怪しき行き先を突き止めて(前)
メルちゃんとわたしは、チャンスさんに気付かれないように、改めて接近した。
幸いにして、チャンスさんは、妖艶なランジェリー・ダンスを演技しているピンク・キャットの胸とお尻から、目が離せない様子だ。スゴイ下着だけに、『大事な所』が見えそうで見えない――という『チラ見なスリル感覚』が、たまらないらしい。
――ピンク・キャット、すごいよ。さすが、プロだよ。
やがて、ピンク・キャットのランジェリー・ダンスが終了した。
ピンク・キャットは黒いマントを拾い上げ、挑発的な歩みをしつつ、クルクルと振り回している。ランジェリーを危なくズラしたり、ウインクをしたり、投げキッスをしたりしていて、余興の演技サービスにも余念が無い。
大喜びな客たちが、ヒューヒューと囃し立てながら、換金チップをチップ箱に投げ込んでいる。
ダンス・プログラムの合間は、アルコールを堪能する時間となっているようだ。心得た給仕たちが、興奮の収まらない客たちに、次々に新しいアルコールを供給している。気分が盛り上がっていると、アルコールの消費もスピードアップするからね。ホント、上手く出来ている。
チャンスさんを足止めしてくれた御礼だ。わたしたちも、礼儀正しいウサギ族な給仕ボーイから少し換金チップを買い取って、近くのテーブルのチップ箱に入れて置いた。
楽団の演奏が、飲み話を邪魔しない音量に収まって来ている。司会を務めている1人が、陽気なテンポの音楽に合わせて飛び跳ねながら、次のプログラムを案内していた。
「いえぃ! 楽しんだかーい? お次は、あの話題のスペクタクル舞台『爆弾聖女・薔薇薔薇の逃走追跡劇』のランジェリー・ダンス版だ! 見て損は無し! さぁ、クラクラするような素敵な夜を楽しもうじゃ無いか!」
近くの物陰で息を潜めながら、チャンスさんを見張っていると――
チャンスさんが陣取っているテーブルに、別の客らしき人物が近づいて来た。ガニ股で歩いて来て、椅子にドスンと腰かける。
これまた、ワルっぽいクマ族の不良青年だ。ちょっと肥満気味の、縦にも横にも、ふくよかな体格。角刈りなヘアスタイルなものだから、海賊さながらに額に走っているX型の傷跡も、いっそう凄みを増している。
さすがに今日の暑熱が、クマ族な毛深い身体に、こたえているらしい。
何処で手に入れたのかと思うような、『ナンチャッテ暴走族トロピカルなキラキラ&ヒラヒラ』の上下を、裸の上に直接まとっている。しかも、色黒の胸元の辺りに、『ツキノワグマの月輪模様』を模した、刺青がある。
――まさに『街角のチンピラ』と言う風の、クマ族の不良青年だなあ。
チャンスさんと、謎のクマ族の青年は、一言二言くらい交わした後、互いに手に酒瓶を持ってカチンと打ち合わせた。
次にクマ族の不良青年が、持って来た大型カバンを、テーブルの下で滑らせる。チャンスさんが足元でそれを受け止め、持ち込んで来ていた携帯魔法陣ボード――不正な金融魔法陣がセットされていた代物――を、大型カバンに入れて、クマ族の不良青年の足元に戻す。
クマ族の不良青年は『魔法の杖』を取り出し、チャンスさんが既に取り出していた『魔法の杖』をつつく。2本の『魔法の杖』が暫し、シンクロしながら光った。その後、2本の『魔法の杖』は、スルスルと、お互いの持ち主のホルダーの中に納まった。
ワルっぽいクマ族の不良青年は、酒瓶の酒を豪勢にラッパ飲みすると、気取っているかのように、『ナンチャッテ暴走族トロピカルなキラキラ&ヒラヒラ』に包まれた肩を揺らしながら、立ち上がった。ブツの入った大型カバンを無造作に抱えて、店の奥へと入って行き、奥の階段を登って行く。
