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君のいない夜空なら今日僕は死ぬ  作者: 源 蛍
第二章 陽の光に照らされて
43/83

2─15 長時間陽に当たると

 ホテルまで送ってくれたおじさんに矢吹と二人で頭下げ、踵を返して眼を見開いた。


「お帰り花菱君! 矢吹さんも!」


「ぐぼぉっ……⁉︎」


 飛び込んで来たセフィに腹部を貫かれる。勿論比喩で、そんな大惨事あって堪るかだけども。

 本物の彼女隣にいるのに、よく抱きついて来れるよな。矢吹の眼が怖いよ。ジトってセフィのこと見てるよ。

 セフィに関しては正直、元気戻ってよかったなって感想だけど。


「花菱君大丈夫? お腹痛そう。胃が潰れたりしてない?」


「何とか大丈夫。吐き出さない様に抑え込んだから。吐いたらセフィにかかっちゃうし」


「あれ⁉︎ 背中に抱きついたつもりがお腹になってた⁉︎ ごめん花菱君」


「謝るくらいならやらなきゃいいのに」


 何か矢吹がセフィに対して冷たい。普段人前でくっつくの嫌がるのに、自分から腕組んでるし。嬉しいけど。

 ただ、俺の本心では、食べた後なせいでマジ胃がギブ寸前。トイレ行きたい。


「セフィ、あまりタックルはよくないわ。貴女は軽いからまだいいとして、背中にタックルされて背骨に少しヒビが入るとか、正面からなら下手をすれば呼吸困難な状態に陥り身体を痛めることもあるんだからね」


 ホテルから出て来た昇が、たゆんたゆんな丸饅頭を組んだ腕に乗せてくる。おっぱいを強調するなんて、お父さんそんな破廉恥な娘に育てた覚えはない! 揉ませなさい!


「それでどうなの? 二人共それぞれ、お母様とは決着をつけられた感じなの? 前より短かったけど」


「前より……?」


「気にしないでセフィ。別に何でもないから」


「うん……?」


 セフィが頭上にハテナを幾つか浮かべてるけど、昇はツーンと眉すら動かさない。凄い、ポーカーフェイス。

 俺と矢吹はお互いの意思を確かめる様に見合う。正直眼を合わせただけでは何も分からないんだけど。テレパシーが本当に使える訳でもなし。


「俺はまぁ、矢吹のお陰で先には進めたよ。だからこそ、ここに今いる」


「そう、よかったわね」


 またもセフィが不満気な声を洩らしたけど、俺も出来るだけポーカーフェイスに努めた。口を尖らせてからの寄り目で。


「僕は、ずっと行き違いがあっただけなんだって、今回理解した。本当はあの人は僕のことを嫌いなんかじゃなくて、僕が一方的に嫌ってただけなんだって」


「むしろデレッデレ感が否めないよな」


「あはは、そだね。『確かに過保護じゃない?』って今なら思える」


「毎月十万くれる親なんてこの世の何処探しても中々いないと思う。どんだけ稼げてんだろもう覚えてねーや」


「凄いねお母さん⁉︎」


 折角、資料の中に一ヶ月の収入データとかも記載されていたというのに。見ようとは思わなかったが。

 下手をしたら、怖いくらいの金額が表示されるかもだしね。

 この中で唯一呪いを知らないセフィは、俺達を一瞬、不貞腐れた様な眼で見た。でも直ぐに微笑んで、ホテルに振り向く。


「三人共、仲が良いんだね。羨ましいなぁ」


 楽しそうに笑うセフィに、何となくだけど申し訳ない気持ちになった。きっと、セフィは華の高校生生活を俺のせいで無駄にする。俺の、仮の恋人になったから。

 ごめん、とは中々言えない。断り文句でなら幾らでも「ごめん」と言えるけど、恋人として扱ってやれないって点ではその簡単な「ごめん」すら言えない。薄っぺらい言葉なんて嫌いだから。

