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最初の、かの日の目撃談(前)

場を、ディーター先生の研究室に変えて。わたしとメルちゃんも同席して、昼食を挟みつつ。


コソ泥な少年ジントの、2回目の白状が始まろうとしていた。ジントは、ディーター先生が展開した拘束魔法陣の中央部で、ゲッソリとした様子で座り込んでいる。


ジントは、何故か、ディーター先生の黒い笑みがトラウマになっているようだ。1回目の白状の時に、よっぽど脅されていたらしいんだけど。


ディーター先生、ジントの口を割る時、どうやって脅迫したんだろう?


「さて」


ディーター先生が、ジントの手前の椅子にドッカと座り、おもむろに口を開いた。そのディーター先生の手の平の上で、灰色の宝玉がポンと跳ねた。


「風のジント、とやら。お前が持っていた《隠蔽魔法》の、灰色の宝玉の件な。地下牢にて取り調べ中の、元・バーサーク獣人たちが、キリキリ証言した。この灰色の宝玉には、見覚えがある……とな。まさに、シャンゼリンが愛用していた《隠蔽魔法》用の、魔法道具だ、とな!」


――ええぇえ!!


シャンゼリンは、灰色の宝玉を、謎の紺色マントの少年に盗まれていたと言う証言があったけど!


その紺色マントの少年って、ジントだったのッ?!



別のデスクでは、書記として尋問内容を逐一記録中のフィリス先生が、呆れたように、赤銅あかがね色の頭を振り振りしていた。赤銅あかがね色のウルフ耳も、クルクルと振れている。


ジントは、ディーター先生とフィリス先生、そして2人の大魔法使いを順番に見回した後、「チェッ」と舌打ちをした。『トホホ』と言わんばかりに、灰褐色のウルフ耳とウルフ尾が、シオシオとしている。


――ちなみに、今は、あのクレドさんは居ない。衛兵部署の方で忙しくしているそうだ。


何故かジントは――決まり悪げな様子で、わたしの方にもチラリと視線を向けて来た。


一応、『怒らないから、何か知ってるなら話して』と、無言のサインを送っておく。


ジントは大きく溜息をつき、渋々と言った様子で、説明を始めた。


*****


――あの日。ヴァイロス殿下の暗殺未遂事件が、あった日。


ジントは、たまたま相前後して、備品倉庫から《風霊相》の訓練隊士用の、紺色マントを盗んでいたのだ。《パラシュート魔法》のための、魔法道具として。まさに、コソ泥の所業だった。


そして、お腹が空いていたので、ついでに大食堂の方へも忍び込んで、訓練隊士の振りをして定食1セットを無銭飲食した。それも、堂々と。


――そのようにして、コソ泥だった母親と同じように、宮殿内部の金目の物を物色して、うろついていると。


偶然にして。


コソ泥としてジントが使っていたコースと、シャンゼリンがバーサーク化した襲撃犯たちを追い立てていたコースが、交差した。


黒髪の上級侍女シャンゼリンは、バーサーク化した襲撃犯たちを、ヴァイロス殿下に向けて、けしかけている所だった。


――ジントは、それをジッと観察した。


シャンゼリンは、灰色の宝玉を『魔法の杖』でつついた。すると、シャンゼリンの姿が、影も形も無くなった。《隠蔽魔法》だ。


必然的に、ジントは――コソ泥ならではの眼力で、シャンゼリンが持っている魔法道具の価値を、ドンピシャで見抜いた。


――あの灰色の宝玉を、何としてでも、手に入れる!


そう決心したジントは賭けに出る事にした。襲撃作戦を済ませたシャンゼリンが、逃走に使うだろうと思われるコースで、手ぐすね引いて待ち構える事にしたのだ。


作戦は、奇跡的な程に、当たった。


元々ジントは、そのポイントで、必然的に辿る動線を計算して、不可視のターゲットを見定めていたのだけど。


何があったのか――黒髪の上級侍女シャンゼリンは、いきなり《隠蔽魔法》を切って、その姿を白日の下にさらしたのだ!


