↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔王の娘に六連敗した勇者が、油断させて殺すつもりだったのに父親に挨拶することになりました  作者: 桜野結


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
22/22

最終話 最初から、知っていた

 翌朝の鉄床亭は、卓が一つ足りなかった。


 脚が二本折れている。ガドがそれを裏庭に運び出して、しばらく眺めてから、(のこぎり)を取りに行った。


 俺は割れた皿を数えていた。


「十一枚だ」


「十一か」


「昨日の分だけでな」


「割ったのは俺じゃないぞ」


「知ってる。あんたの分はもう別勘定だ」


 ガドは鋸を持って戻ってきた。


「四百二十セロ。三十五時間」


「覚えてたのか」


「店主が忘れるかよ」


 厨房から、皿を洗う音がしていた。いつもと同じ速さだった。昨日、この店で二十二人が床に頭をつけたことが、まるでなかったような音だった。


        ◆


 昼前に、ザガンが来た。


 城下町を四本の腕で歩く八百年ものの事務屋というのは、それなりに目立った。通りの子供が三人ついてきていた。


「勇者カイル」


「なんだよ」


「書類をお持ちしました」


 嫌な予感がした。


「様式ができました」


「なんの」


「損害賠償請求書です」


 ザガンは卓の上に、一枚を置いた。


「城内損害、累計四十七万セロ。壁、天窓、柱、床石、扉。うち門扉の修繕が三度」


「……八百年、様式がなかったんじゃないのか」


「昨夜、作りました」


「なんで昨夜なんだよ!」


「必要になりましたので」


 俺はその紙を見た。魔族の文字と、人間の文字が並記してある。訳したのだろう。丁寧な仕事だった。


「時給十二セロで、三万九千二百時間ほど」


「計算するな」


「一日六時間で、六千五百三十三日」


「やめろ」


「十七年と、十一ヶ月ほどです」


 俺は椅子の背にもたれた。


 厨房の音が止まった。


 前掛けをつけたリリスが暖簾から顔を出して、静かに言った。


「私のほうが、先に終わる」


「そうだな」


「四年六ヶ月と、少しだ」


「知ってるよ」


        ◆


「一つ聞いていいか」


「はい」


「なんで、今まで請求しなかったんだ」


 ザガンは羽ペンを持ち上げなかった。


「リリス様が、請求するなと」


 俺は暖簾のほうを見た。


 リリスは戻っていた。皿の音が再開している。


「……なんでだ」


「私は、うかがっておりません」


「お前、八百年仕えてて、聞かなかったのか」


「うかがう必要のないことでしたので」


 ザガンは書類を揃えた。


「ですが、推測は申し上げられます」


「言え」


「請求書を送れば、人間の王城に記録が残ります」


 俺は顔を上げた。


「魔王城が、人間の国に金を請求したという記録です。金銭の請求というのは、こちらの言い分がある、という意味です」


「……言い分があるってことは」


「揉めているという意味です」


 ザガンは書類を脇に挟んだ。


「揉めている記録が一つあれば、それは交戦の証拠になります。四つの様式のいずれかには、必ず載る」


 俺は厨房のほうを見ていた。


 五千年、あの女は記録を作らないようにしてきた。銅貨を一枚だけ内ポケットに入れて、街道で倒れていた男のことを誰にも調べさせず、六度とも峰で打って歩いて帰らせた。


 その同じ八百年、この事務屋は日誌を毎日つけてきた。


「お前と、正反対だな」


「はい」


 ザガンは頷いた。


「私は、書く係ですので」


        ◆


 王城が動いたのは、五日後だった。


 動いた、というより、動けないことが判明した、という言い方が正しい。


 二百四十年の戦争を終わらせるには、終戦の書類が要る。終戦の書類には、誰かの名前が要る。名前を書いた者は、二百四十年を無駄だったと認めることになる。三年前に村から一人連れてきて剣を握らせたことも、その中に入る。


