第三十八日[塵が積もっても所詮塵]
雷「糞ぅ!谷津冶の野郎、一人だけリア充満喫しやがって!」
梨「別にそんな事はしてないんやけど………」
矢「隆次も負けてないけどね」
闘技場から追ってくるシルヴィ+鬼畜メイドらの追跡から免れるために森の中を駆け抜けていた隆次、名似何、小康の三人
無我夢中で走るあまりいつの間にか獣道から整備された歩道に出る事に成功してしまっていた彼らはしばしの休息に入っていた
「そういや、葉子や高上はもう屋敷に戻ったんだよな?」
既に息を整え終えた小康が木陰に背もたれている名似何の方を向き尋ねる
「ああ、さすがの涅月もあの怪我だ。今頃あのムチムチDQNから治療を受けているだろう。おそらく屋敷に戻っているだろうから一応連絡しておこう」
携帯を開き電話をかけようとする名似何を見て安心した小康がそうかと言いかけた瞬間
「やべえ!!」
地面に大の字で寝転び息を切らしていた隆次が掠れた声を張り上げる
「………どうした隆次、何がヤバいんだ?」
もう飽き飽きしたとでも言いたげな表情の名似何は耳元から携帯を一旦放す
「い、いや、それがさ。さっきアスカさんから逃げ出した時に確かあのオッサン、俺の使ったスモーク爆弾の爆風でどっかに飛んでいっちまったんだよ…」
「「何やってんだよ、お前……」」
「てへ!……すまん」
怒り10%呆れ90%の思いで正座になった隆次を見下ろす二人は互いの顔を見合わせる
「どうする矢手弓?このままだと共倒れだぞ」
「どうするも何も。高上達と合流する他打つ手はないでしょ〜ね〜」
先程までは協力的だった名似何の一変した投げやりな態度に小康は頭の上に疑問符を浮かべる
「何だ、妙にやる気が無くなってないか?」
「別に。ただ手っ取り早い解決策があるのにわざわざこんなに苦労してまで走り回る事が馬鹿馬鹿しくなってきただけ」
「解決策って、そんなもんあんのか?」
正座していた隆次が慌てて立ち上がり名似何を突き詰める
「あるじゃないかぁ!一つだけ、皆が皆幸せになる方法がぁ〜」
演劇の語り手のような口調で話し出した名似何は掌を返して隆次に向ける
「隆次、君が降参すればいいんだぁ」
「何でそうなるんだよ!それに、俺が降参したら高上までシルヴィーの下僕になるんだぞ!」
「そんな瑣事、いくらでもやりようがあるから安心しろ」
「ぐぬう………」
あっという間に退路を塞がれた……
語り手名似何の台詞はまだまだ続く
「第一、元はといえば君が執事である義務を放棄した事によって今回の騒動が起きたのだから、君が責任を取るのが『けじめ』というものではないかな?」
「確かに、それは一理あるな」
これには小康までも賛同してしまったが隆次は俄然強気な態度で
「だが!断る!」
「なら問おう!その根拠は?」
「俺は下僕などというちんけな身分に収まる男ではない!この雷堂隆次には夢がある!」
バァーーーン!(効果音)
「で、そこまで言うのだからその素敵な頭の中には打開策が詰まっているのだろうね?」
決め台詞を華麗にスルーされた隆次は怯み
「え、いや、えっと…………小康!助け」
助けを求めようとしたが
「………zzzzz」
「って寝てるしぃ!?」
意識が向こう側に飛んでいるのか!?
