第11話 隣に立つ人
第11話です。黄水仙の会が心霊写真?の謎に挑みます。
2月の例会の日は、朝から雪が降った。雪は午後にはやんだが、例会のある夕方でも薄く積もった雪がまだ残っていた。
今月の主催者の石山美里は、ゲストの高齢の女性を伴って、いつものレストランへの道を慎重に歩いていた。
「足元に気を付けてくださいね、奥山さん」
そう言って、婦人と歩幅を合わせるようにし、いつでも体を支えられるように身を寄せていた。
声をかけられた女性は、
「大丈夫ですよ。無理はしませんから」
とはっきりした声で答えて、ゆっくりと歩を進めた。
街路樹も雪をかぶって白くなっている。
しばらく歩くとレストランの立派なドアが見えてきた。
石山がドアを開け、名前を告げて、個室に案内してもらう。
部屋の中はじんわりと温かく快適だった。
他の会員たちはすでに揃って各々くつろいでいた。
「皆さん、こんばんは。雪のせいで急ぐことが出来なくて、やっぱり遅くなってしまってすみません」
石山が詫びた。
「なに、こんな雪の日じゃ、しょうがないよ。それに、そちらのゲストの方、ご高齢のようですが、大丈夫でしたか?」
栗林敏江が、気づかうように聞いた。
「おかげさまで、石山さんがずいぶん気を使って、ゆっくり歩調を合わせてくださいましたし。危ないことは何もありませんでしたよ」
「それより、あなた、議員の栗林先生じゃありませんか。いつも私たち庶民のために頑張って働いてくださって、私も応援してるんですよ」
ゲストの婦人が明るい声を上げた。
「そんな風に言っていただけると、いっそう頑張らなくてはいけませんね。皆さんの応援があってこそ、続けてこられたことです。本当にありがとうございます」
栗林も素直に喜んだ。
そこへマリ子が現れ、石山とゲストのコートをあずかると、クロークに向かった。
身軽になった石山が、ゲストを皆に紹介した。
「紹介します。こちらは、奥山由美子さん。私とは10年来のお付き合いになります。最初は、医者であるご主人に、医療事故の裁判で証人をお願いしたのがきっかけで、いろいろとお世話になって、奥様ともお付き合いするようになったんです」
「奥山と申します。今日はよろしくお願いいたします」
とゲストの奥山もあいさつしたが、
「食事の後で質問タイムというのがありますからね。今は簡単でいいですよ」
と石山が軽く制した。
その後、その日の天候のことなどでしばらく歓談が続いたが、栗林にはひとつ気になることがあった。
芳賀悦子の担当編集者、三上詩織の縁談話のことである。
さっそく、栗林は芳賀に質問を投げかけた。
「芳賀さん、三上さんのこと、あれからどうなったんだい?」
「半月ほど前にね、執筆の打ち合わせがあって、その時に本人にお見合い写真と経歴書を渡したのよ。そしたらどうなったと思う?本人は平静を装ってるんだけど、はた目にも分かるほど動揺しちゃってね。すぐにも封筒の中身を確認したくてしょうがないみたいで、もじもじしちゃってさ。仕方がないから、打ち合わせは早めに切りのいいところで切り上げて、帰したのよ」
「それから何日かして、三上さんから連絡があってね。写真を用意してくれた栗林さんにお礼を言っておいてくださいって。それで進展はあったのかって聞いたら、ほんとに一人ずつメールでやり取りするみたいでね。でも、今メールをしてる一人目の人は自分の自慢話しか書いてこなくて、三上さんのことは全然聞いてくれないそうなんだ。これは一人目はナシのようだね。そろそろ二人目に行くんじゃないかねえ」
「そうなのかい。役に立ってるのなら何よりだよ。それにしても、その自慢話の男、それはいけないねぇ。自分をよく見せたいって気持ちなんだろうけど、もっと正直な気持ちで相手のことも聞いてあげないと、お互い寄り添うことなんてできないよ。でもそうしてみると、メールで相手の気持ちを聞いてみるっていうのも、素性が分かりやすくていいかもしれないね」