 誰も書かなかった。


 三日目に、書記官が四人がかりで様式を探し、四日目に、宰相が過去の記録をひっくり返し、五日目の朝に、白い法衣の司教が言った。


「開戦の記録がございません」


 広間が静まったそうだ。俺はその場にいなかった。あとでエルザが会報用に取材してきた話だ。


 開戦の書類がない。二百四十年前、誰も開戦を宣言していない。


 書式の上では、あれは戦争ではなかった。


「では、あれは何だったのですか」


 誰かが聞いた。


 書記官が帳面をめくって、事務的な声で答えた。


「照会でございます。継続中の照会です。八百年前より、年に一度ないし二度、『応答せよ』との照会を発出し続けております」


「応答は」


「昨夜、受領いたしました」


        ◆


 そこから先は、書類の話になった。


 照会に応答があったので、照会は完了した。完了した照会は、閉じる。閉じるのに要る名前は、担当書記官のものだけだった。


 二百四十年は、三日で閉じた。


 閉じるための署名は、若い書記官が一つ書いた。


 ガドはその話を聞いて、しばらく笑ってから、ぼそりと言った。


「……そんなもんかね」


「そんなもんらしい」


「じゃあ、なんで二百四十年かかったんだ」


「誰も、応答しに行かなかったからだ」


        ◆


 司教も宰相も、罰せられなかった。


 誰も、罰しようがなかったからだ。二百四十年前に始めた者はもういない。維持した者は、維持しているとすら思っていない。書式に従っていただけだ。


 俺は司教を糾弾しに行かなかった。


 あの男は「あなたが村を出た年から決まっていました」と言った。それはひどい話だと思う。


 だが、俺は三ヶ月前に、剣で勝てない相手を惚れさせて油断させて殺す作戦を立てて、それを誰にも言わずに実行していた。


 人のことを言える立場ではなかった。


        ◆


 銅貨の話は、応援する会が引き受けた。


 俺が頼んだわけではない。エルザが会報に「三年前、王都から東へ発った使者について」という一行を載せたら、ニナが乗り出してきた。


「あたし、探します」


「……いや、名前も分からないんだぞ」


「分かりますよ」


 ニナは会報の紙の裏に、線を引き始めた。


「三年前の春に王都を発って、帰ってこなかった若い男の人。二十歳前。剣を持ってない。持ち金は銅貨一枚」


「よく覚えたな」


「エルザさんの記録が正確なので」


「あたしは書いただけ」


「三年前に王都から人が消えたら、どこかの村で、誰かが待ってます」


 ニナは線の一つ一つに、町の名前を書いていった。レンドル、ドレク、サルカ、北の峠。会員の出身地が、この国中に散らばっていた。


「待ってる人は、たいてい、まだ待ってます」


 彼女はそう言って、少し笑った。


「あたし、返事の来ない手紙を三十通出した女ですから」


 俺は何も言えなかった。


「あ、今のは嫌味じゃないですよ」


「……嫌味だろ」


「半分です」


        ◆


 名前が分かったのは、ひと月後だった。


 南の農村の出だった。ソフィの村の、二つ隣だ。母親と、妹が二人いた。


 銅貨は、リリスが自分で持っていった。


 俺はついていったが、家の中には入らなかった。彼女がそう言ったからだ。


「私が受け取った」


「ああ」


「だから、私が返す」


 外套のフードで角を隠して、彼女は一人で入っていった。


