第三十四日[堅物破ってナンボのもんじゃい!]
雷「バトル展開は」
矢「まだまだ」
梨「続くんかい!」
「んぁー!」
深宮は体を伸ばした。
「…まぁまぁ寝た」
彼は今、布団から上半身を起こしている。
「あら、お目覚めね」
「おー、おはよー」
深宮は、声の方に目を向けた。
「ってぇ!」
深宮は叫んだ。
「久し振りね」
魔女は微笑んで手を振った。
「お、お前は、足が早くなる薬の人!」
深宮は魔女を指差した。
「ふふ、ご名答。でもね君、人を指差すのはよくないわよ?」
「あっごめん」
深宮は慌てて手を引っ込めた。
「…それで、どうやってここに入ったんだ?」
深宮は自分用の部屋の床に正座しながら尋ねた。
「あらぁ、そんな野暮なことを聞かないでよぉ」
「え、はぁ、ご、ごめんな」
「宜しい」
魔女はクスッと笑った。
「まぁじゃあ…何しに来たんだ?」
「うふふ…」
魔女はジッパー付きのビニール性の袋の中に入れられた錠剤を見せた。
「…また実験か?」
「そうよ。またやってくれる?」
「んー…」
正直に言うと深宮はあまり乗り気ではなかった。
今の深宮が求めるのは安寧な朝である為、それが乱される可能性はかなり高いだろう。
しかし、彼女には初日の夕食を豪華にさせてもらった恩がある。
(…うーん、まぁ、恩返しだな)
「うん、いいぞ」
深宮は頷いた。
「そう?有り難う」
魔女はそう言うと錠剤を取り出した。
「で、今回はどんな薬なんだ?」
深宮は魔女から錠剤を受け取った。
「ふふふ、内緒」
「なんだよー、気になるなー」
「ふふ、ごめんなさい。でも、面白くないじゃないの」
「何がだ?」
「何もかもが」
「何もかも?」
「ええ、」
魔女は徐に頷いた。
「何もかもよ」
「…うーん、何かよく分からん。まぁいいや、で、こいつも水無しか?」
深宮は諦めて自分の掌の上の錠剤を見た。
「えぇ、それだけで飲めるようにしたわ」
「ん、分かった」
深宮はそう言うと掌の上の錠剤を燕下した。
「ぜぇ、ぜぇ…待つん、だおぉぉ…隆次、谷津冶」
例え体力が尽きていようとも、ドゥーンは諦める様子が無い。
しかし、尽きた体力で出来ることなんて限られている。
「ぉぉ…ぉ…」
ドゥーンはばたりとその場に崩れ落ちた。
「…よしっ!、逃げ切った、ぁぁぁ…」
「ぅがぁ…」
「…」
隆次と谷津冶と葉子は安堵の息をついた。
「…えっと、なんというか、お疲れ様です」
未来が隆次達の近くに歩み寄ってきた。
「まさか、あんな、ことで…」
「全くだぁ…」
「…じゃ、私と葉子先輩は戻っていいですよね?無関係ですから」
未来は後ろを向いてジャンヌの家を指し示した。葉子はただ単に隆次と谷津冶に背後に着かれただけで追いかけられる理由は無い。
「いやおいどういうことだよ」
「俺達だって別に戻ってい…」
「…一体何してんだお前ら?」
やや怪訝な顔をしながらアスカが現れた。
「…や、大したことしてねぇっすよ別に」
谷津冶が手を振って話を終わらせようとする。
「ほぅ、そんなに隠したいことなのか」
「いや違いますって」
隆次は、おそらく谷津冶もだろう、シャードゥー宅に戻って休息を取りたかった。
「…ははぁーん、成る程なぁ」
アスカは急に何かに納得したようににやついた。
「状況を見れば事態は簡単に説明がつく。今ここにいるのはバテている馬鹿が2人と1匹、できそうな女が1人、キャピキャピしてそうな女が1人」
「私そんなにキャピキャピしてそうですか…?」
「つまり、ここから導き出せる結論は1つ」
アスカは言葉を切って黙りこんだ。早く言えよと隆次は思ったが、そんなことを言ったら殺されるだろうと思い黙った。
「そこの女がジョギングとかその辺りのことをしていたら、馬鹿共がそれに張り合いだした。どうだ?」
アスカが葉子を指差して自信満々に言った。
「…」
全員沈黙。
「…フッ、こんな程度の簡単な推理で言葉を失われては拍子抜けじゃないか。まぁ私が探偵役になったことは大きなプラスとなっただろうが。あれだな、少し意味は違うが、馬子にも衣装ってやつだ」
「…違うお!」
疲労から回復したらしいドゥーンがまだ本調子でないものの叫んだ。
「黙れ」
アスカは一蹴した。
「…聞いて欲しいお!隆次と谷津冶があのペンダントを踏んづけたんだお!」
「っ!?」
アスカは目を見開いた。
「なのにあいつらの謝罪は誠意が足りなかったお。だから、あいつらも1人頭50回程踏んづけてやるんだお!」
「…」
アスカはゆっくりと目を閉じた。
思えば隆次も、きっと谷津冶も、今までどうして追われていたか分からなかった。
「…と、いうことなんだお。だからアスカ、止めないでく」
ゴスッ!
