第三十七日[喧嘩したり斬りあったり逃げたり]
矢「朝から君達は騒がしいね」
梨「好きでやってるんじゃない」
雷「俺は普通の人間だ」
矢「まぁたまぁた!嘘をついちゃあだめですよぉ〜(笑)」
梨・雷「バ○ス!」
「…あなた大丈夫?ボロボロだけど」
メイドは木刀を葉子に向けながら言った。
「…」
葉子は木刀を構えた。
「まぁいいわ、手加減はしない。お嬢様の創りあげる理想世界を侵そうとするものは、例え神でも仏でも悪魔でも容赦無く叩きのめす、それが執事兼メイドである私の務め…」
メイドの姿が消えた。
葉子も応戦する。
ガァァッン!
木刀と木刀が大きな音をたてる。
「…すげぇ、あのスピードに対応してるよ」
隆次は呟いた。
「でも…葉子先輩、追い詰められてませんか?」
未来が前を向きながら心配そうに言った。
「…確かに」
葉子の顔は苦しそうだし相手の方が僅かに早い。
「葉子ー!その木刀捨てろー!」
突然、隆次達の右から大声がした。
そちらの方を見やると深宮と名似何がこちらに駆けてきていた。
「…何が起きてんだこれは?」
深宮が前を指差した。
「…デュエロ」
「デュエロ?」
「…デュエロにしては武器が太い気がするんだが、何だあり?」
名似何は前を向いたまま言った。
「そんな太いか?」
「そんなことより、葉子はなんであんなに傷ついてんだ?そのデュエロとやらの傷とは思えないが?」
深宮は尋ねた。
「あぁ、その前にアスカさんと闘ってあぁなった」
「闘いを強制されたか。まぁ、あの人には勝てないな…で、デュエロのルールは?」
「…えっと、闘えなくなるまで剣で闘い合う、だった筈です。ルールはそれ位です」
未来が少しして言った。
「マジか!?嫌なルールだなそれ!だから、葉子が使い慣れてないっぽい木刀を使ってんのか」
カァァアッッン
葉子の木刀が弾かれた。
「ふっ…他愛無い」
メイドは丸腰の葉子にも容赦無く襲いかかる。
葉子はそれを避けた。
葉子は今木刀を持っていない為、闘うことは出来ない。
「…待った。剣で闘わないといけない以外に本当にルールは無いのか?」
深宮が隆次と未来を見て言った。
「…あ、あぁ。そもそも涅」
「よし分かった!」
深宮は葉子達の方へ駆け出した。
「っ!」
葉子はメイドの木刀を避けて後方へ跳んだ。
かなり疲労が溜まっているようで、葉子は肩で息をしている。
「っ!」
葉子の体がガクッと崩れた。
「相当お疲れのようね。ここまで抗ってきたご褒美に、一瞬で潰してあげる」
メイドはそう言うと、動かない葉子との距離を詰めた。
カッ!
「…誰だ、あんた」
「へへっ、こっからは俺が相手だ」
葉子の目の前で、メイドと深宮が鍔迫り合いをしていた。
深宮はメイドを振り払った。
「木刀使う以外ルールが無いんなら観客が木刀拾って選手交替しても問題無いよな?」
「…コロスコロスコロスコロスコロス」
「小康、お前、闘えんのか?」
隆次は深宮の背中に声をかけた。
「ははっ俺をなめんな!俺はあと通算約1800時間寝るだけで葉子の境地に辿り着けるとか辿り着けないとかなんだぞ」
深宮は自信に満ちた表情で隆次と未来を見た。
「…なんか心配ですね」
未来は呟いた。
「…取り敢えず、葉子を屋敷まで送り届けてやれ。立つのもやっとだろ」
深宮はそう言うと前を向き直した。
「コロスコロスコロスコロスコロスケコロスコロスコロス!」
「勝負なりー!」
メイドの姿が消えた。
「でっ!」
深宮は打たれた右肩を押さえた。
「空振りかよ。間合い短けぇ…」
深宮は自分の木刀を見てぼやいた。
(のっけからこんな調子で大丈夫か…?)
