第二十三日[カオス×カオス=めんどくさい]
雷「それにして何であんな大事なこと俺らに言わなかったんだよ」
梨「いや、名似何は知ってたし」
矢「確かに私は既に知っていた。知らないのは隆次、君ぐらいだ」
雷「畜生!」
「ふむ」
ゆったりと揺れるバスの中で矢手弓名似何は己の手元にある電子辞書を眺めていた
「なかなか面白くなってきたな、さて」
パタンと辞書を閉めた何かはおもむろにバスの窓を開き頬骨をつく
「皆には悪いが、私はここでゆっくりと南の島の陽射しとやらを愉しませてもらうとしよう」
誰からも返事が来るはずのない運転手以外誰もいないバスの中でそう呟くと、名似何はどこから出したのかいつのまにか自分の手元にあった野菜ジュースをストローを刺し飲み始めた
事態は20分前に遡る
目的地が無くなってしまったTHE STEGOの一行の乗るバスはまさに混沌としていた
「どうすんだよ!?何とかしろよ小鷹!」
「俺に聞くなよ!」
不用意に騒ぎ立てる者やそれに巻き込まれる者もいれば
「フハハハハ!これぞ、我が混沌の極み!愉快なり!」
「どちらにしろ少し静かにしてもらいたいものだな」
自分の世界に浸る者や全く動じない者もいれば
「ま、私はどっちでもいいけど。ね〜谷津冶君?」
「なんで俺に振るんだ、ってか柳垣お前近いからな!?」
イチャイチャする者達もいた
そんなどうしようもなく収拾のつかない中一人周りとは違い楽しそうにしている男がいた
「グッフッフ。今日は楽しみだお!」
事態を解決するために集まった三人の内の一人、ドゥーンは一人気味悪い笑みを浮かべながら自分のケータイを見つめていた
そんな彼を見兼ねた女王の片割れ瑠美子が冷めた視線を送る
「何が可笑しいんですか、あなたの顔じゃあるまいし」
「か、顔って!?そんな事を言っちゃおしまいだお!」
「ドゥーンさん黙ってて下さい、今私達は忙しいんです」
現最高責任者からの一言ですでに彼はノックダウン寸前だ
「今のおっちゃんのせいかお!?大体なんで事務員じゃないそいつがいるんだお!」
「だって私、ここの準事務員ですから」
「そうですね。瑠美子さんはドゥーンの二倍は働いてくれますしね」
「ぐぬぬ………!」
ドゥーンの言う事にも一理あったのだが、この場では女王の方が一枚上手だった。最高責任者からの鶴の一声があったらそりゃあ反論できない
そんなドゥーンを見かねたのか後ろの方から涅月が現れた
「……次の目的地はもう決まったんですか?」
「い、いえ。まだです」
「そうですか」
『ああ、こいつらダメな奴らだな』とでも言いたげな視線が涅月だけでなく背後にいる生徒たちから向けられ最高責任者は苦渋の決断をする
「みなさん!今日の行動日程が決まりました!」
ザワザワザワザワ
ようやく出された発表に皆ため息を吐きながらざわつく
「今日は」
そう言いかけた所で
プルルル!プルルル!
「あ!おっちゃんだお」
ドゥーンの携帯の着信音で止まった一同は一斉に舌打ちをするのにも構わずドゥーンは電話に出た
「もしもし?あっ!どうしたんだおいきなり?」
電話で話しながらドゥーンはバスから出ていくのを見た隆次は小鷹に話しかける
「あいつに電話って、そんな人間いるんだな?」
「そうだな。俺も少し驚いた」
するとさっきまで柳垣に抱き着かれていた谷津冶がやり取りに加わってきた
「あれは、多分ドゥーンさんの奥さんだよ。しかも、とびきり美人のな」
「はぁ?何言ってんだよ谷津冶。冗談もほどほどにしてけよ」
「同感だな。あんな奴に美人な妻がいるなんて有り得ない」
隆次も小鷹も呆れ果てたジェスチャーを首を振る
「いや、本当だから。確かGも会った事があるはずだぞ」
隆次は慌てて蒲生に詰め寄る
「本当か、G?」
珍しく中二病から抜け出していた冷静な蒲生は普通に答えた
「ああ、あるぞ。いやはやあそこまで美しいと少しばかり信じられないがな」
「嘘だろ……」
「いえ、本当ですわ」
「シャードゥーまで会ったことあんのかよ」
ここでシャードゥーが会話に加わる
「ええ、ありますわよ。あのキチガイには全く似合わない素晴らしい方でしたわ」
「ほらな」
やっと分かったのかと言いたげな顔の谷津冶を気にせず隆次は何やら含み笑いを浮かべながら外を覗いている
