はじめまして
「生きてたの?」という金髪美女の声に、広場のざわめきが一瞬止まった。
ちらちらと視線が集まり、居心地の悪さが肌をちくちくと刺す。
「人目を引いてしまうので、近くのお店に入りましょう」
金髪の後ろから、青緑のストレートの髪の女性が出てきた。
サァラが「用事は済んだの?」と話しかけているので、この三人でパーティーを組んでいるのだろう。
小さな食堂に入り、飲み物を注文してから自己紹介だ。
まず、サァラが俺の紹介をした。
「えっと、山の向こうで死にかけていたんで、保護したん」
金髪は片手を額に当て、青緑は口を押さえた。
「あのさぁ。この子『下ごしらえ』君だよ。ギルドニュースに載ってたの、サァラも見てたじゃん」と金髪。
「え、そうなの?」
サァラはぶんと音が出そうな勢いで俺を見る。
「ああ、何ヶ月か前に取材された」
「言ってよ、そういうの」
サァラが肘でつついてくる。
「ヒト族の顔って見分けつかないにゃ。臭いで識別してるから、会ったことない人なんかわかんない」
サァラがふてくされた顔をした。
青緑が二人を放置して、俺の顔を見る。
「あなた……トーマ君? 討伐中に死亡って聞いたのだけれど」
俺は一瞬、言葉に詰まった。だが、それは違うと言わなければ。
「討伐に出た先で、メンバーに『目障りだ』と言われて、殺されかけました。
逃げて、気を失ったところを、サァラに助けてもらったんです」
「それが本当なら、ひどい話ですわ」
青緑髪の女性は、指を唇に当てて考えるポーズになった。
その横で、サァラと金髪がおしゃべりを始めた。二人はテーブルで向かい合っているので、互いに身を乗り出している。
「そうそう。殺されかけたのを、あたいが救ったんにゃ」
「んで、食ったと?」
「行きがけの駄賃だにゃん」
「そ、そういうの、こういう所で話すのは、どうですかね?」
焦って、会話に割り込んだ。恥じらいとか、さぁ。
女性三人の冒険者パーティー。
そこに加わっている俺に、嫉妬の目が周囲から飛んでくる。
内容がちらほら聞こえているらしく、射殺されそうな視線も感じるぞ。
「あなたが本人である証明と、殺されかけたという証拠はあるかしら?」
思考タイムが終わったらしい青緑髪が、俺に問いかける。
「ギルドタグがあります。
証拠は、射かけられた矢と、その矢が刺さったブーツ。
それから、胸当てには正面から切られた跡と、背後に火球の焦げも残っています。
あ、ブーツは今、履いてるんですけど」
他に靴が無く、穴が空いたブーツを履くしかなかった。
「あと、フクロウのばあちゃんに、怪我の状態を書いてもらった!」
サァラが元気に言う。
「まあ、よく手配しましたね。素晴らしいわ」
青緑髪はサァラを褒めて、頭をなでた。
「取りあえず、生きてるって冒険者ギルドに報告だ」
金髪が全員分の代金をジャラッとテーブルに置いて、立ち上がった。
「待ってちょうだい。まず、靴を買って履き替えましょう。
冒険者ギルドに、証拠として弓矢とブーツを提供できるように。
ギルド職員やもっと上の組織に、報告が握りつぶされることもあるのよ。念のために、胸当ては隠し持っておいた方がいいわ」
その言葉はもっともだ。全ての人が善人なんてことはない。
「考えてくださってありがとうございます。えっと……」
今更だが、彼女たちの名前を知らない。
「あら、自己紹介をしていませんでしたね。私は風の魔法使いでフォンと申します」
「あ、あたしは剣士のルナ。よろしく」
青緑髪と金髪の名前がようやくわかった。
「俺は……トーマです」
一瞬、スキルの「下ごしらえ」と名乗るか、短剣を主に使っていると言うべきか、迷ってしまった。
「あはは、知ってるって!」
ルナの明るい声に、ほっとした。
どっちも俺だし、この人たちは地味スキルを馬鹿にしていない。
ようやく喉の奥のつかえがとれた気がした。




