表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『下ごしらえ』で冒険者を目指す ~地味スキルなのに、なぜかモテる件~  作者: 紡里
第十二章 王城

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

166/285

迎賓館

 今日は戦闘をしていないとはいえ、森の中を通ってきた。

 塵一つないような迎賓館に入るのは、ためらわれた。


 普通、領主様の屋敷で旅の汚れを落としてから登城するもんだよな?

 領主軍の兵士たちも腰が引けている。


 商業ギルドの会計担当セディが、一度、奥歯を噛みしめてから商人らしい笑顔になった。

「おもてなしを受けないことも失礼にあたります。

 王城の方々の指示に従いましょう」


 領主の孫エリオットは体を遠くの豪邸――おそらく王宮――の方に向けたまま、首だけこちらに振り返り、うなずいた。


 セディが先頭に立って迎賓館に入る。

 役人や迎賓館の使用人たちが、ほっとしたのが見えた。


 エントランスも廊下も、つるりと磨き上げられた立派な石だ。

 デコボコの石畳ではない。職人技と財力をこれでもかと見せつけてくる。絨毯や木の床より、汚れには強いだろう。

 つい、宿屋で働いていたときの苦労を思い出してしまった。


 サァラが俺の横に来て「人族って面倒くさいにゃ。しきたりとか面子とか」と、ぼやいた。

 ルナがサァラを肘で突き、「ぬいぐるみを置いて、さっさと帰ろうとか言うなよ」と囁く。

 フォンが手で自分の口元を覆った。肩が揺れているぞ。


 護衛任務は無事に終わったということだよな。日常に戻れそうな気配に、肩の荷が下りた。


 この後に続く政治的な駆け引きやらは、エリオットたちにお任せだ。


 大きな広間に通された。自然と元の所属ごとに分かれ、荷物を置く。

 領主軍の兵士がマジックバッグから、制服を取り出して並べていった。

「風呂に行く前に、自分のサイズのものを持っていくように」


 シャワールームか大浴場を選べたので、俺は大浴場を選んだ。

 昨日はエルフの宿で、シャワーを浴びただけ。暖かいお湯ではなく温かったので、すっきりしなかったんだ。

 たっぷりのお湯で、ガシガシ頭も洗った。体も五日間の旅の汚れをようやく落とせた気分だ。

 狙われるかもしれないという緊張感の中で、汚れだけ落とす日々はきつかった。


 冒険者生活だと、シャワーも浴びられない日が珍しくない。それなのに「シャワーだけ」と文句を言う自分が不思議だ。

 なければいいが、あるなら質を求めてしまうということか?



 広い浴槽に浸かると、大きなため息が出た。はあ、癒やされる。

 犬系獣人のダルグに「お疲れさん」と声をかけられた。


「あ、お世話になりました」

 護衛任務中、ダルグを含む先輩冒険者たちにいろいろと教えてもらった。今後、すごく役に立つと思う。


 失礼だとは思いながらも、つい、体を見てしまう。

 獣人たちは人のような皮膚と体毛に覆われている部分の割合が、様々だ。ダルグは背中一面にも毛が生えている。お湯に揺れる様子を見ていると、なんだか楽しくなってきた。


「まだ、王城内が安全とは限らないから、適当に上がれよ」

 ダルグはそう言って、先に出た。

 あ、ふさふさの尻尾が濡れてペショッと細くなっている。ペット相手じゃないんだ。可愛いとか……駄目だぞ、俺。

 サァラの尻尾の触り心地を思い出す……だから、駄目だってば。

 仕方なく、頭に乗せていたタオルで顔を覆って、耐えた。



 一応新しい制服に袖は通したが、風呂上がりでは緊張感も途切れがちになる。

 ダルグの言葉を思い返すが、ふと気が緩んで、仕事が終わった気分になってしまう。



 大きな広間に戻ると、なおさら終わった気分が募る。

 だって、軽食が用意されているのだ。

 摘みやすい大きさと形をしている。王都の料理、王城の料理人はさすがだな。それはもう興味が湧いてしまう。


 魔法使いのオルドが「異物混入がないか調べ終わるまで待て」と言った。

 それでハッとする。そうだ。まだ護衛任務の途中なのだと。


 更に残念なことに、俺は携帯食を食べる番だった。出された料理を食べる人たちを眺めながら、固いパンと干し肉をかじった。


「仕事中、仕事中」と繰り返して自分を納得させる。

 フォンがそれを聞きつけて、ぷっと吹き出した。



 食事が終わっても、エリオットたちは戻ってこなかった。


 時間を持て余した兵士たちが、組んでストレッチを始めた。

「柔軟性も大切だから」

「やると疲れも取れやすいぞ」

 と、教えてくれた。


 一緒にやろうとしたら「トーマ君は昨日足首を怪我しただろう」と、とめられた。まだ足の筋を伸ばす運動はしない方がいいらしい。

 体の知識も勉強しようかな。



 トゥランが戻ってきて、広間を一瞥した。

「体をほぐすのは偉いが、制服がしわになる」と褒めてから文句をつけた。


 一緒にロイもいて、二人はこれから風呂場に向かうという。エリオットは風呂付の客間に通されたそうだ。

 トゥランは兵士二名を指名した。彼らはエリオットの部屋を教えてもらうと、急いで護衛のために出て行った。



 それから散々待たされて、お呼びがかかった。

 謁見の間には、エリオットとロイと商業ギルドの職員。

 トゥランは護衛と侍従の役を兼ねてついていく。

 それに加えてグレタ婆さん、フォン……そして俺が呼ばれた。


 え、俺?

 王様に会うの?


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