19話 『私はそれでも彼に夢をみた』
「私がお前の師になってやる。」
つい先ほど自身の師を貶したその人が赤く輝いているもののそこには一切の温かみを感じさせない瞳を私の向け、冷たく言い放った。
師匠は先に出ていった。
「なぜそこまであの男にこだわる。そんなに魅力があるとは思えないが。」
そう淡々と言い放つ。
怒りが蓄積されていく。カルナさんを、私の師匠を…!
いや駄目だ。冷静になれ。あの人は言っていた。
感情は大切。でもそれに呑まれちゃいけない。心に熱く沈め、頭は常に冷静でなければならない、と。
ふぅ、と息を吐き、心を落ち着かせる。
「あなたこそどうしてカルナさんにこだわるんですか?」
相手がすこしぴくっとする。だが表情は変えることなくまた単調に答える。
「私があの男にこだわっている。どこが。」
「氷の姫ともあろうお方が珍しく人に絡んでいたじゃないですか。いつもは他人に興味がなく、まさに氷の女王様のようにだと言われているあなたが。」
「そのどこがこだわっていないというんですか?」
そう負けじと言い張る。ここで引き下がっては駄目だ。
「そうか、それがこだわっているように見えたのか。ではお前に問う。能力を持たずにモンスターに立ち向かう馬鹿がこの世界にどれだけいると思う。」
「あの男の他に知っているのか。」
「知りません。知りませんが、それがそれこそがカルナさんの凄いところです!あの人は私にない勇気を持っている。戦士に一番必要な勇気を誰よりも持っています!」
そう強く主張する。あの人に教えられたことをあの人を貶した人に強く主張する。
だが彼女は表情一つ変えなかった。
「違うな。お前が何を教えられたか知らないが戦士にとって一番必要なのは強さだ。」
私の主張はこの人に届かなかった。
「どれだけ勇気を持とうと、どれだけの想いを持とうと強くなければ意味がない。」
なぜ彼女が氷の姫と呼ばれているのか。
「どんな勇気も、どんな想いも強者の前ではすべてが無に帰す。」
「そもそも勇気ちは自信からできるものだ。自信とは己の強さからできるもの。つまり紺的にあるものは勇気ではなく強さだ。強さあってこその勇気。強さのない勇気など蛮勇に過ぎない。」
氷魔法を使うため、と一般的には解釈されている。だがそれだけではなかった。
「弱者が何を想おうと意味はない。」
その心の冷徹さ。それこそが彼女が氷の姫と呼ばれている理由だったのだ。
「この世は強さが全てだ。」
何の起伏もなく、ただ冷徹に言い放つその姿はもはや姫なのではなかった。
「…だとしても、そうだとしても!私はカルナさんと戦いたい!」
もはや何の論理も存在しなかった。感情を抑えることなどできなかった。
「そうか。お前には才があると思っていたんだがな。気のせいだったようだ。」
そう言い、彼女は立ち去っていった。一言残して。
「ただ、死ぬなら一人で死ね。他人に迷惑をかけるな。」
もはや冷静になどいられなかった。
彼女が立ち去ったあと、自分でも珍しいと思うくらい荒々しくマリーさんに話しかけた。
彼女がそれに対して驚いているようには思えなかった。それよりもよく言ってくれたという感情とそれでも足りないという感情が混ざったような複雑な表情をしているようだった。
彼女は私よりも先にカルナという存在を知り、ギルド職員という立場から彼をサポートしていた。
そんな彼女が目の前で彼が貶されていれば何か物申したいと思うのは当然であろう。
それでも彼女はギルド職員であるがために何か言うことは出来なかった。
個々人への過度な干渉は禁じられているからだ。
おそらくギルド職員として氷の姫を注意することは可能であったのだろう。
だがそこには必ずギルド職員のマリーではなく、個人としてマリーが出てきてしまう。
だから何も言えなかったのだろう。
この人は本当にプロなんだとそう実感した。
そして、私のやるべきことは―。
決意を新たにし、クエストに一人で出かけた。




