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君のいない夜空なら今日僕は死ぬ  作者: 源 蛍
第二章 陽の光に照らされて
33/87

2─5

 セフィにくっつかれてた所為で、興奮が冷めません。興奮が冷めないから、中々立ち上がることが出来なくて昇達に心配された。


「ちょっと、まさか体調悪いとか言わないよね。シュン、大丈夫なの?」


「大丈夫だ、全然大丈夫。だけど、ちょっとだけ問題有りなので先に行っててくれ。開会式は出れないかもだけど、練習には間違いなく行くよ」


「そう? ならいいけど。セフィ、矢吹さん行こ」


「うん。花菱君、無理しないでね」


「今日の試合キツかったら先輩達とセフィで頑張るからね」


「いや大丈夫だって。体調悪くはないんだって」


 怪訝そうな顔をしたまま三人は部屋を出て行った。何とか助かった様だ。

 仕方ないじゃんか。だって、女の子大好きな俺がセフィみたいな超絶美少女に抱きつかれて平然として居られる訳ないじゃんか。ただでさえ女子しか居なかったのに。

 おさまるまで、精神統一でもしていよう。瞑想だ。


「……何してるの、俊翔」


「あら、流美たんじゃん。昨日結局帰って来なかったけど、何処で寝てたんだ?」


 咄嗟に下半身を布団で隠して、戻って来た流美たんに手を振る。精神統一終了。早過ぎて少しも治りません。

 それより、流美たんが何か可愛い格好してる。モコモコした兎を連想させる厚めの服だ。半袖だけど切った跡があるから、多分元は長袖だったんだろう。

 俺の同級生女子はサービス満天過ぎるだろ。何で短めのパンツを穿くのかな。舐め回していいのかな。


「昨日は、ごめん。夜は医務室で寝させてもらった」


 流美たんは心底申し訳なさそうに俯いた。俺的には、昨日この部屋で寝なくて正解だったと思う。二つしかベッド無いからキツかったろうし。

 ……それよりは、一人だけ興奮し過ぎのド変態がいたので、色々と俺を刺激することが多い流美たんは危険だということで。


 にしても、医務室で寝させてもらえるのか。小長屋先輩はまさか部屋に戻ったんだよな?


「俊翔、さっきから何してるの……? 布団の中でモゾモゾ手を動かしてるけど」


「気にしないでくれ。何か被り心地が悪いだけだ」


「そっか。医務室のお布団は、気持ちよかったよ。いい匂いもした」


「多分流美たんもいい匂いで気持ちいいと思う」


「……急に何で?」


 流美たん真顔になっちゃった。だってさ、流美たん昇程のサイズではないですけど上半身に大きなもっちりとした物がぶら下がっているではないですか? 絶対触り心地いいと言いますか。

 それと、女の子の匂いは素が一番心地いいんだよ。香水とかは女の子自体の匂いじゃないんだよ。矢吹や昇は香水使うみたいだけど、流美たん一切無いんだよ。要するに流美たん本来の匂いを嗅ぎ放題と言うかね。


「流美たん、今の俺に抱きつくのはオススメ出来ません。今ちょっと俺狼さん状態なんですよね」


 急に抱きつかれるから、倒れたじゃんか。倒れて頭打って涙目になってしまったではないか。流美たん超痛い。

 あとね、抱きつかれると理性が保ちませんやめて。


「気持ちいい? いい匂い、する?」


「あ、もしかして俺を癒してくれてます?」


「そのつもり。どう?」


「いや、本当気持ちいいです。いい匂いです。このまま抱き締めて布団の中に引きずり込みたいけど、その後俺の理性が何処へ行ってしまうのか明確ではないので、やめておきます」


「布団くらい、一緒に入れるよ」


「あわわわわわわ」


 天然な流美たんは『理性』ってのが何を意味してるのか分かってないっぽい。ズカズカと、興奮状態の変態男と同じ布団に入ってしまっている。

 本来なら、俺は許されない行為に走っていたに違いない。だけど俺の全ては矢吹のもの! って意思を強くもって、堪えた。


「流美たん、そういや練習は⁉︎ 練習行かないと! そろそろ始まるって多分!」


 多分ね、まだね、開会式だよね。矢吹達部屋から出て行ってから全然経ってないし。

 それと中々放してくれないな流美たん。流美たん、抱きつくなんて大胆過ぎる。それさ、小長屋先輩とかに『癒やして』とか言われたら素直にやっちゃうの?