 俺は道端に座って待った。


 半時間ほどで出てきた。


「どうだった」


「受け取らなかった」


「……そうか」


「あの子の稼いだ銭だから、あんたが持っていなさい、と言われた」


 リリスは外套の内ポケットに手を当てた。


「私は、人間から二度、銭を受け取った」


        ◆


 その次の週、俺たちは討伐の依頼を受けた。


 東の街道。魔物の群れ。二日行程。報酬一万二千セロ。


「今度は角を残せよ」


「善処する」


「前は全部消し飛ばしたからな。二千セロになったんだぞ」


「あれは加減が難しい」


「五千年生きてて難しいのか」


「難しい」


 依頼書を持っていくと、ギルドの受付が固まった。魔王の娘が討伐依頼を受けるという様式が、まだなかったのだ。


 三十分待たされて、受付は結局「同行者」の欄に彼女の名前を書いた。


 どこの国も、様式で苦労している。


        ◆


 街道を二日歩いて、魔物を片付けた。


 今回は十四体のうち九体分の角が残った。上出来だった。


 野宿になった。


 同じ場所だった。街道から少し外れた、木の生えていない斜面。三ヶ月前、俺がここで剣を抜いた場所だ。


 火を焚いて、干し肉を焼いて、二人で食った。


 やがてリリスが立ち上がって、自分の剣を外し、五歩ほど離れた岩の上に置いた。


 毛布を敷いて、俺のほうを向いて横になった。


 三ヶ月前と、一つも変わらなかった。


「なあ」


「なんだ」


「なんでいつも、そうやって寝るんだ」


 彼女は目を閉じたまま、少し黙っていた。


 それから、静かに言った。


「お前が、私を殺しやすいようにだ」


        ◆


 火が一つ、爆ぜた。


 俺は動けなかった。


「……いつからだ」


「二度目だ」


「二度目」


「お前が『腹、減ってないか』と言った日だ」


 リリスは目を開けた。火の色が、青い目に映っていた。


「五千年生きた。剣で六度勝てなかった相手を、七度目に食事に誘う人間を、私は一つしか思いつかなかった」


「…………」


「惚れさせて、油断させて、隙を突く」


 俺は口を開いた。声は出なかった。


「合っているか」


「……合ってる」


「そうか」


 彼女はそれだけ言った。


 責めなかった。怒らなかった。三ヶ月前と同じ顔で、火を見ていた。


        ◆


「なんで乗った」


 俺はやっと、それを聞いた。


「三つある」


「三つもあるのか」


「一つ。退屈だった。これは本当だ」


「……ああ」


「二つ。千年前、私は人間の町で暮らしたいと言って、止められた。九百年、諦めていた」


 彼女は上体を起こした。


「そこへ、人間の町に入る口実が、向こうから歩いてきた」


「……口実かよ」


「口実だ」


 リリスは膝を抱えた。


「三つ目は、言わないほうがいいかもしれん」


「言え」


「言うぞ」


「言え」


「殺されるなら、それでもいいと思った」


        ◆


 火が小さくなっていた。


 俺は薪を足さなかった。手が動かなかったからだ。


「人間に殺された魔族が一人いても、戦争にはならん」


 リリスは淡々と続けた。


「私は父の娘だが、軍ではない。父は動かん。動けば、二百四十年が本物になる。それは父が一番よく分かっている」


「……あんたの父上は」


