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28 白いしっぽと日記帳


 白い地に、青の水玉。

 古びた分厚い日記帳を、節くれだった男の指がめくった。




**********




○月○日


 今日は、わたしのたんじょう日でした。

 プレゼントで、お父さんとお母さんから大きなくまのぬいぐるみをもらいました。

 おじいちゃんとおばあちゃんからは、ねこのえほんを三さつもらいました。

 それと、お兄ちゃんとおねえちゃんとりおから日記ちょうをもらいました。

 白色で、青い水玉もようのです。

 なので、今日から日記をかきたいとおもいます。

 何をかけばいいのか、おねえちゃんにきいたら、今日あったことをかけばいいそうです。

 今日は、体いくでとびばこがありました。

 とぼうとしたら、ゆきおが先にとんで、とびばこの上にのって、わたしはとべませんでした。

 ゆきおは、とびばこの上が気にいったみたいです。




○月×日


 今日は雨でした。

 ゆきおは雨はあんまりすきじゃないみたいです。

 しっぽがいつもふさふさだけど、雨の日は、すこししっとりしたかんじです。

 ドライヤーでかわかしてあげたら、よろこんでいました。




○月△日

 

 今日はゆきおのしっぽの長さをはかろうとしました。

 でも、ゆきおがにげて、はからせてくれませんでした。

 なので今ど、ゆきおがねている時に、もう一回はかってみます。




○月☆日


 きのうの夜は、まくらの下にじょうぎをかくしておきました。

 ゆきおがねているときに、しっぽの長さをはかろうとしたけど、30センチじゃ足りませんでした。

 大体わたしのうでよりも長かったです。




×月○日


 今日はゆきがふりました。はつゆきです。

 ゆきおがすごくたのしそうでした。雨はすきじゃないけど、雪はすきみたい。

 たくさん足あとがあったので、はかってみました。

 18.5センチありました。わたしの手より大きかったです。




×月×日


 今日、ゆきおとけんかしました。

 わたしがしゅくだい中に、足にずっとひっついてきて、時どきじゃましたからです。

 「こら」っておこったら、すねてふとんの中に入っちゃいました。出てきません。

 おねえちゃんは、もっときびしくおこっていいって言ったけど、どうしよう。




×月△日


 ゆきおがまだすねてます。

 学校に行くときも、1メートルくらいはなれて、ひっついてきません。

 おばあちゃんにきいたら、「よかよか、そのうちゆきおさんさみしくなって、すぐなかなおりできるけん」と言ってました。

 わたしもちょっとさみしいです。




×月☆日


 ゆきおとなかなおりしました。

 しっぽがずーっとたれたままで、たぶん、ごめんねって言ってたんだと思います。

 なかなおりのしるしに、しっぽをブラッシングしてあげました。

 つやつやになって、ゆきおがすごくよろこんでました。



×月◇日


 きのう、ブラッシングしたあとに、うっかりゆきおのしっぽをまくらにしてねてしまいました。

 毛がぺったんこになって、ぐしゃってなって、ゆきおがおちこんでます。

 ゆきおにあやまって、今日もう一どブラッシングをしました。




*****




◇月○日


 発見!ゆきおは牛乳が好きみたい。

 お兄ちゃんもお姉ちゃんもおどろいてました。

 犬神って牛乳ものめるし、りおの話だとチョコレートも食べるみたいです。



◇月×日

 

 ゆきおに牛乳プリンをあげてみました。

 でも、においかいだけで食べてませんでした。

 牛乳は好きだけど、プリンはきらいなのかな?

 お兄ちゃんに、あまり犬神に食べさせるなっておこられました。

 気をつけようと思います。




*****




○月×日


 今日は、この日記の最後のページです。

 三年間、時々書かない日もあったけど、ちゃんと最後まで使えてよかったです。

 プレゼントでこの日記帳をくれたお兄ちゃんたちに、あらためて感しゃです。


 ありがとう。









**********




「ちょっと達兄たつにい、何一人でにやにやしてるのよ。気色悪い」

「いきなり実家に戻ってきてそれか」

「あーら、達兄の頼みでせっかく莉緒を連れ戻しに行ってあげたあたしにそんなこと言うの?」

「その件についてはもう礼は言っただろうが。それより奈緒、これ覚えてるか?」

「あら……懐かしいわね。確かあたしと達兄と莉緒で選んだ日記帳よね。白に青の水玉。ゆっきーの色だって莉緒がうるさくて」

「ああ。この間お袋が掃除した時に見つけたらしくてな」

「で、勝手に読んでたの?うわー、乙女の日記読むなんて最低ね」

「小学二年から四年の間のだぞ?しかもお前も今ばっちり読んでるだろうが」

「小学生でも女の子は秘密を持ってたいものよー……って、何これ。ほとんど雪尾のことじゃないの」

「だろ?どんだけ雪尾好きなんだって、可笑しくなって」

「もっと他に書くことあるでしょ!好きな男の子とか、気になる男の子とか、ちょっと手を出したくなる陰のある50代の男教師とか!」

「最後の例えはどうかと思うが」

「まったく、我が妹ながら色事に興味ないって言うか……あ、そうでもないわね」

「…どういう意味だ?」

「あの子、男友達ができたみたいよ?年下のイケメンの可愛い男の子。ま、付き合ってはいないみたいだけど」

「そ、そうか…」

「ただね、ちょっと気になるの。……その子、とても『目』がいいらしいわ。それこそ犬神筋の者と同じか、それ以上」

「……」

「高階って姓よ。一応本家で調べてみるわ」

「……ああ、頼む」



 頷き交わす兄と姉の間で、ぱたりと日記帳が閉じられた。




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