バレましたわね。
ドゴォン!! と、とんでもない爆発音が、王宮の横で炸裂した。
ビリビリと大気を震わせ、カチャカチャとカップが鳴る中、フロフロスト様やホワホワール様とお茶をしていたリリリーレンは、小さくため息を吐く。
「……バレたな」
「バレましたわね」
大気を震わせる波動が、膨大で感じ慣れた魔力によるものだと気づいた二人は、バルバロッサ陛下とヨーヨリヨ様の命運に黙祷を捧げる。
「多分、妃陛下の〝耳〟があるところで、迂闊な会話をしたんだろう」
「ヨーヨリヨ殿下も国王陛下も、そういうところ抜けてますものね」
王妃ベルベリーチェが、王城内で至る所に耳を持つのは、魔力を感じ取れる素養があれば自明の理だった。
もちろん巧妙に隠されてはいるものの、王城内での会話は筒抜けと思っていい。
だからこそ、貴族学校で話を持ってきたヨーヨリヨ様を少し見直していたのだけれど。
「今日も王妃陛下は、魔力の波動までも素晴らしいですわねぇ……」
フロフロスト様の母である側妃、ホワホワール様は、うっとりとした表情で爆発があった方に祈りを捧げている。
彼女は、熱烈な王妃信者だった。
それはもう、狂信者と言ってもいいくらいの忠誠と尊敬を捧げていて、彼女のすることは全肯定、疑うなどとんでもない、彼女が白と言えば黒も白、という程で。
側妃の件も二つ返事、フロフロスト様とヨーヨリヨ様、どちらが王位を継ぐのかも彼女が決めたことなら口を挟まず、当然、妃同士の諍いなど無縁の代物だった。
いつまでも若く、どこかふわふわとした夢見る乙女のような母にすっかり慣れきっているフロフロストは、特にそんな姿に何も言わない。
「バロバロッサ陛下、処刑されなければいいですけれど」
「それがベルベリーチェ様のお決めになったことなら、正しいことですわぁ……」
「母上。流石に国母が王でありご自身の夫でもある相手を弑すことまで、許容しないで下さい」
誇り高く気性が激しいけれど、常に国を思い決して一線を超えないベルベリーチェ様を信頼していればこそのリリリーレンの軽口だけれど、ホワホワール様は本気である。
ーーー陛下、しばらく妃陛下に口を利いていただけないのでは?
リリリーレンは国王陛下の扱いに思いを馳せる。
もしそうなると彼は執務で使い物にならなくなり、結果としてフロフロスト様に滞った分のお鉢が回ってくる。
ーーーせっかく婚約者になれましたのに。
バカではないはずなのに、いつでもツメが甘い父子に、フロフロスト様との時間を邪魔されるのを不満に思ったリリリーレンの気持ちを読み取ったのか。
ふと、彼がこちらに優しい目を向けて髪を一筋手に取る。
「そう不満げな顔をしないで、リリィ。執務も、これからは君と二人で分担していても誰にも文句は言われないよ。そうすればいつもより早く終わるだろうし、むしろ執務室での分も合わせて二人でいられる時間が増えるんじゃないかな?」
「……! そ、そうですわね!」
ずっと内に秘めていた恋心。
まさかそのお相手と添い遂げる幸運が得られた上に、このような甘やかな言葉をいただけるようになったことに慣れないリリリーレンは、ほんのりと頬を染める。
「リリィちゃんが王妃の立場のまま、結婚できるようになって良かったですわねぇ、フロ……」
魔力の波動による振動が落ち着いたからか、祈るのを辞めたホワホワール様が、ニコニコと言う。
「ええ、本当に」
肯定するフロフロスト様の笑みは甘く、自分のことでそんな表情を見せてくれる彼に、リリリーレンはぽ〜っとしていたけれど。
「早く孫の顔が見たいですわねぇ……」
そんな爆弾発言をニコニコと落としたホワホワール様に、リリリーレンはボン! と真っ赤になった。
ーーーリリリーレンたちがワーワイルズという名の子宝を授かるのは、それから数年後の話だった。
この続きは、『王太子殿下は愚かわいい』へと繋がります。
覇王妃ベルベリーチェの無双話は、何か思いついたら書くかもしれません。
面白かった! と思っていただけた方は、ブックマークやいいね、↓の⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎評価等、どうぞよろしくお願いいたしますー。
ランキングタグにリンクがありますので、フロフロストとリリリーレンの子供世代のお話も、どうぞよろしくお願いいたします〜。