第45話 アンバー
お久し振りでございます。
二月に入ってから急に忙しくなりまして…
<第45話>
やあ、オレの名前はANDREW!
コーヒーはブラックで飲む方、アンドリューです。
ブラックコーヒーをこんなに飲むのは日本人くらいらしいな。
あの苦みが心地良いのは何でなんだろうな?
「さて、ここか」
オレは帯広市内の中心部、広小路のアーケード街に立っていた。
この辺にくると色々と店を巡って買い物したくなるのが問題だな。こぢんまりとしてるけど、センスのいい店が多いと、オレは勝手に思ってるんだぜ。
西から入って東へ歩く。
夕方とはいえ平日なせいか、人通りはまばらだ。
東の端から少しのところ、ビルの二階にその店はあった。
『喫茶アンバー』と看板が掛かっているだけの入り口から入り、階段を上っていくと薄暗い照明が光っている。
「なんか雰囲気ある店だな、おい」
古めかしいが重厚なドアを開けると、カランカランとカウベルが音を立てる。
「いらっしゃいませ」
そういってオレを出迎えてくれたのは、白髪の老紳士だった。
あれ、大婆様っていうからばあちゃんかと思ってたんだけどなぁ。
このじいさんに化けてるのか?
「どうぞ、お好きな席へ」
そう言われたので、カウンターの席へ。
昔ながらの喫茶店って感じで風情があるな。
「お水どうぞ~」
「ああ、ありがt・・・」
グラスを持ってきてくれたのが、見目麗しい妙齢の美女だったので少し面食らってしまった。
年の頃は二十歳前後か。
ソラよりは上かな。
何というか、色気があるというか、妖艶さを感じさせる人だな。
「ご注文はお決まりですか?」
「ああ。おすすめのブレンドを一つ」
「かしこまりました」
注文がマスターに伝わると、ミルで豆をひく低い音といい香りが漂ってくる。
おお、豆をひくところから始めてくれるのか。
自家焙煎珈琲って書いてあったしな。期待できそうだ。
「お待たせしました」
磁器のコーヒーカップに入った黒い液体が目の前で湯気を立てている。
まずは一口。
熱さと苦みがオレの意識を覚醒させる。
火傷しそうなくらいの熱さが、やっぱり珈琲にはよく合うぜ。
「ところでマスター」
「何でしょう?」
珈琲を半分ほど飲み終えたところでオレは話を切り出す。
「狐って聞いて、何か思い当たることはないかい?」
「さてさて、北海道ではキタキツネをよく見ますがねぇ」
あごをなでながらマスターはそういった。
とぼけた顔だぜ。
「じゃあ、金狐のコン蔵って名前に聞き覚えは?」
マスターがちらりとさっきの美女に目配せする。
おっと、まさかあの美女も妖怪だってのか?
いきなりバトル・・・なんてことにはならねえよなぁ。
「コン蔵君の知り合いなの、あなた。そうならそうといってくれればいいのに」
「は?」
コン蔵君って。
それより、その台詞を言ったのがさっきの美女だったことに驚いた。
「初めまして。私の方が、あなたの探している相手よ」
その横でマスターがにやりと笑っている。
そうだよな。
大婆様だ。
化けられるなら、わざわざじいさんに化けずに、若くて美人に化けるよなぁ。
「ふうん。じゃあ、あなたも人間じゃないのね」
「そういうことになるな。妖怪とも違うような気はするけどな」
「人外ってところは一緒でしょ。仲間みたいなもんよ」
そういってサキは朗らかに笑う。
大婆様に「私のことはサキと呼びなさい」と開口一番言われたのでそうしている。オサキギツネのサキなんだそうだ。
大婆様って言いかけたら殺されそうな目で見られたしな・・・。
やはり女に年の話は厳禁なんだなって思ったぜ。
サキは狐の妖怪変化だそうだ。
八尾の狐と自分で言っていた。
「まだ九尾には届かないのよねぇ」
そういって魅力的に笑う姿は、とてもじゃないが齢数百を閲した大妖怪とは思えなかったがな。
オレの素性も明かした。
それを聞いてのさっきの台詞なわけだが。
「なるほどねぇ。それであなたは『人化の秘術』を求めにここにやってきたと。泣ける恋愛話じゃない」
「泣けるか!?」
「種族を超えた愛。燃える話よね。あれ、種族は超えてない?」
首をかしげるサキ。
うーん、確かに現状種族は超えてないって扱いになるのか?
