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第二十二日[イッツァ アッチョ]

矢「それで、どうして遅くなったんだい?」

梨「いや、何も」

雷「なかったさ」

「遅い!」

「今何分だと思ってるんですか!」

足音と先程の事件で最も被害を受けた2人の非難の声で名似何が前を向くと、隆次達が全員固まってバスに乗り込んできた。

「申し訳御座いません」

葉子は美毅と瑠美子に頭を下げた。

「どうしても、今確認しなければならないことがありまして」

「何を確認したの?」

「それは、話せません…失礼します」

葉子はまた頭を下げるとバスに乗っていた人全員に謝罪していった。

「…いやぁ、すまん」

隆次が美毅と瑠美子に謝ると、2人からは殺気に近いものが漂った。

「それ謝ってるの?」

「別に葉子ちゃんみたいにしっかりと謝ることは期待してないですけど、流石にそれはないですよ」

「…ごめんなさい」

それから各人謝って許されたり赦されなかったりしながら、各々がバスに戻った。

「みんな一緒に戻ってきたけどどこで会ったの?」

名似何は身を乗り出して隆次に尋ねた。

「いや、別に、俺とシャドーがそこら辺をうろうろしてたら、滝んとこで涅月にエンカウントした」

「滝か…私達も行ったんだよね」

 「そうなのか?」

「時間がずれたようだ…で、柳垣とはいつ合流したの?」

「あっと…そん時涅月とおったんだって」

「…ふぅん」

名似何は情報は引き出したが特に考えなかった。

「…あ、そうだ」

名似何は自分のリュックの中から電子辞書を取り出した。

名似何は画面を周りから隠すようにしてあることを調べ、ついでにもう1つ調べて履歴に保存した。

内容は大方予想通りだったと思いながら、名似何は電子辞書を閉じた。

「…潮雲丹では、ない」

名似何はそう独り言を呟くと、実の伴わない、勉強に似た動作を始めた。



バスの中で美毅と瑠美子による取り調べが行われ葉子を始め取り調べるも強敵だと悟った2人が谷津冶を取り調べて(生憎ここの取り調べにはICレコーダーによる録音が無い)谷津冶が精神的に疲弊しきったような顔をしてついに葉子が2人に意見するという異例の事態が起きはしたものの、誰もたいした収穫を得ずにバスはレストランに到着した。

「ここは、私の叔父が経営してますの」

シルヴィーが向いた先の店は『traitre』という名前の、いかにもフランスと言った外観の店だ。

「へぇ、シャドーの叔父さんって料理作ってんだ」

「とは言ったもののここの料理、なかなか難がありますので構えておいた方が身の為ですわ」

「難って…?」

「ふふふ…」

隆次の問いにシルヴィーは楽しそうに微笑むばかりだった。

「ふはははは!我に炭水化物と蛋白質と脂肪を与えよ!さすらば我が腹は膨れん!」

急に叫びだした彦九朗に瑠美子が分かりやすく嫌そうな顔をしたが、彦九朗は気にしないし周りは見て見ぬ振りをするばかりだ。

「炭水化物?この噂の多い料理店に?」

名似何は呟いた。

そんなこんなで一同は入店し、もろフランスな感じの紳士からの「いらっしゃいませ」を受け(案外不自然ではない)、空いている席に案内された。

「席、どうする?」

THE STEGOの現最高責任者は全員を見回した。

「その前に、何人いますの?」

シルヴィーは人を数えだした。16人いる。

「じゃあ…8、8ですわね」

そして席配分になるのだが、そこで問題が秘密裏に発生した。

ドゥーン(変態型歩行式底辺理解用有機物)をどちらにいれるかである。

単純に考えれば、男女に分けることで問題は解決する。

しかしそうなると隆次とシルヴィー、谷津冶と真夕が分離することになり、男2人が口にはしないもののどこかぽっかりと耳に穴が開いたような様子を醸し出していたので躊躇っていると、8人掛けの席が別の団体に取られてしまった。

 どうせ男女で分けても男女比偏ってるから決まらないだけだと某すっぱい狐みたいなことを誰かが言いながら、別の席に行って3組に別れることになった。

「となると…6、5、5辺りですわね」

というわけで、メンバーは決まった。

A席 美毅、瑠美子、葉子、未来、陸


甲席 谷津冶、真夕、正孝、隆次、シルヴィー、名似何


α席 ドゥーン(処理困難な廃棄物)、THE STEGOの現最高責任者、エボン、彦九朗、深宮



「…ねぇシルヴィーちゃん」

美毅は首を伸ばしてシルヴィーを見た。

「なんですの?」

「お勧めのフランス料理とかあるー?」

「んー、まぁそういうのは個人個人の好みですし、カルトゥ、メニューを見て決めませんこと?」

「ふーん。で、メニューは?」

「こちらにあります」

一同が声のする方を向くとそこには、畏敬てる男達の中の1人と言う人も少なくないだろう30代後半の男がいた。

「エージさん、お久し振りですわ」

「その渾名は止めてくれないかな」

男は苦笑した。

「エージ?」

隆次が怪訝な顔をしてシルヴィーを見ると、ええ、とシルヴィーは涼しい顔で頷いた。

「彼、オンギャ・ブルズという名前ですの。ですがオンギャって、日本では赤子の産声の印象がありますわよね?というわけで、d'enfant、フランス語で赤子のことです、という渾名は考えついたのですが、なんだか面白くないと思って色々と日本語を調べると、生まれたばかりの赤子のことを、嬰児と言うそうではありませんか」

