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騎士と最愛の大団円

「陛下」


僕はまだ三十九歳だ。

おそらく、二人も子を拵えた王と聞いて、髭を蓄えた老人でも思い浮かべていたのでは無いだろうか。


十八の時に嫡男を産み、二十の時にアンを産んだ。


嫡男が駆け落ちする事は、予測も付いていたし軽い挨拶があった事は私と伴侶だけの秘密だ。


そして……カイルがアンを連れて無断で宮殿から逃げた時は、ブラウンにお前がもう一人産むしかないぞ?というような圧を掛けられた事も記憶に新しい。


「どうしたの?」


「今日もしておこう、男の身体が妊娠しにくいのはお前もよく知っているだろう。カイルとアンが婚姻を結んだからと言って…やはり二人じゃ少なすぎたんだ」


腰を抱かれ、ベッドにずるずると引っ張りこまれる。もう…結婚して二十二年も経つと、この行為も若干億劫になっていた。


そもそも…今でもこうして日頃からスキンシップを過度に与えられ、もう愛も執着もお腹いっぱいだ。


僕たちは、見合い結婚だった。

僕はなんと、母の五番目の子供で…弟も三人もいる始末。王が女性だった事もあり、多産だったのはめでたいが、王位継承のもつれで暗殺に次ぐ暗殺…最後は嫡男と次男の相打ちで、僕だけが残され、僕が王位を継承したという流れだ。


比較的遅い子だったのもあり、ブラウンとは年が離れていて…ブラウンの事は血の繋がりさえ無いが、兄だと慕っている。


ただ、この男はそれすらも面白くないようでブラウンが部屋に来ると必ず僕を抱えながらキスを落とした。


「…今日はいいでしょう、明日は二人の結婚式だよ?もう僕たちの子は流石に大丈夫だって……それより、凄いよねぇ…プロポーズ、国中の薔薇を五百輪も集めて……僕でも着ないような重厚な衣装を纏って……大規模なパレードも兼ねた公開プロポーズ。結果が決まりきっていても、これはアンも嬉しかったでしょう」



そう、アンとカイルの脱走事件から約ひと月。無事にプロポーズは快諾という形で終わり、明日に結婚式を控えている。


「ああ、俺は王位継承争いで子には絶対揉めて欲しく無かったから…ある意味では、こうなって良かったよ。俺は…いくら子でもお前を倒す可能性のある子たちを、お前に近づけさせたくなくて、お前の事も苦しめたが……子が可愛いのは確かだ」


