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8話 思考は時に睡眠を促してくれる。



 

 ――ベティアール王国。魔獣大戦の際、常に前線へと兵を送り出し魔獣撲滅と世界平和の為に尽力を出した国であり、各国から惜しみない賞賛得て世界の中心となった国。

 兵力の強化や魔法術の研究にも積極的で、世界最大の傭兵施設と術師養成施設を所有する。その各施設には他国からの留学生も数多く、全ての事業において最先端を行く国だ。

 しかし、繁栄しているからといって、全国民が裕福かどうかと問われればそういうわけでもない。裕福さを求めて亡命や移住してくる人間に仕事は無く、飢餓問題、貧富問題を抱える国でもある。

 では、君はその国で何が出来るというのだろうね?

 君がこの世界に来たのは間違いがあったから。でもその間違いを正す術は君に無い。そして、誰にもそれを正す事は出来ない。

 ボクは、君が今後、その世界でどう生活していくのか見届ける役目がある。誰に頼まれたわけでもない、ボク自身の力が及ばぬ所で何が起きるのか。それをボクは知りたいんだ。

 期待を含めて君の人生を見るとするよ。

 ボクは君と同じで、この世界に異質な存在だからね。先に言っておくけれど、君がこの世界に喚ばれたのはボクが影響しているわけではないよ。さっきも言った通り、ボクは何も正す事が出来ないし、ボクの力はその歪んでしまった世界に何も出来ないのさ。

 ただ、君とこうやって会話をする事は出来る。と言っても、君は話している感覚なんて無いだろうね。

 君の意識は深い深い闇の底。ボクが語りかけている事も忘れてしまうだろう。

 けれど、今回はサービスだ。君に一つ、アドバイスをあげよう。ボク自身も見つけて欲しいと思っているし、君にはそれを可能とする力がある。

 子孫を名乗る偽りの存在を見つければ、何かが変わると思うよ。

 さてさて。彼女の選んだ君なら、きっと大丈夫だろうと思うけれど、……もし何も解らなければ、聖室に、一人でおいで。

 ボクは君の事を歓迎しよう。ただし、質問には答えられない。それだけは君が一人で見つけなければならないんだ。

 でも、そうだな……。沢山の幸せを君に与える事は出来るかな。だから、待ってるよ。

 彼女から託されたこの世界の君を、ずっと見ているからね。――






 目覚めの悪い夢だった。いや、内容を覚えているわけではないのだが、なんだかこう、一言で言ってしまえば胸糞悪い夢だ。

 何もない駅にポツンと一人で立っていて、気がついたらレールが敷かれ、電車が走ってくるような。勝手に道を作られるというのは、私にとって、とても胸糞悪い。

 親に言われて大学まで出たわけだが、やりたい事なんて見つからずに居た私を救ったのは小説だった。親や周りはあれやこれやと茶々を入れてくる癖に結局は何も手助けせず、ただ自分達飼い犬の首に付けているリードが届き易いように難癖をつけてくるだけ。

 そんな環境が嫌で家を出たし、ついでに言えば夢になりつつあった作家にもなれたから良い事尽くしとくれば、他人に敷かれたレールの上を歩かずとも自分の力でレールを敷いて歩けば良い意味で納得する人生を歩ける。

 っという事で、私は今見た夢を忘れる事にした。


「まだ暗いなぁ」


 目が冴えてしまったし、ベッドから降りて出窓から外を眺める。空にはまだ自分の時間だと主張するかのように、月が神々しく輝いていた。

 このまま寝てもどうしようもないので、とりあえずアイデから貰った本を読もうか。もしくは今日の会議の内容を思い出そうか。

 ふと考えてみたが、今日の会議の内容自体が特に私が居ても意味が無かった気しかしない。お偉いさん方がリアリゼッタ姫の復活に歓喜したり、納税に関しての話を始めたり。私の考えていた、リアリゼッタ姫お披露目会というのはあながち間違ってはいなかった。

 まぁ、収穫自体はあったので、開催自体を否定するわけではない。収穫という名のモノは、各地で何をしているのかわからない人間が、使えない人ばかりだと判明した事だけれど。

