22 白いしっぽとキジトラ君
おい、そこの白いの!
お前だ、お前!きょろきょろしてるそこのお前だって!
やいやい、お前。最近よくここに顔出してるみてぇだが、姐さんに何の用だ。
つーかお前、姐さんに色目使ってるそうじゃねぇか。どういうつもりだ、ああ?
……だからきょろきょろすんなって!
お前のことだって!
はんっ、とぼけたって無駄だぞ。
そんな風にきょとーんって首傾げても、可愛くなんかねぇからな!オイラは騙されねぇぞ!
あ?……姐さんだよ、姐さん!
知らねぇとは言わせねぇぜ。お前が図々しくも姐さんの隣に座って、くっちゃべてんのをこの目でしかと見たんだからな!
くぅっ、姐さんと出会って早二十年…!
この界隈で「黒真珠の君」と名高い、別嬪で有名な姐さんに、こちとら近づきたくとも恐れ多すぎて近づけねぇってのに…!
新参者のくせに抜け駆けしやがって…こんちくしょう!
だがしかーし!
ここで会ったが百年目だ。ここは先輩のオイラがきっちり礼儀ってもんを教えてやるぜ。覚悟しな!
いくぜ、おらぁぁぁ―――
ぶ。
……にゃ、ちょ、てめ、その手をどけやがれ!
顔押さえんな!
ちくしょうっ、てめぇ前脚のリーチがあるからって嘗めやがって!
それともオイラの手が短いって言いてぇのか、こんにゃろうめ!
くらえっ、必殺爪研ぎ――
ぶにゃっ。
ちょ、やめ、背中押さえつけんじゃねぇ!
重いんだよお前―――ふぎゃっ!
にぎゃああぁぁ、しっぽで遊ぶなあぁぁ!
*****
外のデッキの上では、焦げ茶色の縞模様の猫が先ほどから奇妙な動きをしていた。
臨戦態勢のような構えをとったり、飛びかかったかと思ったら不自然に停止したり。
猫の面白い動きを観察していれば、ミルクティーを運んできた高階君が声を掛けてきた。
「どうしたんです?もしかして、あの黒猫が来てるんですか?」
「いえ、黒猫は来てないけど、今日は別の猫が来てるみたいです。ほら、あのキジトラの小さくて可愛い子」
「……あー…あれですか…」
窓の外を見やった高階君は苦笑を浮かべながら、どこか納得したように頷いた。
「さっきから、雪尾と遊んでくれているみたいです。雪尾、何だか楽しそうで」
「……そうですね。雪尾さんは楽しそうですよ、すっごく」
雪尾さんは、と強調した高階君は、お盆を抱えながら「あれ助けた方がいいのかな、いやでも雪尾さん悪気なさそうだし…」と何やら呟いている。
「高階君?」
「あ、何でもないです。きっと新しい友達ができたんですね、雪尾さん」
デッキに伏せた状態で脚をバタつかせているキジトラ猫と、その前で楽しげにパタパタと白いしっぽを揺らす雪尾を見て、私は「そうだといいなぁ」と暢気に頷いたのだった。
最近少し重めの話が多かったので、軽い日常話を入れました。
キジトラ君、雪尾よりは年上です、一応。




