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第2話 同じ朝

朝は、静かだった。


目覚ましが鳴る前に目が覚める。

それも、七回すべて同じだった。


天井の小さな染み。

カーテン越しの光の入り方。

耳を澄ますと聞こえてくる、キッチンの物音。


――生きている。

今は、まだ。


そう思った瞬間、胸の奥がわずかに軋んだ。


確認しなければならないことが、増えすぎていた。

時間。天気。妹の声の調子。

それらが「いつも通り」であることを、

一つずつ確かめないと、呼吸が浅くなる。


「お兄、今日ちょっと早く出るから」


食卓についた妹が、トーストをかじりながら言った。


「部活?」


「ううん。委員会。新学期だからバタバタしてて」


委員会。

その単語に、思考が一瞬だけ引っかかる。


前のループでは、

妹はその委員会に入っていなかった。


「……そう」


声のトーンに、変化が出ていないか。

言葉の選び方に、違和感がないか。


自分でも分かるほど、

俺は妹の一挙一動を観察していた。


妹は気づいていない。

気づくはずがない。


七回の死を、

七回の葬式を、

七回のやり直しを。


すべて、俺ひとりで抱えている。


学校へ向かう妹の背中を見送りながら、

俺は玄関先で立ち尽くしていた。


行かせたくない、という感情が浮かぶ。

でも、それを行動に移すことが、

どんな結果を招くのかも知っている。


止めれば、別の死に向かう。

守れば、違う形で失う。


だから俺は、

「いってらっしゃい」と言う。


それが、最も安全な選択だった。


――少なくとも、今までは。


昼過ぎ、大学病院の前を通った。


特に用事があったわけじゃない。

ただ、足が勝手に向いていた。


七回目のループで出会った医師。

あの古い診察室。


今日も、そこにいるのか。

それとも、もう存在しないのか。


確かめる勇気は、なかった。


0.02%。

あの数字が、頭から離れない。


偶然。計算外。

俺が、そこにいること。


「そこ」がどこなのか分からない以上、

今できることは何もない。


それなのに、

何もしないことが、

何かを確実に失っている気がした。


夕方、妹はいつもより少し遅く帰ってきた。


「委員会、長引いちゃってさ」


そう言って靴を脱ぐ姿は、

これまでと何一つ変わらない。


変わらないはずなのに、

俺の中では警報が鳴っていた。


遅れた理由。

一緒にいた人。

帰り道。


聞きたいことは山ほどある。

でも、聞けない。


聞いた瞬間、

世界が“修正”を始める気がした。


その夜、

俺は夢を見なかった。


代わりに、

妹の死に関する「記憶」が、

断片的に浮かんでは消えた。


事故の音。

誰かの叫び声。

冷たくなっていく手。


そして、そのすべてに共通していたのは、

俺がそこにいなかったという事実だ。


――0.02%。


もしかしたら、

その数字は「奇跡」じゃない。


俺が、妹の世界に踏み込みすぎない限り、

永遠に辿り着けない確率なのかもしれない。

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