 提案もまともにせず否定ばかりを繰り返す年老いた方々にイライラしたし、彼らと共に来ていた少し若めと思われる役職の付き添い人達は、肩身の狭い思いをしているだろう。

 言ってしまえば、老害達がいきり立って引退をしないので、優秀な人材が埋もれてしまっている形だ。日本の政治家もそんな感じが多いような……いや、これは今の私に関係が無いので考えないでおこう。

 とりあえずこの事は王様に話すべきかとも考えてみたが、今の私には姫という権力しかないわけだし、政治的な側面に手を出して良いかもわからないし止めておくべきと判断する方面で決めた。

 さて、気を取り直してアイデから貰った本でも読もう。

 椅子に腰掛け、サイドランプを点灯して置いていたベティアール歴史書を開く。

 会議の際に持ったままだったのだが、誰も何も言わなかったので常時膝の上に鎮座していた事が今でもそれは違和感でしかない。大事な会議と言われていたのにも関わらず、それを忘れていた私も私だったが、誰か言ってくれよと思った。

 だからこそ、この本の存在を忘れずに居れたのだが……やっぱり少し解せなかった。姫様の行動に一々指図をしないのが方針だったのならば、無理矢理にでも納得するしかないのか。

 本の中身は目次が無く、この世界の地図が見開きで大きく載っていた。

 この世界の名前はフォウファウルというらしい。ベティアール王国の他にラウラツ帝国、アルドラント国、ドーア王国、そしてキェットリア中立国があるようだ。各国はベティアール王国を中心に周りを取り囲むように位置し、周りは海で囲まれている。海にもいくつかの小さな島国があるようだが、その名前は書いていなかった。

 ページをめくる。魔法術関連の事が書かれているようだ。


―――

 この世界を作った創造主のみ、魔法術を扱う事が出来た。

 だが、信仰の深い遥か昔の限られた人間が創造主から恩恵としてその力を与えられ、彼らは創造主の後継者と呼ばれるようになる。

 最初こそは血統などを重んじていたようだが、後継者の中でも魔法術を扱えない一般貴族と交わり始め、世界中の誰もが魔法術を扱えるようになった。これが魔法術が普及した始まりだと言われる。

 また、後継者と名乗る事が許されているのは、各国の王族やそれに連なる血筋の者とされているが、その根拠は不明であり、事実解明は現在に至ってもされてはいない。

―――


「……リアリゼッタ姫は王族だから、一応創造主の後継者になる……のかな? うーん……なんだろう」


 少しこの本に関して違和感を感じた。アイデから渡されたものであれ、この本の刊行は何時だとか記していないようだし、現在と言われてもどの時代なのかがわからない。

 次のページへ進めば、ベティアールの暦が現在のモール暦まであるので、きっとつい最近に刊行されたものなのだろうと考えるが、何故だか、違和感しか残らなかった。

 世界情勢を知る手がかりがこの本を読む事しかないとはいえ、このまま読み進めても良いものだろうかと躊躇ってしまう。


「覚えなければいけないとこだけ……でも、良いよね」


 興味が薄れた本は流し読みが鉄則だ、うん。別にテストをされるわけでは無いのだから、ある程度の事を覚えておけば通じるだろう。

 まずはベティアールの歴史からと思ったが、これは実際に聞いた話と大差は無かったのでパラパラと適当に飛ばす事にした。


「次は、魔法術の仕組み……何でもアリだなとしか思ってなかったけれど」


 魔法術を構成するのは五大元素である、火、水、地、風、エーテル……というのは、私の世界でのソレと変わらないようで安心した。まぁ、魔法術なんてややこしい言い方はしないのだが、そこは気にしないでおこう。

 五大元素に加えて、エーテルを駆使した素属性、転属性があり、元素は判明していないようだが、数少ない者のみが扱える虚という派生もあるようだ。ここは私も詳しくないのでちゃんと読んでおこう。


「素は自強化の魔法術か。つまりは攻撃威力を高めたり防御力を高めたりという認識かな。転……あ、これが転移術なのね。エーテルと転を組み合わせると、転移が出来るようになると」


