第60話 大地鳴動して
<第60話>
やあ、オレの名前はANDREW!
台風が来るとなんだかわくわくしちゃうほう、アンドリューです!
いや、不謹慎だよな。
もちろん、人命に関わるほどの強力な台風による大災害なんてのはNGだぜ。
雷が鳴ると「キター!」って思っちゃう感じに似てるよな。
「じゃ、到着してすぐだけど、ちょっくら行ってくらあ」
「オレも行こう。さすがにお前だけに現地に行かせるわけにはいかんからな」
そういってロバートが名残惜しそうに腰を上げる。
本音はもっとケーキと紅茶が欲しいんだろ?
「私たちはどうすればいいのかしら、トラ?」
「おう。まずは調理場の改善だな。必要な設備をリストアップしていてくれ。2,3時間で戻ってくるだろうから、美味い昼飯の準備のついでにな」
「ふうん。冷凍庫とかこの世界になさそうな物でもOK?」
「ああ。そのへんはゴルドに言ってくれ。ゴルド、プラティナ。迷宮の全ての資材と人材の使用を許可する。ソラの理想の調理場を作ってくれ」
ちらりと目配せ。
「畏まりましてございます、アンドリュー様」
「わかりましたわ~」
ゴルドとプラティナが頭を下げる。
「シルヴィアはノンノと一緒に持ち込んだ資料の整理と翻訳だ。迷宮の連中に実地で作り方を叩き込んでもいい。最適な人材はゴルドに聞け」
「分かった。優先順位は?」
「任せる。だが、まずは醤油と味噌、それに日本酒とビールだ」
「分かった」
「わ、ワシもなのか?」
「おう。せっかく連れてきたんだ、働いてもらうぞ」
ゴルドとシルヴィアに丸投げしておけばきっと大丈夫だろう。
基本的に発酵モノばかりだから、時空魔法や精霊魔法が使える奴らがいれば時間も短縮できるだろうしな。
「じゃ、行ってくるわ」
「行ってらっしゃい、トラ」
一瞬の後、オレとロバートはアーレイン王国の北東部にある水田予定地の上空へと転移していた。
ん、転移について怖くはないのかって?
うーん、怖いってのとはちょっと違うかなあ。
自戒の念はある。
やはり油断も慢心もしてはいけないってことがよく分かったんだから、マイナスばかりではなかったんだろうな、きっと。
「ほう、なかなかいいロケーションだな」
「そうなのか?」
オレが前に言い残していった通り、水源地になる山や森林が豊富で、雨量がそれなりにあり、平野部であること。
採水に適した川が流れていること・・・etc
「区画分けも水路も完成はしているのか」
「ああ。魔法使いたちに金を払って突貫工事してもらったからな」
美しく区画整理された四角い水田を上空から眺める。
あとは土作りのための肥料類と水を入れてやるくらいでいいのかな。
「80%近くは工事も終わっている。あと20%は順次行っていく予定だ」
「そうか。じゃあ、残り20%は今終わらせちまおうか」
「なに?」
オレは全てのアイテムを駆使して大地の精霊王に呼びかける。
『なんじゃ、なんじゃ。久しぶりじゃのう、アンドリュー』
『おう、おっちゃん。久しぶりだな』
『最近このあたりが騒がしいと思ったらお主の仕業じゃったか』
『まあ、そんな感じだ。おっちゃん、あっちの方にまだ手つかずの土地があるだろ。あそこもここいらと同じ様に均して欲しいんだわ』
『お安い御用じゃ。それ』
その瞬間、大地が微かに揺れ、その姿を緩やかに変えていく。
「な、なんだと・・・?」
ロバートが目を丸くしている。
そりゃそうだよなあ。天変地異って奴だ。
みるみるうちに残っていた土地は綺麗に水田として整理されてしまった。
『すまんね、おっちゃん』
『なに、お主と儂の仲ではないか』
『あんがとよ。この辺一帯は肥沃な農地になる予定だからさ。大地の精霊たちにも住みやすくなるはずだぜい。あと水の精霊たちもな』
『ほっほ。そりゃあありがたいのう。ついでに社でも建てて、美味い酒を奉納してくれたらいうこと無いんじゃがのう?』
