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第五章『世界史…超概観』

ここで少しばかり(おもに主観での)時間を戻そう…元日本兵たちは、

まだ『空間』でレクチャー中である。


「われわれが行くのは1846年…おおよそ百年前か。いちおう歴史は

学んでおるが、そう限定されると細かいところまで覚えてないな」


「…だろうと思います。『十字軍』や『ルネッサンス』、『遣唐使』や

『関ヶ原の合戦』といった古代や中世のことは印象にも記憶にも残りやすいですが、

近世以降…現代に近づくにつれ歴史は複雑で『わかりにくく』なりますしね。

皆さんの曾祖父あたりが生きていた時代ともなると…歴史というには、まだ生すぎる

のかもしれません」


「だが、そこで生き延びるためには、その時点の世界情勢をつかんでおくことが

必要だろうな」


「はい、十九世紀中葉のこの時代は、すでに地球上のどこであっても世界との

関わりを考えずには存在ができなくなっています。ここで一通りのことを

知っておいて頂きましょう」


そのころの日本…


1833年…天保の大飢饉が始まる

1837年…大塩平八郎の乱がおこる

1841年…幕府の老中、水野忠邦の天保の改革が始まる

      アヘン戦争の影響を受け、洋式砲術の訓練がおこなわれる

1842年…幕府は異国船に対する打ち払い令をやめ、求められれば

      水などを与えるよう命じる

1844年…オランダ国王が幕府に開国をすすめるが対応できない

1846年…朝廷が幕府に海岸防備の努力を求める


「そして七年後…1853年には浦賀沖にペリー提督の黒船があらわれる…と

いうわけです」


「なるほど、幕末…開国のちょい前というところなんだな。『天保の改革』はなじみの

ある言葉だが、ペリーが来る十年ほど前といわれると意外な感じもするな」


中国(清帝国)…


1840年…イギリスとの間でアヘン戦争がおこる

      二年後敗北

1850年…太平天国の乱が起こり、十五年近くの混乱が始まる


朝鮮(李朝)… 日本と同様に鎖国中


ヨーロッパ各国…


ドイツ…多くの王国、公国などが存在していて社会制度、産業とも英仏より

    一歩遅れているが、統一国家樹立への動きも急で、プロイセンと

    オーストリアが主導権を争っている。


イタリア…ドイツ同様、統一国家への気運が高まっている。

     サルディニア王国が中心勢力となりそう。


フランス…大国、強国であることはたしかだが、植民地獲得競争でイギリスに破れ、

     国内も革命騒ぎがつづいてゴタゴタしている。1852年にはナポレオンの甥の

     ルイが皇帝に即位しふたたび帝政が始まることになる。


ロシア…ロマノフ皇帝の権力はまだ絶大だが、西ヨーロッパの自由思想の影響も

    出始めており、学生や軍の下級将校たちが『農奴解放』『憲法制定』などの

    要求をかかげて蜂起しては鎮圧されている。ユーラシア東端まで達した勢力は

    蝦夷地(北海道、千島)をめぐり、日本との間に『北方領土問題』を発生させている。


イギリス…1837年に即位したヴィクトリア女王の治世下でインドなど

     多くの植民地を獲得、いちはやく成功した産業革命による技術力と

     経済力を背景に強力な海軍力をもって七つの海に君臨、

     『太陽の没することがない』大帝国を築いている。


     1801年に併合したものの抵抗がやまない『アイルランド問題』と

     1812年のアメリカとの戦争が不利なまま終結したことが

     頭痛の種であるが、総体的には全盛期と言っていい。


アフリカ…アメリカ大陸への黒人奴隷の供給地としてひどい目にあってる。

     十九世紀後半にはほとんどの地域がヨーロッパ諸国によって

     植民地化されて、まだまだひどい目にあう予定。


中東から東南アジア諸国…やはり十九世紀後半に植民地化される。奴隷貿易の

            対象にはならなかったが、もともと民衆の境遇は

