二日目 休憩時間
日の出と真昼の中間、「朝中」の休憩中に、投網の練習をする。
ベルーフがお手本を見せてくれた。バッと広がって、気持ちいい。この面積にいる人の動きを封じられたら、とても有利に戦えそうだ。
やってみろと言われ、まずは広がった網を回収するところから始める。
重たい。
たたみ方が難しい。
投げるだけで腕と太ももがミシミシいうぞ。
「投網を使う人が多くないの、わかった気がします」
戦闘中なら、たたんでいる暇はないし。
「がはは。その上、メンテナンスもしないといけないから、面倒くさいな。
相手が怪力だったり、短刀を持っていたりしたら効果が薄い。
だが、風の魔法使いと協力したら、良い感じに使えるぞ」
ああ、花猫風月にはフォンがいるから、投網を有効に使えるかもしれない。
もしかして、それもあって教えてくれているのか?
ルナは、槍の間合いを剣でくぐり抜けるコツを教わっていた。
柄の部分で背中を叩かれて、ルナが膝をつく。
地面を叩き、悔しそうなうなり声を上げた。
荷馬車に小さな影がよぎった。
そちらに顔を向けると、子どもが扉を開けようとしている。
バールを隙間に差し込もうとしているので、無邪気な好奇心ではないだろう。
投網を投げるか?
一瞬迷ったら、ベルーフは俺から投網を奪って、広げずに遠心力を使って横からなぎ払った。
子どもたちが吹っ飛ぶ。
サァラと雪豹獣人ラティーアが着地点に走り、受け止めた。
「打撲だけだ。殺さない力加減が見事です」
とラティーアは言うが、子どもたちは悪態もつけずに唸っている。
襲ってきた連中は自力で立てないので、そのまま護送車に運ぶことになった。
「苦々しい顔をしている人間がいないか、気にしておきなさい。親切心か一味か、どちらかでしょうから。
顔は動かさずに目線だけでチェックして」
子どもを抱えたラティーアが、小声で指示する。
俺は、彼女が確認できない背後に注意を向けた。
「……いないようです」
「ならば、ただの捨て駒なのでしょう。失敗しても構わない、捕まったら見捨てる――そういうことです」
護送車には、メルティナの槍で殴られた子どもがもう乗せられていた。
「子どもを檻に入れるのか?」
なんだか可哀想だと、ほんの少し罪悪感が湧いた。
「子どもは洗脳しやすいですよ。
損得よりも、褒められたくて自主的にやるようになります。
他から情報を得なければ、疑いを持てません。
幼い姿は、我々を油断させる武器になるのです」
冷静にラティーアは語る。
「もし、宗教団体が差し向けたのなら、ここで保護してやる方が本人のためということもあるのだ」
エリオットが護送車に近づいてきた。
「もしかして、わざと襲撃させたんですか?」
休憩中も監視する当番の兵士はいるはずだ。よく考えたら、荷馬車に近付けたこと自体がおかしい。
「相手が手がかりをくれるなら、拾っておく。
こちらは被害者だよ。この馬車の傷の修理費なんて、平民には払えないだろう」
エリオットは、俺たちにこの旅の心構えを説明しているかのようだ。
「話の通じない人間は、モンスターと一緒だ。
罠を仕掛けた方が安全に狩れるなら、そうすべきだと私は考えている」
エリオットは微笑みながら、俺を見た。
俺のモンスター討伐の作戦は、正攻法ではない。それは、戦闘スキル持ちのように、力任せではできないからだ。
「罠も立派な作戦だからな」
ベルーフがニッと得意げに笑った。
ガチャンと硬い音がして護送車の扉が閉まり、エリオットが魔道具で鍵をかけた。
休憩場所を出発する前に、今度は俺とベルーフが屋根で見張る番だと言われた。
ベルーフは後ろから登り、俺は室内から登る。
おお、秘密基地みたいで楽しい。
屋根に並んで座る。
屋根に荷物を詰めるよう、背の低い柵がついていた。
「道具は『正しく使わなきゃいけない』なんてルールはないぞ。相手を戦闘不能にできりゃ、なんだっていい」
ベルーフが、がははと笑った。
一緒に笑えず、複雑な顔になってしまう。
しゃべれない状態になるほどの力で、ためらいもなく攻撃したよな、この人……。
それに気付いたベルーフが、拳で俺の胸を軽く叩いた。
「おい、気をつけろ。頭のいいガキは、大人の盲点を突いてくるからな」
それは、護衛のプロの……実戦から生まれた重い一言だった。
軽くよろけた俺は、屋根から落ちないように柵を握りしめた。




