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『下ごしらえ』で冒険者を目指す ~地味スキルなのに、なぜかモテる件~  作者: 紡里
第十章 変わるもの

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顔合わせ(後編)

 ダルグが片方の眉を上げた。

「護衛任務に必要な情報は、全部開示してもらう。

 情報を隠されちまうと警戒すべきポイントがずれて、こっちまで巻き添いを食うんでな」


 言いたいことは理解できる。だが、何も秘匿するようなつもりはない。


 ダルグが耳の下をかいて、ため息を吐く。

「花猫風月のトーマ。男は一人だけだから、お前だな?」


「はい! トーマです。よろしくお願いします」

 いきなり名指しをされて驚いた。ついでに、皆に自己紹介をする。


「冒険者ギルドの不正を暴いたのと、アイディアが豊富で金を生む卵っていうのが、お前の立ち位置だ。

 攫われる可能性を自覚しておけ」


「え、え、攫われる? お、俺が?」

 自分を指差して、どもるくらいびっくりした。


「おお。このぬいぐるみ騒動だって、お前が発端だろうが」


 会議場がどよめいた。

 え、そうなの? 


「いや、隣のレスタール王国なら、貴族の子どもは持ってるし……。俺のアイディアってわけじゃ」


「それは中に古い布を詰めているから、抱き心地がゴツゴツしていて子どものオモチャでしょう。羽毛の抱き心地は、丁寧に扱える大人の心を鷲づかみにしたんですよ」

 縫製担当の男性が、うっとりと頬を染めた。


「いや、養鶏場で作ったから、その場にあったというだけで……」

 俺はグレタばあさんの顔を見た。

 まるで「いいから、自分の手柄にしておきな」とでもいうように、手を振ってくる。


「羽毛だけに鷲づかみ、うしし」

 Aランクパーティーのドワーフが、親父ギャグを楽しそうに披露した。

 え、なんかカオス……。



 ダルグは、自分のところのドワーフを無視することにしたようだ。

「だが、荷物に絵をつけたのも、お前だろ。

 レスタールの冒険者ギルドで始まって、今や商業ギルドじゃ常識だ。大げさに言えば、物流改革とも言える」


「ああ、数年に一度、大ブームを作れる人材なら、確保したいでしょうねぇ」

 ロイの目が光った。

 なに? 俺、商業ギルドに拉致されそうなの?



「それから、宗教絡みで、告発のネタを握ってるのもいるだろ?」

 ダルグが花猫風月の女性陣に話を振る。


 フォンが手を挙げた。

「風の魔法を使うフォンと申します。

 ……妖精族の国で理不尽な扱いを受けたので逃げてきたと、養い親から聞いていました。ですが、彼らが特殊な宗教の関係者だったのではと、疑われている状態です」


 少し迷ってから、話を続ける。

「このサークレットを通して盗聴されているようです。

 ただ、私が風魔法の「盗聴」を使うときだけ、逆に盗聴されるというもので……」


「ほう、実に興味深い」

 Aランクパーティーの魔法使いが目をらんらんとさせ、身を乗り出した。

「オルド、そういうのは後にしろ」

 ダルグが話を切り替えた。


「それから、ぬいぐるみ作成のばあさんは……一番弱っちいから人質にならないように、必ず誰かと一緒に行動してくれ」

「開拓で鍛え上げられたババアを舐めんじゃないよ」

 グレタばあさんが不敵ともいえる顔で、ダルグを見返した。


「はは、そりゃそうだ。俺の方がひよっこってか?」

「そうだよ。青二才め。

 改めまして、名前はマーガレット。グレタばあさんと呼んでください」

 グレタばあさんはダルグと言葉の応酬を交わしてから、皆に名前を告げた。


 俺たちがぽかんとそれを眺めていると、ダルグが再び話しかけてきた。

「はは、花猫風月さんよ。

 トーマとフォンのことがなきゃ、領主様の馬車にぬいぐるみを積み込んで、Bランクの護衛で充分なんだ」


 そ、そっかあ。


「護送車についても、襲われた場合の黒幕候補がたくさんいる。

 じっくり尋問する時間が取れないから、連れて行くんだ。

 場合によっては、裁判の証言に使えるかもしれない。政治的に利用できる捕虜かもしれない」

 ラティーアが淡々と言った。


 え、狙われるかもじゃなく、確実に狙われると思ってる?


「耳が早い他国の者がいるかもしれない。

 宗教関係者は各国に潜り込んでいるから、怖ろしいぞ」

 ダルグが脅すように言ってきた。


 フォンが自分の腕を抱くように、背中を丸めた。


「だから花猫風月のメンバーには、この依頼の間に俺たちが自衛の手段を教える。

 日替わりでペアを組んで、自分を守れるようになってくれ」


 ……仕事じゃなく、研修みたいな感じか?

 自分たちも護衛対象だとは思わなかった。


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