「んなわきゃないない。ハッ!そうか!」
聞こえぬはずの声に答えた名似何がふと何かを思いついたような様子で逆に隆次に詰め寄る
「なあ隆次、今我々の利害が一致するような最善の策を思いついたんだが…乗るかい?」
「どうせ拒否権はないんだろ?」
「正解」
名似何を先頭に再び移動を始めた三人(一人は寝ている)は今度は闇雲にではなくきちんとした目的を持った様子で真っ直ぐに山の麓に向かおうとしていた
時を同じくして柳垣に連れさらわれた谷津冶は
「あの〜柳垣さん?ここは一体?」
「山だよ」
「いや、そりゃあ見りゃ分かるがよ」
山の麓にいた
「さ、登ろ!」
「えっ!?いや、ちょっと!どうなるぅぅう!」
ちなみに柳垣に右手を引っ張られながら叫ぶ谷津冶の声は妙に高くなっていたのは誰も知らない
途中省略
「ほらほら梨田君、頂上に着いたよ!」
「……………」
楽しそうにキャッキャッ笑う柳垣とは対称的に何故だか梨田のTシャツは所々裂けておりこれで機関銃を持たせたらまさにラン○ーと言っても十分通じる出で立ちである
「あれ〜梨田君は何で服を破いてるの?もしかしてワイルドアピール?」
「んなわきゃないやろが!?ここまでの道に現れた熊や猪とお前に闘わされたからやろが!」
「え〜だって梨田君何か闘いたいな〜って顔してたんだもん!」
「もんて何やねん!?」
「でもなぜだかは分からないけど闘った後会話が通じないはずの熊や猪と仲良くなっちゃう梨田君はある意味人外だね!」
「全然嬉しくない賞賛ありがとう……」
気楽に話しているが、頂上に着くまでの過程に二人が遭遇した野生動物は四匹の内の三匹であり全て地元猟師の間で手がつけられない獣として扱われていたのだった
それを手なずけた梨田は柳垣の言う通り普通の人間と呼ぶには余るが、変人達の巣窟であるTHE STEGOの中ではこれでも普通のクラスであるためご安心を
ただ単に彼は動物達とモフモフ触れ合いたかっただけなのだからである!
「まあいいや、それより何でこんなトコに俺を連れてきたんだ?」
ビリビリになったTシャツを脱ぎ捨てタンクトップ一枚になった谷津冶は柳垣を見たが
「あれ〜?おかし〜な〜、ここら辺にあると思ったのにな〜?」
質問に答えずに周りを見渡しながら何かを探している
「………何を探してるんだ?」
「ん〜?ちょっとした宝をね………あ、あったあった!」
草村の中で目的の物を見つけた柳垣は2m程の横長の白い木箱を取り出す
「これが欲しかったんだ〜」
「何が入ってんだ?」
「私の知り合いの女の子の昔の思い出の品、かな。小さい頃にここに来た事があったらしくて、機会があったら見つけ欲しいって頼まれてたんだ〜」
そう言って楽しそうに木箱を抱える柳垣を後ろから眺める谷津冶は徐に口を開いた
「奇遇だな」
「え?」
「俺も小さい頃にここら辺来た事があるんだわ。幼なじみの付き添いでな」
「へ〜そりゃ偶然だね〜……どんな人だったの?その幼なじみさんは」
「ん〜嫌な奴ではなかったな。まあ嫌がらせに関しては超一流だったが…」
「面白そうな人だね」
「退屈する暇すらないくらい危なっかしい奴だったよ」
苦笑しつつもどこかノスタルジックな表情でどこか遠くを見つめる谷津冶、そんな彼を見つめた柳垣は一瞬だけ顔を綻ばしスグに表情を戻すと木箱ごと谷津冶に手渡す
「はい」
「ん?」
「屋敷に戻るまで丁重に扱ってね。荷物持ち君♪」
「……へいへい。つーかさ、このためなら別に俺が熱湯をかけられる必要はなかったんじゃないか?」
「汚い手で大切な物に触られたら嫌だったから」
「素でそれを言うか。それに俺の手は汚いっていう前提の上での話か……」
文句を言いながらも言われるがままに木箱を肩に掛ける形で持ち上げた谷津冶はそのまま自身の先を歩む柳垣に付いていく
登りの時とは違い障害がなかったためか、谷津冶と柳垣は30分かかった距離を10分程で降り終えていた
「さ、目的の物が手に入ったのならもう帰るぞ」
「……うん、そうだね」
木箱を肩の上に抱え上げた谷津冶が柳垣を促し屋敷の方向に向けて歩きだそうとするがいきなり立ち止まり空を見上げる
「そうだ柳垣」
「何?」
振り返った谷津冶は朱く染まった頬を照れ臭そうにかきながら目を逸らす
「出発まで何か予定はあるか?」
「はい?」
予想外の問いかけに拍子抜けした柳垣は裏返った声で取り乱すがそんな事は谷津冶には知ったことではない
「今日の午後、予定があるのかって聞いたんだ」
「え!?ええっと、別にないけど……」
「そうか。なら、暇潰しがてらに皆で思い出作りにどっかに出かけようぜ!新入りや下級生達とも親睦を深めたいしな!」
・・・・・・・・チーン!
