対面
ソウジに案内され、トウマとアシェは屋敷の奥へ。
畳張り、座布団が敷かれた部屋で、テーブルも立派な木造りだ。
トウマは「ほぉ~」と感心し、ソウジに進められ座布団に座る。
アシェも座るが、どこか落ち着かないようだった。
「どした、アシェ」
「落ち着かないのよ……椅子じゃないし、靴脱いで座るなんて部屋でもあまりしないから」
「ふーん。俺はこっちのが落ち着くけど」
コソコソ喋っていたアシェだが、対面に座るソウジは「ははは」と笑った。
「イスズの文化だからね。外国人であるキミが大変なのも無理はないよ。ところで、ヴィンセントは元気にしているかい?」
「え、あ……はい、元気です」
アシェは、ソウジが父ヴィンセントと同級生ということを忘れていた。
そもそも、ソウジとヴィンセントは違いがありすぎる。
「ヴィンセントはオッサン顔だったけど、ソウジは若いなー、シロガネの兄貴でも通じそうだぞ」
「あのね、アタシの父親をオッサン顔とか言うな」
「お、おお。悪い悪い」
ちなみに、アシェも似たようなことを考えたが声には出さなかった。そもそも出せない。
アシェはソウジを見るが……やはり、相当な美形である。
微笑みかけられ、思わず目を反らしてしまう。すると、襖が開いた。
「お茶をお持ちしました」
「ああ、ありがとう」
「お? なんだシロガネじゃん。着替えたのか」
「……おお」
シロガネは、着物だった。
アシェは思わず唸る。それくらい、シロガネの着物は似合っていた。
薄い灰色の着物、長い髪をまとめ、簪で止めている。薄く化粧もしているのか、普段のシロガネとは全く違って見えた。
シロガネは言う。
「自宅で部屋着に着替えるのは普通のことだろう」
「てかアンタ……すごい似合ってるわね」
「ふ、そうか。アシェ……興味があるなら着てみるか?」
「え!? あ、アタシも? いやいや、外国人のアタシが似合うわけないって」
「そんなことはない。町では、お土産用の着物も売っている。まあ、鎖国状態だから買う人は少ないがな……」
「ははは。シロガネにもいい友人ができたようで嬉しいよ。お嬢さん、よければ付き合ってあげてくれないかな?」
「え、えと……はい」
「おお、アシェの着物かあ。楽しみだな」
「う、うっさい。ああもう、わかったわよ!!」
アシェは、シロガネと一緒に退室。
トウマはお茶を啜り、茶菓子のヨウカンをもぐもぐ食べる。
「んで、話あるんだろ?」
「……さすがだね。トウマくん、でいいかな?」
「ああ。で、なんだ?」
ヨウカンを完食し、お茶を啜って湯飲みを置くと、ソウジは言う。
「……ミドリ様に、鎖国を解除するよう進言してほしい」
「へ? そんだけ?」
「ああ。キミがここに呼ばれたのは、七曜月下討伐についてだ。イスズの鎖国については関係ない」
「そうなのか。で……なんで鎖国してるんだ?」
食べたりないのか、トウマはソウジのヨウカンをジッと見る。
ソウジは苦笑し、トウマにヨウカンの皿を渡す。トウマは「これ美味いよな」と言い、再び食べ始めた。
「鎖国は、ミドリ様の意向なんだ……七曜月下討伐も、イスズの戦力だけで行うつもりらしい。トウマくん、キミがここに呼ばれたのは、キミがハバキリ家の関係者だからだ」
「そうなのか? 七曜月下討伐すんのに、外に協力求めないんだな」
「ああ……もともと、ミドリ様は閉鎖的なお方でね。外国に対しいい感情を持っていない」
「ふーん。なんで?」
「わからない。こちらとしても、深く聞くことはできないんだ。この国の女皇に対し、真意を深堀するのは無礼に当たる。武士の教示というものだ」
