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ワープの松さん ~普通の会社員、ワープを副業にしてFIREを目指します~  作者: 松さん
第7編ワープ影響編

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第86話 新しい担当者?いや、前からいたらしい!

あれから、数日。


アルターク九州本部には、今のところ変わった来客はない。


……今のところ、だけど。


海外の企業の人が受付まで来た日のことは、まだ少し気になっている。


自宅なら俺が別の場所に移ればいい。


でも、会社には俺以外の人もいる。


受付の方にも、総務の方にも、普段の仕事があるわけだ。


そんなことを考えていると、上司に呼ばれた。


「松、ちょっといいか?」


「はい! 何でしょう?」


「先日の来客の件。総務と対応を確認したい」


「分かりました!」


小さな打ち合わせスペースへ行くと、総務の人が資料を持って待っていた。


「松さんへの面会を求める方が再び来た場合、受付では出勤状況や居場所をお伝えせず、まず会社として用件を確認します」


「ありがとうございます!」


「本人に直接取り次ぐかどうかも、社内で判断します。空中スイマーの仕事の依頼は、アルタークの業務とは別ですから」


「はい! 日本政府の窓口を通してもらうようにします!」


「それと、松さんご自身が受付へ出て、相手に会う必要はありません」


「分かりました!」


上司が言った。


「出勤方法も、必要なら相談してくれ。もちろん、会社の仕事や手続きとの調整は必要だけどな」


「助かります!」


俺のためだけに、いろいろ決めてもらっている。


申し訳ない気もした。


でも、会社の人たちが一緒に考えてくれているなら、俺一人で何とかしようとする必要はない。


「あと、配信で会社の場所が分かるようなことは言わないでくれよ」


「気をつけます!」


「……『今日は会社にいます!』とかもな」


「……言いそう!」


「言わないでくれ」


「はい!」


気をつけよう。


本当に。


◇


退勤して政府の一時滞在施設に戻ると、白石さんから連絡が入っていた。


『今後の連絡体制について、短時間ですがお話しできますか。政府側の担当者を一人ご紹介します』


「担当者?」


あれ、また新しい人かな。


いや、政府のチームには前から何人もいるんだよな。


俺が普段話すのが白石さんばかりなだけで。


時間になって端末を開くと、画面に白石さんが映った。


「こんばんは、松さん」


「こんばんは! お疲れさまです!」


「本日は、能力情報の整理を担当している遠野さんをご紹介します」


隣に、落ち着いた雰囲気の男性が現れた。


「初めまして。遠野遼と申します」


「松です! よろしくお願いします!」


「こちらこそ。私は以前から、松さんの能力の使用結果や確認済みの条件を整理しています」


「おお! 新しく担当になった方じゃないんですね!」


「はい。これまでは白石さんたちを通じて情報を確認していました」


白石さんが補足した。


「今後、私が不在の時に、遠野さんが同じ連絡窓口で対応できるか準備を進めています」


「……あれ? 白石さんが担当を外れるんですか?」


「いいえ。私が主な窓口なのは変わりません」


「よかった!」


思わず即答した。


……ちょっと早すぎたかな。


でも、やっぱり慣れている人が突然替わったら困るし。


遠野さんが言った。


「代行する場合も、確認済みのことをお伝えしたり、必要な部署へ取り次いだりする形になります。私が一人で判断するわけではありません」


「分かりました! じゃあ、連絡する先は今までどおりですね!」


「はい」


白石さんが笑う。


「遠野さんは、確認を丁寧にしてくださるんです」


「ありがたいですね! 俺、思いつきで質問しちゃうので!」


「そのことも、検討の記録から把握しています」


「……記録に残ってるんですか!?」


「必要な検討の経緯は残しています」


……まあ、そりゃそうだ。


俺の思いつきを全部並べたら、すごい量になりそうだけど。


「あっ、じゃあ一つ聞いてもいいですか?」


「どうぞ」


「この前、杉浦さんと工場に行ったんです!」


「はい。見学の概要は共有されています」


「大きな機械って、運ぶために一回分解することがあるんですね」


「そうですね」


「じゃあ、俺が丸ごと運べたら、日本のメーカーさんって助かるんですか?」


遠野さんは少し考えた。


「設備の形状や搬入先によります。保守や組み立ての都合で分ける部分もありますし、実際の機械を完成状態で移動させる試験はまだ行っていません」


「ですよね!」


「搬入方法だけでなく、設置した後に使える状態になるかも確認が必要です」


「……なるほど」


分かる。


でも、聞きたかったのは少し違うんだよな。


「そういう確認が必要なのは分かるんですけど、俺が知りたいのって……」


「遠野さん」


白石さんが声をかけた。


「松さんは、どの分野で能力を使うと日本企業の仕事につながるか、という観点で質問されています」


「あっ、そうです! それです!」


遠野さんがうなずいた。


「私は輸送の可否の話をしていましたね。仕事としての価値なら、製造や物流の専門担当と比較する必要があります」


「はい!」


「ただ、比較するための質問は整理できます」


「おっ?」


遠野さんが資料に三つの項目を書いた。


『運ぶためだけに外している部分は何か』


『分けることに、輸送以外の理由はあるか』


『完成したまま運べた場合、製造や設置で何が変わるか』


「……おお! そういうのを知りたいんです!」


「その答えが分かれば、杉浦さんやメーカー側で実際の利点を検討しやすくなります」


「めっちゃ分かりやすいです!」


俺なら『分解しなくてよくない?』で終わりそうだ。


「最初の発想はそれでもよいと思います」


遠野さんが、真面目な顔で言った。


「理由を調べるのが、その後の仕事ですから」


……いいこと言うな、この人。


白石さんがうなずいた。


「では、杉浦さんに相談するための質問としてまとめましょう」


「お願いします! 俺も気になることを書いて送ります!」


「ただし、実機のワープ試験をするかどうかは、まだ決まっていません」


「了解です! 勝手に機械を運んだりしません!」


「それはお願いします」


白石さんが笑った。


……俺、そんなに危なっかしいかな?


いや、今まで結構いろいろ試してきたしな。


通話を終えてから、スマホのメモを開いた。


先日書いた言葉が、まだ残っている。


『運ぶために分けているものは、分けなくて済むかもしれない』


その下に、今日の三つの質問を追加した。


そして、いつもの政府窓口へ送る。


『杉浦さんに相談する時に使ってください! 急ぎではないです!』


……よし!


新しい仕事を考えるための材料が、また一つ増えた。


会社のことも、転職のことも、まだ全部は決まっていない。


でも、今の会社の人たちが普通に働けるようにしながら、俺も次の仕事を見つけたい。


……もちろん、休みがちゃんとある仕事で!


そこは譲れません!


個人用スマホを開くと、前に検索したお店が表示された。


あ、白石さんとの次のご飯も探さないとな。


そっちは、遠野さんに質問を整理してもらわなくてもいい。


……いや、お店の比較表はちょっと欲しいか?


「……そこは自分で探そう!」


政府の連絡先は一つのまま。


でも、困った時に相談できる人は一人増えた。


それは、ちょっと心強かった。

次回、第87話「会社、辞める方向で話してきました!」


次回更新:11月9日 12:10予定

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