「悲しむだろう。だが、動かん」


「そういう話をするな」


「事実の話だ」


 彼女は俺を見た。


「五千年で、初めて外に出られる機会だった。その代金が私一人なら、安い」


        ◆


「じゃあ、剣は」


 俺は岩の上を見た。彼女の剣が、火明かりの届かないところに置いてある。


「なんで、そこに置く」


「お前が、自分で決められるようにだ」


「決める」


「私が剣を持っていれば、お前は言い訳ができる。抜かれたから斬った、と。危なかったから斬った、と」


 リリスは岩のほうを見なかった。


「私が丸腰で、背中を向けて眠っていれば、言い訳はできん」


「…………」


「言い訳のきかない形にした。そのほうが、お前が後で困らんと思った」


「……逆だろ。それだと、俺は」


「逆ではない」


 彼女は首を振った。


「三ヶ月前、お前はここで剣を抜いた」


 俺は顔を上げた。


「知ってたのか」


「起きていた」


「…………」


「刃が持ち上がる音がした。そのあと、鞘に戻る音がした。間は、十七を数えるくらいだった」


        ◆


 俺は自分の膝を見ていた。


 あの夜、俺は理由を考えなかった。考えたら答えが出てしまうと思ったからだ。三ヶ月、考えないようにしてきた。


「なんで、そのあとも同じように寝るんだ」


「習慣だ」


「習慣にするな!」


「それと」


 リリスは膝を抱え直した。


「あの夜、私は初めて、誰かがいる場所で眠った」


「……知ってる。お前が言った」


「あれは本当だ」


「両方本当なのかよ」


「両方本当だ」


 彼女は少しだけ、口の端を動かした。笑ったのだと思う。


「人間は、一つの行いに理由が一つだけあると思いすぎる」


        ◆


「一つ、言っておく」


 リリスは俺を見た。


「お前は、私に一度も嘘をつかなかった」


 俺は笑った。今度は、本当に笑った。


「つきまくってただろ」


「ついていない」


「使い回しの台詞を言ったぞ。ニナに言ったのと同じやつを」


「あれは嘘ではない」


 彼女は言った。


「他の女に言った言葉を、私にも言っただけだ。腹は立ったが、嘘ではない」


「……あの時、怒って帰っただろ」


「怒っていない。言葉には二種類あると言った。それだけだ」


 リリスは火に手をかざした。


「お前が私に隠していたのは、殺すという一点だけだ」


「…………」


「それは、最初から知っていた」


        ◆


 だから、と彼女は続けた。


「私にとって、お前は一度も嘘をついていない」


 俺は火を見ていた。


 三年間、俺は嘘で人の顔を緩ませてきた。町ごとに、宿ごとに、女ごとに。ついた数を数えたことはない。


 その全部を通り抜けて、目の前の女は、俺が一度も嘘をついていないと言った。


 理屈は合っている。この女の理屈は、いつも腹が立つほど合っている。


        ◆


 俺は薪を足した。


 火が大きくなって、彼女の角の影が斜面に長く伸びた。


「言うことがある」


「聞こう」


「……先に言っておくが、たいした話じゃない」


「聞こう」


 俺は言葉を探した。


 三年分の在庫が、頭の中に全部並んでいた。この場面に使える、きれいで、整っていて、女の顔が緩む言葉が、いくらでもあった。エルザの語録に日付と場所つきで残っているやつだ。