隆次は心配になった。
しかしメイドは攻撃の手を休める様子が無い。
「わっ!ちょっ!」
深宮はそれをなんとか弾き返す。
「たぁっ!」
深宮は木刀で相手の木刀を強く上に弾いた。
メイドは空いたガードを守る為か、急いで腕を下ろす。
その隙に深宮は後ろに跳び退いた。
「小康!大丈夫か!」
隆次はたまらす叫んだ。
「大丈夫にする!それより葉子は?」
「大丈夫だ、問題無い」
未来が葉子を家に連れていっていた。
「ならいい」
メイドが深宮に詰め寄ってくる。
カァン!
深宮は今度は大きく左に弾いた。
メイドは木刀を正面に戻す。
「やっ!」
ガッ!
深宮は方向をメイドに向けたまま斜め前に跳びながら思いきり木刀を振り下ろした。
そしてそれはメイドの木刀に裂け目を入れ、その裂け目に深宮の木刀が食い込んでいた。
「よっ」
深宮は釣り上げるように自分の木刀の先端を引き寄せた。メイドの木刀もついてくる。
「どうだ、これで闘えないだろ」
深宮はニヤリと笑った。
「…」
メイドは動きを止めた。
「俺と闘わずに俺から木刀を奪うのは不可能。つまり俺の勝ちじゃないか?」
深宮は挟まった木刀を外しながら、得意気に周囲の人々を見回した。
「小康、油断するな」
名似何は静かに言った。
「ん?」
「コロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスゴロクコロスコロスコロスコロス…!」
「わっ!」
ガッ!
「あぶねー…」
メイドが振り下ろした真剣を深宮は木刀の裂け目で挟んだ。
「真剣木刃取り!?」
隆次は叫んだ。
「にゃろ!」
深宮は真剣の挟まった木刀を少し引き寄せメイドの体勢を崩した。
「ご容赦!」
深宮は最初から持っていた木刀を両手に持ち替えメイドの手首に打ちつけた。
「っ!」
メイドは真剣を取り落とした。
「名似何!任せた!」
深宮は真剣の食い込んだ木刀を名似何に投げた。
「危なっ」
名似何はそれを避けてから拾った。
「コロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロス!」
メイドは日本刀を両手に構えた。
「お前どんだけ持ってんだよ!」
深宮はそう叫び、応戦する。
しかし結局深宮の優勢に変わりない。
深宮はメイドの真剣を上手く捌いて叩き落としていた。
「…雷堂、気になってたんだけど、」
闘いが割と安定してきたからか、名似何が隆次に顔を向けた。
「ん?」
「なんでデュエロなのに涅月とあの人が闘ってたんだ?」
「名似何!パス!」
「はい逃げた」
ガシャ
深宮は名似何のいた場所に真剣を投げた。
「…いや、涅月は俺の代わりに出た。メイドの方は知らん」
「ほぉ…」
名似何はそう言うと前を向いてから真剣を避けた。
暫くすると、名似何の周囲には山のように真剣が置かれた。
メイドは疲れているようだが、深宮はまだ元気そうだ。
「おっ、いけんじゃねこれ?」
隆次は嬉しそうに名似何を見た。
「フラグ立てんな」
「名似何!」
深宮が叫んだ。しかし今回は、真剣を受けとる類いの話ではなさそうだ。
「どった?」
名似何も叫んだ。
「眠い!」
「はぁ!?」
隆次は思わず叫んだ。
名似何を見ると、名似何は隆次をじとっとした目で見ていた。
「フラグなんか立てるから…」
「だから闘うの代わってくれ!俺は今、この身を引き裂かれそうな眠気を感じてるんだよ!」
「えぇー…」
名似何は少し思案げな顔つきになった。
「…了解した。代わろうか」
「いいのか!?」
不安な隆次に対して名似何は自信ありげだ。
「作戦がある」
「そうなのか…」
「この闘いが終われば、またあの穏やかな日常に戻れる…」
「お前もフラグ立ててんじゃねえか!…大体、穏やかな日常とか過ごしたこと数える程しかないくせに」
名似何は夏休み中は毎日のように塾に来ているので結果穏やかな時間は遥かに少なくなる。
「…よし、」
名似何は近くにあった真剣を2つ拾った。
そして名似何は、深宮とメイドの方へゆっくりと歩み寄った。
「…」
真夕は何かの木の枝に熱湯を浸してそれを思い切り振った。
「熱っ」
微量の熱湯が谷津冶を襲う。