「あのさ、流美たんは小長屋先輩に告白……された?」


 考えたら声に出してた。何となく、腹が立つ理由は分からないんだが、訊かずにはいられなかった。

 流美たんの両腕が緩まったので、そこから脱出。普段は鋭い流美たんの目つきだが、今は怯えた様に見開かれてる。


「……告白、されたんだろ?」


「……うん、された。でも、どうして俊翔知ってるの。見てた……?」


「偶然見たかもだし、小長屋先輩から流美たんが好きだって聞いてたから」


「そう……なんだ」


 流美たんの声は段々と小さくなっていった。絵本を読んでくれた時と同じくらい、小さく。最早聞き耳立てないと聞こえない。

 どうして俺が知ってるのか、という疑問を聞く感じ知られたくなかったんだろうな。ごめん。


「まぁ、お幸せにって感じだよ。俺が出しゃ張るべきじゃなかったな、ごめん流美たん」


「……え、待って。何で? 何で『お幸せに』……?」


「だって、二人のことは応援するつもりだし。じゃ、さっさと行こうぜ流美たん。今日はそんな陽射し強くないから、目一杯走れると思うし」


 ──「小長屋先輩も待ってるよ」って言いながら扉に手をかけたとこで、流美たんは裾を引っ張って来た。

 いつもの遠慮がちな、控えめな引き方じゃなくて……かなり全力で縋り付く様に。


「ダメ……!」


 いつも変えない表情を絶望の感情で歪ませた流美たんは、何にそう言ったのか分からなかった。ただずっと、首を横に振り続ける流美たんを見下ろすだけだった。

 このこのことは、やっぱりよく分からない。



「遅いんだけど? シュン、もうとっくに練習は始まってんのよ?」


 練習場に向かったら、昇に説教された。結構強めなので怖いです。

 上司のご機嫌取りをする様にペコペコ頭を下げてたら、肩をチョンチョンと叩かれた。ボールを片手に練習していた小長屋先輩だった。


「谷田崖は? さっき、一旦部屋に向かうって言ってたから花菱君会うと思ったんだけど」


「ああ、来ないつもりらしいっス。練習しないのか? って訊いたら、『したいよ』って返されただけで何も分かんないっスね」


「そっかぁ、心配だなぁ。ちょっと見て来ちゃダメかな」


「先輩、練習して下さい。一回戦敗北する訳には行かないですから」


「悪いセフィ、ごめん。オッケー! 谷田崖も心配だけど、まずは初戦突破だ!」


 小長屋先輩が右腕を挙げるとそれに続いて二年生達がテンションマックスになって騒ぎ出した。うるさ。

 小長屋先輩ってムードメーカーなのか? それにしても、流石の俺でもあのノリにはついて行ける気がしない。──じゃなくて、多分ついて行きたくない。


 俺は多分、小長屋先輩が嫌いなんだと思う。新たな発見だ。さて練習に集中しよう。



「ほわあああああたあああああ‼︎ オーバーヘッド……ペス! じゃねぇパス!」


「ナイスパスだ花菱! 後は任せろ!」


「うっす! 頭打って痛いっす!」


 初戦の相手は弱小校で、アホみたいなプレーしてても余裕そうだ。

 ただオーバーヘッドパスはやめた方がいい。パスする相手との息が合ってなきゃ無理だし、そもそもパスの失敗率が高過ぎる。

 しかも頭打つ可能性があるから多発は危険と見た。


「谷田崖! 決めちまえ!」


「……はい」


 GKを限界まで引きつけた小鷹先輩が真反対の流美たんにパスして、流美たんはとても適当にシュートを決めた。明らかに元気が無いのは、俺のせいだろうか。


「皆お疲れ様。水分補給はしっかりお願いします」


「昇、俺のオーバーヘッドパス見た? あれ凄くね? もう二度と使わねぇ」


「うん、それでいいと思う。アレで下手してボール奪われてたら、その分あんたが挽回出来てたんでしょうね?」


「……無理っすね。すんませんっした」


 圧力が凄い。昇の眼が怖い。俺がアホやってなければ、もっと余裕で勝てたんだろうな。

 因みにニ対十四で俺達の圧勝でした。

 ま、流美たんにセフィに入谷先輩に小鷹先輩が味方に居るんだし、そうそう負けることは無いと思うけど。


 ただ問題もございまして。


「えと、流美たん元気無いよな。あれ多分、俺のせいなんだよねぇなんて……」


 ベンチに、お地蔵様みたいに座る流美たんからかなり離れた位置で、俺は矢吹にこそこそと耳打ちした。凄い、馬鹿を見る様な眼で見られたよ。


「花菱君、またデリカシーの無いことでも言ったの?」


「またってことは、やっぱそういうこと多いのね俺って。矢吹もごめんな」