 つまりアイデとグレシット、そしてセシルの違いはエーテルを上手く扱えるかどうかという事のようだ。

 エーテルという元素は、私の世界で例えるところの光属性魔法というもののようで、医療魔法術やらにも通用するらしい。ここは覚えておいて損は無いだろう。

 そして最後に虚について――、


「あ、……破られてる」


 これは伏線ですね、わかります、わかりますよ。と、一人で納得してしまう。

 虚属性について詳しく書かれているであろう数ページがごっそりと破り取られており、魔法術発動について、という話題が始まっていた。

 よくある伏線だなぁ、と関心してしまうのは、私自身が数多くの物語を読んでいた所以かもしれない。

 ここから考えられるのは、創造主の後継者が虚の属性を扱えるという在り来りなもので間違いないだろう。

 しかしながら、詳しい説明は無いにしろ触りの部分が書かれている一ページだけでも熟読しようと思う。


「虚属性というものは、予てより問題視されていた魔族の扱う属性である……。要するに闇属性って考え直しても良いかもね」


 光があるなら闇もある、という事だろう。極々平凡に感じてしまうけれど、余計な事は考えずに読み進めてみよう。


―――

 虚属性が判明したのは魔獣大戦の折、一部魔族に魔法術の効果が薄れてしまった事による。その事に関しては後に記載している魔獣大戦の項目を注視されたし。

 虚属性についての文献は存在せず、創造主のみが扱えていたという一文しか我々は知り得なかった。また、それが魔族のみが扱う魔法術というのも当時にとっては稀有であり、また貴重な存在であった。よって、我々人間は、魔族を捕らえ、創造主が何を以て魔族に虚属性の恩恵を与えたのか調べる事とした。

―――


「……ここで終わってる。という事は、創造主の後継者はこの事実を隠したい? いや、違うな。調べた事実ではなくその後の事を隠したいのか」


 他の五大元素や属性の説明文が記載されている枚数よりも多く破られている事から、調べている最中の事や結果も記載されていたのだろう。それを隠蔽したかったとなれば、後継者と呼ばれるリアリゼッタ姫を襲った人は、魔族の血筋なのかもしれない。

 でも、ここで一つの疑問が存在してしまう。

 その後継者は、わざわざアイデの部屋に入ってこの本のページを破り去ったのだろうか。

 この考えを押し通す事は、この情報量では安易過ぎる。いくら城内の人間が怪しいからといって、アイデの部屋に入るなんて危険を冒す事はしないだろう。シェリーが聖室に来た時も彼女は少し不機嫌そうだった。

 それにアイデの部屋の蔵書数は多過ぎる。この本を探し当てるのはリサーチをしていたとしても、彼女が部屋に居ない時を見計らって侵入出来たとしても、かなりの時間を要するのではないか。

 なので、彼女がいくら心を許した相手とはいえ、あの部屋に入ってページを破るとは考え難い。


「という事は、アイデの所有物ではない可能性がありそうだなぁ」


 この城には書庫があると、セシルが案内してくれた際に言っていた。なら、そこからアイデが持ち出したのかもしれない。

 であれば、アイデ自身このページに書かれていた内容を知らない、と踏んでおこう。でないとページが汚れて、捲ったとされる場所が明らかに黄ばむ事はない。

 私の想像だが、彼女はこの本を何度も読み返し、自らの疑問を解決する為に数多くの書物や文献を読み漁ったのだろう。しかしながら、この本が元は書庫にあったのであれば、他の関連文献も同じようにページが破られているはずだ。


「まぁ、アイデが破ったという事も有りうるのだけれどね」


 五将(ヘルファー)の一人で、魔法術に長けた人物がリアリゼッタ姫を襲った後継者だなんて。勝ち目が無いにも程があるだろう。考えるのは止そう。

 次の項目である、魔法術の扱い方について以降は読む気になれなかった。

 自分の安直な考えに叱咤する。どうせ聞いても答えてはくれないだろうし、この事は自分の胸に秘めておこう。

 ふと窓を見ると、漆黒の闇が薄まっているようだった。

 もうすぐ朝だ。冴えていた頭も無駄に考えてしまったお陰で少し疲れてきたらしい。シェリーが起こしに来るまでの少しの間また眠りにつくとしよう。

 サイドランプを消し、本を閉じる。

 ベッドへと戻った私を誰かが面白そうにクスクスと笑った気がしたが、それは微睡みの所為だと思い込み、私は瞼を閉じるのだった。




 

 

 

次回から新章始まります。

更新遅くなって申し訳ないです……。

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