第十一日[露知らず、夜風になびく、夏花火]
雷「怪談て……」
矢「いいじゃん。夏らしくて」
梨「どうせ怖い思いをするのは俺だけだしな……」
それは、唐突の事だった
退院まで残り数日となったある日、相も変わらず平穏な朝を迎えた谷津冶の前に現れた朝倉が妙な事を口走る
「ねえねえ!梨田君はあの噂、聞いた?」
「はあ…何のですか?」
読みかけの新聞を閉じ谷津冶は点滴を入れ替える朝倉に問い掛ける
「フルッフー!それは例の怪奇事件の事であろう。」
隣のベッドで寝ていたはずのエボンが話に加わる
「そうそう、それそれ!何か最近その事で病院中が大騒ぎなのよ〜」
朝倉が楽しそうに話すのを見ながら梨田はふと心の中で呟いた
(この人、看護師だよな……)
そんな彼の心情を余所に朝倉は話を続ける
「実は、この病院幽霊が出るらしいのよ!夜遅くの倉庫に手術に失敗して亡くなった患者のね」
「な、何だってー!?」
わざとらしく恐く話す朝倉にエボンがわざとらしさMAXで驚き楽しそうに盛り上がっていると、突然部屋のドアが開けられ別の人物が入ってきた
「くだらんな。子供遊びもいいところだ」
やってきて早々黒紐は冷たく言い放ちすぐさま作業を始める
「ちょっとー何よいきなり!あんた、私の話がくだらないって言いたいの!」
自分の話をくだらないと一蹴された朝倉がつけよると黒紐は全く気に病んだ様子ではなく淡々と答える
「勘違いするな。私はそのような非科学的でしかも面白みにおいて完全に欠けている噂を信じるという人間自体がくだらないと言ったんだ」
「それって私がくだらない人間だって言ってんのかしらねぇ!」
全く詫びる様子を見せずしかもより一層コケにされた事で怒りのボルテージが頂点に達した朝倉を襟を掴まれるが相も変わらず黒紐は全く気にしない様子
(フルッフー、どのような事が起きても顔色一つ変えないこの男こそがある意味怪奇なのかもしれないかものう)
エボンがそう考えているとふと、先程から全く発言をしていない人物に気付く
「どうしたと言うのだ少年よ、先程から顔色が青いぞい?」
隣のベッドでは真っ昼間にも関わらず少年こと谷津冶が布団の中に潜り込みブルブルと震えていた
「べ、別に!び、ビビってなんかねぇからな!勘違いすんじゃねぇぞ!」
「いや別にビビってるとまでは言ってはないのだが」
しまったと言わんばかりの顔をした谷津冶に先程まで全く興味がない様子だった黒紐が突っ掛かる
「そんなに怖いのなら今晩付き添ってやろうか?百万で」
「高ぇよ!」
「ふむ、なら高くなかったら頼むつもりだったのか、少年?」
「どうしてそんな解釈をするんだ……」
二人から言葉攻めにあい朝倉に助けを求めようとするもののすでに朝倉の姿はなかった
「くそぅ!万事休すか!こうなったら」
病室からランナウェイしようかと扉を開くとそこには見覚えのある顔が現れた
「オーイ、谷津冶。見舞いに来てやったぞ」
「(一発)見舞いに来てやったぞ」
「何言ってんだよ、お前ら……」
「フハハハハ!病院、まさに良い響きだ。俺の左目が何か起きると告げているぞぉ!」
「隆次、名似何それに小鷹と蒲生まで!ちょうどいい、助けてくれ!」
「はぁ?何言ってんだよお前?」
「とうとう頭がおかしくなったのか……」
「とにかく!その話は後でいいから今は別のどこかに」
憐れみの視線に構っている暇がないチキン(谷津冶)は無理矢理病室から出ようとしたが
「あら梨田君、どこに行こうとしているのかしら?」
「げっ!看護師さん…」
新たに現れた朝倉の先輩看護師に捕まってしまい、脱走が発覚したチキンもとい谷津冶はその場で正座させられお説教を拝聴する羽目に
「いいですか!だいたいあなたは柄の悪い入院患者として有名なんですから、大人しくしておいてもらわないと困るのは私達病院側なんですよ!」
「……はい」
「それに退院間近とはいえ、あなたは数日前の爆発で一度死にかけたんですからまた傷が開いてもおかしくないんですからね!それを肝に銘じておくように!」
「……はい、すみませんでした」
「あいつ大変だな…」
「まあ自業自得っちゃあ自業自得だね」
「つーか、あいつ一回死にかけてたんだ…俺知らなかったよ」
「ふぅむ、そしてあの扱いとは少し同情するな」
