3章 3話 四人班
個人実技のあとには、筆記試験が続いた。
宗介は実技のときとは別人みたいに答案へ向かい、終わるころには少しだけ元気を取り戻していた。
「これならまだ望みあるかも」
実技で落ちたと決めつけていたくせに、立ち直るのも早い。
すべての試験が終わったと思ったところで、受験生たちは再び訓練場へ集められた。
前に立った教官が、一枚の紙を広げる。
「明日は班別実地試験を行う」
周囲から声が上がった。
「四人一組で指定された演習地へ入り、山中にいる救助対象を捜索する。二日目の指定時刻までに救助対象を集合地点に連れてこい」
さらに、山の中には在校生が鬼役として配置されるという。
見つかれば襲われるし、救助対象を連れている途中でも関係ない。
「個人実技とは違う。四人全員の行動を評価する。一人で先に進んでも点にはならない」
宗介が小さく息を吐いた。
「今度は一人じゃないのか」
安心しているようだった。
僕は逆に、四人で動く必要がいまいち分からなかった。
鬼が出たなら、倒せる人間が倒せばいいんじゃないだろうか。
「班分けを掲示する。確認したら班ごとに集まれ」
訓練場の端に紙が張り出された。
人が一斉に動く。
宗介と一緒に列へ近づき、自分の名前を探した。
四人の名前が縦に並んでいた。
神代桃矢。
鷺宮千景。
水城小夜。
早瀬宗介。
「桃矢、一緒じゃん」
隣から宗介が覗き込んできた。
顔が明らかに明るくなっている。
「そんなに嬉しい?」
「知らない奴ばっかりより安心するだろ。桃矢なら鬼役が来ても何とかなりそうだし」
「僕に任せる気?」
「できれば」
「自分でも戦えよ」
紙から離れると、銀色の髪がこちらへ近づいてきた。
鷺宮千景だった。
後ろには小夜もいる。
千景は僕と宗介を順番に見たあと、腕を組んだ。
「この四人ね」
個人実技のときからそうだったけど、ずいぶん堂々としている。
「まず班長を決めるんだっけ?」
宗介が言う。
「私がやるわ」
千景が間髪入れずに名乗り出た。
僕も班長なんてやりたくないから、誰がやっても構わない。
ただ、相談する間もなく決めるあたり、かなり仕切りたがりらしい。
宗介は特に異論がないらしく、小夜も興味がなさそうにしている。
「じゃあ決まりね」
千景はそのまま話を進める。
「明日は私の指示に従いなさい」
「なんで?」
「班長なんだから当然でしょ」
「自分で決めただけだろ」
千景が目を細める。
「何か文句ある?」
「別に」
班長をやってくれること自体はありがたい。
ただ、偉そうなやつだとは思った。
小夜が横から千景を見る。
「始まる前から揉めてる」
「揉めてないわよ」
千景は気を取り直したように、僕たちの武器へ目を向けた。
「私と桃矢が刀。小夜が弓。宗介が槍ね」
宗介が背中の槍を見上げる。
「僕は一番後ろでもいい?」
「駄目」
即答だった。
「槍なのに後ろにいたら意味ないでしょ」
「正論が痛いよ、桃矢」
宗介が助けを求めるように視線を送ってくる。
「基本は私と桃矢が前。小夜が後方。宗介はその間という配置ね」
「真ん中ならちょっと安心かも」
「状況によっては前にも出てもらうわ」
宗介の表情が曇る
千景はもう明日の戦いを頭の中で組み立てているらしい。
おもむろに僕を見る。
「桃矢も一人で先に行ったりしないで」
「なんで僕に言うんだよ」
「個人実技で勝ったでしょ。腕に自信がある人ほど、こういう試験で先走るのよ」
「そんなつもりないけど」
「とにかく、勝手に動かないこと。私が判断するから」
僕が返事をしないでいると、千景が眉を寄せる。
「聞いてる?」
「聞いてるよ」
従うとは言っていないけど。
小夜が僕と千景を交互に見た。
「明日、大変そう」
宗介が小さく笑った。
「山に入る前からこんな感じで大丈夫かな」
誰も答えなかった。
たぶん、全員少しは同じことを考えていた。
※
翌朝。
僕たちは訓練校から馬車でしばらく移動し、山間にある演習地へ着いた。
木々に覆われた山がいくつも連なっている。
入口には他の班も集まっていて、教官たちが地図や水、野営道具を配っている。
僕たちの番になると、千景がまとめて受け取った。
「地図は私が持つわ」
「もう班長っぽいね」
千景は気にした様子もなく、さっそく地図を広げた。
鬼役がどこにいるのかも、救助対象がどこで待っているのかも分からない。
個人実技とはまるで違う試験になりそうだった。
やがて教官が声を張る。
「各班、準備はいいな」
周囲の空気が引き締まる。
千景が地図を開き、僕たち三人を見る。
「山に入ったら、私の言うことを聞いて。勝手に離れないこと。特に桃矢」
「なんで僕だけなんだよ」
横で宗介がにやにや笑う。
開始の合図が鳴る。
「行くわよ」
千景が先頭に立つ。
小夜がその後に続き、宗介が槍を抱えて僕を見る。
「行こう。置いてかれるよ」
宗介が千景たちのあとを追う。
僕も腰の刀を確かめ、三人に続いた。
木々の間へ足を踏み入れると、外の明るさが一気に遠ざかった。




