繭の周りで
フォンの部屋へ戻ると、ルナとサァラが緊張した面持ちで待っていた。
床に布を敷き、クッションを配置して円陣を作っている。フォンの繭はその円陣の一部となっていた。
乾杯の発声は俺の役目だ。
「フォンが繭から出たいと思うくらい、美味しそうに飲み食いして、楽しい話を聞かせてやりましょう。乾杯」
木製のコップがぶつかり、トンと軽い音を立てる。散歩で渇いた喉に、酒が染みわたった。
サァラが繭の前に海鮮を並べた。
「いい匂いにゃ。王都に来たら、これを食べないと」
ルナは繭に酒をかけていいのか悩んでいる。とりあえず「やめておけ」と言っておいた。
ただ床にこぼれるだけだろうし、そんな光景は悲しみを増すだけだ。
「アーデンさんとバスラさんがワイバーンと空中で戦ったの、手に汗を握りました」
ルナが思いきったように話を振った。憧れで目がキラキラ輝いている。
「ああ、あれな。すごく高い所まで飛ぶから、気持ちいいぞ」
アーデンが自慢げに言う。
「あたいも飛んでみたいにゃ」
「獣人同士だったら、頼みやすいんじゃないのかい? 君くらいの体格なら、バスラさんじゃなくても鳥獣人なら持ち上げられそうだけど」
エドガーは素朴な疑問を持ったようだ。
「う~ん。そのまま連れ去られそうだから、実際に頼むかどうかは……」
「巣にお持ち帰りされて、ヒナの狩りの練習にされるとか?」
ルナが串焼きを囓りながら問いかけた。獣人には理性があるから、もちろん冗談だ。
「モンスターだったらありそう」
小柄なサァラがぷるりと震えた。
「大型のモンスターはそれがあるな。
でも、ワイバーンは他の魔物を連れてなかったから、まだマシだったんだぞ。
群れで来る奴だったら、Cランク冒険者も眺めている暇はないからな」
アーデンは酒をぐびぐびと飲み干す。
さっと酒の瓶を差し出すと、「瓶ごといっていいか?」と訊かれた。ほどほどにしてほしいが、翌日の予定がなければいいか。その辺はエドガーが面倒を見てくれるだろうし。
そういえば、この中でワイバーン討伐に参加していないのは俺とエドガーだ。エドガーは冒険者じゃないから気にしないだろうけど……いや、アーデンを助けるために現場には行っているんだ。
「周囲の村は壊滅したもんな。建物は壊され、住民は食われて。冒険者の遺体から疫病が発生したし」
エドガーが眉間にしわを寄せた。
「え、そうだったんですか?」
「ああ。アーデンを救い出した後、まだ現地にいる村人を助けに行っただろ? 一か月くらいで、状況が悪化していた。国や領主は助けるより、統治を放棄したみたいだ」
「ひどすぎる」
国民に対して誠実に向き合わない国王に怒りが湧いた。顔も見たことないけど……。
「レスタール王国の国王は、その辺りを追求されたら何て答えるんだろうな」
アーデンが悪党のような表情をした。面白がっているように見えるが、実際は怒りを出さないようにしている気がする。
この話題だと雰囲気が暗くなるな。別の話題で、フォンも気になりそうなこと……。
「ルナとサァラは、俺たちが王城にいる間、『光牙の道標』と一緒にいたんだろう? どんなことをしていたんだ?」
「オルドさんの引っ越しとか」
サァラが嫌そうな顔をして舌を出した。
「あれ、ひどかったよね。どこが『荷造りできてる』だっていうの」
ルナは苦笑いした。
「オルドさんって、このフォンさんの繭を研究している魔法使いかい?」
エドガーが質問する。
「そうです。ぬいぐるみをトゥルメル領から王都に運ぶのに、護衛を一緒にした冒険者パーティーのメンバーです」
「そのぬいぐるみってすごいね。トーマの発案だって?」
エドガーは興味があるようだ。
「いえいえ、レスタール王国で貴族のお嬢さんが持ってた話をしただけですよ」
故郷の村では見たことないもんな、ぬいぐるみ。
「ぬいぐるみ、見たい?」
サァラが持ってこようかというように腰を浮かせた。
ルナがその腕を取る。
「持っているのがバレたらトラブルになるから、内緒にしておこう。まだ、誰が信用できて、誰を警戒しないといけないか把握できてないから」
「そうだにゃ」
サァラがうなだれた。
「帰る頃に量産されていたら、お土産に買って帰りたいな」
アーデンが言う。
「アーデンさんが、ですか?」
ちょっと意外だ。
「子どもに買ってくんだよ。決まってんだろ」
「え、何歳ですか? 男ですか、女ですか?」
そうか、奥さんと上手くいっているんだな。
ルナとサァラが奥さんとの馴れ初めを訊きだそうとして、逆に俺たちのことを質問された。
主に、恥ずかしがっているのは俺だけ……もう、そういうのは、いいじゃないか。さらりと聞き流してくれよ。
まあ、フォンも乗ってきそうな話題だけどさ。