その様子を、氷山麗子、美樹本佳織、夏目京香の3人がすぐそばで聞いていた。
氷山が口を開く。
「芳賀さん、その編集者さんの縁談話、うまくいきそうかしら。私たちも興味津々よ」
「三上さんがやる気を出してるのは確かだけどねえ。でもこういう人の縁の話は、ひと筋縄じゃ行かないよ。それに、三上さんには幸せになってもらいたいじゃないか。変な男と一緒になって苦労しないように見守ってあげたいねえ」
「それは私たちも同じ気持ちよ。正直を言うと、多少面白がってるところもありますけど、良い結末にならなきゃ、楽しくないものね。また進展があったら、教えてくださいね」
「分かったよ。こうやってみんなに知れ渡ったんだから、毎回例会の時にどうなってるか報告するよ。私も三上さんがどうなっていくか楽しみでしょうがないんだ」
そう言って笑いながら、芳賀は三上のことを知らせるのを皆に請け負った。
「ところで、今日の食事、メニューはどんななのかしら。体が温まるものがいいわね」
美樹本が言った。
マリ子がそれに答えて、
「今日のメニューは、前菜からメインのお料理まで温かいメニューになっております。皆様のお身体を温めるおいしいものになっていると思いますよ」
「それは楽しみね、そろそろ会食の頃合いじゃないかしら。石山さん、そろそろ食事を始めませんか?」
石山はゲストと雑談をしていたが、声をかけられて振り返り、
「そうね、そろそろ会を始めましょうか」
と答えると、
「マリ子さん、食前酒の用意をお願いね」
と、マリ子に呼びかけた。
「かしこまりました」
と返事をしたマリ子が、シャンパンのグラスを銘々に配膳してゆく。
グラスが全員に行き渡ったのを確かめると、石山が音頭をとり、開会を宣言した。
「今日は寒い1日でしたが、外は雪で美しく彩られました。我々の会食も美しく楽しいものになりますように。乾杯!」
「「「乾杯!」」」
そうして会食が始まった。
コースのメニューは、前菜はフォアグラのポワレに洋ナシのキャラメリゼを添えたもの、続いて、チーズをのせて焼き上げたオニオングラタンスープ、魚料理はタラのブイヤベース、肉料理は牛ほほ肉の赤ワイン煮込みで締めくくられた。
どれも温製で、皆の身体をしっかりと温めてくれた。
食事が一段落し、デザートと紅茶が運ばれる。今日のデザートはオレンジリキュールでフランベしたクレープシュゼットだった。フランベの演出で上がる炎には皆が感嘆の声を上げた。
デザートが出たところで、石山がテーブルの上のベルを鳴らして注目を集め、質問タイムに移る合図を告げた。
「奥山さん、今日はお越しいただきありがとうございます。ここからは、この会の決まりで、質問タイムに入ります。奥山さんには今夜の食事の対価として、自己紹介と身の上話をしていただきます。いろんな質問が出るかと思いますが臆することなく答えてください。ここで話されたことは一切この部屋の外に出ることはありません。ここにいる会員と、給仕のマリ子さんも含めて全員が保証しますので心配いりません。それでは、お願いします」
「皆さん、初めまして。奥山由美子と申します。今日はこんな素敵な食事会にお招きいただいてありがとうございます。これも石山さんとのお付き合いがあったからですね。もとはと言えば、石山さんが、私の亡き夫と仕事で関係があったので、それで私もお付き合いさせてもらうようになったんです。夫と石山さんとの仕事は、私は詳しく存じませんが、医療事故の裁判だったでしょうか」
「そうです」
石山が言った。
「10年前、最初にご協力をお願いしたとき、奥山先生には、原告側の証人として重要な証言をしていただきました。そのおかげで病院側の不正をただすことが出来たんです。その後も何度か、医療関係の裁判でご協力をお願いして、大変助けられました。奥様とはなんというかとてもウマが合って、先生との仕事以外でもお付き合いが続いてるんです」
