第二十五日[奴が現れゴングが鳴り響く]
雷「やべえってありゃ!」
矢「さて一体何回ぷげらするのだろうか」
梨「(出番無し)」
「おおおおいお前ら、」
ジャンヌによる客観的かつ的確な説教が終わってから、隆次はどたどたと居間に駆け込んだ。
「…なんだ?」
陸は億劫そうに、目だけ隆次の方を向けた。
「ゆゆゆっ幽霊が!」
「…あぁ、そうか」
陸はそれだけ言うと参考書に目を落とした。
「いやホントだって!」
「もし世界が100人の雷堂だったら、入れ替わってる!系のサブカルなんてないんだろうなー」
名似何は呟いた。
「…お前はな、」
少しだけ相手した方がよさそうだと判断したのか陸は顔を隆次に向けた。
「もちょっと冷静になれよ」
「いやでも…」
「少年、諦めとき?」
隆次は肩を叩かれた。
隆次がそちらを向くと、名似何しかいない。
「…え?」
「ペリー来る前ならともかく、今時幽霊なんて信じるやつなんかおらんやろ」
「…矢手弓?」
「ウチは幽霊なんやから憑依なんて朝飯前に決まっておるやろうが」
名似何の体を借りた少女(以降、身体の方の名前を優先する)は、からからと笑った。
「…そ、そういうもんなのか?」
今は隆次の部屋で、幽霊の存在をあっさりと信じた彦九朗と何か知っているような口ぶりのシルヴィーを招き入れている。
「そういうもんや。幽霊は出るんも入るんも自由自在や。…ま、ゆうても相手が、入ってくんなや!って思ぅてたらそんな長持ちはしぃひんから、酔っ払ったおっちゃんとかに憑いて遊んだり位しか出来ひんけどな」
「じゃあ矢手弓は、憑かれてたいのか?」
「全然抵抗せぇへん。…まっ、面白半分やろうな」
「つーかなんで矢手弓に憑いたん?」
「いやなんかこいつ…隙の塊やんけ?で、憑いたらどない反応するんやろなと思ったんよ」
「反応はどうだ?」
「さっきな、ぼっとしてたいさかいに体動かしといてゆっとった」
「どんだけぐうたらなんだよ」
「ふはははは。まさか本物の幽霊に会えるとは、我の過ごした今までの無限に等しい時も強ち無駄ではなかったようだな。で、名は何と言うのだ?」
「矢手弓でーす」
「なんで体の方の名前なんだよ」
「ははは、冗談や。ウチの名前は惟紋 科菜。よろしゅう」
「宜しく」
「シナモンはこの家が建つより前にこの地に住み着いているんですの」
やはりシルヴィーは科菜のことを昔から知っているようだ。
「つぅても別に自縛霊やないけどな…で、自分らはどない名前なの?」
「…あぁ俺は雷堂 隆次で、お前が今憑いてるキチガイが矢手弓 名似何だ」
「我は蒲生 彦九朗であるぞ」
「にしても銀ちゃん、今日来た人達って、何の集まりなん?」
名似何はシルヴィーに目を向けた。
「THE STEGOの面々ですわ」
「あぁ!あの!」
名似何は手をパンと叩いた。
「あ、あのってどんなのだ?」
「いやはや、噂に聞いておりますわ。やんわり言うなら、みんな変わってるんやろ?」
「やんわり言ったらな」
そんな感じに平和に話をしていると、
ボガァァァアン!
別荘の外壁にかなりの破壊力を持った物がぶつかったような音がして、別荘が震えた。
「な、なんですの!?」
ここの持ち主の家族が辺りを見回した。
「龍神がお目覚めになったのだー!」
彦九朗は両腕を広げた。
玄関からは、慌てたようなドタドタといった足音がした。
「俺達も行くぞ!」
「当然ですわ!」
「おっしゃ!」
「変身だ!」
「…!」
隆次達は外に出た。
ドゥーンと誰かが言い争うような声がしたので隆次がそちらを見ると、慌てふためくドゥーンが1人の女が対峙していた。
その女はかなりの美人の為、状況からしてドゥーンの妻だろうと隆次は判断した。
「な、なんでこれを壊そうとするんだお!」
「ダイナミック不法侵入よ。も、文句ある?」
「な、なんで普通に入らないお?」
「そ、そんなの…」
女、たしかアスカといった筈だ、は顔を俯かせたが途中で急に隆次達の方を見た。
「誰だ!」
アスカに刺すように言われ、隆次達は仕方無く2人の元に歩いてきた。
「名ぁ乗る程のもんじゃありませんよぉ」
「冗談はいいから」
「…」
隆次は、アスカの刺すような視線にたじろいだ。
「…まぁいいわ。それよりも、」
アスカは隆次をジッと見つめた。
「この別荘で一番強いのは誰?」
「…え?」
隆次は考えてみることにした。
(…俺微妙、矢手弓論外、梨田手練れ、シャドーの装備は強い、Gよく埋められてる、小鷹はてな、高上マイナス、女王2人の恐ろしさは戦闘力じゃない、涅月は鬼畜、略してねつきち、ジョニーは未知、大人達は不明。でも武闘派じゃなさそうだよな…)
「…シャドー、かな?」
「何故に私!?」
「いや…色々持ってるから」
「へぇ…」
アスカはシルヴィーを猛獣の目で見つめた。
「ア、アスカ?ここでバトルは…」
「黙れ」
アスカはドゥーンを一瞥しただけですぐ視線前に戻した。
「…こ、こうなったら、やるしかないですわね。これだけは使いたくなかったのですが…」
シルヴィーは近くにあった群集する植物の中から何かを取り出した。
「このM320で」
ガシャ!
