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予期せぬ遭遇そして尾行(前)

古代から中世に及ぶ地下迷宮ダンジョンの発掘調査の図版は、非常に興味深い内容だった。


地下の方に真の玉座があったり、味方にしか分からない迷路にして迷い込んで来た敵を迎え撃つような仕掛けになっていたり、色々考えるものだなあと思う。本来の用途は、れっきとした水路なんだけど、敵に攻め込まれて絶体絶命となった場合の、脱出路として使われたり。


攻撃魔法を施して、侵入して来た敵を迎え撃つようになっている仕掛けは、多かった。


特に興味深いのが鳥人の開発した、《雷撃》仕掛けの地下迷宮ダンジョン。どちらかというと、鳥人だから、空中回廊で出来た迷宮に仕掛けるケースの方が多いんだけど。


効率よく《雷撃》を放つには、扇形の構造の方が都合が良いと言う事を鳥人は発見していた。《雷撃》の罠のあるゲートには、《雷撃》を発動する、扇形の装飾品の振りをした、魔法道具が仕掛けられていたと言う。


扇形をしている魔法道具だったから、『雷撃扇』という名前が付いていたそうだ。


考えてみると放電図形って、放射状なんだよね。成る程だ。


そして。


わたしは、奇妙な本を見つけたのだった。


中世の『茜離宮』を記録した図版のひとつ――数ページに渡って、ページが欠落している。


誰かがページを切り取ったみたいだ。うっすらと刃物が走った痕跡が残っている。この失われた数ページに如何なる図解があったのかは分からないけど、本を破壊するなんて、ちょっと信じられない。


メルちゃんも、この破損にはビックリしたみたい。この図書室は持ち出し厳禁だから、持ち出して良いのはコピーした物のみ。『魔法の杖』でアッと言う間だし、魔法が使えなくても受付に頼めばパッとやってくれる。


わざわざ、ページを切り取って持って行くだろうか? 司書さんに見とがめられるリスクを冒してまで?


近くの本にも異常があるんだろうか。メルちゃんと一緒に、順番に本をパラパラしていると――


――不意に、背後で、人の声が飛んだ。


「あ、何やってんだよ?」


少年らしき声だ。それに続いて、素早く遠ざかる駆け足のような音。


――何だろ?


パッと振り返る。誰も居ない。


大判本でもある図版を出し入れする時に肩紐に引っ掛かるので、一時的に近くの読書テーブルに置いていたポシェットも、そのままだ。


――あ、確か、この4日間、頑張って作ってた髪紐。


さすがに、ちょっと不安になって、ポシェットの中をチェックだ。


――『物品転送ボックス』には、特に変な箇所は無い。一応、仮の封を切って中も開けてみたけど、『ルーリー特製の髪紐』も、メッセージカードも、そのままだ。うーん?


メルちゃんも振り返って来て、不思議そうにしている。


でも、何もおかしな箇所は無いんだよね。ポシェットの中には、金目になる物は入ってない。素人の作った髪紐を欲しがる人も、さすがに居ないと思うし……


気合を入れて、再び作業開始だ。


――結論。


ページ破損の憂き目にあったのは、此処のコーナーの本棚では1冊だけだったみたい。被害が軽微というのは歓迎すべき事なんだろうけど、何だかモヤモヤする。病棟に帰る時に、一度、司書さんに話しておくべきだろう。


一段落したところで、わたしは再びポシェットを手に取った。『物品転送ボックス』を改めて確認する。宛名はキチンとしてるし、変な所は無い。中を開けてみると、メッセージカードはそのままで、髪紐も――



「あ、ルーリー! 急いで来て! 大変、変なの、早く!」


――な、何? メルちゃん?!


メルちゃんが焦りながら、窓の外を指差している。


オレンジの光が入り始めた、昼下がりの後半の陽光の下。わたしたちが居る2階の窓からは、1階の外に広がる、図書室周りの、裏道さながらの通路が見える。


その裏道の上。2人のイヌ科の男が居る。


1人は、ボワッとした不思議な髪型の金髪のイヌ族男、『火のチャンス』。


あの不思議な髪型が続いているって事は……まだ体内の静電気を全て発散しきれていないって事。フィリス先生、どれだけ大量の静電気でもって、チャンスさんにお仕置きしてたんだろう。


もう1人は。ガラの悪そうなウルフ族の若い男。相応に筋肉ムキムキの立派な体格の上に、妙にフリル&レース満載の上等な衣服をまとっていた。


フリル&レース満載なウルフ族の若い男は、見事な純金な金髪が自慢らしく、腰まで長く伸ばしている。結わえていないままの長い金髪を、しきりにフサッ、フサッと振っているので、そのたびに金髪が陽光にきらめいて、何ともまばゆい。不機嫌そうに腕組みをしながら、チャンスさんと何やら、応答を繰り返している。


両者の間で、話が決着したようだ。


チャンスさんが腕に抱えていた工芸ボードらしき物を、足元に置く。そして日常魔法用の細い『魔法の杖』でもって、工芸ボードにエーテルを流す。


すると、工芸ボードの上で、魔法陣が赤く輝いた。チャンスさんが《火霊相》生まれだからだろう。


輝きが収まると、今度はガラの悪そうなウルフ族の若い男が、フリル&レース満載の上等な衣服の胸元を開いた。胸毛ビッシリ、かつ筋肉が盛り上がった胸が見える。若いウルフ族の男は、衣服の胸元から同じく日常魔法用の『魔法の杖』を取り出し、嫌そうにエーテルを流した。