「それなのに、2年前に先生がお亡くなりになって、私も大変寂しい思いをしました。奥様も、当時はずいぶん悲しまれたんじゃないですか?」
「そうですね。あの時はやっぱりとても悲しかったし心細かったですね。でも、もう大丈夫ですよ。今は、息子夫婦と女子大生の孫と一緒に暮らしているんです。毎日賑やかで楽しいですよ」
「まあ、それは良かったですね。でもお強いと思いますわ。ご主人のことを思い出したりすることはないんですか?」
栗林が声をかけた。
「今でも、折に触れて主人のことを思い出すことは多いですよ。ひょっとしたら、今でも側に付いてくれているんじゃないかと思うこともあるくらいです」
「そうですか。それは心強いですね」
栗林は感心した様子だ。
「その、ご主人がそばにいる感じというのはどんな時にそう思うんです?」
芳賀が、興味深そうに尋ねた。
「日向ぼっこをしていい気持ちで陽に当たっている時とか、散歩していてそよぐ風を受けたときとか、そういう毎日のふとした時ですね」
「なるほどねえ。陽の光や風にご主人の面影を感じ取られるんですね」
芳賀も感慨深げに頷いた。
「でもそれが、ついこのあいだですけど、とても不思議なことがあったんです」
「何があったんですか?」
石山が尋ねた。
それに答えて奥山が言った。
「この写真なんです。ちょっと見てもらえますか」
そう言うと、自身のスマホに写真を表示し、皆に見えるようにテーブルの上に置いた。
スマホに表示されているのは、紅葉の下に並んで立っている一組の男女で、一人はゲストの奥山だった。もう一人の男性を見て、石山が、
「まあ、奥山先生じゃありませんか。お二人で並んで良く撮れているいい写真ですね。これはいつ頃のお写真なんですか?」
「それが、3か月近く前、12月の中頃に紅葉狩りに出かけたときのものなんです。1週間ほど前にスマホの中にあるのを見つけてびっくりしてしまって」
石山も驚いた様子で
「奥山さん、今3か月前とおっしゃいました?それじゃ、ここに写っている奥山先生は?一体どうして、、、」
と、言葉が続かなくなってしまった。
「ちょっと待ちなさいよ。2年前に亡くなったお医者様が写ってるっていうのかい?それってつまり心霊写真ってことになるじゃないの」
芳賀も驚きを隠せない。
ひとり身じろぎもせずに椅子の手すりをつかんでいた氷山は、
「ひっ!」
と小さい叫び声をあげて、背もたれに身体を押し付けて、固まってしまった。
「まあ、みんな落ち着きましょう。これがほんとに心霊現象なのかどうか、よく確かめようじゃないか。ちょっと見たところ、お医者様の姿はとてもはっきり写真に写ってるよ。幽霊みたいに透けたり、歪んだりなんてことはないみたいだ。古い写真の日付を間違えたんじゃないですか?」
栗林が尋ねた。
「いえ、そんなことはないと思います。きれいな紅葉で、私一人で写真に納まって、孫に撮ってもらったんです。たしかに最初は私一人で写っている写真だったんですよ。それが気が付いたら、主人が隣に並んでいるこの写真が出てきたんです。写っているのは確かに主人です。なぜこんなことが起こるのか私にはさっぱりわかりません」
「それに、変と言えば変なんですが、生前の主人はけっこうな照れ屋で、こんなに近くで私と並んで写真を撮るなんてことはなかったんですよ」
美樹本が口を開いた。
「一度、写真のデータを見てみましょう。撮影日はすぐに分かりますよ。すみません、少しスマホをお借りしますね」
そう言うと美樹本はスマホを操作して、写真の撮影情報を確かめた。問題の写真の撮影日は、昨年12月の第2日曜日だった。
「撮影日は、約3か月前ですね。そのころに撮られたので間違いないですよ」
確認した美樹本が言った。
「やっぱり最近の写真なんだ」
氷山が小さな声で言った。
「でも、そのお医者様の服装、外に出かけるのだとしたら、長そでのシャツにニットのベストだけというのはちょっと軽装すぎないかい。少し違和感があるよ」
芳賀がいぶかしげに言った。