僕たちの代は…王位継承争いで当時の王女である母も失った。家族なのにお互いを殺し合わないといけない思想は…僕にとっての一番の苦しみである。


物心付いてからはたくさんの兵士を携えないと子にも会えない立場だが、今のところ二人の子は好きな人と幸せになってくれているから嬉しい。


「親子なのにね、アンを…王族として産まれてしまった我が子を、もっと抱き締めてあげたかった……」


元々、血を重んじすぎる王族文化が悲劇を呼んでいるのは確かだが…根深い王族信仰はまだ終わりを見せることはない。


「大丈夫だ、三人目はまだ抱ける」


またしても、首筋を吸われ腰に腕が回される。


「っ、ちょっと〜さっき今日はいいって……」


「駄目だ」


国で一番偉い僕がお願いしても、この人だけは聞き入れてはくれなかった。軽く抵抗しても僕のピンク色の長い髪の毛を食みながらシーツの中に引っ張られる。


「っ、ちょっと…三人目なんて作って、アンの脅威になったらどうするのさ」


「…あの調子ならすぐに子が宿るだろ。そしたら……陛下にはご退位頂き、俺と二人で隠居だ」


もそもそと腰を揉まれ唇を強く吸われる。


「なら、別に三人目もいらないんじゃ……」


もう、僕だってその気だが…僕を欲しがるこの人がなんだか可愛くて少し意地悪を言いたくなる。


「……分かってんだろ、抱きたいだけだよ」


建前…と耳元で囁かれ、灯りの紐を引っ張ると二人が宵闇に包まれる。


明日はアンの結婚式、なるべくお手柔らかに…と心の中で呟いた。





「殿下……酷く……その、似合ってらっしゃる」



殿下は、純白の礼服に身を包み、ベールには宝石が散りばめられキラキラと光っている。


タキシード型ではあるが、私のいかにも騎士服の延長とは違い、たくさんのレースがあしらわれ可愛らしい。


「カイルも、いつも騎士服の時は品位に満ちているけど…重装備じゃないお前もかっこいい」


ド派手なプロポーズから早二ヶ月、私達は結婚式を迎えていた。


私たちが結ばれるとなってからの私の変わりようは…衛兵の間でもかなり噂されているようだ。

今までは…騎士として、殿下をお守り出来る盾としても最大限に兵を訓練していたが、殿下が部屋にいると思うと、何も身が入らずにただニヤけてしまう。


今でも夢なのではないかと思う時がある。

本当は…あの襲撃で私は目が覚めず、見ている夢なのではないかと。



「アン」


殿下の礼服の可愛らしさに涙さえも流しそうになっていると、優しい声が部屋に響いた。


「…陛下」


「おめでとう、アン」


こうして陛下が出向いてくるのは珍しい。もちろん皇后様付きで、皇后様はとっさに陛下を守れるように、さっと前に立ったが陛下はそれすらも避けて殿下を抱き締めた。


ブラウン殿が微笑ましそうにその後ろに立っている。


「陛下……ありがとうございます」


王族というのは難儀で…親と子でも暗殺が起こるなど日常茶飯事。それを恐れた皇后様と騎士ブラウンはこうして至近距離で二人を会わせる事はなるべく避けていた。


だが、殿下に良く似た陛下はやはりアン殿下を愛しているようで…陛下抱き締めるその顔には慈愛が満ちている。


「ふふ、アンは本当に…どこまでもアンだ。僕にだってアンはアン。カイルの前でだけ…アンじゃなく居られるのなら、僕は本当に、本当に嬉しいんだ。良かった、幸せにね」


殿下は、陛下の前でも絶対に王族の仮面は外さない。それが陛下は悲しげだが、同時に今日は酷く幸せそうでもあった。


またしても皇后様はすぐに陛下と殿下の間に割って入るが、表情には笑みが浮かんでいる。


「アン、おめでとう」


皇后様は本当に陛下にしか興味の無いようなお人だが、やはり子は可愛いらしく優しく微笑むとぽんぽんと頭を叩く。


「皇后様も…ありがとうございます、継承一位という名に恥じないよう、国民に振舞って参りますので、見守っていてください」


陛下が手を振り、ブラウンがドアを開けたが皇后様が振り返った。


「皇妃」


正確にはあと数時間で殿下との婚姻を結ぶのだが、皇后様は私を呼んだようで近づいてくる。


そっと、肩に手を置くと耳打ちをした。


「王が暗殺を恐れなくていいのはたった一人…皇后の前だけだ。もちろん、皇后が他の継承者とグルなら別だが、俺もお前もそれは有り得ないだろう?だから…お前だけは、アンを支えてやってくれ。ああ…子は最悪居なくてもいい、あと数年もすればアンにまた弟が出来るからな」


私にしか聞こえてはいないだろうが、ほとんど話した事のない皇后様から言われたその言葉は、私を大きく赤面させた。


もちろん、アン殿下を支えるなど言われなくても分かっているが……結婚式…つまりは初夜を連想させるその言葉。


私は思い出さないようにと蓋をしていたその大仕事に思いを馳せると、叫び出しそうな程の昂りが胸に押し寄せる。


「っちょ、何言ったの?もう!カイルくんの顔が、真っ赤だよ〜もう……」


知ってはいたが、このお二人は結婚生活二十年超だとは思えない程に仲がいい。


確かに、父や母として殿下が甘えた事は少ないかもしれないが、私たちにとってその背中はあまりに尊い。


「じゃあな、アン」


「それじゃあね、アン。また式で…僕たちの距離は遠いけど、僕…本当に心からお祝いしているから!」


殿下が、お二人の背中を切なげに見つめる。

そして…私もその殿下の背中を抱き締めた。


「……殿下、」


「ん、ああ……陛下と皇后様には会う機会も少ないから…あんなに幸せそうなお二人の姿も見る機会がなくて……なんだか羨ましくなった」


「殿下、あれは私たちの未来の姿でしょう?二十年経っても、三十年経っても……お互いを思い合うのです」



「……カイルっ」


殿下が私に向き変えると抱きしめ合う。

誓いまではあと少しだが、その唇に唇を重ねる。


「アン殿下、きっと私は…あなたが神でも王でも無くても……あなたを愛していた。この先……どんな試練があっても、私はあなただけをお守りし……その瞳を見続ける」



これから、私は形式上殿下の騎士とはいえ対等だという事になる。その麗しい装いの殿下に膝まづくと、騎士就任と同じように深々と頭を下げた。


そして……剣の代わりに震える手で殿下が私の肩に手を置くと、カイル…と涙声が響く。


就任式と違うのは、こうして立ちあがり…この方の唇にキスを送れること。



たくさんの事があった、襲撃…記憶喪失…庶民の殿下との同居…全てが今に繋がっているのなら、苦しい事も捨てる事は無い。


私の伴侶から与えられた物は全てが愛おしいのだから。


私は、殿下の唇にそっと…唇を重ねる。


そして……アン殿下もまた、私の唇を啄んだ。



「カイル、僕も愛してる」



「ええ……アン殿下、共に永遠を」




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