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エレメタル・クロニクル  作者: はなぶさ利洋
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第九話 呑んで呑んで呑んで……客間より

よろしくお願いします。

 衛兵のドロンにより、ユーリはアレキシスの住まう邸宅へと誘われ、無事、シュタウヒェンベルク家の門を叩くのに成功した。

 荘厳な玄関にいると、ユーリの目の前に緑々しい髪をした女中が現れ彼を直ちに応対しはじめる。

 ユーリは淡々と、自分がこの家にまできた旨を述べていくのだった。


「………………と、まあそういう訳なんです」

「なるほど? それで、わざわざこちらへと赴かれたわけですか。ご足労、ありがとうございます」


 女中は、ユーリを前にして何の躊躇うことなく、両手のつま先でスカートの両端をちょんとつまみあげて一礼しだす。

 丁寧すぎる風に思えたユーリはというと、なんだか逆に居た堪れなくなって、途端に謙遜を始めた。


「いやあ、そんな僕はただ……」

「あ、これは失敬いたしましたね。申し遅れました、私、当家における家事一通りとアレキシスお嬢様の日々の世話を仰せつかっております。女中のレイチェルです、以後、お見知りおきを」


 改めて、会釈をするレイチェルを見、反射的にユーリ自身も自然と会釈をする態勢に移った。片足を曲げてお辞儀を晒している彼女はというと、頭から直接白のボンネット帽をすっぽりとおっ被せており、黒を基調としたカフス袖の制服を身にまといなおかつその上からフリルのついたエプロンを前掛けさせた出で立ちだった。


「ああ、こ、こちらこそよろしくお願いします。僕はユーリです。郊外から来ました」


 さまざまな調度品が立ち並ぶエントランスから廊下をしばらく真っ直ぐ渡り歩いていくと、案内された部屋の中は長々としたソファーが二つ、対面するように置かれていて、その間には足の低いテーブルが隔てていた。

 さあ、と。ユーリに対してレイチェルがやや節目がちになって、客間へと誘導するべく部屋に向けて右手を差し出しはじめる。


「こちらが客間になります。私がお嬢様をこちらまでお連れする間、どうかごゆるりとおくつろぎください」

「は、はい! あのう、どうかお構いなく……」


 すると、


「レイチェルゥゥ~~~~! どぉこだレイチェル、いるなら返事くらいせんかッッ! ……いーや、いなくても直ちに返事しろ、分かったかぁ!」


 どこからともなく、この屋敷の雰囲気にはあからさまなまでに不釣り合いながなりごえが客間の、ユーリたちが通ってきた廊下とは反対のもう一つある入口の扉の向こうから響き渡ってきた。ユーリは一瞬、この屋敷にゴロツキでも入り込んできたかと思い、警戒した。

 すると、そこへ先ほどの反対側にある扉が何者かにより荒々しく開け放たれていった。

 扉の向こうからは、空になった酒瓶を手にしてすっかりと『デキあがった』様子の、アレキシスが姿を現したのだった。


「酒だァッ! 酒を持ってこいッッ、何をチンタラしてるそんなんでよく私の世話を担う女中だと嘯くことができるなァァ~~~~ッッ! エェッ?!」


 酒のせいもあってか、絶好調な状態のアレキシスはというと、紅潮しきった顔で目を据わらせており、身にまとっていたワンピースもボタンが首下から2つ3つ外れ右肩と右鎖骨は完全に露わとなっている始末だ。

 以下のような有様だった彼女を目の当たりにした、レイチェルはというと、これには流石に驚きを隠せない様子であった。


「お、お嬢様ッ?! その、恰好は……!」

「そういえば、なんかやけに暑いな……。」


 そして、レイチェルがアレキシスの身を案じ始めるのだがそれも空しく、アレキシスはワンピースの胸元部分をこじ開けにかかった。両襟が持ち上げられると、彼女自身の豊満なバストが白日の下にさらされていった。

