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『下ごしらえ』で冒険者を目指す ~地味スキルなのに、なぜかモテる件~  作者: 紡里
第十一章 王都へ

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二日目 小さなことに気付くか否か

 昼食を取る場所は、まだ隣の領地内だった。

 宿場町で昼食をとるより野営の方がいいんじゃないかと思ったのだが、そうでもないらしい。

「あいつらは見るからに何か企んでいただろう。

 本当に怖い奴は、悟らせないぞ」

 と、ベルーフはふざけて脅すような素振りをする。


「火を焚いて水を汲んで――って、時間も労力もかかるでしょ。

 人手を借りられるところは省力していこう」

 メルティナは携帯食を食べ出した。


「どっちがいいとか、あまり考えてこなかったな」

 ルナが少し小さな声で言う。


「今までこんなにきっちり日程を組んだことなかったし。

 俺も料理が苦じゃないからな」

 俺は屋台で買ってきた肉にかぶりついた。


 宿場街の食堂で食べる人、屋台で食べる人、携帯食を食べる人――好き好きに行動しているようで、割り振りが決められていた。



 午後は御者台で馬を走らせる。

 道がでこぼこなので、昨日の領主に屋敷や宝飾品に金をかける前にこっちを整備しろと言いたくなった。

 金の使い道が駄目な金持ちっぽいぞ、と悪口も頭に浮かんだ。



「下草も気にしておけ。不自然に脇道に入った車輪の跡があったら、要注意だ」

 ベルーフがそう教えてくれた。少し経ってから、それを見つけた。


「あれ、ですか?」

 ベルーフに問う。


「よく気がついたな。車輪の方向からどこら辺に潜んでいそうか、わかるか?」


 顔を動かさないようにして、目線で周囲を探る。

 草むらの中に、草と同じような色の覆面をした人影が見えた。一人じゃない。数人いる。

 同化していて、気をつけていなかったら見落とすところだった。


「……見ているだけだな。三台の馬車のうち、どれが狙いなんだか」

 ベルーフは面白そうに言う。

 ずいぶん余裕がある姿に、軽く嫉妬してしまう。


 その人影は、動かなかった。兵士たちも気付いて警戒している。

 横を通るときに馬の速度を落としたりして、心なしか挑発しているように見える。


 数人の、まとわりつくような視線が気持ち悪い。

 隙があったら、襲うつもりか? 何を考えている?



 俺たちの馬車は、四台とも無事にその怪しげな場所を通り過ぎた。


「なんだったんだ」

 ふうと息を吐き、そんな台詞が出てしまった。


「しばらく後方の警戒を緩めるな。

 馬車より馬の方が速い。まだ急襲される可能性は消えてないぞ」

 ベルーフが生徒を叱るような厳しい声を飛ばす。


「は、はい!」

 その通りだ。未熟な自分が恥ずかしい……。


 背筋を伸ばした俺を見て、ベルーフは、がははと笑った。




 今日中に隣の領を出て、次の領の宿場町に泊まる予定だが、順調に領境に到着した。

 門番に「日が傾いてきたから、少し戻ったところの宿場町に泊まった方がいいのではないか」と言われた。


 怪しい。門番がそんなことを言うなんて。

 逆に、急いで領境を越えなければと思うぞ。


「日暮れは危ない。隣は獣人が多いぞ」

 門番の不用意な発言で、空気が固まった。


「今どき堂々と獣人差別をするなんて、この領の程度がしれるな」

 エリオットが門番を見下すように言う。


「い、いえ、そういうわけでは……」

 慌てて言い訳を始める門番が、情けないな。


 後でサァラに聞いたのだが、重戦士のダルグが歯をむき出しにして、「いい度胸だ」とすれ違いざまに声をかけたそうだ。

 門番は腰を抜かしたらしい。


 違う馬車に乗っていて、見られなかったのが残念だ。




 無事に宿に着くと、ルナが制服を脱ぎ捨てた。

「この服が邪魔だ。子どもを受け止めるのに走れなかった」

 膝の汚れも気にしている。休憩中の訓練で膝をついたときの汚れだ。


「揃いの制服には、敵を攪乱させる効果があるらしいぞ」

 後で兵士が制服を回収しに来るから、ルナの服をたたんでおく。


「うう、もう、やだ」

 ルナが弱音を吐いた。


 今日は四人部屋なので泣き言を言っても大丈夫だ。気が緩んだのかな?

 とはいえ、俺も団体行動で自由に動けず、新しい知識と経験が押し寄せてきて……ありがたいけれど、疲れてしまった。

 自分がまだまだだと思い知らされて、軽くへこんでいる。


「ルナ、どうしたの?」

 フォンがヘッドバインドを外しながら訊いた。


「槍の方が有利だって思い知らされたみたいな……悔しい」

 ベッドにダイブして、枕をぼすんと叩いた。


 午後の休憩の時も、メルティナさんにしごかれていたな。


「あたいも昨日メルティナさんと組んだけど、Aランクとの壁を思い知らされたにゃ」


「ルナもサァラも近接戦だろ。槍は中距離向けだから、そもそも得意とする戦い方が違うわけだし」

 俺は武器の特徴を説明した。


「懐に飛び込んで近接戦に持ち込めれば、二人の方が有利になるわよ」

 フォンが励ました。


「その懐に入れないんにゃ~」


「俺も警戒が足りないと反省させられたよ」

 どんよりとした空気が部屋に漂う。



「……私、オルドさんに魔法のことを教わってくるわ」

 フォンはヘッドバインドを締め直して、部屋を出て行った。


 いつもならフォンがなだめてくれるのに……そう思ってしまい、反省した。

 彼女に甘えすぎているな、と。


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