 俺は矢吹が大好きで、本当の彼女だ。昇のことも好きで、記憶を失った親友だ。

 でもセフィは、出会ったばかりの部活仲間でしかない。()()恋人だとしても、他の二人ほど愛情を注ぐことは出来ないんだ。

 俺は言えない「ごめん」を胸の内で握り締める。


「よし、今日もケッコー疲れたし、ホテルでゆっくり休みますか! それともこのメンバーで、夜戦まで張り切っちゃいますか⁉︎」


 変にデカい声出したからか、最後裏返った。ホテルの前で何言ってんだろう俺。


「寝言は寝て言いなさいよ。それとも、ここ最近の疲れが溜まり過ぎて頭おかしくなったの?」


 昇がジト目。寄生虫の増殖瞬間を目撃した人みたいだ。──そんな人知らないけど。

 間髪入れずに、矢吹が手をパンッと叩いた。何か閃いた様だ。


「花菱君はいつでもエッチだよ。 エッチじゃない時なんてあるのかな?」


 何を閃いとんじゃおぬし。それ、このホテル前で言うこと? 道路に並ぶ車とか、通行人とかに絶対聞かれたぞおい。あーあ、俺のイメージどうしようかな。


「夜戦って? 何? 矢吹さんので考えると、エッチなことなの?」


「セフィ、そんなとこ気にならなくていいんだぞ」


「花菱君は本当に地球程度じゃ収まり切らないくらいエッチだからね」


「矢吹、それが事実なら君の純潔は既に葬られているからな。俺はワールドクラスにもならない、民間クラスのスケベだ」


「こんなのが同じ部屋で寝てたって、今冷静になると身の危険を感じるわね」


 昇たんが酷い。大丈夫だ安心しろ、流美たんの色仕掛けにも耐え切ったから、俺はそんな危険じゃない。少年誌とかに載せられないことは、相手の了承を得てから励みたいタイプだから。

 昇の苦笑を前にセフィが「ふーん?」と首を傾げ、弾む様な足取りで俺の手を握った。


「花菱君の欲望を満たすためなら、セフィなんだってするよ? いつでも言ってね」


「セフィさん、そういうこと言うのやめておきなさい」


 貴女恋人が出来る度に同じこと言うつもりじゃないでしょうね? 俺じゃなくても皆、放送出来ないことまで強引に進めちゃうわよ? 男は皆、獣なのさぁ!


「ダーメッ!」


 謎の浮遊感に股間がキュッとした。矢吹が後ろから抱きついてきて仰け反っただけっぽい。あー怖かった。

 にしても、今のめちゃくちゃ可愛い。ボイスレコーダーに録音して毎日聞いてていいですか?