工芸ボードの上で、同じ魔法陣が、今度は青く輝いた。


見ていると、チャンスさんと謎のウルフ男は、『これで取引は成功した』というような雰囲気で、チラリと視線を交わし合った。


ガラの悪いウルフ男はフリル&レース満載の上等な衣服をヒラヒラさせて身を返すと、肩を怒らせて、さっさか向こう側へと歩き去る。チャンスさんは再び工芸ボードを腕に抱え、ウルフ男とは逆の方向へと、ヒョイヒョイと歩き去って行った。



奇妙な遭遇の現場だ。しかも、非合法の、アブナイ取引っぽい雰囲気が、途方もなく、する。


それに、あの工芸ボードに浮かんでいた魔法陣って――


メルちゃんが決死の形相で、わたしを振り返って来た。


「あいつ、何か企んでるよ……! 追っかけてって、確かめないと!」


――完全同意!


わたしは、『物品転送ボックス』の封を正式な物にすると、メルちゃんと共に駆け出した。


図書室のカウンターに『物品転送ボックス』専用のポストがあるから、取り急ぎ、放り込む。


すると、ポストの前面に魔法陣の模様が黒く輝いた。金融魔法陣だ。『料金を入れて下さい』という意味。


わたしは『魔法の杖』が使えないので、メルちゃんに立て替えてもらう形。


メルちゃんの『魔法の杖』が料金データを含むエーテルを流すと、魔法陣が青く光る。


――やっぱり!


チャンスさんが持っていた工芸ボードに浮かび上がっていた魔法陣は、金融魔法陣だ。しかも、公式な物には有り得ない、余分な配線が入っていた。と言う事は『裏金』――マネロンしてるって疑惑も、大いにある。


これは、ますます、チャンスさんが何をしているのか、突き止めないと。


メルちゃんとわたしは、図書室を飛び出し、チャンスさんが歩き去った方向を目指して走ったのだった。


*****


プレイボーイなチャンスさんは、いつものように、病棟の総合エントランスで手あたり次第に、女の子たちに声を掛けていた。お蔭で、追いついた。


でも、イヌ族の女の子たちの方にしたら、ラブラブの最中に放電されてビリビリしちゃったら、多分お楽しみどころじゃ無いんだろう。ほとんどの女の子たちが、ギョッとした笑みを浮かべながら、辞退している。


「ゴメン~ダメよ~。静電気を完全に出してからだったら、大丈夫よぅ」

「スゴーイ。『怪人・夜光男』ってホントだったのね。こんなに静電気があったら、暗い所でホントに光るわよぅ」


チャンスさんは、連日、完敗しているらしい。しばらくの間、緑地に面するアーチ列柱のひとつに抱き着いて、たそがれていた。ボワッとした不思議な金色の髪型だから、余り悲壮感は無いんだけど。


やがて、チャンスさんは、すっかりススけた様子で、中庭広場へと歩き出した。最初はトボトボとした歩き方だったけど、次第に普段の歩き方になった。


普段のヒョイヒョイとした歩き方になると、チャンスさんは男だから、歩幅がすごく広い。追いつくのは大変だ。



わたしは『炭酸スイカ』カラーな頭部が目立ってしまうので、いったん、生成り色の三角巾で、清掃スタッフ風に頭部を隠す。この三角巾は、ウルフ耳を通すための穴が付いているスグレモノだ。


この4日間、図書館に通う時に、こうして目立つ毛髪を隠していた。『呪いの拘束バンド』も、真っ赤な『花房付きヘッドドレス』も隠れるから、便利。『魔法の杖』は使えないんだけど、細い棒を持っていれば、如何にもプロの清掃スタッフだ。


「あいつ、城下町へ行くわ」


メルちゃんが物陰からヒョコッと頭を出して、眉根をキュッと寄せている。


中庭広場、ミニ店舗が並ぶ商店街をブラブラした後、チャンスさんは、一般の転移基地が並ぶ、交通ターミナルへと移動して行く。それも、城下町の大通りに直結するコースだ。極めて一般的な移動コースだから、今のところ、アヤシサは無いけれども……


一般の転移基地は、だいたい最大3人ほどが入れる扉付きの小間を幾つも連ねた風になっている。順番に並んで、空いた小間に順番に入って行くと言う風だ。公共施設に設置されている集団トイレに見えなくも無い。実際に人間を出し入れする訳だから、『人間トイレ』かも。


チャンスさんが入った小間が、赤いエーテル光で溢れた。すぐにエーテル変換装置が働いたようで、赤いエーテル光が白いエーテル光に変換される。そして、正常に転移魔法陣が稼働した。転移魔法が終了すると、小間の扉が自動的に開く。


「それッ!」


空いている時で良かった。メルちゃんとわたしは、チャンスさんが使っていた小間に飛び込んだ。


直前の客データ、つまりチャンスさんが使用した転移データが、まだ残っている。行き先は、やはり城下町の大通りだ。


メルちゃんが『魔法の杖』を振ると、青いエーテル光が溢れて行く。


小間の扉に設定されている別の魔法陣が、白いエーテル光じゃ無い事を感知して反応した。扉にある魔法陣が4色に光り、青いエーテル光を白いエーテル光に変換して行く。そして、尋常に転移魔法陣が稼働したのだった。

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