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『下ごしらえ』で冒険者を目指す ~地味スキルなのに、なぜかモテる件~  作者: 紡里
第十一章 王都へ

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一日目 貴族の駆け引き(前編)

 真昼と日の入りの中間、「昼中(ひるなか)」の時間に休憩を取った。少し離れた場所からエリオットの愚痴が聞こえてくる。


「行きたくなーい。

 感じ悪い人に囲まれて、脂ぎったくどい料理で胃もたれするのが目に見えてるのに。なにを企んでいるんだろうな」

 トゥランが「誰が聞いているかわかりません。お控えください」とたしなめている。


 手綱を握りっぱなしで疲れた腕を揉んでいる俺と、二人の目が交差した。え、聞こうと思っていたわけじゃないけど……。


「夜、部屋の鍵はちゃんとかけるんだよ」

 エリオットが意味深な言い方をした。


「彼らにそこまで情報収集能力があるとは思えませんが」

「油断大敵。隙だらけの家なら、乗っ取るつもりで頭脳プレイヤーが屋敷に入り込むことだってある。その場合、急に手強くなるだろう。

 金の卵にハニートラップをかけるのはあり得ると思うね」


「……四人部屋にしておけば、それは防げるんじゃないですか」

 面倒くさそうにトゥランが言う。

 エリオットが笑い出した。

「なるほど。その通りだね」


 なにがその通りなんだか。酒場で酔っ払いにからかわれるのに似ている。感じ悪いぞ。


 なんかさぁ、ハーレムパーティーってだけで、いかがわしい想像をされてるよな。仕事中にそんなことしないって。

 ――昔のパーティーで俺以外がやってたから、「討伐を舐めるな」と嫌悪感が染みついているんだよ。

 俺自身に超人的な体力がないっていう理由もあるけど。戦闘スキルをもっている人たちには、どうしたって敵わない。

 だから、仕事中は体力温存を心がけないと……。



 しばらく進んだところで、街道を横に逸れた。エリオットが行きたくないと言っていた、この土地の領主の館に向かうのだ。


 領都の門番も感じ悪いし、城壁内の道も整備されていない。ラティーアが手綱を代わると言ってきた。

「馬に何か仕掛けられたら、普通の手綱さばきでは対応しきれません。背後は騎馬が警護しているので、横と上からの攻撃を警戒してください」

 小さな声で説明された。

 建物が密集しているところならではの対応が必要ということだな。


 観察していると、隣の領なのに雰囲気が違うことに気付く。

 夕方特有の活気がない。もうすぐ仕事が終わると自分に追い込みをかけている職人や、夕飯の準備に追われる忙しなさの中にある幸福感――そういったものがない。

 全体的に疲れたような、寂れたような雰囲気が漂っている。


「これは……物乞いやスリが多いかもしれません。子どもが飛び出してきたら、治療費を請求されないように注意です」

 ラティーアは顔を正面に向けたまま、俺に指示を出す。


 住民たちは不自然なほど、こちらを見ようとしない。貴族の馬車に怯えている?

 それをラティーアに小声で告げると「それなら、当たり屋は出ないかもしれませんね」と返事が返ってきた。



 何事もなく領主の館まで辿り着けた。

 ほーっと肩の力を抜いていると、「敵の本拠地」とラティーアに耳元で囁かれた。


 目線で指示された方を見ると、エリオットが貴族の若様らしく凜々しい態度で、挨拶を交わしている。 昼間のだらけた姿とは別人だ。

 一分の隙も見せないという矜持を感じ、俺も背筋を伸ばした。


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