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【祝2000PV 1000UA達成⭐︎】書館のウォーカー   作者: ジョニ男
第4章:星詠みの旅路 ―七つの金の鍵(前編)

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第4章・第22話:飛空猟兵の宿と、緑の髪の家族

樹層街の4階。

下層のバザールの熱気とは少し違う、酒と香ばしい肉の匂い、そして屈強な戦士たちの豪快な笑い声が響く『飛空猟兵の拠点』エリア。

木をくり抜いて作られた通路は幅が広く、あちこちの酒場から漏れる暖色の灯りが、巨大な幹の内部を優しく照らしている。すれ違うのは、ティオと同じような立体機動用の装備を身につけた、歴戦の猛者たちばかりだ。

その一角、一際太い枝の上に建てられた巨大な木造の建物に、ティオは勢いよく飛び込んだ。

入り口には、木彫りの鳥が風でクルクルと回る看板が掲げられている。

「ただいまーっ! お母さん、お兄ちゃん、お客さん連れてきたよ!」

「おや、ティオ! 無事に帰ってきたね。……って、そちらの珍しいお客さんたちは?」

厨房の奥から現れたのは、ティオと同じ新緑色の髪を後ろで束ねた、恰幅が良くエプロン姿の女性だった。顔立ちにはティオの面影があり、包容力と逞しさを兼ね備えた朗らかな笑顔を浮かべている。

さらに、奥のテーブルで巨大な刃の手入れをしていた大柄な青年――ティオの兄が立ち上がった。彼もまた鮮やかな緑色の髪を持ち、その腕には無数の古い傷跡が刻まれている。

「ティオ、お前また一人で危険な上層の樹冠に行ってたのか。……そっちの二人は?」

「えへへ、アタシの命の恩人! 擬態食虫植物ミミックに喰われそうになったところを、ギリギリで助けてもらったの!」

その言葉を聞いた瞬間、母親と兄の目の色が変わり、二人は慌ててシエルとバルドの前に飛んできて深々と頭を下げた。

「なんと……! うちの馬鹿娘の命を救っていただき、本当にありがとうございます! 私はこの『風見鶏亭かざみどりてい』を切り盛りしている、ティオの母のマーサです。こちらは息子のジン」

「……妹が世話になった。あんたたち、ただの商人じゃなさそうだな。俺たち飛空猟兵でも手こずる上層のミミックを倒すとは」

ジンが、シエルの愛用のトランクとバルドの真鍮の義手を見て、鋭いながらも敬意の籠もった視線を向ける。

「気にしないでちょうだい。優秀な案内人ガイドを失うわけにはいかなかっただけよ。私はプロウォーカーのシエル。こっちは相棒のバルド」

「おう! 挨拶はそれくらいにして、まずはメシにしてくれ! 腹が減って死にそうなんだ」

バルドの豪快な笑い声に、マーサはパッと顔を輝かせた。

「もちろんさ! 娘の恩人にひもじい思いなんてさせないよ! 今日は特別に、うちの宿を貸し切りにして大宴会だ!」

数十分後。

風見鶏亭の大きな木製テーブルには、密林の恵みがこれでもかと並べられていた。

主役は、テーブルの中央に鎮座する**『大猪の香草蒸し焼き』**だ。

マーサが包まれていた巨大なシダ植物の葉をパラリと開くと、閉じ込められていた熱気と共に、食欲を暴力的なまでに刺激するスパイスと肉の香ばしい匂いが弾けた。

表面は香草と蜂蜜を混ぜたタレで琥珀色に照り輝き、ナイフを入れた瞬間、肉汁が滝のように溢れ出す。何時間もかけて蒸し上げられた肉は驚くほど柔らかく、湯気を立てる断面からは、美しい赤身とトロトロに透き通った脂身が顔を覗かせていた。

その脇を固めるのは、熱した石鍋でジュージューと心地よい音を立てる**『幻覚キノコの特製ソテー』**。

猛毒と幻覚成分を完全に抜き取り、旨味だけを極限まで濃縮させた肉厚のキノコを、香ばしい木の実のオイルで炒めた一品だ。一口噛めば、アワビのような弾力のある歯ごたえと共に、大地の濃厚なエキスが口いっぱいにジュワリと広がる。

さらに、箸休めとして添えられた**『密林ベリーと砕きナッツのサラダ』**。

赤や紫の宝石のように瑞々しい果実が、甘酸っぱい樹液のドレッシングを纏ってキラキラと輝き、散らされたナッツのカリッとした食感が、濃厚な肉料理の脂を爽やかに洗い流してくれる。

「んん〜っ!! なんだこりゃあ、たまんねえ!!」

バルドが大猪の肉塊に豪快にかぶりつく。

ほろりと口の中でほどける肉の繊維。噛むたびに溢れる極上の肉汁と、野生の臭みを完全に消し去る爽やかな香草の風味が、彼の味覚を完全に虜にしていた。

すかさず、よく冷えた『果実の地酒』を木樽のジョッキから喉へと流し込む。

「プハァーーッ!! こいつは最高だ! 王都の高級料理が薄味のスープに思えてくるぜ!」

「ふふふっ、食べっぷりが良くて気持ちいいねえ。おかわりはいくらでもあるからね」

マーサが嬉しそうに笑う。

一方のシエルも、一口食べた瞬間にアメジストの瞳を丸くして固まっていた。

「……信じられないわ。毒性を持つ素材をここまで完璧に無害化しつつ、複数のスパイスが複雑な数式のように絡み合って、口の中で完璧な答え(味)を出している。これ、どうやって調理しているの?」