「………プッ!アハハハハ!」
数秒間ポカンとしていた柳垣は突然吹きだし大声で笑い出す
「な、何やいきなり、気でも触れたんか!?」
慌てて駆け寄る谷津冶に大丈夫と伝えながら柳垣はゆっくりと呼吸を整える
「いや〜稀に見る天然で、それに付け加えてその馬鹿正直なド直球っぷりに惚れ惚れしちゃうな〜って思っただけだよ」
「……これって褒められてんのか、それともけなされてんのか?」
ムスっとする谷津冶に向けて柳垣は今出来る最高の笑顔で答える
「大いに馬鹿にしてるよ〜♪」
「にゃにおーーー!?」
「アハハハハ!早く行くよ。荷物持ち君、いやボーイさん?」
「ったく!了解しましたよ、お嬢さん!」
そう言って嬉しそうに小走りで先を行く柳垣を谷津冶が追いかけ始め呑気に屋敷に向けて改めて歩を進める
そんなほのぼのとした光景を余所にすれ違いで山の麓に逃げ込んだ隆次、名似何、小康の三人は
「おい雷堂、何で安眠中だった俺をこんな所に連れてきたんだよ!」
「逆に聞くがお前よくこんなトコで眠れたな!」
「全然だ!お陰でよく眠れなかったじゃないか!」
「俺らが運んでいた30分間熊に舐められるやら猪に追突されるやらの衝撃ですら目を醒まさなかった癖に言える口はどの口だ!」
「よせやい、褒めるなよ…」
「褒めてねーよ!?」
「二人共、そこら辺で終わらせないと本当に向こうに「そろそろ宜しいかしら」ばれてしまったな…」
三人が恐る恐る振り返るとそこには
「リュージ、追いかけっこはもう飽きましたわ」
改造された拳銃改めドイルを構えたシルヴィーと
「コロスコロスコロスコロスコロス」
主のすぐ隣で真剣を構え満面の笑みを浮かべる冥土、もといメイドちゃんの二人が立ち塞がっていた
「おい名似何!あいつはまだか?」
「いや、まだ来ない。仕方がないここは私が時間を稼ごう」
「「さすが名似何、そこに痺れる」」
「憧れなくていい」
「「ブーブー!」」
ブーブー垂れる二人から距離を置きシルヴィー達に近付く名似何は両手を挙げて抵抗の意思の皆無を見せる
「デュエロの前に話し置きたい事がある!」
そう告げると共にメイドが真剣を構えるが
「お待ちなさい」
メイドを止めたシルヴィーは敢えて話に乗ったようで一人歩み寄る
互いに残す所、あと10mといった距離で向かい合う二人は相手に聞こえる程の声量を発する
「こちらの要求はただ一つ!雷堂隆次の身柄のこちらへの引き渡し、それだけですわ!」
「譲歩していただきたい点が幾つかある!そちらを聞いてもらえるならこちらも誠意を見せると誓おう!」
「解りましたわ!」
「まず雇用期間についてだが、無期限の所を期限付きかつ三日間だけに!そして彼の主人(仮)である高上未来へのペナルティをゼロにして頂きたい!」
「後者は構いませんが、前者については了承しかねます」
「何故だ!」
「私が面白くありませんわ!」
「そうか!分かった、なら後者だけでいい!デュエロ開始は10分後で構わないか!」
「解りましたわ!」
「うぉおい!何でだよ!」
法廷にいる検事と弁護士のように淡々と話し合いを済ませた名似何とシルヴィーは互いの陣営に戻る
「それより、シナモンは戻ったのか?」
「ここやで〜」
声の主であるシナモンは疲れた様子で地面に寝転がっている
「ちゃんとメッセージを伝えてくれたか?」
「それがな。あの二人なかなかええ雰囲気醸し出してたさかいに声かけても気付かれへんかったわ」
「あのリア充野郎!」
「隆次、現実逃避は止せ。君の負けはもう必然的、いわば負け確というやつだ」
優しく肩に手を置かれた事で更に危機感を覚えた隆次の顔からは血の気が一気に引いていく
「一体どうしりゃいいんだよーーーーー!」
その時の彼の魂のシャウトは隣町に届いたとか届かなったとか、まさに神のみぞ知る真実なのであった




