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『下ごしらえ』で冒険者を目指す ~地味スキルなのに、なぜかモテる件~  作者: 紡里
第四章 ハーレム状態

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はじめまして

「生きてたの?」という金髪美女の声に、広場のざわめきが一瞬止まった。

 ちらちらと視線が集まり、居心地の悪さが肌をちくちくと刺す。


「人目を引いてしまうので、近くのお店に入りましょう」

 金髪の後ろから、青緑のストレートの髪の女性が出てきた。


 サァラが「用事は済んだの?」と話しかけているので、この三人でパーティーを組んでいるのだろう。




 小さな食堂に入り、飲み物を注文してから自己紹介だ。


 まず、サァラが俺の紹介をした。

「えっと、山の向こうで死にかけていたんで、保護したん」


 金髪は片手を額に当て、青緑は口を押さえた。



「あのさぁ。この子『下ごしらえ』君だよ。ギルドニュースに載ってたの、サァラも見てたじゃん」と金髪。


「え、そうなの?」

 サァラはぶんと音が出そうな勢いで俺を見る。

「ああ、何ヶ月か前に取材された」

「言ってよ、そういうの」

 サァラが肘でつついてくる。


「ヒト族の顔って見分けつかないにゃ。臭いで識別してるから、会ったことない人なんかわかんない」

 サァラがふてくされた顔をした。


 青緑が二人を放置して、俺の顔を見る。

「あなた……トーマ君? 討伐中に死亡って聞いたのだけれど」


 俺は一瞬、言葉に詰まった。だが、それは違うと言わなければ。

「討伐に出た先で、メンバーに『目障りだ』と言われて、殺されかけました。

 逃げて、気を失ったところを、サァラに助けてもらったんです」


「それが本当なら、ひどい話ですわ」

 青緑髪の女性は、指を唇に当てて考えるポーズになった。


 その横で、サァラと金髪がおしゃべりを始めた。二人はテーブルで向かい合っているので、互いに身を乗り出している。

「そうそう。殺されかけたのを、あたいが救ったんにゃ」

「んで、食ったと?」

「行きがけの駄賃だにゃん」


「そ、そういうの、こういう所で話すのは、どうですかね?」

 焦って、会話に割り込んだ。恥じらいとか、さぁ。



 女性三人の冒険者パーティー。

 そこに加わっている俺に、嫉妬の目が周囲から飛んでくる。

 内容がちらほら聞こえているらしく、射殺されそうな視線も感じるぞ。



「あなたが本人である証明と、殺されかけたという証拠はあるかしら?」

 思考タイムが終わったらしい青緑髪が、俺に問いかける。


「ギルドタグがあります。

 証拠は、射かけられた矢と、その矢が刺さったブーツ。

 それから、胸当てには正面から切られた跡と、背後に火球の焦げも残っています。

 あ、ブーツは今、履いてるんですけど」

 他に靴が無く、穴が空いたブーツを履くしかなかった。



「あと、フクロウのばあちゃんに、怪我の状態を書いてもらった!」

 サァラが元気に言う。

「まあ、よく手配しましたね。素晴らしいわ」

 青緑髪はサァラを褒めて、頭をなでた。



「取りあえず、生きてるって冒険者ギルドに報告だ」

 金髪が全員分の代金をジャラッとテーブルに置いて、立ち上がった。


「待ってちょうだい。まず、靴を買って履き替えましょう。

 冒険者ギルドに、証拠として弓矢とブーツを提供できるように。

 ギルド職員やもっと上の組織に、報告が握りつぶされることもあるのよ。念のために、胸当ては隠し持っておいた方がいいわ」


 その言葉はもっともだ。全ての人が善人なんてことはない。

「考えてくださってありがとうございます。えっと……」

 今更だが、彼女たちの名前を知らない。


「あら、自己紹介をしていませんでしたね。私は風の魔法使いでフォンと申します」

「あ、あたしは剣士のルナ。よろしく」

 青緑髪と金髪の名前がようやくわかった。


「俺は……トーマです」

 一瞬、スキルの「下ごしらえ」と名乗るか、短剣を主に使っていると言うべきか、迷ってしまった。


「あはは、知ってるって!」

 ルナの明るい声に、ほっとした。

 どっちも俺だし、この人たちは地味スキルを馬鹿にしていない。


 ようやく喉の奥のつかえがとれた気がした。


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