「確かにそうね。ということは、この写真が心霊現象でないのだとして、写真を加工した可能性もありますよ。もっとよく写真を見てみましょう。夏目さん、一緒に写真を見てみましょうよ」
夏目に声をかけると、二人で写真を詳しく検分し始めた。
写真を拡大して、隅から隅まで細かく。特に男性の輪郭部分と陰影の映り込み方は念入りに見ていった。
「夏目さん、どう思う?私、かなり細かく調べたつもりだけど、輪郭や陰影の具合に不自然なところは見当たらないわ」
「私もそう思います。不自然なにじみやピクセルのガタつきなどはないようですね、それに、紅葉の葉の陰影も自然に影が落ちているように見えます」
「じゃあ、やっぱり合成じゃないっていうの?本物の心霊写真なの?」
氷山がやや声を荒げて聞いた。
「もちろんこれだけで決めつけられるわけじゃないわよ。でも、今のところほかに手がかりもないし、何とも言い切れないわね」
美樹本が半分あきらめ顔で言った。
「わたし喉が渇いちゃったわ。マリ子さん、紅茶のお代わりをいただけるかしら。皆さんはどう?」
石山が声をかけ、皆が賛成した。
マリ子が一旦奥に下がり、紅茶のポットを持って戻ると、銘々のカップにお茶を注いでいった。
皆は、頭を悩ます話題から離れ、しばし落ち着いてくつろいだ。
「なんだか皆さんをずいぶんと悩ませてしまって、申し訳ありませんね」
奥山がすまなさそうに口を開く。
「いえ、大丈夫ですよ。この会ではたびたび変わった謎が持ち込まれて、皆で頭をひねるんです。ただ、今日の謎は、ちょっと私たちの手に余る感じもしますけれどね」
石山が応じた。
その時、後ろに控えていたマリ子が静かに口を開いた。
「恐れ入りますが、少し気になることがございます。申し上げてもよろしいでしょうか」
「マリ子ちゃん、何か分かったの?心霊現象でないことが分かるんだったら、何でも歓迎よ」
氷山が勢い込んで言った。
「はい、細かいことなのですが、問題の写真はどの場所に保存されているか分かりますか?」
美樹本が答える。
「それはもちろん”写真”のフォルダよ。今見てみるわね」
そう言って、スマホを操作していると、
「ちょっと待って。”写真”フォルダの中に別のフォルダがあるわ。『PixeleditAI』ってなってる。このフォルダを開けると、、、あった!さっきの写真が出てきたわ!ということは、つまり、この写真は、この『PixeleditAI』ってアプリで加工されたものだってことよ。このアプリは自分の名前のサブフォルダを作って、その中に加工したファイルを保存する仕組みなのよ。たぶん間違いないわ」
「マリ子ちゃん、お手柄ね。写真の保存場所に気が付くなんて」
「よかった!心霊写真じゃないのね」
氷山が明るい声を上げた。
「奥山さん、この写真加工アプリのことはご存じですか?」
「いえ、私はスマホには詳しくなくて、自分では電話をかけるのと写真を撮るのと、家族とLINEをするぐらいでしか使いませんよ。設定なんかも全部孫がやってくれるんです。孫はそうやって、私のスマホをよく触っていますね」
と奥山は言った。
「じゃ、すいません、もう少し、このスマホを調べてみます」
と美樹本は言って、ホーム画面を表示してアプリの一覧を確かめた。すると、アプリの中に、『PixeleditAI』が確かに置かれていた。
「奥山さん、これは、あなたがスマホに入れたものじゃないですよね。すると、これを入れたのはおそらくお孫さん、写真を加工したのもお孫さんがしたことに間違いないと思います。恐らく生前に撮られたご主人の写真をスマホの中から探して、素材に使ったんでしょう」
「でも、加工した写真なら、撮影日とかの情報も変わるもんなんじゃないんですか?」
夏目が聞いた。
「それがね、大抵の加工アプリは元の写真の情報を引きつぐみたいなのよ。だから、撮影日の情報だけじゃ判断が付かなかったのね。ちょっとだまされちゃったわ」
美樹本が悔しそうに言った。