「何をしてるんだ、隆次?」
「いや、奴の会話を盗み聞きしようかと思って、キラッ!」
「お前、盗聴は犯罪だって知ってるか?」
ため息交じりの小鷹の問いに隆次はドヤ顔で
「他人の秘密は蜜の味だぜ!」
と高らかに叫びシャードゥーも同調する
「不幸も、ですわ!」
二人は席から立ち上がりバスから飛び出していった
見送った面子は
「どうするんだよ、梨田?あいつら本当に盗み聞きするつもりだぞ」
「まあ、いんじゃね?」
「そだな」
すぐさま何も無かったかのように駄弁り始めた
かと思いきや
「ヤッツー!」
いきなりバスの中に戻ってきたドゥーンが梨田の元へ
「何すか、ドゥーンさん?」
気楽に構える谷津冶とは対照的にドゥーンの表情は酷く錯乱していた
「大変だお!アスカが!アスカがこっちに来るんだお!」
「アスカ?アスカって誰だよ梨田?」
小鷹が尋ねようとしたらいつの間にか梨田の表情も暗いモノへと化していた
「………おい、梨田?」
小鷹が触ろうとした途端
「ど、どうするぅぅ!?」
梨田が高らかに叫び周りはおののく
「どうしたの、梨田君?まるでビッグフットが丸刈りコーンを食べたみたいに驚いちゃって」
「………その方が、良かったかもな」
「え?」
「ドゥーンさん、早く迎えに行きましょう!あの人が町に放たれたら大変な事になりますよ!」
「そ、そうだお!急ぐお!」
急いで手荷物を手に取った梨田とドゥーンは慌てて出口に向かう
「何してるんですか!勝手な行動は慎んで下さい!」
「席に座って下さい」
最高責任者と瑠美子が止めに入るが
「サーセン!」
「すまんお!」
妨害虚しく窓から飛び降りた二人は猛スピードで走り出しあっという間に姿が見えなくなった
ザワザワザワザワ
再び周囲がざわつく中最高責任者は何も無かったかのように手を叩き話を切り出す
「それでは邪魔者も消えた事ですし、皆さん!今日の目的地は!」
言いかけた所で
「あ、私今日自由行動しま〜す。梨田君を探さないと」
「え?」
「じゃあ俺も」
「ええ?」
「フハハハハ!ならば俺も同行しよう!」
「私も家族へのお土産を見たいから失礼します」
「葉子先輩が行くなら私も〜」
「……………」
「えええ!?」
続々と皆降りていってしまい、バスの中には最高責任者と瑠美子以外名似何しかいなくなってしまった
「そんな………なぜ?」
「せっかくの集団行動が」
そう言いながら二人は互いの傷を嘗め合うように愚痴を零しながらバスを後にする
そして時は今に戻る
皆々出払い無人となったバスの中で思う存分野菜ジュースを満喫した名似何はようやくバスから出る
「さて、どこに向かおうか」
「お〜い、名似何ぁ〜」
「ん?二人共、何をしているんだ?」
名似何の視線の先には先程威勢良くバスから飛び出した隆次とシャードゥーが立ち尽くしていた
「迷いました、なんて言いませんわよ」
「そうか、迷ったのか」
「ああ、谷津冶とドゥーンを追いかけてる内に見失っちまった」
「ですわ」
汗をかきうなだれる二人とは対照的にスッキリとした表情の名似何、はたからみたら奇妙な組み合わせだ
「それで、結局今日の予定はどうなったんだ?」
「自由行動になったな。各自ペンションに戻れば良いと言った所だろう」
「そうか。ならどこかに行くか」
切り替えた隆次とシャードゥーに名似何が提案する
「行きたい所があるのだが………」
「どこか知りませんがとりあえずタクシーを呼びませんこと?暑くて干上がりそうですわ」
「ま、そりゃそだな」
「確かに」
「それでは、まずどこか涼しい所に向かいますわよ!」
張り切るシャードゥーを先頭に三人はゆっくりと歩き出した
こうして、なんやかんやで二日目の午後が終わった
どもどもロマンです、皆さんおひさです。
さて今回についてなんですが、途中『アスカ』という人物の名前が上がった事をお気づきでしたか?
『あれ?コイツの名前って見た事ないな?』とお思いになられたかもしれません。大丈夫です、彼女は初めての登場になります!
アスカについてはおそらく名前だけは出しますが、実質活躍してもらうのは今書いている外伝の中だけにしようかなと思っています
それでは、ではでは!