 全部、使えなかった。


 だから、みっともないほうを言った。


「お前の借金、四年六ヶ月だろ」


「そうだ」


「俺のは十七年十一ヶ月だ」


「そうだな」


「先に終わるのは、お前だ」


「そうだな」


 俺は火を見たまま言った。


「終わっても、見ててくれ」


 リリスは何も言わなかった。


「十七年、皿を洗うところを、見ててくれ」


        ◆


 風が吹いて、火が横に流れた。


 リリスは膝を抱えたまま、しばらく黙っていた。


「十七年か」


「長いな」


「長い」


 彼女は毛布を引き寄せた。


「……まあ、急ぐ理由もない」


 三ヶ月前、この道で、俺が言った台詞だった。


 俺は返事をしなかった。


 寝不足で、頭がうまく回らなかったからだ。


 たぶん、そうだ。


        ◆


「第六条を追加する」


 リリスが言った。


「まだ増えるのか」


「増える」


「五条までだっただろ」


「五条までだった」


 彼女は立ち上がって、岩のほうへ歩いていった。


 剣を取って、戻ってきて、毛布のすぐ横に置いた。手を伸ばせば届く場所だ。


 そして、横になった。


「第六条。眠る時、剣は、手の届く場所に置く」


 俺は何も言えなかった。


「異議はあるか」


「……ない」


「では、成立だ」


 リリスは目を閉じた。


 尻尾が、一度、ゆっくり動いた。


        ◆


 半年が過ぎた。


 鉄床亭は、水曜が休みになった。ガドが「腰にくる」と言い出したからだ。五十年やって初めての定休日だった。


 俺は皿を洗っている。時給十二セロ。残り十七年と四ヶ月。


 リリスも皿を洗っている。残り四年一ヶ月。


 同じ流しに二人並んで立つと、彼女のほうが明らかに速い。俺が一枚洗う間に、彼女は四枚洗う。速く、壊さない。


「遅い」


「うるさい」


「遅い」


「二回言うな」


        ◆


 魔王は、月に一度来る。


 予約制になった。ザガンが受付をしている。木札に『陛下・グラ』と彫ってあって、途中で呼び出されたらしい。


 初めて来た日、店の客が全員立ち上がって、どうしていいか分からずに立ち尽くした。


 魔王は困った顔をして、カウンターの端に座り、六年物のエールを頼んだ。


 三度目からは、誰も立たなくなった。


 ガロンが腕相撲を挑んで、〇・三秒で負けた。ゴズの記録を〇・一秒更新したというので、ゴズが本気で悔しがっていた。


「俺の負けのほうが速えんだよ!」


「威張るところか?」


 ノエルは魔王の角を触らせてもらって、「つるつるですね」と言っていた。ミラだけが少し離れたところで飲んでいて、俺と目が合うと、杖の先で床をつついた。


「……あんた、逃げ道なかったもんね」


「なかった」


「よかったじゃない」


        ◆


 マーサは、リリスの服をもう三着作った。


 尻尾の穴の位置が毎回違うので、三着目でようやく満足したらしい。


「カイルちゃん」


「なんだよ」


「あんた、あの時、鏡の前で答えなかったね」


「……覚えてんのか」


「覚えてるよ。あたしは人をよく見るんだ」


 マーサは糸を切った。


「今は、答えられるのかい」


 俺は少し考えて、正直に言った。


「借金があるうちは、逃げられない」


「そりゃ答えになってないよ」


「なってないな」


 マーサは笑って、俺の襟を直した。


「まあ、いいさ。十七年もあるんだ」


        ◆


 応援する会は、まだ続いている。


 会長ニナ、会計マレナ、書記エルザ、会報担当ソフィ。会費は月五セロ。今のところ黒字らしい。


 会の名前は『勇者カイル様を応援する会』のままだ。変えないのか、と聞いたら、ニナが真顔で言った。


「応援してますから」


「……何を」


「返済を」


 会報『カイル通信』の最新号には、俺の残り返済期間が載っていた。前号との差分つきで。


 エルザの記録は、相変わらず正確だった。


        ◆


 ザガンの業務日誌は、今も毎晩、魔王のところへ上がっていく。


 一度だけ、中身を見せてもらったことがある。


 リリス様の欄には、字がびっしり詰まっていた。日付と、行き先と、帰城の時刻と、その日にあったこと。皿を何枚洗ったか。手の傷が治ったかどうか。


 九百年、「異常なし」の四文字だけだった欄だ。


「これ、全部読むのか」


「陛下は、毎晩お読みになります」


「……長いだろ」


「長いものは読まん、とおっしゃっておりましたが」


 ザガンは日誌を閉じた。


「あれだけは、最後までお読みになります」


        ◆


 三年かけて、俺は魔王を倒しに行った。


 倒せなかった。六度負けて、七度目に飯に誘って、唐揚げを三十皿持って挨拶に行って、通告を受けて、借金を四十七万セロ増やした。


 戦争は終わった。書記官が一人、名前を書いて閉じた。二百四十年が、三日で終わった。


 誰も応答しに行かなかっただけだった。


 俺は今日も皿を洗っている。


 隣で、五千年生きた魔王の娘が、俺の四倍の速さで皿を洗っている。


 ――作戦は。


 俺は口の中で、そこまで言ってみた。


 続きは、もう出てこなかった。


 出てこなくていい、と思った。


        ◆


「遅い」


「うるさい」


「遅い」


「三回目だぞ!」


「記録しておく」


「日誌かよ」


「私の中にだ」


(了)

最後までお読みいただき、ありがとうございました!

ブックマークや下の【☆☆☆☆☆】をタップして【★★★★★】に

応援していただけますと励みになります!

この作品が面白いと思ったら

『( ゜∀゜)o彡°』


とだけコメントください


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。