先程までシルヴィーの手に構えられていたM320は、アスカに蹴られ一瞬で、隆次から見て右に飛んだ。
ドーン!
M320は地面に落ちると爆発した。
「えっ…!?」
「…これが、最強?」
アスカは失望したような目をシルヴィーに向けた。
「っ…!」
シルヴィーは一歩下がった。
「…」
アスカはゆっくりと前に進んだ。
「ちぃと待てや」
名似何はシルヴィーとアスカの間に立ち塞がった。
「…何?」
「ここの最強が誰だか知らへんけど、いきなりラスボスと戦おうなんて甘すぎやと思わへんか?」
「…」
アスカはほんの少しだけ身構えた。
そこで名似何は後ろを向いてシルヴィーを見た。
「一宿一飯の礼や。助太刀するで」
「シナモン…」
シルヴィーはふっと笑った。
「一宿どころじゃないですわ」
「あと一飯も貰ぅてへんしな…つーわけで、ウチを倒せんと、ここのドンは倒させへんで…」
名似何が威勢よく叫んだ瞬間には、アスカは名似何との距離を詰めていた。
ドガァッ!
名似何は後方に吹っ飛んで扉に衝突した。
「はっはぁ!」
しかし科菜はピンピンしている。
「…幽霊」
「そや。ウチは幽霊や。誰かに憑依せん限り触れることも触れられることも出来ひん。そないウチに、どうやってダメージを与えるん?」
「…で、あんたは私にダメージを与えられるの?」
「まぁそれは色々ある」
「…へぇ」
アスカは扉の前に立つと扉を破壊する気か拳を固め始めた。
「おい!闘えや!」
「やだあんためんどい」
「んなっ!なめんな!」
科菜がアスカに触れた。そしてその瞬間、眩しい光が放たれた。
「っ!」
隆次が目を開けるとそこに科菜の姿は無かった。
「はっははー!体貰ぅたでぇー!」
アスカが急に大阪弁で叫んだ。
「ひゃっほう!」
アスカは助走をつけて飛び上がると、そのままコンクリートの地面に頭からダイブした。
「…ほな」
科菜はギリギリで離脱した。
ガザッ
しかしアスカは自由を得るとすぐに手で地面を押して、空中で1回転した。
「やりおる!」
彦九朗は腕を組んで偉そうに叫んだ。
「…成る程、面倒ね。…なら、」
「次こそは!」
科菜はアスカの元に突っ込むが、軽くかわされる。
それによって玄関への距離が科菜より近くなったアスカは、扉に向かって走った。
「あっ!待て!」
科菜は慌てたように追いかけた。
距離と元々の運動能力の差故にアスカの方が扉に着くのは早いが、なにせ扉は鍵がかかっている。それを開けようとしている内に憑依されれば振り出しに戻るどころか、先程のアドバンテージを失うことになる。
アスカは避けようとしたのか跳躍した。
科菜はアスカに触れ、眩しい光が放たれる。
「ひゃっ…ほぉおお!?」
しかしアスカは憑依されることを狙っていたのだろう。
バァン!
「ったぁぁぁぁああ!」
アスカは前頭部を扉で強打した。
それから少しして、科菜がアスカから離れた。
科菜に憑かれることを見越したアスカは、自分の体が無事に地面に降り立てないように態と勢いよく飛んだ。
科菜はその作戦に気づかなかったのかアスカに憑依したが、憑依するとすぐ目の前に扉が見えただろう。
突然のことに驚いた科菜は体勢を立て直すことはおろか、咄嗟に離脱することも出来ず、そのまま扉に頭を打った。
こうなると互いに同じだけの小さくないダメージが入り、あとは身体能力の高い方が先に立ち上がる。
「…軟弱者め」
アスカは悶絶している科菜に吐き捨てるように言うと、少し顔をしかめながら扉と対峙した。
隆次はただ立っていることしか出来なかった。彦九朗も、実質的には殆ど同じだろう。
名似何は蹴りのダメージが大きいのか、下手な人の操るマリオネットのように動いている。
シルヴィーはM320以外にアスカにろくなダメージを与えられる物が無いのか睨むように今の状況を見ている。
底辺は妻を恐れることしか出来ていないようだ。
隆次は、自分達の負けを覚悟した。
(終わりか…)
ヒュッ
何かが空を切った。
「っくゃ!?」
アスカは急に首を少しだけのけぞらせると動きを止めた。
「はりゃほりひゃら」
アスカはそのまま崩れ落ちた。
「…な、何が起こったんだ?」
隆次が駆け寄ると、アスカは眠っているようだ。
「…と、とにかく、彼女をどうするか考えませんこと?」
「そ、そうだな」
「なぁあ!あいつは釜茹でや!」
「ふはははは、これからのアスカさんの未来が救済か破滅か、夫からの主張はありますか?」
「…あ、あんまり雑に扱うと、後が怖いお」
「…全身痛が痛い」
「…」
こうして6人と1幽霊は人型戦闘鬼をどうするかについて話し合った。




