番外編 再会、そして再スタート
フォンは一度王都に戻ってから、サァラの家を訪ねた。
ちょうど井戸に水を汲みに来ていたルナを見つけられたのは、運が良かった。
「……フォン」
ルナは桶を足元に置いて、フォンに駆け寄った。
「フォン。戻って来たんだね」
ぎゅうぎゅうと抱きしめられる。
密かにビキニアーマーの硬さに閉口しつつ、ルナを抱きしめ返した。
肉親よりもずっと情を感じるのは、なぜだろう。
ともかく、自分は人の心がなくなったのか――という不安が消えていった。
「まあ、ずいぶんとお腹が大きくなったのね」
サァラがお腹をさすりながら出迎えてくれた。
「よくここがわかったね」
サァラはフォンに椅子を勧め。自分も「よっこいしょ」と座った。
「途中まで人に道を訊いて、その後は風魔法で人のいる方角を調べたの」
ルナがお湯を沸かし、薬草茶の準備を始めた。
「私も手伝うことあるかしら?」
「とりあえず今日はお客さんだから、座ってていいよ」
ルナはそう言って、かまどに薪をくべた。
「フォンは相変わらず気遣い屋さんで、優しいにゃ」
サァラは、瓶から木の実を皿に出した。
「私、前ほど優しくないわよ」
フォンは少しだけ後ろめたい気持ちで、そう口にした。彼女たちが知っているフォンとは、ある意味、別人なのだ。
「……しゃべり方がソフトなだけで、きつい性格なのは知ってるけど」
ルナがそう言った。
「クールぶってるけど、意外と正義感強いのもにゃ」
サァラが笑い飛ばす。
「でも、前の私は……もっと空気を読んで、間を取り持っていた記憶があるわ。人の和を大切にするというか……」
フォンが何かを思い出しながら、言う。
ルナは、薬草茶を三つのカップに注ぎ分けた。
「そうだったね。フォンがいてくれれば――って思うことはよくあったよ。ね?」
ルナは椅子に座りながら、サァラに同意を求めた。
「あった、あった。
でも、フォンのは優しさ半分、あとの半分は面倒くさいから喧嘩を早く終わらせたい――みたいな感じもあるじゃん?」
サァラが、からかうようにフォンの顔をのぞき込んだ。
「……そうだったかしら」
「少なくとも、私はそう思ってたにゃ」
「そ、そう……?」
あっけらかんと言われ、フォンは戸惑った。
「――あの、子どもの父親は何て言っているの? 結婚は?」
フォンはここに留まるか、何泊かして帰るか迷っていた。その父親が同居しているかは大きな問題だ。
「結婚はしな~い。けど、子育ては手伝わせるにゃ」
「そうなの?」
先ほどから驚いてばかりだ。
「ねー、びっくりしちゃうよね。人族だったら、責任取って結婚しろって言うところだけど」
そう言ってから、ルナは薬草茶を飲んだ。
「そう? 子どもの世話はいいけど、夫の世話とか面倒くさくない?」
「あ、そういう……?」
サァラの発言に、フォンは目から鱗が落ちるような気持ちになった。
「どうせ、子育ての当事者意識が薄くて、お手伝い感覚だろうからさ。
既婚者の話を聞いていて、そう思ったんにゃ。初めから期待しなければ、イライラしないで済む」
サァラは堂々と言い切った。
フォンは、トーマとの関係をどうするのかも、迷っていた。
フォンはときどき「風の魔法使いの集い」の名目で、宗教団体の妖精族たちに呼びつけられていた。
そこで洗脳の重ね掛けをされ、性的な奉仕をさせられていた。
思い出すと嫌悪感に襲われ、冷たい泉に飛び込んで全身を洗いたくなる。
何かをうやむやにしようとするときに、身体を使うという行動パターンが植え付けられていた。
それを自覚したときの、悍ましさといったら――
いわゆるハーレム状態だった私たち。
今後の関係性をどう再構築していくか。この機会に解散するか。
ここに来るまでの道中で、様々なことを考えた。
両親の墓参りが再スタートの象徴だったように、この二人との関係が今後の人生の方向性を決めると思っていた。
だから、覚悟を決めて、訪ねてきたのだけれど……。
あっけらかんとしているサァラ。
戸惑いながらも、優しく寄り添うルナ。
過去の距離感とは関係なく、今、ここにいるのが心地いい。
あまり、難しく考えなくてもいいのかもしれない。
フォンが山小屋の暮らしに加わってから数日後、サァラの子どもの父親が顔を出した。
「お、色とりどりの美人が揃ってるじゃん。
良かったら、お相手しようか?
つーか、俺、ハーレムの王様になれる?」
ああ、こういう人は論外だ。
トーマだから許された。
「馬鹿言ってないで、水汲んできてよ」
サァラは、彼を単なる労働力として扱うつもりらしい。
フォンは、出産時に立派な戦力となれるよう、「梟のばあちゃん」に教えを請おうと決意した。
300話目です。
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