            奴隷とあまり差がないし、今後も当分はそう…


中南米諸国…ほとんどの地域がスペインやポルトガルの植民地であったが、

      十九世紀に入ると独立運動が盛んになり、多くの国家が誕生する。

      多くの場合、現地生まれの白人(地主階層)が本国から来た官憲と

      対立する構図から独立に走ることになった。



「いかがでしたか…駆け足ですが、当時の世界情勢が何となくでも頭に

入りましたでしょうか」


「大まかにいえば、白人による世界支配がまさに始まろうとしてる時代…だな」


「はい、十九世紀後半の『帝国主義の時代』へのスタートラインといって

いいと思います」


「よくもまあ日本は独立を維持できたものだ。ロシアとアメリカ、イギリス、フランスに

分け取りされてても不思議はなかったが」


「さて、今回もう少し詳しく知って頂きたい国があります。最後に出てきた

中南米の中でアメリカと国境を接する国…メキシコです。強大になっていく

隣国に対するメキシコの立場、あるいは感情といったものは複雑であったでしょう。

これからの皆さんの行動にも深く関わるであろうこの国については、スペイン語の

通訳であるキンチョール・ガルシアさんに話してもらいます」


「ガルシアです…どーぞよろしくね」


服は日本陸軍のだが、つば広の帽子…ソンブレロをかぶっている。


「メキシコは1821年にスペインから独立した。共和制だったり、帝政だったり

共和制に戻ったり…あまり落ちつきないね。独立後も内戦が長く続いて大変だった。

国も国民も貧乏、外国に借金がたくさんあるね」


「領土はかなり広大なようだが、それでも貧しいのかね?」


「荒れ地が多いしね…インディアンもよく反抗するし、アメリカが汚い手を使って

領土をぶんどろうとするしね…皆さん『テキサス』という土地知ってるか」


「…油田がたくさんある…日本にとっちゃうらやましい限りのアメリカの州だな」


「あそこはメキシコの領土だったけど開発する余裕がなかった。そこでアメリカからの

入植者を受け入れたね。1836年のこと…大統領のサンタ・アナ将軍はメキシコを

立て直そうと頑張ってた。ところが、テキサスの入植者たち『独裁政治』だとか

文句をいってかってに独立しようとしたね」


「ほう、われわれが行く予定の年より十年前だな」


「サンタ・アナ軍隊を率いて討伐に向かった。サンアントニオ近くの修道院を

占拠してた反乱軍を撃滅、皆殺しにしたね…メキシコ強い!」


「その修道院は『アラモ砦』と呼ばれてまして…テキサス独立軍の方では守備隊の全滅を

戦意高揚に利用します。いわく…『リメンバー・アラモ』…アラモを忘れるな…です。

気に入ったらしく、今度の…大東亜戦争でも使ってますね」


「リメンバー・パールハーバー…か」


「サンタ・アナその後も反乱軍を追いつめていった。ところが、サン・ハシントと

いう所でシェスタ中を不意打ちされて負けてしまった。やつらとても卑怯!」


「桑畑さん、いまの『シェスタ』とは?」


「昼寝のことです。毎日二時間ほど…スペイン系の人々の習慣ですよ」


「……戦場でも…か!?」


「アメリカはテキサスを独立国として認めてしまった。そして1846年…

テキサスを併合することを決定したね。メキシコとても許せないね」


「テキサス独立を、後ろで糸を引いてたと勘ぐられてもしかたあるまいな」


「もともとリオグランデ川あたりの国境をめぐってゴタゴタしてたね、

アメリカは紛争地に軍隊送り込んできた…そして戦争が始まった」 


つづく

言われなくてもわかると思いますが、史実以外の登場人物の名前はテキトーにつけてます。ガルシアさんは…1970年頃、当時の人気コミックバンド、クレージー・キャッツの一員だった桜井せんりがメキシカンに扮して大当たりした『某殺虫剤メーカー』のテレビCMから…です。ドン・タコスでもよかったんですが…

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