『あの『水のルー』が! あのクズが! 今頃、正気に返ったと言う訳!』


シャンゼリンは悪鬼の如く激怒しながらも、左手の平を天頂に向けた。


『我が闘獣! 我が《紐付き金融魔法陣》の下に帰り来よ! 骨が折れるまでお仕置きしてやる、妹のくせに飼い主に逆らって行方不明になりやがって、あのクズが!』


――それは、絶好の好機だった。ジントは飛び掛かり、身をひるがえし、シャンゼリンの脇の下に入った。全速力で駆け抜けがてら、灰色の宝玉をむしり取った。


シャンゼリンは、まさに悪鬼の形相をしてムチを振りまくったが。


元から身軽なジントにとっては、物の数では無い。ジントは手持ちの『魔法の杖』で、灰色の宝玉にエーテルを流した。


――《隠蔽魔法》は、正常に動作した。


灰色のエーテル光で出来たラインが身を取り巻いていて、ラインの内側が隠蔽されている状態だと分かる。直感的に分かりやすい魔法道具だった。


そして、この時から、この灰色の宝玉は、ジントのお気に入りの魔法道具となったのだった。


*****


バーディー師匠が、そこで口を挟んだ。


「上級侍女シャンゼリンは、闘獣の名前を『ルー』と呼んでいたのかね?」

「おぅ。あの鬼婆は、確かに『水のルー』と言っていた。通称の方だと思うけど」


バーディー師匠は「そうか」と言って、思案深げな顔になった――そして、納得したような顔になったのだった。


「なんだよ、ヒゲ爺さん?」

「イヤ、その事実で、論理的に説明が付く内容があるのでのぅ。話を続けてくれたまえ」


*****


ジントは、シャンゼリンが『飼い主』として、『闘獣』を《召喚》していた事に、素早く気付いた。


闘獣。知能の高い獣。なおかつ、戦闘力の高い獣。


――『飼い主』が執着する『闘獣』は、えてして極めて優秀だと言う。


ついでに、闘獣も頂いてやろうじゃ無いか! 成熟した闘獣なら、エサは人間の食事を分けるだけでも充分だし、毒ゴキ1匹で、コントロール出来ると言うし!


闘獣が一緒なら、母さんを殺した犯人を、確実にれるぜ!


ジントは、すぐにシャンゼリンの後を追った。黒髪のウルフ女が金色の『狼体』に変身した時は、さすがにビックリしたものの。まさに鬼婆な女だから、毛髪の色を黒から金に変える事くらいは、朝飯前なんだろう――と、ジントは謎の納得をしたのだった。



広々と続く『茜離宮』の外苑の中、野を越え樹林を抜け、紫金しこんの狼は駆けて行った。ジントもまた、灰褐色の子狼に変身して、後を追って駆けて行った。


到着したのは、あのルーリエ種の噴水広場。


紫金しこんの狼シャンゼリンは、しきりにガウガウと咆えていた。『水のルー』という名前の闘獣を、《召喚》しているのだ。だが、上級侍女シャンゼリンとしての、タイム・スケジュールの限界が来た。


『こんな時にまで遅刻だなんて、ルーの奴、本当にグズでノロマだね! 次のフリー・タイムになったら、この下の通路から秘密裏に連れ出せるってのに!』


シャンゼリン狼は続けて、とても淑女とは思えない悪口雑言を吐き捨てると、《召喚》を諦めて『茜離宮』の方へと駆け去って行った。『茜離宮』では、緊急アラートが鳴り続けていた。



――本当に、闘獣の《召喚》に失敗したんだろうか?



ジントは思案し、念のため、近くの樹木で、毒ゴキにそっくりの大型昆虫を捕獲して来た。そして、『人体』に戻り、ひっそりと待つ事にした。


何故かは分からないけど、『来るのでは無いか』という直感が、あったのだ。


灰色の宝玉は、まだ《隠蔽魔法》を発動し続けていて、噴水広場の全体が、精巧に隠蔽された状態になっていた。


すぐに、真昼の刻になった。


――不意に、すべての石畳が、激しく震動した。


人体の姿だったジントは、バランスを崩して尻餅を付いた。


見る見るうちに、石畳の上に、即席の転移魔法陣が描かれて行く。金と銀のラインで描かれた魔法陣。


噴水広場の全体に、まばゆいまでの強烈な、白いエーテル光が溢れた。白いエーテル光の爆発だ。


そして次の瞬間、《風》エーテルによる白い光の列柱が立ち上がり、金と銀で描かれた転移魔法陣を取り巻いたのだった。


来るのか。本当に来るか?!


ジントは姿勢を立て直しながらも、待ち構えていた。


普通は、この段階で、転移して来た者の姿が現れる筈なのだが――


なかなか姿が現れない。


――白い《風》エーテル光の列柱は、その場に縫い付けられてしまったかのように、なかなか回転を始めない。《転移》が始まらないのだ。


理由は分からないが――転移魔法が妨害されているのでは無いか?



ルーリエ種の噴水広場の石畳は――まだ震動している。


黒い《地》エーテルによる《雷光》が、石畳を激しく揺り動かしているのだ。《地雷》に翻弄され、石畳が大きく波打っている。噴水広場に使われている頑丈な石組み様式で無ければ、今頃、バラバラになっていた筈だ。


ジントは、ハッとして、転移魔法陣の中の空間に注目した。


金と銀で描かれた転移魔法陣の中の空間は、四色の激烈な《雷攻撃エクレール》に満たされていた。黒い《地雷》、白い《風雷》、赤い《火雷》、青い《水雷》。


たまにある大型モンスター狩りで見かけるのは、一色か二色のみなのに――信じがたい事に、此処には、四色すべての《雷光》がある。


話に聞くのみの、究極の過剰殺戮オーバーキルの魔法――四大《雷攻撃エクレール》!

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