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卒塔婆の街のブンヤ 8

       






 ついでに撮影された機影きえいの画像も可能な限り検索し、かたぱしから保存。後で検証けんしょうするのに必要だからだ。


「おばあちゃん、これ下さい!」


 店の方から少年の元気な声が聴こえてくる。

 こんな時代だけど、これからの世界を担っていく子供達には少しでも今の時間を楽しんで欲しいってのは正直な願いだ。

 どうしても自分の子供時代の境遇きょうぐうと重ねてしまう。

 破壊された街、巻き起こる粉塵ふんじん、常に近く遠く聞こえる銃声、悲鳴、怒号どごう。そして───あちこちに転がる、人だったモノ。黒ずんだ赤い水溜まり。

 あんな光景なんて、知らなくていい。生涯しょうがい平和に生きられるのであれば誰も当事者になんてならなくてもいいんだ。


「おばあちゃん? はて…聞いた事無い商品だね…? おおーーーーーいおばあちゃぁぁぁぁぁん! ……ごめんねぇ、おばあちゃん売り切れみたいだわ」


 子供相手に何言ってんだ妖怪婆ようかいババア


「えっ? あ、あれ…えっ?」


 めっちゃ困ってんじゃねぇか。平和な日本でトラウマにする気か。


「ここにいるのは誰だい? おばあちゃん? それとも? ……分かるよねぇ?」

「あ…あの…」

「上手に言えたら…オマケでイイモノあげるよォ…!」


 もっとハイなモンありまっせ旦那ダンナ…みたいなノリで言うな。


「お…………………お姉……、さん…」

「よくできましたァ…! さあ持っていきな、売れ残りお菓子詰合せだ。ミンナニハナイショダヨ」


 悪魔のような悪魔の笑顔だった。


「イヤァッハァ!! ありがとうおばあちゃん!!」

「お姉さんだって言ってんだろ! …全く…」


 お姉さん(モリブリン)がブツブツ言いながら戻ってきた。


「いい歳して何やってんだよ」

「賞味期限切れてないんだからいいだろ」


 そっちじゃねえよ。

 親御おやごさん達から苦情来るのそういうトコだからな。多分。


「何か分かったかい?」


 携帯電話をにぎめてる俺を見て聞いてくる。


「ああ、お陰様かげさまで。ちょっとヒントになったわ」

「そいつは重畳ちょうじょう


 どっこいしょと炬燵こたつそばに座り電子煙草のスティックを新しい物と差し換えると、温度が上がるまで手の中で本体を持て余していた。


「…いずれ戦場になっちまうのかねぇ…」


 ポツりと、八重やえちゃんがつぶやいた。

 オヤジと組んで飛び回っていた時代があった人間だ。恐らくは紛争ふんそう地帯の取材にも関わった経験があるのだろう。その光景を思い出しているのか。


「…さあな。けどこの世界の軍隊だってザルじゃない。その内どうにかしてくれるさ」

「軍隊、か」


 意図の読めない横顔で加熱された煙草を吸う。

 参ったな。こういう時どうしたらいいのか人生の若輩者じゃくはいものには分からないから苦手だ。

 すると、空気を読んでくれたかのようにまたチャイムが鳴り響いた。


「おやおや、今日は大盛況だいせいきょうだね」


 よく潰れないな。

 換えたばかりの電子煙草を炬燵こたつに置くと、老店主は再びよっこいしょと店に出て行った。


「おばあちゃんこんにちは」

「はいこんにちは」


 今度は女の子の様だった。お姉さんって呼ばせるのメンズ限定かよ。ババハラだな。


「───あら? どうしたんだいそのかばん、傷だらけで」

「あ…うん、これは…」


 うん?

 何だろう、なぜか気になった。ニュッと頭をレジの方に伸ばして様子を見る。


「ヒッ!!」


 少女がこっちに気付き明らかにおびえた。

 地味に深く傷付いた。


「馬鹿、いきなり顔出すんじゃないよ! 店潰す気かい!」


 なに人の顔を解体工事用特大鉄球(モンケーン)みたいに。

 もうすでに潰れかけてんじゃねぇか。


「ああゴメンねぇ、怖かったよねぇ。でも大丈夫だから。ウチのペットよ」

「ヌャーン」


 人生で初めてこんな声出したわ。


「た…食べたりしない…?」


 むをスキップされるとは思わなかった。


「好きな食べ物はコーヒーと煙草だヌャーン」


 飼い主にボコって殴られた。


「痛いヌャン!」


 いやまじで。中指の第二関節立てて殴りやがったな?


「プ…! あはははっ」


 でも、少女のトラウマにならずに済んだみたいだからまあヨシとしよう。

 俺はそれとなくその子の下げたバッグを観察する。───多分、間違いない。


「ごめん、ちょっと聞きたいんだけど、そのバッグ…」

「取材料」


 あきんどババアさえぎる。


「はいどうぞ…」


 さっき煙草を買った際の釣銭つりせんケツポケットに入っていたからまとめて手渡した。


「よかったねえ、ウチのペットが怖がらせちゃったおびに好きなお菓子買ってくれるって!」

「ホント!? ありがとう、ピアスのワンちゃんさん!」


 猫のつもりだったんだけどな。

 まあ喜んでくれるなら悪い気はしない。


「全く…、アンタもブンヤなら手順って物があるだろう?」


 呆れた顔で先輩がこちらを刺した。

 一瞬で意図を読み取る辺り流石はオヤジと一緒だった事はある。


御見逸おみそれ致しました」


 達人の気配りに素直に感謝し、無垢むくな少女の楽しげなショッピングが終わるのをボーッと眺めながら待った。

 八重ちゃんがこの店を続けている理由が少しだけ分かった気がした。








 (次話に続く)






         

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