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第七章『パーカッション』

「ここまで話が進めばおわかりですね。皆さんにはアメリカ・メキシコ戦争が

おこなわれている北米大陸に出現して歴史を変えていただきます」


「おおー!」「哀れなメキシコを救おう!」「北米解放!!」


「流れとすればメキシコとは同盟を結ぶといった方向になるのかな?」


「その辺は相手があることで、もくろみ通りいくかどうかはわかりませんが…

皆さんとネイティブにメキシコを加えた『多数派形成』の努力はするべきでしょうね。

地歩を築くのは北米大陸西岸…つまり、アメリカが占領するはずのメキシコ領ですから

微妙な関係ではあるのです」


「で、肝心なことを聞きたいが…われら三万の日本軍は勝てるのかね?

まさか裸で放り出されるわけではなかろうが…」


「もちろん兵器を提供しますとも…皆さんには大東亜戦争で使用した装備で

戦っていただきます。ただし、航空機や戦車はなし!…ですけどね」


「えー!? 逃げまどうヤンキー共を戦車で轢きつぶすのなしか」「おなじく、戦闘機の

機銃掃射で地べたに縫い付けていくのも!?」「でも、百年後の未来の装備だろ…

戦車や飛行機がなくても楽勝だろうが」


「…皆さんが使用するのは『未来兵器』であることはたしかです。しかし、正直いって

百年の差はないことを銘記していただきたいと思います」


「…桑畑君、それはどういうことかね?」


「山下大佐、大日本帝国陸軍の装備は日露戦争…と言っては語弊があるかも

しれませんが、第一次世界大戦の頃からはほとんど進歩しておりません」


「……装備の更新が遅れていたことは認めざるをえないか。歩兵の主要武器は

三八式小銃だったからな…新式の九九式は一部にしか行き渡らなかった」


「帝国陸軍の主敵はロシア…ソビエト連邦の陸軍でした。そのソ連との限定戦争、

『ノモンハン事件』の苦戦でようやく自軍の遅れに気がついたけど手遅れだった…

ということですよね。中国との戦争で手一杯でしたし、中国を相手にするかぎりは

現状の装備でもなんとかなっていた…」


「そのうえに米英の戦争を始めてしまったわけか…指揮官として言うべきことでは

ないが、勝ち目は…少なかった」


「撃つに弾なく、食うに食無し…」「泥水すすり草を噛み…考えてみるとひどい話」

「食料は現地調達とかいって、村の豚や鶏をぬす…徴発させられたし」

「おれ、思い出した…弾がなくて銃剣突撃ってことになったんだけど、腹が減って

立ち上がれないんだ…そしたら上官のやろうが拳銃を向けやがって…殺されかかってんだ」


「はい、皆さん! 大丈夫ですよ…当面必要な物資は充分に提供します。

弾薬、食料、医薬品…どれもたっぷりとね。ただ、その後自立していく上で

反省はいかしていただきたいものですが」


「戦車や飛行機以外の装備はだいたいもらえるのかね?」


「ええ、小銃は三八式ですが予備を含めて十万挺用意しました。なにせ『追加生産』は

できませんから…弾丸は一挺あたり千五百発、一億五千万発あります。野砲、山砲、

重機関銃、迫撃砲、擲弾筒に手榴弾…詳しい数は追々お報せしますが、門数も

弾薬の量もまずは充分にそろえてあります」


「うむ、それなら存分な戦いができそうだ。この時点での敵の銃砲は先込め式の

段階なのだな」


「その通りです…が、ここで一通り火器の発達史を述べておきましょう。

ご存知の方もおられるかと思いますが復習のつもりでお聞き下さい」


十九世紀前半の小銃は基本的に前装(先込め)式のフリントロック銃である。

銃口から発射用の火薬と球形の弾丸を押し込み、バネによって燧石ひうちいし

点火口に打ち付け、発生する火花で点火用の火薬を発火させることで射撃をおこなう…

これは十七世紀後半にフリントロック銃が発明されてから変化はない。


火縄銃の発射機構の内、火縄が燧石に変わっただけともいえるが、これにより

天候(雨)に左右されることなく射撃が可能になり、十八世紀初頭に銃剣が

発明、採用されることで小銃は歩兵の主たる兵器になったのである。


銃身内部は滑らかで、弾丸を回転させるライフリング(線条)が施されていない

『滑空銃』である。


この時代の世界ではこの形式の銃の最終型が多用されている。二十年ほど後、すでに

旧式化していたオランダ製のこのタイプが『ゲベール銃』と呼ばれ、幕末の日本に

大量に輸入された。世間知らずの悲しさで、高い値段で売りつけられた旧式銃の多くが

幕府軍に採用され戊辰戦争の敗北の原因ともなるのだが…


「前装式でライフリングが施されたものも登場しています。『ペンシルバニア・ライフル』が

そうですが、射程距離や命中精度は向上したものの装填に時間がかかったり、暴発事故も多く、

過度期のものといわざるをえません」


前装式銃の最終進化形は、燧石の代わりに『雷管』…打撃によって発火する物質を使った

『パーカッション・ライフル』である。発射速度…装填から射撃までにかかる時間…が

飛躍的に短縮されたこの新式銃は、幕末『ミニエー銃』としておもに薩摩、長州といった

反幕府勢力が採用することになる。


「皆さんがこれから対戦する敵の多くが、当座はこのパーカッション・ライフルを使用

すると思って下さい。有効射程は滑空銃の百〜二百に比べ、四百メートル以上に

延びています」


そして、今後十年で『後装(元込め)式パーカッション・ライフル』が開発され、

あっという間に広まっていく。また幕末の例になるが『スナイドル銃』というのが

それで、1861年からのアメリカ『南北戦争』では両軍ともほとんどがこのタイプを

使用する…北軍の『スプリング・フィールド銃』が有名。


「ドイツではすでに紙薬莢式ですがボルトアクションの『ドライゼ銃』が開発されており、

それを改良したフランスの『シャッスポー銃』は千五百メートルの射程を持ちました。

これらは1870年の『普仏戦争』で使われることになります。金属薬莢を使った連発

ライフルの登場もすぐのことですね」


「…なるほど、桑畑さんが言われた通り、私たちが行く時代はまさに火器が急激に

発達しようとしてる時期なのですね。小銃に関して言えば1846年における

三八式の優位は百年ではなく…せいぜい三十年ほどと思っていた方がいい…」


「それでもけっして小さな差ではありませんが、槍や刀を相手にするような隔絶した

ものでもないということです」


空間にいる日本兵が粛然とする…虫けらを踏みにじるようなわけには

いきそうもない…


「え〜、元気を出して下さいね。皆さんが出現するまでにはやらなくてはならない

ことがまだまだあります。現在の所はばらばらの将兵の寄せ集めにすぎませんから

軍としての編成、訓練をおこなうことになります。海軍の皆さんには別途プログラムを

組みますが、陸戦の訓練もお付き合い下さい」


空間が明るく開けていく。本当の自然とはどこか違うが、海があり山があり平野に

川が流れる広大な疑似空間…そして全員が感じたことは、ここには懐かしい故郷…

日本の風土が持っているやわらかさ、やさしさが『ない』ということだった。


つづく 




もう少し簡単に考えていたんですが、ものごと…この場合は国とか軍とか…を創成するのは大変ですね。とくに、いろいろ『都合よく』しなくてはいけないわけで…まあ、気長にお付き合い下さい。

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