「今は僕じゃなくて、谷田崖に謝らなきゃ」


「でも正確には何に対してああなってるのかは分からなくて……」


「……うーん、そっか」


 矢吹と一緒に項垂れた。流美たんは普段感情を表に出さないから、こういう時怒ってるのか悲しんでるのか区別がつかないんだよな。もっと分かりやすくしてほしい。

 ……でもさっき部屋では、『ダメ』って言ってたんだよな。アレが怒りか悲しみなんて、表情で分かった。

 流美たんは今、傷心中という訳だ。一体いつ傷ついたのかは知らないが。


「ダメだ。俺じゃ更に流美たんを悲しませる気がしてならない。ここは何とか、彼氏である小長屋先輩に賭けてみるしかないな」


「えっ……?」


 直接頼み込むようなことはするつもり無いが、小長屋先輩に「助けてくれ」と念じてみた。さっき嫌いだって理解した癖に助けてもらおうとしてるよ俺。

 念じ続けてると、脇腹に違和感発生。違和感っつーか、痛覚が働いているというか、抓られてるっていうか。


「矢吹痛い! 俺そんな腹肉無いからな⁉︎ 掴める程の脂肪はねぇよ⁉︎ 腹筋割れてるからなこのぉ!」


「だったら早く話聞いてよ。さっきから呼んでるのに、無視しないで」


 涙目で抗議したら膨れっ面になられた。溜め息も吐かれたし。……何か最近、矢吹の中の俺の株が下がってる気がする。大丈夫かな。

 それより、何の話?


「呼んでんの気づかなくてすまん。で、一体何についての話?」


「静かにしてね、あまり大事にする訳にもいかないし。──谷田崖さんと小長屋先輩、付き合ってるの?」


「あ、何だそんなことね」


 付き合ってんじゃん? 流美たんが拒否する性格とは思えないし、小長屋先輩は押しが強そうだししつこそうだし。

 ……てなことを伝えたら、矢吹はますます嫌そうな顔になった。不機嫌だね、これは。


「そんな筈、無いと思ったんだけどなぁ……でも、別に誰が誰と付き合っても気にする必要ないかもね。ごめん花菱君」


「いやいや、全然いいって。まぁあの二人がお似合いだって言ったら、一ミリも賛成出来ないけど。それでも人の恋路を邪魔する程落ちぶれちゃあいないさ」


「……恋路、か。僕もそのつもりは無いかな」


 矢吹は俯いて一度、気づかないくらいほんの一瞬小長屋先輩に眼を向けた。優しくない、攻撃的な眼をしてた。こんな矢吹珍しいかも。

 それと、急激に矢吹のテンションが下がった。これで不機嫌な人間が二人に。どっちも女の子です。

 俺、また何か間違えたんかな……。


 色々自信無くした俺は、ホテルの一年生が借りてる部屋でふと思いついたことを大声で言った。


「なぁ矢吹、昇。今から町探検とかしてみねぇ? ほら、あんま来ないだろ? こんなとこ」


 一回戦圧勝だったから自信湧いて来たし、一日くらい平気だろうって考えたためだ。呪いのことについても話し合いたいしな。

 セフィは仲間外れなのが気に入らなかったのか、膨れっ面で覗き込んで来た。この角度鼻血出そうなくらい可愛い。


「矢吹さんは恋人だから分かるけど、何で梅原さんもなの?」


「あーっと、親友だから」


「セフィもついてっちゃダメ?」


「悪い、また今度な」


 セフィが詰まらなそうにベッドに転がった。矢吹は不満気な顔でいて、昇は何か猫みたいに大きな眼でじっと俺の顔を見つめて来る。何かこの部屋今怖い。

 ──こんな状況でも、流美たんは一切反応をしてみせない。それどころか、自分の荷物に上体を投げている。


「流美たん、また体調悪いのか? 医務室、連れてってやろうか?」


 俺の問いかけに反応した流美たんは、小さく首を振った。


「……いい。大丈夫」


「そうか……よ」


 俺が溜め息を吐いたら、他三人がじっと見て来た。何か完全に俺が悪いみたいな雰囲気なんだけど。俺寝ていい? 現実逃避していいかな。

 ダメだ、矢吹達連れて町探検するんだった。


「んと、まぁ無理すんなよ。行こう、矢吹と昇。陽射しがあんまり強くない今がチャンス!」


「何のチャンスよ」


「涼むチャンス?」


「それならこの部屋でいいと思うけど」


 呆れてもついて来てくれるこの二人はやっぱ好きだ。有り難う。俺を放置しないでいてくれて。

 部屋を出る瞬間まで流美たんが気にかかって仕方なかったが、もう彼氏居るんだからそっちに頼れ……と心で思って扉を閉めた。

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