見舞いに来た小鷹、蒲生、名似何、隆次の四人は本来谷津冶が寝ているはずのベッドの傍らから距離を取ってお説教の様子を眺めていた
「だいたい!なぜ病室から逃げ出そうとしていたんですか!」
「その事なら自分が説明します」
脱走の元凶である黒紐がいけしゃあしゃあと先輩に淡々と告げ口を始める
「実は、あの小僧が例の怪談話に怯えきってしまいこの病室から逃げだそうとしていたんです」
「ちゃうわ!自分らがしつこく聞いてきたからやろが!」
「フルッフー!何の事だか分からないなぁ!」
「全くだ。恐怖のあまり思考までも歪んでしまったんじゃないのか」
精一杯の反論すらも黒紐にしれっと受け流されてしまい万事休すかと思いきや
「まあいいわ。とにかく梨田君は、あまり騒がないで下さいね。それじゃ行くわよ黒紐君」
そう言い残して先輩は黒紐を連れて病室を出て行ってしまった
先輩と黒紐がいなくなりその後谷津冶はベッドに戻り見舞い組が周りを囲むように座り先程の話の続きが交わされていた
「怪談にビビったか、まあ谷津冶だしな〜仕方ないだろ」
「谷津冶にはその手の話でビビるなという方が無茶だからね」
「って、おい!ちょっ待てや!」
「ほぅ?君達はこの少年についてよ〜く知っているようだなぁ。知り合いか何かかな?」
隣のベッドで寝ているエボンの質問に対して二人は声を揃えて答える
「「ただの腐れ縁だ」」
それを聞くとエボンはいきなり笑い出した
「フルッフー!少年よ、私は君を柄の悪いただの糞ガキかと思っていたが、違ったようだ。評価を訂正しよう、ありがたく思いがよいぞい」
正座地獄から解放された谷津冶はゆっくりと立ち上がりながら体をチェックしながら応えた
「どうもありがとう」
完全に棒読みだ
「そういえば、谷津冶がビビった怪談話ってどんな奴なんだ?」
思い立った小鷹がそう言うとどこからともなく朝倉がいきなり現れ
「はいはーい!それなら私が知ってまーす!それはね」
そう言うと頼んでもないのに説明を始めた
かくかくしかじか
「倉庫の中の謎の声と目玉についての話、か。なんかありきたりだな」
「まさにボキャブラリーの少ない人が作ったって感じだね」
「ちょっとー何よあなたたちまで私の話にケチをつけるのぉ!」
素直な感想を言った二人は物の見事に魔王(朝倉)をムキにさせてしまった
そんな様子に痺れを切らした小鷹が話を切り出す
「なら、実際に行けばいいんじゃないか」
投げやりであったが彼の一言は雷堂、矢手弓、朝倉のやる気を引き出すのには十分であった
三人は示し合わせたように互いを見つめ頷き一斉に同様の言葉を発した
「「「調査開始だ!!」」」
その声の大きさは病院中に響き渡る程であった
数時間後
すでに消灯時間も過ぎ病院の中は真っ暗闇である
そのなかを言いだしっぺの雷堂と矢手弓、嫌々付き添う小鷹と梨田、そして合流した柳垣が進んでいる
他の人間はというと蒲生は普通に塾があるため帰宅し、朝倉については大人の事情で割愛するけど……良い子の皆は言わなくても分かるよね
「それにしても夜の病院って本当に暗いんだな」 初めて体験する夜の病院に対してワクワクとしている小鷹
そんな彼とは対称的に谷津冶は全く違うようで生気の抜けた青い顔をしてる
だが彼の隣にくっついている女の子は周りを興味津々に見つめている
「ねえねえ、梨田君見てくださいよ!あの人体模型凄く梨田君に似てますよ!」
「…………そうか」
もはやツッコミする気力すら残っていないようだ
そんなこんやする内に一行は例の倉庫の前に着いていた
「どうする?最初に谷津冶が入るのは決定事項だからいいとして」
「おい待て。何でよりによって俺が一番なんだよ」
谷津冶が文句を言おうと身を乗り出すと名似何が肩を掴んで無理矢理止めた
「君なら大丈夫だよ。絶対に帰ってくる」
「……名似何」
感動の場面に思いきや
「まあそういう事言われるキャラってスグにやられるんだけどね」
この一言でおじゃんである
結局、公正なじゃんけんの結果一番は谷津冶になり皆が見守る中一人恐る恐る入っていった
しかし、五分程経過しても中からはうんともすんとも聞こえてこない
「どうなったんだろう?」
気になった柳垣が中を覗こうとしたら
「来るな!」
内部から谷津冶の声が聞こえてきた同時に
ドォーン!ギャギャギャギャギャ!