「孫が作った写真だったんですか。そういえば、こんなことがあったのを思い出しました。10日ほど前です、リビングに入っていくと、孫がソファの上で私のスマホを触って、何かしているのを見たんです。『セキュリティの設定を確認していた』と言ってたと思いましたが、少し慌てた様子ですぐに部屋を出て行ってしまって。思えばあの時、写真の加工をしていたのかもしれませんね」
奥山が記憶をたどって言った。
「それにしても、この加工アプリ、相当出来がいいわ。私と夏目さん二人でも加工の跡を見つけられなかったんだから。AIの威力なのかしら」
「そうですね、でもちょっと待ってください。今よく見ると、ご主人の瞳に映る光が四角い枠の形になってます。これは室内で撮った写真の窓枠の光が映ったものだと思います。ここに気づいていれば、もっと早く正解にたどり着けましたね」
「夏目さん、あなたやっぱり鋭いわ。脱帽よ」
美樹本が感心して言った。
「ともかく、心霊現象じゃなくて良かったですよ。まあ、お孫さんのいたずら、というかこれは、奥山さんに対する孝行心もあったんじゃないかと私は思いますねえ。奥山さんとご主人のツーショット写真を作って、あとでちゃんと見せるつもりだったんじゃないでしょうか。思いがけず、奥山さんがリビングに入ってきたから、ちょっと慌ててしまった。そんな気がしますよ」
「私も孫に詳しく事情を聞いてみます。あの子なら、正直に話してくれるでしょう。別段いやなことじゃなかったですし。この写真を見つけたときは正直少しうれしかったですしね。主人は生前なら、こんなに近くで並んだ写真は照れくさがって撮ってくれなかったと思いますから」
そう言って、奥山は穏やかな笑みを浮かべた。
「そうですね。お孫さんも驚かせようなんてつもりはなくて、奥山さんを喜ばせたい気持ちの方が大きかったんだと思います」
夏目も同じ気持ちだという風にうなずいた。
「繰り返しになるけど、この写真加工アプリは大した性能だわ。視覚に関してはプロの私や夏目さん二人でも、気づけなかったんだもの。AIの力も侮れないわね。それともお孫さんが相当写真の加工が上手なのかしら。私の事務所でアルバイトをしても即戦力になれそうよ」
美樹本は、写真の加工が見抜けなかったことがまだ少し悔しいようだ。
「何はともあれ、写真の謎が分かって良かったじゃないか。それにこの写真のことも今じゃ皆が心地よく感じてる。そうだろう?」
芳賀も謎が解けたことに気持ちが安らいでいるようだった。
氷山も
「私、最初は本気で怖かったけど、合成だって分かって安心したわ。それにみんなの話を聞いてると、お孫さんの気持ちもわかる気がするの。無邪気なサプライズだったんじゃないかって」
そう言って安堵していた。
石山は、
「奥山さん、家に帰ったら、お孫さんとよく話して、お話を聞いてあげてくださいね。きっと、お孫さんともっと仲良くなれると思いますよ」
と、奥山と孫のことを思いやった。
「私も今は、孫に感謝したい気持ちになりました。こんな素敵なプレゼントをもらってとてもうれしいですから。この写真は大事にします。そう孫にも伝えるつもりですよ」
奥山もうれしそうに応えた。
「それでは、今日の例会はこの辺で締めくくりにしましょうか」
石山の掛け声で、締めくくりの乾杯が行われてお開きとなり、皆がクロークに向かった。
マリ子から各々のコートを受け取り、帰り支度をする。
「また来月楽しみにしてますよ」
「ええ、また来月に」
それぞれ声を掛け合い、帰途につく。
奥山は、もう一度スマホの写真を見てから、そっと鞄にしまった。
外はまだ雪が残っている。
石山が奥山のそばに寄り添い、ゆっくり歩き出す。
「足元に気を付けてくださいね、奥山さん」
「大丈夫ですよ。無理はしませんから」
歩き出す二人の姿を街灯の明かりが照らし出した。
紅葉の隣に立つ人は、もう写真の中だけの人ではなかった。
いつも読んでいただきありがとうございます。




