CTOと物流責任者の面談
## 136話 CTOと物流責任者の面談
今日は、炎の夜明け商会本部でカチさんとテトの面談だ。
レノが事前に声をかけてくれていて、応接室には俺とレノ、クララ、母さん、父さんがそろっていた。
そこに、鍛冶屋コンビが勢いよく入ってくる。
「邪魔するぞ!」
「お邪魔します」
カチさんとラークさんだ。
「カチさん、こんにちは。今日は時間作ってくれてありがとう」
「おい、小僧。俺は忙しいんだ。面談なんていいから、さっさと済ませろ」
〈相変わらずの入りだな〉
レノが、用意していた書類を軽く整えた。
「では、さっそく始めましょう。カチさんは炎の夜明け商会のCTOとして移籍。カチ鍛冶屋は炎の夜明け商会の製作所として統合、という形でよろしいですね」
「あ? それでいいって言っただろうが。もういいか?」
「ありがとう、カチさん」
俺はうなずき、すぐ本題に入る。
「それでね、製作所の所長を決めてほしいんだ。カチさんはCTOだから、組織上は製作所からは少し離れてもらいたくて」
「はぁ? そんなもんこいつでいい!」
カチさんは、隣に立つ青年の肩をドンと叩いた。
「おい、ラーク。お前、やっとけ」
「え、俺ですか? でも先輩方もいますし……」
「いいんだよ。お前が一番筋がいい。だからお前だ」
〈この人らしい指名の仕方だな〉
「は、はい! ありがとうございます! 誠心誠意頑張ります!」
母さんが、すかさず口をはさむ。
「じゃあカチさんは給金金貨3枚、ラークさんは金貨2枚ね」
「そんなもんどうでもいいがな」
カチさん本人は興味なさそうだが、ラークさんは目を丸くした。
「そ、そんなに……ありがとうございます!」
そこへ、ノックもそこそこに扉が開いた。
「ライムー、来たよ! ごめん、遅くなっちゃって」
ニキビが気になる年頃のいいやつ、テトだ。
「どうかしたのか?」
父さんが尋ねる。
「うん。ヤトの馬車の車輪が外れちゃってさ。ちょっと手伝ってたんだ」
母さんが心配そうに尋ねる。
「ヤトは大丈夫なの?」
「大丈夫。積み荷も薪だったから問題ないよ」
父さんが顎に手を当てる。
「馬車は新しく買う必要があるか?」
「ううん。ああいうのはよくあることだし、マルタのおっちゃんがすぐ直してくれるって」
〈とはいえ、車輪トラブルはできれば減らしたいよな〉
「馬車の車輪とか車軸って、鉄では作れないの?」
俺は前から思っていた疑問を口にする。
「木だったら、すぐ壊れるだろうし」
「小僧、ああいう回る棒を金属で作るのは難しいんだ」
カチさんが、ふん、と鼻を鳴らした。
「ちょっとでもズレりゃ、ぜんぜん回らねぇ。芯を出すのが地獄なんだよ」
「でも、プレス機は円柱型の軸があるよね?」
「あれは俺と、そこのラークくらいしか作れん。ラークはまだまだだがな」
〈ラークさん、この歳でそこまで認められてるのか〉
「親方と比べないでくださいよ……でもライム坊、円柱は難しいんだ。ほんの少し歪んだだけで、すぐガタつきますから」
〈そうなんだな……でもあれってないのかな〉
「旋盤って、ないの?」
ぽろっと口をついて出た。
その瞬間、カチさんの目にまた火がともる。
「……せんばん? なんだそりゃ」
「えーとね。回転軸に削りたい金属を固定して回すんだ。それを、もっと硬い金属の刃でなぞって削っていく、みたいな感じ」
俺は黒板に向かい、簡単な図を描く。
回る棒。
それを支える台。
横から当てる刃。
「だいたい、こんな感じかな」
カチさんは、じっと図を見つめたまま動かない。
「……………………」
「親方?」
ラークさんが心配そうに覗き込む。
次の瞬間、カチさんが爆発した。
「……これなら……誰でも円柱が削れる……?」
ぼそっとつぶやき、チョークを乱暴につかむ。
「いや待て、刃物はここだ。違ぇ、もっとこう……台ごと動かせりゃ……おいラーク、これ動かす歯車はどこに付ける?」
「え、えーと、ここに棒を――」
「棒じゃねぇ! 歯車だ! ピッチは……クソ、測るもん持ってこい!」
「今ここにはないですよ!」
カチさんは俺の絵の上からガリガリと図面を書き加えていく。
「これがあれば……車軸、プレス機、ロール、なんでも来いだ。いや待て、おい小僧! こんなもんどこで……」
〈やばい、このパターン。夢は使えないし〉
クララが首をかしげる。
「簡単だよ! リンゴの皮むくのと一緒!ぐるぐる回して、包丁を当てるの!」
「リンゴ?」
「そうだよ!お母さんが教えてくれたよ!」
「リンゴ……」
カチさんの手が一瞬止まる。
「リンゴを回して刃を当てる……同じ……じゃねぇか……!」
そして再び黒板へ没頭する。
「回転……摩耗……油……いや水でもいけるか……もっと頑丈な台が……」
〈まぁ、楽しそうだからいいか〉
俺はレノに向き直った。
「じゃあ、製作所まわりはこれでいいよね」
「はい。カチさんはCTO、ラークさんが製作所長。書面もそのようにまとめます」
黒板の前では、まだカチさんがカリカリとチョークを走らせている。
ラークさんが苦笑する。
「ああなったら、しばらく戻ってこないですね」
「じゃ、次は物流だね。テト、現状どんな感じ」
「おう」
テトが姿勢を正す。
「物流事業は、俺とヤト、それからサントの2人で、レノの決めてくれた手順どおりに回してるよ。俺は時間にも少し余裕があるかな。たまに、さっきみたいな車輪トラブルも対応できてる」
父さんがうなずく。
「エッタさんとガレンさんにも伝えたがな。需要とか必要物資の話を聞いたら、俺に知らせてほしい。連絡役になってくれ」
「連絡網だね!」
クララが目を輝かせる。
「工場や製造所が離れたぶん、現場の声が上がりにくくなってる。お願いできる?」
「みんなの話を聞いて、ゴードン親方に伝えればいいんだな。分かった!」
父さんが重ねて聞く。
「他に困ってることは?」
「うーん……馬が4頭だから、替えが利かないのはちょっと怖いかな。運びの依頼も増えてきてるし、人が増えたら仕事も増やせると思う」
「そっか。じゃあそういうのは全部父さんに連絡してね」
俺は指を折りながらまとめる。
「馬は……2頭くらいなら増やせるかな?」
「馬舎はサントにも製造所にもあるし、大丈夫! 聞いておくね!」
「お願い!」
母さんが、柔らかい声で言う。
「あと、あんた。来月から給金は金貨2枚よ。ヤトは金貨1枚。これからも頼んだわ」
「は、はい! ありがとうございます!」
テトは、少し頬を赤くして頭を下げた。
こうして、製作所の人事と物流事業の状況も確認できた。
黒板の前では、まだカチさんがカリカリと図面を引き続けている。
「……回転数……削り代……くっそ、楽しくなってきやがった……!」
〈うん。あの人はあの人で、勝手に世界を前に進めてくれるだろう〉
そして俺たちは、
――ガラワ組との約束へ向けて、さらに走り始めた続ける。




