親愛なるお母様へ
お元気ですか? なかなか帰省ができなくて、ごめんなさい。お屋敷の皆も元気にしているかしら?
わたくしは、国境付近の小さな街ウォルトンに来ています。おかげさまでお仕事も順調ですし、モニカとの共同生活にも慣れてきました。
いつもは軽い近況報告で済ませてしまっているけれど、今日の手紙には大切な目的があるの。
それは、今までの自分の気持ちをお母様に知っていただく、ということです。
最初は直接伝えようと思いましたが、少し気恥ずかしいのでお手紙にしてみました。長くなりますが、どうか最後までお付き合いをお願いいたしますわ。
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時々、寝る前に考えることがあります――わたくしがプリンセスになると決意したときの、お母様の気持ちについて。
きっと、初めから無理だってわかっていたんじゃないかしら。
それでも反対せずに夢を応援してくれたことを、心から感謝しています。
世の中って、不思議なものですわよね。必死で頑張っていた時は悪役と呼ばれて疎まれたのに、開き直った途端に称賛されはじめるんですもの。
今日もね、街を歩いていたら「英雄ロザーナだ!」って子どもたちが握手をねだってきたのよ。嬉しいけれど、買い物の予定が狂って困ってしまいましたわ。
でもわたくしは、今の自分があるのは決して偶然ではないと思っているの。
たとえ何が起きようとも、最後まで正々堂々と戦い抜く――お城に行く時も、グリフォンと戦っていた時も、折れそうになる心をお母様の言葉が守ってくれた。
そして冒険者になってからも、わたくしを勇気づけてくれているのです。
あの言葉を思い出す度に、いつでもお母様のことを近くに感じます。
◇◆
冒険者の生活は自由気ままで、案外自分には向いているように思います。ギルドは男の人ばかりなので最初は少しだけ怖かったけれど、話してみたら皆とても気さくで親切な方たちでした。
それに時々人助けができることも、気に入っている所のひとつです。
この前、畑を荒らす角兎を退治したら感謝の宴を開いてもらったの。村人の皆やモニカと一緒になって、歌って踊って飲んで騒いで……あれは楽しかったわね。
明日からは、近くにある古代遺跡の探索が始まります。ダンジョン攻略は3回目だけど、未だに緊張と興奮でドキドキが止まりません。でも他の冒険者とパーティーを組むし、もちろんモニカも一緒なのでご安心ください。
新米冒険者のわたくしが探索メンバーに入れたのを、不思議に思われるかもしれません。
確かにギルドには腕の立つ剣士が大勢いるけれど、勉強を頑張ってきた者の強みもあるんですよ。今回も、古代語と歴史の知識を買われてマスターから特別に推薦していただいたんですの。
自分がどこまでできるのかは、正直に言うとまだわからないけれど、お母様の教えに従って全力でがんばろうと思います。
わたくしはダンヴァーズ伯爵家の長女ですもの。たとえどこへ行こうとも、家名に恥じない成果を残してみせますわ。
それでは。季節の変わり目なので、お身体にはくれぐれも気をつけてくださいね。
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P.S.
わたくしがプリンセスを目指しはじめた時には、まさか冒険者になるなんて予想もしていなかったでしょう。
もっとも貴族どうしの付き合いが苦手なお母様のことですから、プリンセスになれなくて、むしろホッとしているかもしれませんわね。
でももしも、期待どおりの娘に育たなくてガッカリしていましたらごめんなさい。この場を借りてお詫び申し上げますわね。
親愛なるお母様へ
辺境の地より愛を込めて
あなたの娘、ロザーナより
◇◆
私は大きく息を吐き、頬に流れ出した涙をぬぐった。ふと視線を感じて顔を上げると、テーブルの向こう側のルッツ卿と目が合った。
「どうやら2人とも、元気でやっているみたいですね」
嬉しそうに微笑む彼に向かって、私もニッコリと頷く。
「そうね……。でもあの子ったら、ひとつだけ大きな勘違いをしているのよ。きちんと叱らないといけないわ」
私がロザーナにガッカリするなんて、絶対にありえない。
誇り高くて、何に対しても一生懸命なあなたは、たとえどんな生き方を選んだとしても最高の娘なのよ。
ロザーナが帰ってきたら、まず真っ先に伝えてあげよう。私はそう強く心に決めた。
これにて完結です。ご愛読いただき、ありがとうございました。最後まで書けたのは、ひとえに読んでくださった皆様のおかげです。
ブックマークやいいね、評価ポイント、感想などの応援もすごく嬉しかったです。重ねてお礼申し上げます。
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1/28追記
ありがたいことに、完結後に1万PVを突破して、ランキング入りまでさせていただきました。こんなにも沢山の方に読んでいただけて、誠に光栄です。
これからも皆様に楽しんでいただける作品を書きたいと思いますので、どうぞよろしくお願いします。
今後の参考にさせていただくため、感想があればぜひ聞かせてください。