「喋らないで。神聖な儀式だから」
「いやこれは」
「黙って」
「…はい」
真夕はまた木の枝で熱湯を払った。
「っ!」
谷津冶は熱かったが、なんとか喋らずにすんだ。
それから辺りは暫く静かになり、谷津冶の声にならない叫びが聞こえるばかりだった。
それを十数分ほどやった後、
「…よし、これで梨田君の穢れは祓えた」
真夕の満足げな様子に、谷津冶はほっとした。
「おっ、そうか。じゃあもう帰って…」
「じゃあ、これから本番だね」
真夕はにっこりと微笑んだ。
「へ…?」
「ったぁ!」
深宮はメイドを振り払った。
「名似何、頼んだ!」
「分かった」
深宮が後ろに下がり、名似何が前に出た。
「…そうやって私の疲労を溜める作戦ね。いいわ、そんな姑息な作戦、踏みにじってあげる」
「姑息の意味を分かってるような分かってないような…」
名似何はゆっくりと前に歩いた。
「まぁいいや。すぐに終わるし」
「ふざけるな!」
メイドは名似何に突進した。
「ぅをっ」
名似何は真剣を盾にしてそれを防ぎながら後ろに吹き飛んだ。
名似何は尻餅をついて、すぐには起き上がれなさそうだ。
メイドはそれを見て再び前進した。
「コロ…」
「降参!」
名似何は両手を挙げた。
メイドの真剣の刃は、名似何の首から僅か数ミリ離れた所にあった。
「…降、参?」
メイドは油断していないようだ。
「降参。私達の負け。雷堂はそっちの執事になる」
「…ちょおい!」
隆次は叫んだ。
「…それは、約束出来ますの?」
シルヴィーは名似何を見つめた。
「知らない。最初の契約が信頼出来るかどうかはどうとも。雷堂がデュエロに負けたのは事実だけど」
「矢手弓!」
隆次は名似何の元へ駆け寄った。
「…雷堂、」
名似何は振り返って隆次を見た。
「あんな状態の涅月を使おうとした時点で君の負けですに」
「でも高上が!」
「高上!?」
名似何は目を丸くした。
「えぇ、そうですわ」
シルヴィーは頷いた。
「そちらが負けたら、暫くの間奴隷にすると前から言っていましたの」
「シャードゥーゥ、デュエロは見せ物ではないしむやみやたらと効力を濫用するのは許されないんだ」
「暫くの間奴隷的拘束をすれば、私はそれで満足するんですわ」
「じゃあ、そういうことだから」
名似何は踵を返して歩き出した。
「待て!ですわ!」
シルヴィーがそう言うと名似何は振り返った。
名似何が正面を向いた時シルヴィーはある物を向けた。
「…アルファガン」
名似何が、その名を呟いた。
「見た目はアルファガン中身は銃。その名はっ、未来硝燃、ドイルですわ!」
「積み込み乙」
「ともかく…」
シルヴィーはドイルを名似何に向けた。
「意見なら、私に勝ってからになさい」
「そいつはぁ、無理なぁ相談です」
「なら…」
「楠男君、さっき音したのここら辺だよね?」
「おにぎりおいしい」
花代と楠男が、とことこと歩いてきた。
「なんですのあなた達、ここは子供のいる所ではありませんわ」
シルヴィーはすぐさまそう言った。ついでに花代は高3だ。
「なんですのって、どういうこと?」
「…埒が空かなさそうですわね」
ジャキ。
シルヴィーは花代達にドイルを突きつけた。
「…あなたでも、これが何か分かりますよね?」
「これっていうのは、どういうこと?」
「あぁもう、まどろっこしい!」
ダァン!
シルヴィーは上に向けて発砲した。
「…あぁ、大きな音だったなぁ。もぅ、そういうのは事前に言ってよ…楠男君大丈夫だった?」
花代は耳を塞いでいた両手を離しながら隣を見た。
「おにぎりおいしい」
「あっ!」
花代は悲痛そうな叫びをあげた。
「楠男君はおにぎり持ってるから耳が塞げないじゃん!」
花代はそう叫ぶと、顔を上げてシルヴィーをキッと睨みつけた。
「もしも楠男君の鼓膜が破れちゃってたらどうするの!」
「え、いや…」
シルヴィーは目を逸らすために辺りを見たが、
「逃げられた!」
もうそこには隆次と名似何と深宮の姿は無かった。
新キャラ、登場しました!
なかなか恐ろしいメイドちゃんですけど、意外と有りとおっしゃる方も多々あり?かと思います!
それでは!
TO BE CONTINUE?