「花菱君は僕のなの! セフィは、別に好きじゃないでしょ?」


「好きだよ。セフィも、花菱君のこと」


「僕の方が好きだもん」


 何か、前と後ろから聞こえる会話で幸せなんですが。

 いやね? 別に「俺のために争ってくれてるマジ興奮」とかそう言う意味ではなくてね? 取り敢えず、矢吹もセフィも可愛いってこと。

 視界の端の方では、未だおっぱい持ち上げてる昇がジト目で見てて眼福だし。


「……待て昇、何故俺をジト目で見る? 俺今この状況で何か悪いことした? 別にしてなくないか?」


「彼女以外の女の子にデレデレしてる時点で重罪・蔑視対象になるから安心して」


「どっちも安心出来ないよねそれ⁉︎ 確かに今の俺はデレデレしてたけど、女の子に好きなんて言われたら誰でもデレデレするだろ⁉︎」


「モテない男だけの話じゃないの? それは」


 俺に何か恨みでもあるのか昇。何故今回は少しも許してくれないんだ。寛大な心をプリーズ。

 デレデレしてた俺が十割悪いとしても、喜ぶことは許してください。本当に嬉しいんだよ俺。

 モテないから。


「いや、今の俺はモテモテか……? 昇には好かれ矢吹と恋人、セフィは仮だけど恋人……流美たんからは尊敬されてるし。俺、モテモテじゃね?」


「知らないわよ」


 これまでに何度も考えたことを、結構興奮気味に同意求めたら、正に蔑視と言える眼で溜め息を吐かれた。物凄い傷ついた。


「とにかく、シュンは明日のために休んでおいて。あんただけは本当に休みがないんだから」


「おう、本当に疲れた」


 二回もスカイダイビング失敗したしな。軽めにはなるけどダメージは大きい。その上仕事の手伝いとか大試合とか。

 矢吹と昇は、一体どんな風に死んでしまったのかは分からない。昇に至っては、俺と同じく一回目を記憶出来ていなかったし。

 だとしても死ぬだけで、相当なダメージを負う。二人も決して万全じゃないんだ。しっかり休んでほしい。


「つっても昇は休まないだろうな」


 ホテルの出入り口で立ち止まって、先行く美少女達を見守る。

 ここで一つ、俺なりに指摘がございます。


「折角戻って来れたってのに、美少女のお迎えが一人分足りないと思うんだよな」


 ホテルの人達に予め頭を下げておいて、素早く階段を駆け上がって行く。ただし、廊下は走らない。危ないからね。

 階段だけ駆けていれば、学校の移動中じゃないんだから衝突はほぼない。でも良い子はマネしない様に。怒られるから。


「えーと、この廊下をどっちに行けば何処で何がそこで何処があれあれ……? 訳分からなくなって来た」


 三階の廊下で立ち止まり、階段の壁に貼られたホテル内のマップを確認する。外から見た()()はさっき、この階の何処かの部屋にいた。

 だったら、見えた方向の部屋を探せばいいだけ。借りてる部屋以外には、公共用のトレーニングルームしかないみたいだ。


「んじゃそこだな! さっさと休めって言われてんのに、思い切り階段走ったり三段飛ばしたりして足疲れちまった。サッカー部なのに」


 流石俺バカ。これお約束。いやーなお約束。

 俺が捜すあのコは、ちょっと何考えてるか分からない。その上天然だし、無表情だし。

 だから体調悪い癖に一人でふらふら別の部屋に行っちまってると、不安で心配で仕方ないんだ。

 ──矢吹より危なっかしくて、昇より人付き合いが苦手で、セフィよりペット感がある不器用な女の子。


「……はぁ。たくっ、何で今日は二度も不器用な女性のために疲れなきゃならんのよ。女の子相手なら、疲れなんてヨユーだけどさ」


 今日はどっと疲れたんだ、流石に限度ってもんがある。

 例えばRPGゲームだと、進んでる途中やモンスターか何かとの戦闘中に赤ゾーンまでHPが減ってる感じ。それ以上はデッドエンドでしょ? 俺ゲーム詳しくないから曖昧だけど。

 肩で息をする俺に振り返った彼女は、何故か手に持っていた十キロのダンベルを台の上に乗せた。


「俊翔、お帰りなさい。どうしたの? 凄い、顔色悪い」


「そりゃそうだ流美たん。知らないだろうけど、矢吹のお母さんにこき使われてたんでね」


 あと、死んだばかりなんでね。

 流美たんは一度花歌(はるか)さんに会ってはいるが、その後俺が死んで、今度は会わなかったからなかったことにされている。俺がボロ出さないか不安だな。


「お水飲む? 私の飲みかけでよければ」


 流美たんは台の端に置いてあった天然水のペットボトルを俺に押し付ける。飲みかけ飲むと昇と矢吹が怒るんだよね。


「後で自分で買うから大丈夫。飲みかけ飲むと後が怖いし」


「……? 何で?」


「俺の彼女と幼馴染みが恐ろし過ぎる」


「……何でだろう」


 流美たんは天然だから悪気はないんだよな。むしろ親切心しかないんだよな。なのに断ってゴメンな。

 でも矢吹と昇に本気で睨まれるのはもう嫌なんです。怖いんです。

 台にペットボトルを戻して、流美たんが自分のバッグを漁る。おぉ、白いツヤが目立つ、何か女の子って感じがする可愛らしいバッグだ。意外。


「買って来る」


「自分で買うって言ったばかり!」


 トレーニングルームって自販機設置されてたんだね。来たの初めてだから分からなかったや。

 自分のお金を使おうとする流美たんを制止して、ふと思い出す。俺、今殆ど金ないな。そもそもセフィから借りてんだったやべぇ。

 金借りてる癖に偉そうな態度とってごめんなさい。セフィさん。後で踏んづけて下さい。


「話を元に戻すぞ。流美たん、何で一人でふらふらこんなとこに来てんの! 部屋は全然別の場所でしょうが!」


 お母さんの気分で怒鳴ったら、流美たんは肩を竦めて可愛く萎縮する。Sに目覚めてしまいそうだ。


「……ふらふら、してたつもりはない」


「何か用事でもあったのかしら⁉︎ こんなとこに!」


「筋トレしてたかった」


「貴女身体弱い上に今体調悪いんでしょうが! 大人しくベッドに戻りなさい! 今夜は寝させな……違う違う最後のなし」


 いつものノリで変なこと言いそうになったぜ。危ない危ない。

 流美たん、結構辛いだろうな。サッカー好きなのに身体が弱いって。そりゃ長時間動けば保健室に向かうことになるよ。

 その上身体能力高いって、悪く言うつもりなくても宝の持ち腐れってやつになるよな。


「今日はまだ、夜にもなってないから寝ない。あと、俊翔は寝なくちゃダメ」


「ダメ」の言い方が幼くて可愛い。これは普段女の子を愛でる方の「可愛い」であり、矢吹に対する愛からの「可愛い」とは違うのでセーフ。だよな?

 誰だって、可愛いものには可愛いって言うよな? 思うくらいするよな?


「寝れなかったら、私が寝せる。ポンポンってして、寝せる」


「いちいち言い回しが幼いコみたいだよな流美たんって。可愛過ぎ。でも可愛過ぎたら襲われるかも」


「恥ずかしいから、あんまり可愛いって言わないで……」


 流美たんはモジモジ指を合わせる。どうしよう、毎回毎回このコが可愛い。素でやってるのは反則レベルだろ。普段静かだからこういうのギャップ半端ねー。

 しかし、悪い大人に連れて行かれないか不安にもなるよね、このコのチョロさ。

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