『任しとけ。おっちゃんが生まれてから今までの永い永い年月でも飲んだことねえようなとびっきりの酒を振る舞ってやるぜい』
『なんと、それは楽しみじゃ。お主とこの地にさらなる加護のあらんことを!』
おっと、おっちゃん、喜びのあまり【大地の精霊王の加護】を土地に付与してくれちゃったみたいだ。
こりゃ豊作が約束されたも同然だな。
「アンドリュー、今のは・・・」
「おっちゃんか? 大地の精霊王だよ。酒が好きなんだぜ」
「おっちゃんってお前・・・」
「いいんだよ。おっちゃんの言った通り、神社でも建てて祀って、美味い酒を欠かさず奉納してやりゃあ大喜びってもんよ」
「そ、それでいいのか・・・?」
考えても仕方ねえよ。
考えるな、感じるんだって誰かも言ってたしな。
「さて、これで整地は終わったな。どうすっかな。水入れちまうかな」
「そんな簡単にいうがな・・・」
「なあに、別にそのへんの水を干上がらせちまうわけじゃねえからよ」
さっきと同じようなことをするだけだから。
今度は水の精霊女王様にお越し願うとすっか。
『おお、アンドリューではないか。なにやら久しぶりにそなたの顔をみるのう』
『そうだな。久し振り、女王様』
『なんじゃ、いつものように姉ちゃんで構わんぞ?』
『そうか? そういや今日は連れがいるんだよ。オレのダチでこの国の国王ロバートだ』
オレに促されてカチンコチンに緊張したまま挨拶するロバート。
なんだよ、らしくねえなあ。
『そんなに畏まらずとも良いぞ。妾は寛容であるからの』
『そうだぞ。姉ちゃんは怖くねえぞ?』
美人でグラマーで言うことねえじゃねえか。
『そんな風に言ってくれるのはアンドリューだけよのう』
『そうなのか。ところで、頼みがあるんだけどよ』
『なんじゃ。妾にできることであれば何でも言うがよい。スリーサイズか?』
『そんなんじゃねえよ。ほら、あっちに区画ごとに整地された土地があるだろ。あそこを栄養たっぷりの水でひたひたにして欲しいんだわ』
精霊女王のスリーサイズとか誰得だって話だよ。
・・・興味ない訳じゃないんだけどな。
『なんじゃ、そんなことか。あの親父にも言って、水を引く用の川でも1,2本作っておくかえ?』
『いいのか。じゃあ、頼むよ』
『お安い御用じゃ』
姉ちゃんがおっちゃんとなんか話をしているらしい。
川を新しく作るとなると土地を動かさないといけないしな。
『アンドリューよ』
『ん?』
『大量に水がいると言うことでよいのじゃな?』
『おう。とにかく水は豊富にいるんだよ。いくらあってもいいかな』
『ふむ。ではこうしよう』
大地が鳴動する。
用水路用に確保しておいた土地が自ら動き、新たな川の流れを作る。
北の小高い丘がさらに隆起したかと思うと、中央部が陥没していき、そこからこんこんと清水が湧き出す様子が見て取れた。
なんじゃこりゃ。
『姉ちゃん、どうなってんだ?』
『川を動かすのも面倒でな。あそこの丘周辺を親父に動かしてもらって、湖を一つ作ったのよ。妾の力の続く限り、あの湖は涸れることは無いわ』
ロバートが口をぽかーんと開けて絶句している。
ま、精霊王なんて存在はそんくらい非常識だって事だな。
『いやあ、何から何まですまねえな、姉ちゃん』
『妾とお主の仲ではないか。親父から聞いたが、社を建立して宴会を開いてくれるそうじゃな。対価はそれでよいわ』
『そんなんでいいのか。じゃあ、とびっきりの宴会を開いてやんよ!』
ようし、この感じなら今年から米作りできそうだな!
しかし、どんなすげえ宴会開けばいいんだろうか。
大地と水の精霊王を招いての宴会か。
女神様に踊りとか踊ってもらった方がいいかな!?
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