「嬰児?どんな字?」

「こんなキャラクター」

名似何は辞書で調べた結果を隆次に見せた。

「へぇ…乳児と同じ意味なんだ」

「…というわけで、エージなのですわ」

「お恥ずかしい」

「これはどうも、」

THE STEGOの現最高責任者は立ち上がってオンギャに礼をした。

「いえいえ、姪がお世話になっております」

「いえいえそんな、」

「…」

ドゥーンは不機嫌丸出しで立ち上がった。

オンギャもそれを見てほんの僅かな間蠢く汚物を見るような目で見ていたが、すぐに社交的な笑みを見せた。

「姪がお世話になっております」

「ほんっとに世話だお」

ドゥーンは子供だった。

「それはそれは…失礼しました」

オンギャは僅かな間ヘドロを撒き散らす吐き気がするような醜いウイルスの集合体を見るような目をしたが、すぐに冗談で済ませようとしたのか微笑んで頭を下げた。

「…で、」

オンギャはエボンに目を向けた。

「あなたはどうしているんですか?職員じゃないでしょうに」

「シルヴィーの付き添いじゃ」

「なんでもありですね」

オンギャは笑った。

「…まぁともかく、『traitre』流の料理を、心ゆくまでご堪能下さい。…では」

オンギャはそう優雅に言うと恭しく頭を下げ、立ち去っていった。

「…さて、」

名似何は先程渡されたメニューを読んだ。

「…」

名前はよく分からないが豚足に肉を詰めたソーセージ、トマト味のパスタ入りシチュー、茄子やピーマンやズッキーニの煮込み、さらにザリガニまである。

「おい梨田これ食えよ」

隆次はメニューを指差した。

「あぁ、ザリガニね。…そうか、食うのか雷堂」

「違ぇよお前が食うんだよ」

「俺が?まっさかぁ」

「食えよリア充」

「だからお前もリア充だろうが」

「そちらは決まった?」

THE STEGOの現最高責任者は立ち上がって名似何達を見た。

「あ、はい」

真夕が笑顔で答えた。

「「「えぇえ!?」」」

名似何と隆次と谷津冶の三重奏。

「色々違うにせよ、主菜はみんな『ノーブル・クレイフィッシュ』でした」

「おい柳垣!」

 谷津冶はザリガニの驚異から逃れようと叫んだ。

「本当にそうなの?今なら変えられるけど」

THE STEGOの現最高責任者は微笑みながら言った。

「あとアロース・コン・アルハメス追加で、と言いながら頼むのは私達なのだが」

名似何は手を挙げながら言った。

「アロースコンアルハメス?」

隆次は怪訝な顔をした。

「適当に略すとアサリ風味の炊き込みご飯。…あとは、アホ・ブランコか。量多すぎて値段が心配なのだが」

 「ちょ矢手弓。話進めんな」

 「まぁ流れだよ流れ…ザリガニも相対的には高くないし」

 名似何にとって最優先に近いのは金額だった。どっちにしろ名似何の料理の判断基準は美味しいかそうでないかであり、また美味しくないと思うことは稀だった。

 「いや俺降りるわ」

 隆次は手を挙げた。

 「じゃあ、俺も」

 谷津冶も手を挙げた。

 「食べないの梨田君?つまんなーい。…じゃあ私もやーめた」

 「…」

 正孝は両手で×をつくった。

 「みんなやめるなら私もやめますわ」

 「…」

 名似何は孤立した。



 「いやぁー、食った食った」

 隆次は自分の腹をさすった。

 「グッダグッダだった」

 名似何は少し恨めしそうに言った。

 「…で、みんな何食べたんだ?」

 隆次は陽気に周りに顔を向けた。

「俺はプンパニッケルとスヴァルトソッパとルートフィスクだな。デサートなんかとてもじゃないが買えなかったな」

「…」

彦九朗の答えに、あの惨事を思い出した隆次は黙った。

メニューに『悪臭注意』と書かれていたルートフィスクは、彦九朗の元に運ばれてくるまでにも悪臭を放ち、周りの空気を物理的にも比喩的にも一変させた。

ついでにスヴァルトソッパとはガチョウの血を使ったスープで、彦九朗をして『いやはや驚いたな。名前もさることながら、ガチョウの血を使っているとは。ガチョウの血だぞ?goose bloodだぞ?』と言わしめた程の逸品である。

 「にしても、フランス料理って変なのばっかだな」

 隆次はシルヴィーを見て言った。

 「…リュージ、あそこの料理は難があると言った筈ですわよ」

 「あぁそうか。珍味を集めたのか」

 「それ以前にあの店…」

 シルヴィーはそこで言葉を切った。

 「フランス料理を全く提供していませんわ」

 「…え?」

 隆次は固まった。



なんやかんやで一同はバスに着いた。

「…皆さん!」

瑠美子がバスの中央まで駆け抜けた。

「どうしたんだ?」

隆次は呟いた。

「なんと!これから行く予定だったとこが、臨時休業中だったそうです!」

「ぇぇえ!?」

谷津冶は叫んだ、

「大変じゃん!」

真夕も叫んだ。

そして一同に、なんとも言えない空気が漂った。

いや〜それにしてもドゥーンさんはなかなか嫌われてますね

そこで言うのもなんですが、自分も外伝を書かせて頂く事になったことをこの場を借りて報告させていただきます!

かなり長めの話になりそうなのですが、主役の方は今のところ一人に決めていまして本編の主要キャラを数人は出す予定です!


それでは、またお会いしましょう

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