「めんどくさいな」
「……何も言えないね」
トウマはヨウカンを食べ終える。
「とりあえず、七曜月下討伐と、鎖国解除をお願いすればいいんだな」
「ああ。とりあえず、今日は酒宴を開くから楽しんでくれ。明日、女皇に謁見してもらう」
「おう。あ、酒よりメシ重視で!! 俺、めちゃくちゃ食うぞ」
「ははは、わかっているよ」
トウマは、ソウジと何気ない話で盛り上がった。
◇◇◇◇◇◇
その日の夜、酒宴が開かれた。
豪華な料理が並び、酒も並んだ。
着物に着替えたアシェが登場。赤面している姿をトウマがからかい、頭にゲンコツを喰らったり、酒を飲んで酔ったり、芸者たちの演奏や踊りを見て笑ったりと……楽しい時間が過ぎた。
あっという間に夜は更けた。
部屋に戻ると、部屋に紙があった。
「『風呂湧いてます』か……行きますかねぇ」
用意されていた着替えを手に風呂へ。
風呂は温泉で、脱衣所で服を脱ぎ、手ぬぐい片手に洗い場へ。
髪と身体をパパっと洗い、浴槽に浸かる。
「あぁぁぁ~~~……最高。自宅に温泉とか最高。シロガネ……うらやましい」
空を見上げると、綺麗な星空……そして、満月が見えた。
満月に向かって手を伸ばす。
「まだまだ遠いなあ……でも」
必ず、斬る。
トウマは伸ばした手を握りしめた。
すると、脱衣所のドアが開く。
「お~、広いじゃん」
「我が家の自慢だ。遠慮するな」
「ありがと。ん~、最高かも」
アシェ、シロガネだった。
アシェは腰にタオルを巻いて上はそのまま、シロガネは片手にタオルを持ち一切隠していない。トウマはその姿を見て「おおー」と声を出す。
すると、アシェが気付いた。
「え、あ、アンタ……なんで」
「いや、フツーに入ってたけど」
「うむ。部屋に『温泉どうぞ』と置いておいたからな。トウマ様、お背中お流しします」
「ん、頼むわ」
「ぎゃああああああ!! たた、立ち上がるなああああああああああ!!」
アシェが顔を反らして蹲る。
トウマは気にせず立ち上がり、そのまま椅子に座った。
「アシェ。我が家は混浴だ。混浴というのはイスズの文化だぞ」
「でで、でもでも、ううう」
アシェは蹲ったまま、耳まで真っ赤になっていた。
背中しか見えないが、トウマは気にしない。
シロガネは、羞恥心ゼロでゴシゴシ背中を洗い始める。
「大きい背中ですね。父を思いだします」
「ははは、鍛えてるからな」
「そこ!! フツーにしてんな!! てかトウマこっち見んな!!」
「アシェ、いい加減に諦めろ。ほら、私と一緒に」
「ええええええ!? てか、ううう」
アシェはゆっくりトウマの背中に近づき、スポンジを取る。
普段なら怒鳴りつけるが、冷静さを失っているのかトウマの背中を洗い出す。
「ううう、なんでこんなこと」
「気持ちいいぞ。あ、次は俺が洗ってやるから」
「イヤ!!」
身体を洗い、トウマは湯舟へ。
アシェ、シロガネも身体を洗って湯舟へ……トウマと距離を取る。
「ったく……なんでアンタと風呂に」
「イスズの文化と言ったろう」
「はっはっは。俺は嬉しいけどな」
「……はあ、こっち見なきゃいいわよ」
濁り湯なので、身体は見えない。
アシェは湯舟を満喫しはじめたのか、顔をほころばせる。
「はぁぁ……戦いの前に、リラックスねぇ。ねえシロガネ、城下町で買い物とかしたいかも」
「もちろん、案内しよう。いい店はいくつもある」
「俺も俺も。楽しみだ~」
三人は温泉で、観光について話すのだった。