「企業秘密さ。先祖代々、この世界樹の麓で生きてきたアタシたちの知恵の結晶ってやつだよ」

マーサは得意げにウインクをした。

「それにしても」

マーサは料理を取り分けながら、呆れたようにティオを見た。

「ティオが上層でミミックに襲われるなんてねえ。今朝家を出る時は『アタシは飛空猟兵で一番の天才だから、今日こそ伝説の怪鳥を捕まえてくる!』なんて大見得を切ってたのにさ」

「も、もう! お母さん、よそ者さんの前で変なこと言わないでよ! あれはたまたま足場が悪かっただけで……!」

ティオが顔を真っ赤にして抗議する。

「たまたまねえ」

ジンがニヤニヤと笑いながら、ティオの腰のポーチを指差した。

「お前、行く前に俺の特製サバイバルナイフを勝手に持ち出してただろ。あれが重くてバランス崩したんじゃないのか? まったく、お前にはまだ早いって言ってるのに」

「ち、違うもん! お兄ちゃんのナイフ、全然手入れされてなくてなまくらだったから、アタシが実践で研いでやろうと思っただけだし! そもそもお兄ちゃんよりアタシの方が身軽なんだから!」

「へえ? なら明日の朝、俺と模擬戦でもするか? 泣かされても知らないぞ」

「やってやろうじゃない! 返り討ちにしてやるわ!」

「はいはい、ご飯中に喧嘩しないの」

マーサが呆れたように二人の頭を小突いた。

「まったくこの子ったら、小さい頃から木登りばかりして、何度木から落ちて泥だらけで帰ってきたことか。シエルちゃんたちみたいに、少しは落ち着きのある大人になってくれればいいんだけどねえ」

「アタシだって、もう立派な大人よ! 今日だって、ちゃんと案内人として仕事したんだから!」

ティオがぷくうっと頬を膨らませる。

「がははっ! いいじゃねえか。元気があって負けん気が強いのは、前衛タンクの素質があるぜ! うちの『お嬢』も、昔はそりゃあツンケンしてて強情で……痛っ!」

バルドの弁慶の泣き所を、テーブルの下でシエルのつま先が容赦なく蹴り上げた。

「……バルド? 誰が強情ですって?」

「い、いや! なんでもねえです! 肉が美味いなー!」

シエルは慌てて肉を頬張るバルドをジロリと睨んだ後、賑やかなティオたち家族のやり取りを見て、ふと頬を緩めた。

口うるさくも愛情深い母親と、意地悪を言いながらも妹を心配する兄。

(……どこの世界にも、素直になれない兄妹みたいな関係ってあるのね)

遠く離れた王都で、今頃自分と同じように誰かと軽口を叩き合っているであろう「相棒」の顔を思い浮かべ、シエルはクスリと笑った。

だが、宴もたけなわとなり、バルドが三杯目のジョッキを空にした頃。

シエルは手元のグラスを静かに置き、真剣な表情で切り出した。

「マーサさん、ジンさん。美味しいお食事のあとに申し訳ないけれど……実は、私たちがこの街に来たのには理由があるの」

「理由?」

ジンが肉を切り分けていた手を止め、シエルを見る。

「ええ。私たちは、この巨樹の最頂部――『神鳥の巣』に用があるの。そこへ登るためのルートについて、情報を持っていかしら?」

その名前が出た瞬間、テーブルの温かい空気が少しだけピリッと引き締まった。

ジンは腕を組み、重いため息をついて口を開く。

「……『神鳥の巣』か。あそこは、俺たち熟練の飛空猟兵でも近づかない絶対の禁足地だ。頂上付近は、吸い込めば肺が溶ける『腐死の猛毒霧』に覆われている。それに……」

ジンは言葉を濁し、シエルとバルドを真っ直ぐに見据えた。

「数日前、黒い重甲冑を着込んだ『王都の貴族の私兵』を名乗る物騒な連中が、大部隊でこの街にやってきたんだ」

「黒い重甲冑……!」

シエルとバルドはハッとして顔を見合わせた。

「奴らも頂上を目指しているらしく、豊富な物資と兵器に物を言わせて、力ずくで巨樹の外周ルートを登っていきやがった。今頃、中層エリアに強固なキャンプを張って、完全な封鎖線を敷いてるはずだぜ。密林の生態系を焼き払いながら進む奴らのせいで、外周ルートは今、怒り狂った魔獣たちと王都の兵器がぶつかり合う、最悪の戦場になってる」

間違いなく、イグノタフ侯爵家の特務部隊の本隊だ。

地下水路で全滅させたのはあくまで先遣隊。本隊はすでに、この世界樹の攻略に取り掛かり、金の鍵を奪うために動いていたのだ。

「悪いことは言わねえ。プロウォーカーといえど、今はあの頂上を目指すのはやめとけ」

ジンの忠告は、飛空猟兵としての純粋な家族を守るような善意からくるものだった。

しかし、シエルは全く怯むことなく、むしろ不敵な笑みを浮かべてアメジストの瞳を細めた。

「教えてくれてありがとう、ジン。……でも、私たちは外周ルートなんて登らないわ」

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