ものすごい大きな爆音が響き渡った
「ったく、中はどうなったんだ?」
気を失った周りとは違い早めに回復した小鷹が内部を確認すると少し離れた所で壁にもたれ掛かっている谷津冶がいた
「おーい、無事か?」
「……………」
呼びかけても返事は返ってこず
「おーいってば!」
ピチャ
痺れを切らし、駆け寄った小鷹の足元には何やら液体があるが暗闇で色を確認できない
「……嘘だろ?」
恐る恐る谷津冶の体を揺らすが何も反応がない
「おい!ふざけるのも対外にしろよ!」
次第に動揺の色を増す小鷹の声
「もういい!勝手にしろよ!」
怒った小鷹が返事をしない谷津冶をそのままにして部屋から出ようとしたら
バタン!
ものすごい勢いで扉が閉まった
「ふざけんなよ!俺はまだここに居るんだぞ!」
扉を強く叩きながら外に呼び掛けるが一向に返事も扉が開く雰囲気さえない
そのような行為のせいで息を切らし始めた彼が携帯を開き誰かに連絡を
「待て」
背後から肩を掴まれる
「………梨田!」
そこには平静とした谷津冶がいた
「………お前、怪我したんじゃ?」
「あれはただの消毒液だから血ではない」
「そうか……つーか本当にいたのか幽霊?」
「いや幽霊はいなかった。入ってすぐに目玉もよく見たら人体模型の一部だったし声も録音されていただけだった」
「ならなんであんな爆発が起きたんだよ?」
「………エボンだ」
「は?」
「あいつ、新種の可燃性のあるガスを作りやがってここで実験してやがった。そんで今日俺らが来る事を知ってあらかじめ爆発するようにタイマー設定してやがったんだ。まあ幸い起爆前に発見して無理矢理中断させたから被害は少なかったんだが、見ろよ右腕が折れた」
そう言って振り上げた右腕は真っ青に晴れ上がっている
「でも、爆発を防いだならなんで俺達が閉じ込められたんだ?」
「それは看護師がやったんだろうな。謎の爆発が起きたんだ、今頃消防車を呼ぶために時間稼ぎでもしてるって所だ。」
「…お前、よくそんな冷静でいられるよな」
「そか?」
「幽霊にはあんなにビビってたくせに」
「俺は殴れる物なら怖くないんだよ。まあどうせあと十分ぐらいで救助が来るんだ、ゆっくり待つ事にしよう」
その後、二人が救出されたのは二時間経った後のは事であった
最後の閉じ込められたシーンで谷津冶と小鷹を選んだ理由についてちょっち説明したいと思います
一人目の谷津冶はただ単純に彼等の中で一番体が頑丈だったから選びました
もう一人についてですが、一応柳垣にしようかと思ったんですけどやっぱり女の子なので却下
他の人達はあまりしっくりこなくて消去法で小鷹になりました
でもよく考えたら小鷹ってなにげに一番まともなんですよね。
では、またお会いしましょう




