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『下ごしらえ』で冒険者を目指す ~地味スキルなのに、なぜかモテる件~  作者: 紡里
第十三章 過去と未来と

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午後の雑談

 魔法使いの訓練場は、騎士団のものより広かった。

 よくわからない装置もたくさんあり、見学者用の通路から一歩も出ないように念を押された。


 火柱が上がったり、水が現れたり見ているだけで楽しい。

 フォンが夢中になっている。

 好きなものに触れると、悩みなんか吹き飛ぶよな。


 ラピドがいろいろと教えてくれた。俺は魔法に関しては基本的なことを知らないから、面白い。

 魔法を練る場所は、額の人もいるし、胸の人もいる。中には、腹で練る人もいるそうだ。


 作戦を考える時に「あれを出せる?」と訊くことはあっても、どうやっているかまでは考えたことがなかった。




 そうこうしているうちに昼時になり、俺たちは迎賓館に戻った。

 今朝は緊張していたラピドも、別れの挨拶はとても自然で滑らかだった。

「またの機会に」と挨拶されたが、そんな機会はあるだろうか。



 昼食後にはエリオットがオルドを送りに来て、ルナとサァラを引き取って帰る。

 それが意識の片隅にちらつき、俺は少ししんみりしてしまう。

 賑やかで楽しい時間の後は、どうしても寂しくなるよな。



 ルナとサァラは午前中に見たものが新鮮だったと、はしゃいでいた。


 俺とフォンの問題も、早く片がつけばいいんだが。



 食後にのんびりしていたら、エリオットたちが戻ってきた。


「一度、領に戻ることにしたよ。

『光牙の道標』はオルド以外が同道して、冒険者の本拠地を移す手続きをする。

 ルナとサァラは王都に残ってもいいし、光牙の道標に臨時加入する形で一緒に来てもいい。

 どうする?」


 話を投げかけられて、二人は顔を見合わせた。


「えっと、勉強になるから一緒に行こうかな」

 ルナは考えてから、そう言った。

「護衛の仕方を習う機会って、あんまりないし」


 サァラはうつむき加減で、難しい顔をした。

「でも、フォンたちを残して行くの、嫌にゃ」


「だけど、フォンはしばらくここから離れられないだろ?

 王都にいても、無駄に時間が過ぎてくだけじゃん」

 ルナがばっさり斬り捨てた。


 なんかキツい言い方で……ルナも苛ついているのか?

 俺たちの手前、明るく振る舞っているだけだったのかも。



 俺たちも王城で悶々としているが、彼女たちも領主の屋敷で歯がゆい思いをしていたんだな。


 オルドは平然とお茶を飲んでいる。

 冒険者としてのキャリアの違いか、プライベートでも仲がいいパーティーと相互不干渉のパーティーの違いか……。



「あれ? オルドさん。引っ越しの荷造りは?」


「私がいなくても、二人も若い労働力がいればいいだろう。

 触ると危険な物だけは、荷造りを終えているよ」

 意味ありげに笑った。


 こういう言い方をする人って、荷造りも中途半端で人に迷惑をかける可能性が高いんだよな。

 本とか書き付けとか、積まれたままの研究室が想像できた。

 これ、ルナたちは承知しているんだろうか?


 俺がルナたちに声をかけようとしたら、オルドが遮った。


「Cランクのひよっこを指導してあげるのだから、それくらい労働力を提供してもいいだろう?」

 Aランクの魔法使いは、ふてぶてしくそう言った。

 そう言われてしまえば、反論しづらい。


 俺がその場にいたら、てきぱき梱包してやるんだが、あの二人は大丈夫だろうか?

 冒険者を始めたばかりの頃は、雑用の依頼か低ランクのモンスターの依頼しか選べない。その時に引っ越しの手伝いを経験していたら、問題はないだろう。


 俺の「下ごしらえ」というスキルは伊達ではない。

 引っ越しの荷造りも評判が良かった。手伝えるものなら、ついて行ってやりたいところだ。



 ああ、早く元の冒険者に戻りたい。

 花猫風月は、俺の人生の一部になっているんだな。


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