チャンスさんは、酒グラスに残っていた酒をグイッと飲み干した後、満足そうに席を立って――酔っているのか、いないのかも不明な、ヒョイヒョイとした足取りで、『ミラクル☆ハート☆ラブ』を出て行ったのだった。
メルちゃんとわたしは、頷き合って、チャンスさんの後を再び追跡した。
既に日は暮れていて、夜間照明が灯り始めている。早めの夕食の時間帯だ。ちょうど良い場所に屋台が出ていたので、最もポピュラーで、なおかつ安全な、ナッツ類とドライフルーツ類を買って、エネルギー補給用とする。
「あいつ、何処へ行くつもりなのかしら? この先は運河よ。その先は国境だってのに」
次の植え込みの陰に身を潜めたメルちゃんが、ドライフルーツをかじりつつ、訝しそうに目を細める。わたしも、そーっと植込みの上に目を出してみた。
確かに、あの金髪の、ボワッとした不思議な髪型をしたチャンスさんが、運河の傍でウロチョロしている。如何にも怪しげだ。
――やがて、チャンスさんは運河へと降りて行った。長身が、頭のてっぺんだけを残して、向こう側に沈む。程なくして、ボワッとした不思議な髪型が、上下にユラユラと揺れながら、滑るように移動し始めた。
「渡し舟に乗ったんだ! 急ごう!」
メルちゃんとわたしは、運河を仕切る欄干に駆け寄ると、慎重にチャンスさんが滑って行った先を窺った。
夜の運河の上を、プカプカと渡って行く渡し舟の影が、確かにある。焦って見回すと、幸いと言うべきか、一回り小さな小舟が、桟橋の下に残っていた。
チャンスさんは大柄な体格だから、大きな渡し舟を選ばないといけなかったらしい。わたしとメルちゃんだったら、残っている方の小舟でも充分だ。
――追跡、再開!
メルちゃんが《水霊相》生まれな事は、運河の上の追跡では、すごく有利。《水霊相》生まれだと、《水魔法》は発動しやすい。
チャンスさんは、上流へと向かっている。静電気をタップリまとっているお蔭で、全身が青白くボーッと光っているから、すぐに分かった。『怪人・夜光男』も納得の、お目立ちぶりだ。せっせとオールを漕いで渡し舟を前進させている。
一方、メルちゃんは《水魔法》でもって水の流れを調整して、スイーッと移動だ。わたしは、重心が偏らないように体重を移動させているだけで大丈夫だった。
一刻をよほど過ぎて、まるまる二刻ほども経った頃だろうか。
前方で、チャンスさんの『バッシャ、バッシャ』というオールの音が途絶えた。
――此処は、運河に流れ込んでいる細い支流のひとつだ。既に川岸は石積みの護岸では無く、丈の高い水草がモサモサと生えている。比較的に岩場が多いために、天然の舟着き場となっているらしいポイントがある。
その岩場で、チャンスさんの渡し舟が乗り捨てられていた。チャンスさんは既に上陸したらしい。
乗り捨てられた渡し舟は、プカプカと漂いながら、川の流れに乗って運河へと戻って行く。ズボラだけど、実に上手な証拠隠滅だ。戻って行った渡し舟は、元の桟橋のところでせき止められる形になる筈だ。
辺りは、既にとっぷりと暮れている。
――ねえ、メルちゃん、家の家族の方とか、フィリス先生への連絡は大丈夫?
メルちゃんは、ニンマリとした笑みを返して来た。
「フフフ、今日は暑いから、ついでに『炭酸スイカ』風呂に行ってるって連絡したよ。あと一刻や二刻くらいは、ごまかせるよ」
――そうなの? さすが、メルちゃん?
そんな確認を交わしながらも、適当な大岩を見繕って、そこに、わたしたちが乗って来た渡し舟を係留した。戻る時に、舟が無いと大変だしね。




