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『下ごしらえ』で冒険者を目指す ~地味スキルなのに、なぜかモテる件~  作者: 紡里
第十四章 クランでの生活

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繭の周りで

 フォンの部屋へ戻ると、ルナとサァラが緊張した面持ちで待っていた。

 床に布を敷き、クッションを配置して円陣を作っている。フォンの繭はその円陣の一部となっていた。


 乾杯の発声は俺の役目だ。

「フォンが繭から出たいと思うくらい、美味しそうに飲み食いして、楽しい話を聞かせてやりましょう。乾杯」

 木製のコップがぶつかり、トンと軽い音を立てる。散歩で渇いた喉に、酒が染みわたった。


 サァラが繭の前に海鮮を並べた。

「いい匂いにゃ。王都に来たら、これを食べないと」


 ルナは繭に酒をかけていいのか悩んでいる。とりあえず「やめておけ」と言っておいた。

 ただ床にこぼれるだけだろうし、そんな光景は悲しみを増すだけだ。


「アーデンさんとバスラさんがワイバーンと空中で戦ったの、手に汗を握りました」

 ルナが思いきったように話を振った。憧れで目がキラキラ輝いている。


「ああ、あれな。すごく高い所まで飛ぶから、気持ちいいぞ」

 アーデンが自慢げに言う。


「あたいも飛んでみたいにゃ」

「獣人同士だったら、頼みやすいんじゃないのかい? 君くらいの体格なら、バスラさんじゃなくても鳥獣人なら持ち上げられそうだけど」

 エドガーは素朴な疑問を持ったようだ。


「う~ん。そのまま連れ去られそうだから、実際に頼むかどうかは……」

「巣にお持ち帰りされて、ヒナの狩りの練習にされるとか?」

 ルナが串焼きを囓りながら問いかけた。獣人には理性があるから、もちろん冗談だ。


「モンスターだったらありそう」

 小柄なサァラがぷるりと震えた。


「大型のモンスターはそれがあるな。

 でも、ワイバーンは他の魔物を連れてなかったから、まだマシだったんだぞ。

 群れで来る奴だったら、Cランク冒険者も眺めている暇はないからな」

 アーデンは酒をぐびぐびと飲み干す。

 さっと酒の瓶を差し出すと、「瓶ごといっていいか?」と訊かれた。ほどほどにしてほしいが、翌日の予定がなければいいか。その辺はエドガーが面倒を見てくれるだろうし。


 そういえば、この中でワイバーン討伐に参加していないのは俺とエドガーだ。エドガーは冒険者じゃないから気にしないだろうけど……いや、アーデンを助けるために現場には行っているんだ。


「周囲の村は壊滅したもんな。建物は壊され、住民は食われて。冒険者の遺体から疫病が発生したし」

 エドガーが眉間にしわを寄せた。


「え、そうだったんですか?」


「ああ。アーデンを救い出した後、まだ現地にいる村人を助けに行っただろ? 一か月くらいで、状況が悪化していた。国や領主は助けるより、統治を放棄したみたいだ」


「ひどすぎる」

 国民に対して誠実に向き合わない国王に怒りが湧いた。顔も見たことないけど……。


「レスタール王国の国王は、その辺りを追求されたら何て答えるんだろうな」

 アーデンが悪党のような表情をした。面白がっているように見えるが、実際は怒りを出さないようにしている気がする。



 この話題だと雰囲気が暗くなるな。別の話題で、フォンも気になりそうなこと……。

「ルナとサァラは、俺たちが王城にいる間、『光牙の道標』と一緒にいたんだろう? どんなことをしていたんだ?」


「オルドさんの引っ越しとか」

 サァラが嫌そうな顔をして舌を出した。


「あれ、ひどかったよね。どこが『荷造りできてる』だっていうの」

 ルナは苦笑いした。


「オルドさんって、このフォンさんの繭を研究している魔法使いかい?」

 エドガーが質問する。


「そうです。ぬいぐるみをトゥルメル領から王都に運ぶのに、護衛を一緒にした冒険者パーティーのメンバーです」

「そのぬいぐるみってすごいね。トーマの発案だって?」

 エドガーは興味があるようだ。


「いえいえ、レスタール王国で貴族のお嬢さんが持ってた話をしただけですよ」

 故郷の村では見たことないもんな、ぬいぐるみ。


「ぬいぐるみ、見たい?」

 サァラが持ってこようかというように腰を浮かせた。


 ルナがその腕を取る。

「持っているのがバレたらトラブルになるから、内緒にしておこう。まだ、誰が信用できて、誰を警戒しないといけないか把握できてないから」


「そうだにゃ」

 サァラがうなだれた。


「帰る頃に量産されていたら、お土産に買って帰りたいな」

 アーデンが言う。

「アーデンさんが、ですか?」

 ちょっと意外だ。

「子どもに買ってくんだよ。決まってんだろ」


「え、何歳ですか? 男ですか、女ですか?」

 そうか、奥さんと上手くいっているんだな。


 ルナとサァラが奥さんとの馴れ初めを訊きだそうとして、逆に俺たちのことを質問された。

 主に、恥ずかしがっているのは俺だけ……もう、そういうのは、いいじゃないか。さらりと聞き流してくれよ。

 まあ、フォンも乗ってきそうな話題だけどさ。


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