 それまで茫然とただ立って見ているしかできなかったユーリは思わず我に返り、眼前で催されている酔いどれのストリップに対し思わず自身の目を両手で覆い隠す。


「うひゃあっ!」


 見るに見かねた感じのレイチェルが、ツカツカと、アレキシス本人の元へ駆け寄り、何とか諌めようと静止を呼びかけていく。


「ちょ、ちょっとちょっと! お、お嬢様ッ! いけません、いくらなんでもそれは」

「んおお? 誰かと思えば、お前はレイチェルじゃあないかァ。ちょうど良かった、急に暑くなってしまって汗ばんでたところだ。おい、すまんが脱がすの手伝ってくれ」


 この期に及んで、アレキシスは未だ自分の状況を正しく掴めていなかった。


 すかさず、レイチェルが言葉を返しにかかる。


「本当に済まないと思うんであれば、せめて、嫁入り前の令嬢としてのTPOくらい弁えてくれませんかね?!」

「ほう……私に対して一丁前に説教とな。まあ、たまにはこういうのも悪くはないか。レイチェル、直々にこの私からお前へと賛辞を送ろう。褒めてつかわす」

「お気持ちだけはありがたく頂戴いたしします、そうじゃなくてお召し物を……」

「嫁入り前とお前は抜かしていたが、じゃあ逆に聴きたいんだが、いくら世界広しといえども、こんな私を嫁に迎え入れてくれるようなそんなおめでたい頭とお国柄をしたやつがいようか? ――――いや、いない。いるわけがないんだ。なぜなら、こんな真昼間から酒をカッ喰らうような奴は例え男だろうと女だろうとも、皆等しく人間の屑に他ならんからだ」

「自嘲している間に、いい加減自重なさってくださいませ!」

「お、今のは韻を踏んだのか見事だ! ようし、レイチェルここはお前に給料を払っている雇い主の娘としての私からの餞別として、血統書付きの馬をざっと五十頭はくれてやろう」

「そんなに要りませんよ! と言うか、いくらなんでも、受け取る謂われはありませんって!」

「なぁに、そう遠慮するなぃ。お前の自室に馬をありったけ詰め込んで、馬のヒズメ跡が天井にまで達するくらいには馬を隙間なく堆く積み上げてくれよう」

「その行動に、いったいどのような意味がおありで!? いや、そんなことより私の寝床を勝手に厩にするのは止めてくださいませ!」


 全力をこめた否を叩き付けてみるも、あまり効果は見られないでいた。


「ハッハッハッハー! まあ、そう遠慮するなー! ハッハッハッハー!」


 そう高らかに宣言すると、次にアレキシスは大いに笑い耽った。

 それら一部始終を余すことなく見届けていたユーリはというと、初めて顔を合わせたころ思い出していて、今と比べて明らかに乖離した様子のアレキシスに対してすっかり懐疑的な思いを抱いてしまっていた。


(こ、この人。本当にあの謁見室でお会いしたあの騎士様なの?)


 そう考えていたのも、つかの間。

 状況に整理が追い付いていないユーリの存在をアレキシスが目で認識しだした。

 レイチェルを差し置いて、アレキシスはユーリのもとに接近した。

 お互いの鼻先同士がぶつかり合う距離まで。


「おや、そこにいるのは……お前はどこからきたんだ? そもそも、誰なんだお前は」

「(近い………………!)え……あのう、ご存じありませんか?」

「お前みたいな、どこぞの馬の骨とも知れないハーフエルフなんぞ知るかあっ」

 なぜか自分自身の存在を否定されたユーリはそのショックのあまり、驚愕する。

「ええっ、そんなあ!」


 だがその直後に、いやちょっとまてと待ったを掛けたかと思いきやようやく思い出すに至ったらしく、手をポンと打った。


「そうそう、ハーフエルフで思い出した思い出した。この間真昼間にいきなり王城に駆り出されたもんで、あわてて倉庫の奥から謁見用の甲冑をひっぱりだして、誇りをはたいてそれで、行ってきたんだ。わざわざ、王のために。それで……言って、見たら王はいないはあのくそったれのトントとかいう大臣はおるわで……そしたら、このハーフエルフとだいたい同じ背格好のハーフエルフの小童がいたんだ」

 恐る恐る、ハーフエルフの小童であるユーリが遠慮がちに手を挙げた。

「えっと、あ、はい。それ、多分ぼくです。」


 しかし、即座にそれも否定された。


「だが、お前は私の知っているそいつなぞではないわ!」

「本人がいってるのに?!」

「私の王城でであったハーフエルフは、今のお前みたいに目玉が4つもありはせん」

「本当に誰のことなんですか、誰のッ!?」


 大人と子供。人間とハーフエルフ。騎士と孤児。それから酔っ払いと素面というどれをとっても対極的な立場にいるふたりは、それからいつまでもいつまでも平行線で不毛なるやりとりを繰り広げていくのだった。



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