「おおおおおっ!?」
ドゥーンはアスカに回し蹴りをくらい、数メートル後方へ吹っ飛ばされた。
「…そんなもん持ち歩くな恥ずかしい」
アスカはそう言うと隆次達の方をゆっくり向いた。
「…まぁいい、理由は出来た。マイハズバンドの敵討ちだ。うん、そういうことにしておこう」
「ちょっ待って下さいよアスカさん!」
隆次はいいことを思い出した。
「…なんだ?」
「アスカさん、暴れないようにって最初にジャンヌさんに言われてたじゃないですか!」
「…あ、あぁ、そうだな確かにそうだ。…うーん、まぁ、いいだろ」
「よくないです!」
「知らん」
そう言うとアスカは葉子との間合いを詰めた。
「っ!」
不意をつかれた様子の葉子だったが、アスカの攻撃を捌いていく。
「はははっ!やはり手練れか!」
アスカはそう言うと後方に跳ねた。
「やりがいがあるな。少しだけ本気を出せそうだ。あいつとの手合わせにも飽きたところだ、丁度いい…梨田!」
「っ!あ、はいっ!」
急に呼ばれたからか谷津冶は背筋をピンと伸ばして直立した。
「ハンデをやる。2人でこい」
「え…」
谷津冶は固まった。
「あと2人は…」
アスカは隆次と未来を見た。
「まぁどっちでもいい」
「えっ、じゃあ、帰っていいすか?」
隆次は顔を輝かせた。
「それは面倒だ。この2人を殺った後、お前にも制裁をしなければならないからな。名目上」
「…い、いや、別に態々そんなお手数をかけるようなことは…」
「黙れ。とにかく後でお前も制裁だ」
「…」
隆次はうなだれた。
「…梨田、」
葉子は体を動かさずに囁くように言った。
「…なんだ?」
「ここは私1人でやる」
「えっ、いいの?」
谷津冶は驚いたような顔をした。
「連携取れない味方は邪魔なだけ。最悪味方が味方でなくなる」
「えっ、じゃあ、分かった。俺はここで見てるわ」
「…梨田」
アスカは谷津冶を見た。
「な、なんすか」
「どちらにしろ、お前も制裁だからな?」
「ああああいえ、分かってますって」
谷津冶の表情からして、うやむやにする気まんまんだ。
「…それで、」
アスカは葉子に体を向け直した。
「涅月 葉子と、言ったかな?」
「…ええ」
葉子は頷いた。
「イチかバチか、梨田と組んだ方がいいんじゃないのか?」
アスカは薄ら笑いを浮かべながら谷津冶に目をやった
「それとも、1人で勝てるとでも?」
「別に私は勝つ必要がありません」
葉子は静かに答えた。
「この家の主人が来るのを、待てばいいだけですから」
「おいおい、そんなオチは期待してないのだが?」
「…戦うというなら、1つ質問していいですか?」
葉子はアスカの話を無視した。
「…なんだ?」
「ルール違反というものはありますか?」
「ハッ、己の体を使うこと。それ以外にルールは無い」
「それ自体が立派なルールです」
葉子はそう言うと拳をほどいた。葉子の手の中からさらさらと粉が零れる。
「…目潰しか?」
アスカは葉子の手に目をやった。
「ルールが本当に無いなら、使おうかと思いましたが」
「…お前はそんな汚い手段を使うようなやつだったのか?見損なったよ」
「そうですか」
葉子は手を前に出してパンパンと払った。
「そういう動作は、私を片付けてからしてもらえないか?」
「…」
「…まぁいい、じゃあ、始めるz…」
アスカが言い終わらない内に葉子はアスカとの距離を詰めていた。
「っ!」
アスカが慌てて構えると葉子は体を少し沈めながらアスカの腹を肘で狙った。アスカは、それを掌でガードする。
葉子は跳躍した。
「っ!」
アスカの顎に、葉子は頭をぶつけた。
葉子はそれからアスカの腹に膝を打ちつけた。
「ぐっ!」
アスカは崩れ落ちた。
「…おっ!おっ!おっ!おっ!おっ!おっ!」
アスカと葉子が戦闘している間、ドゥーンはひたすら隆次と谷津冶の頭を踏みつけていた。
「痛い!痛いです!」
「許して下さい!」
「おっ!おっ!おっ!」
しかしドゥーンは踏みつけをやめない…
「…さて、」
シルヴィーは廊下を歩きながら考えていた。
「おしとやかに、リュージを飼育する方法…」
シャードゥーはもう何がなんでも隆次をペットにしてやろうと思っていた。
「デュエロ、は、リュージに執事がいませんし、そもそもいたとしてもリュージではなくリュージの執事を…ん?」
シャードゥーはそこで名案が浮かんだ。
「リュージを誰かの執事にして、それを私がデュエロでもぎとればいいじゃないですの!」
そもそも誰かの執事にした時点で目的はほぼ達成されていることに気づくのはいつの日か…




