第八話 強く変わりたい
よろしくお願いします。
今回はセリフが多めになります。
同じ頃。謁見室の大扉前にて。
控え立っていた衛兵二人が、それぞれ、見覚えのある人物の接近に際し声を上げる。
「おや? あの子は、さっき謁見に来た子じゃないか?」「あっ! あん時のガキンチョじゃあねえか」
衛兵どもに様々な対応でもって示されたユーリは、やや複雑そうに微笑みながら彼らのもとへ歩み寄ってくる。ユーリはなんだか申し訳なさそうな空気をまとい、彼らを前にして佇むと、見据えて次のように呼び掛けた。
「あ、あのう。……さ、さっきぶりで、ごめんなさい。どうしても、聞きたいことがあって」
訝し気な声色と、表情でもって衛兵の片方が接してきた。
「何だァ? テメー……」
にも関わらず、ユーリはあまりそれに臆することなく、衛兵どもに問いただす。
「え、えっと。僕たちが謁見室に来た際、後からこちらに入ってこられたアレキシスという女騎士さんがいたと思うんですけれど、その方について……お聞きしたいことがあって」
もう一人の衛兵が、突如として一歩前に態勢を移して、神妙な顔つきをしたユーリに語り掛けていく。
「その、アレキシスというのは我々の上司、シュタウヒェンベルク卿の実娘にあたるお方だ。……して、そなたは彼女の何がそこまで知りたいのだ?」
「そ、そのう。それで、アレキシスさんって今どちらに居られるんでしょう? ご存知……でしょうか」
「それなら、恐らくは……」
「……って、なぁんでこうなるんだよォ!」
大扉前でユーリに対し悪態をついていた方の衛兵が、アレキシスの元へとユーリを連れていくことになってしまい、唐突に彼が嘆きだした。
そして、そのそばにてくっ付いてきたユーリはそんな衛兵の態度に露骨に驚かされることとなった。
「うわぁ?! び、ビックリしたっ」
「よりにもよって、こんなガキを送迎させるなんて畜生! 分かってて俺にやらせやがったなアランの奴」
すると、ユーリが忍びない感じに、衛兵の彼にと語り掛けていく。
「あ、あのうなんかすみません……ホント、こんな僕なんかのために衛兵さん」
それを聞いた途端。衛兵は、声を荒げだす。
「だァ――――ッ! やめろやめろ! 謝んなって、お前に謝られると逆にこっちの立場が無いんだっつーの!」
「は、はいっ!」
ぜえぜえと来る、乱れた呼吸を整えてからしばらくすると、また改めてユーリを前に向き直った衛兵の彼が言を発していく。
「……まあ、いい。それから、言っておくが俺の名前は衛兵さんなんぞじゃないぞ? こちとらドロンって名前がちゃんと付けられてんだい」
「あ、はい。分かりました、衛……ドロンさん」
「そういうお前は……確かユーリといったな。いっしょにくっ付いてたあのおっぱいデケー修道士の姉ちゃんはどうしたんだ」
「おっぱ……エロイーズ先生は、今のところこちらで用意された寝室にひとり籠ってる最中だと思います」
「そりゃあ、さぞ疲れたことだろうな」
ドロンは、軽く笑みながら、そう言った。
「確かに疲れた感じでしたけど、でも、なんせ急に僕や女騎士のアレキシスさんという方とともに旅に赴くことが決まったもんで。それで、先生はそうなった経緯を修道院の皆に伝えるための手紙をしたためたいので少々お暇を頂きたいと僕に言ってきたんです」
「なるほど。それで、部屋を追い出されて取りつく島がなくなった状態のお前はそれから、のこのこ俺らの前に姿を現したってわけね」
「僕、アレキシスさんから剣の使い方を指南してもらおうと思ってます」
「剣ねえ、なんでさ?」
その場でドロンが足を止め、問いかけていく。
対して、ユーリは混じりっ気のない純粋な眼を晒しながら、ハキハキと答えてきた。
「僕、先生と約束させられたんです。絶対に無茶はするなって、強く推されてしまったもので僕自身皆の迷惑にはなりたくないと考えて、決めたんです。アレキシスさんから剣を教わって、僕も強く変われるようになりたかったんです」
「強くなりたい、か。本当にそう思っているのか?」
「割と本気で、思ってます。だって、強くなれば力がついて、力がつけば僕の大切な人たちを僕自身の力で守ることができるんですから」
それらの言葉をまるで噛みしめていくかのように、ドロンは、ちょっぴり間を置いたうえで淡々と述べていく。
「……まあ、目標と動機はどうあれ、己を変えようと努力するのはいいことだ。せいぜい、見かけどおりな弱音とへっぴり腰を晒さないように頑張りな」
「はい、頑張ります! ドロンさん」
文字通りの叱咤激励をドロンからもらい受け、ユーリはすこぶる声を張り上げて答えた。
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