まぁ、そこは大した問題じゃないから置いておくとしよう。
「サキに会って、とりあえず人化の術があるってことは分かったからな。とりあえず安心したぜ」
「ふふ。その浅黄ちゃんだっけ。人化の秘術を教えるにやぶさかではないけれど、必ずマスターできるものでもないからねえ。過度な期待はしないでね」
「ああ。それは仕方ないことだ。アイツ次第だな」
ただの猫に過ぎないアイツが、そんな術を習得できるかどうかはわかんねえ。
素質、運、努力・・・。
様々なことが上手く重なれば可能性はあるだろう。
「もしその子が人化の術を習得したとしたら、あなたはその子を受け入れるのかしら」
「習得できたってことはそういう運命なのかもしれねえだろ。それくらいの覚悟は、オレにもあるさ」
間違いなく、きっかけにはなるだろうさ。
お互いに人化した姿を見たときにまた状況も変わるだろうしなあ。
「とりあえず、その子に習得の意志があるかどうかを確認してみてね。無理矢理覚えさせるようなものではないから。種族としての猫の範疇は間違いなく超えちゃうし」
「あやかしの世界に足を踏み入れるってことだ。覚悟がなくちゃできねえよな」
浅黄にこのことを話してみて、アイツがどんなことをしてでも術を覚えたいって覚悟があるならの話だ。
そこで二の足を踏むようなら、魔法で記憶を操作して、オレのことは完全に忘れさせる方がいいだろうな・・・。
「ところでトラちゃん」
「ん?」
「ここまでの情報量としてあなたに要求したいことがあるわ」
「なんだ、金か?」
「金なんてどうでもいいの。あなたに、私たちの仲間になって欲しいのよ」
「仲間?」
「私たちはこの世界の理からは外れた存在よね。そして、私たち以外にもそういう存在は案外いるものなのよ。吹けば飛ぶような弱々しい存在から、伝説になるような強大な存在までね」
なるほど、確かにそうだろう。
いろいろな形の存在があるのは当然だ。人がそれを認識できるかどうかは別にして。
「そこで私を中心に、このあたりの人外の互助組織みたいなものを作っているのよね。しばらく昔から」
「へえ。冒険者ギルドみたいなもんか」
「冒険者ギルドっていうものがどんなものかは分からないけど、とにかく助け合いの組織よ。いくら強い力を持っていたとしても、私たちは少数派。人と敵対するなんて無謀だわ。でも、私たちも生きてかなくちゃならない」
「そりゃそうだ。だから助け合いか」
「そういうこと。トラちゃんはこの世界の生まれじゃないみたいだから分からないところもあるかもしれないけど、現代に適応した能力を持つ妖怪もたくさんいるのよ。それぞれの持っている特別な力を生かして、皆で助け合って生きていきましょうっていうのが私たちの『アンバー』ってわけ」
アンバーっていうのは、喫茶店の名前でもあり、組織の名前でもあるそうな。
趣旨に賛同してくれた仲間たちはせいぜいが30人程度。
それでも、お互いの能力を生かして、この世界で快適な生活をするくらいのことはできているんだそうだ。
「一番大事なのは、人間としての身分を確立させることなのよね。やっぱり人の姿になって、人としての身分を手に入れられるかどうかで生きやすさが大きく変わってくるから」
だよなぁ。
この世界にはエルフもドワーフもホビットもいねえ。
人に近い見た目でもアウトになるって寸法だ。
そして戸籍。
身分証明書を手に入れるにはどうしても必要になるからな。
魔法でごまかしたりすることはできるけど、いつもそれじゃ面倒だし。
「トラちゃんはそのへんどうにかできる人?」
「不可能じゃねえさ」
直接どうこうすることはできないにしても、そういった立場の人間を魔法で操って間接的にどうにかすることはできるはずだ。
ただ、そういう立場の奴には知り合いがいねえけどな。
「そうなの。必要なら用意してあげられたんだけど。自分でやれるなら・・・」
「いや、頼むわ。面倒だしな。戸籍とか免許とか融通してくれたら助かる」
「あら、そうなの。それなら任せておいて。そういうことに精通した人がいるから」
「ああ、頼んだ。礼はするぜ?」
「いいのよ、私たちの仲間になってくれればそれで十分。トラちゃん、色んなことできそうだし」
「そいつは請け負うよ。困ったら連絡くれ・・・っても携帯も持ってねえわ」
「免許さえあればどうにでもなるわよ。なるべく急いで準備するから、そうね、三日後くらいにまた店に来てくれる?」
「了解。じゃあ、そん時に浅黄も連れてくるわ」
先延ばしにしてもいいことねえからな。
ソラに頼んでどうにかしてもらうとするか。
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