返す静香に、翔はホッと胸をなでおろすと、再び漆黒のソラを眺めながら思う。


今ならまだ、間に合うかもしれない。


今ならまだ、取り戻せるかもしれない。


‥‥‥違う。



「必ず、取り戻すんだっ!」



そう言って翔は拳を強く握り締めると、両脚に魔力を込める。


魔力は脚力を飛躍的に上昇させ、翔の移動速度や跳躍力を高める。



「翔さん。 またあとでお会いしましょう」


「はい!」



そう言って翔と静香は二手に分かれ、夜の灯火町を駆け巡る。


どこにいるかは分からない。


けれど、きっと見つかる。


今日、必ず取り戻す。


この町で、相良翔の物語をの始まりのきっかけをくれた、大切な人を、必ず‥‥‥取り戻す。


翔は空気を軋ませながら、高速で駆ける。


――――――その時、右ポケットにしまいこんでいたスマートフォンがバイブレーションを起こす。


即座に右手で取り出し、画面をタッチした。


すると、そこには『メールが返信されました』と言う内容が書かれ、全員から返答がきた。



「ぁ‥‥‥。 皆、――――――ありがとう」



翔はその内容を見て、感極まって涙を流した。


そして翔は今の状況と、ルチアを探して欲しいと言うことを書いて、再び皆に一斉送信した。



「‥‥‥待ってろ、ルチア」



翔は再び走り出した。


迷うことなく、我武者羅に走り続けた。


皆の返答を思い返しながら‥‥‥。




――――――『もちろん構わないぞ! お前は、俺の親友だからな!』



――――――『うん、良いよ。 翔は私の親友だから』




                ***



 夜空で輝く、無数の星々。


周囲には何もなく、――――――三人はそこで広い規模の魔法円を描いていた。


魔法円は巨大な円の中に、魔法文字ルーンを刻み、その内側にさらに円を描き、その円の中に六芒星を作って完成する。


その魔法円の中心に、黒い髪の少女は立っていた。


一枚の黒い羽衣が彼女の全身をウェディングドレスのように包み込み、キメの細かい肌が月明かりに照らされて神秘的な姿を見せる。


彼女、――――――ルチア=ダルクは、この魔法円の中である儀式を執り行おうとしていた。



「さぁ、始めようか」



彼、――――――冷羅魏氷華がそう言うと、全員が頷き、ルチア以外の全員は魔法円の外に出る。


そしてルチアは目を閉じて、魔力を全身に行き渡らせると、魔法円が光りだす。


ルチアの魔力色と同じ、黒い光を発したのだ。


冷羅魏は不気味な笑を零しながら、その光景を見つめていた。


黒き光はその輝きを増していき、そしてルチアの全身を激痛が襲い来る。



「うっ‥‥‥あっ‥‥‥あああッ!!」



全身を鋼で叩かれたような激痛が支配する。


ルチアは悶え苦しみながら、魔法円の光に包まれていく。


激痛のあまり、意識が飛んでしまいそうだった。



「くっ‥‥‥あっ!」



遂に全身が激痛に負け、意識が途切れた。


全身から力が抜け、そのまま体は前に倒れていく。



(しょ‥‥‥う、‥‥‥翔‥‥‥っ)



倒れる間際、ルチアの心の中に現れたのは、白銀の光を身に纏い、笑顔でこちらに手を伸ばす、相良翔だった。


いつも彼は、自分が辛いときに助けに来てくれた。


だからきっと、その光景が再び過ぎったのだろう。


けれど、もう彼はここには来ないだろう。


なぜなら、ルチアは彼を‥‥‥裏切ったからだ。


例え会えたとしても、彼は二度と笑顔で自分を見てはくれないだろう。


憎しみの、怒りの、殺意の眼差しで自分を見るのだろう。


‥‥‥それは、とても嫌だった。



(ああ、そういう、こと‥‥‥ね)



そしてその時、ルチアは気づいた。


自分の、本当の想いと、自分が求めていることを。



(私‥‥‥翔のことが、――――――好きなんだ)



二度と伝えられない想いを胸に、ルチアは意識を失い、暗闇の世界に落ちていった。


そして、ルチアの倒れる光景をただ見つめていた冷羅魏は、儀式によってルチアの体内から出てきた、ルチアの武器――――――鎌を手に持った。



「どうやら成功したようだ!」



その鎌は冷羅魏の手に収まると、ルチアの持つ魔力色『黒』と冷羅魏の持つ魔力色『水色』と混ざり合う。


この儀式は、精霊の力を魔法使いに移し替える儀式である。


精霊は魔法の根源を生み出し、魔法使いを上回る力を持っている。


それは、儀式によって魔法使いに移すことができる。


冷羅魏の目的は、ルチアではなく、ルチアの持つその圧倒的な力だったのだ。



「さぁ、始めようか!」



冷羅魏は高らかに言った。


先ほどの儀式の光で、こちらには多くの魔法使いが来るだろう。


その者に対して宣言する。



「この町にいる魔法使い、全員を根絶やしにする!」



冷羅魏の言葉に賛同するのは、澄野クロエ、不知火都姫だった。


二人は頷くと、二手に分かれて迫る魔法使いを迎え撃ちに行った。


残った冷羅魏はその場から動かず、魔法使いを待ち構えていた。



「さぁ来い‥‥‥皆殺しにしてやる」



殺意は彼を包み込み、精霊の力を手にした冷羅魏の全身は黒と水色の魔力が渦巻いていた。



戦いの時が、――――――近づいていた。

てなわけで最終章に入りました。


バラバラになっていたものが、少しずつであれ繋がってきました。


あとは、彼女を残すだけ。


灯火町で相良翔の全ての始まりのきっかけをくれた少女。


彼女のために、相良翔は全てを使って動き出した。


では次回、お楽しみに!

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