花祭り 《ヒロインにアクシデントは付き物》
俺は、乙女ゲームや恋愛小説をなめていたかもしれない。
ヒロイン(仮)が現れて、漸く物語が開始したのか、怒涛の勢いでアクシデント発生中。
まず、アンジュ嬢が歩くと、何も無いのに躓いて、攻略対象者の誰かにぶつかる。
躓いて殿下に支えられたときは、顔面蒼白になり、気絶しそうになっていた。
「申し訳ありません。皆さんに、迷惑をかけるので、端っこを歩かせて下さい。すみません。すみません。」
余りにも躓くので、隅っこを慎重に歩き出したアンジュ嬢。
しかし、そこにも問題があった。
今日は、祭りの二日目。昨日と違い、大勢の人が祭りを楽しむため外出している。そのため、人通りが多く、歩くのも擦れ違うのもやっとの中、すぐ逸れてしまう。
「ユーリ、アンジュが人混みの中で動けなくなってる。戻って助けてあげて。」
リリの焦る声に後ろを振り向くと、辛うじてピンクの髪色が見えた。人を掻き分けアンジュ嬢を助け出す。
「ひゃあぁぁ、またまた、すみません。」
アンジュ嬢が、謝ろうと頭を下げるも、人混みの中で、距離が狭くて俺の胸に思い切り頭をぶつける。
「ゔぅっ…。だ…大丈夫だから、謝らなくていいよ。取りあえず、皆のところに戻ろうか。」
「は…はい。」
人混みを避けながら、何とか皆の元へと辿り着く。ここまで、かなりの疲労感。
「コルトブル男爵令嬢は、人混みに慣れてないようだから、誰かエスコートしてあげたらどうかな?」
セドリック殿下の提案に、全員が一斉に俺の方を振り向く。
いやいやいや、俺にはリリの護衛という大切な役目がある。
こんなに躓いて、逸れてしまうアンジュ嬢を庇いながら、リリの護衛は無理なので、お断りさせていただく。
「ユーリなら、何度かアンジュとも会っているから、ちょうどいいわね。ユーリ、アンジュが迷子にならないようにエスコートお願いね。」
断ろうと口を開いたら、まさかのリリからエスコートを頼まれる。
「俺は、リリの護衛も兼ねてるからアンジュ嬢のエスコートは無理だよ。そうだな、エリオットなら、アンジュ嬢も安心じゃない。」
ここは、エリオットに押し付けよう。
「そ…そんな、エスコートなんて、わた…私は、一人で、平気です。皆さんの邪魔にならないよう頑張ってついていきます。」
アンジュ嬢が、ペコペコ頭を下げるごとに、皆の俺を見る目が冷めていく。
「わぁぁ、わかったよ。アンジュ嬢をエスコートするよ。ほら、俺に掴まってくれ。」
仕方なく右手を差し出すと、彼女は戸惑いながらも手を乗せた。
そのまま、その手を俺の左腕に絡める。
「俺は、リリの事も護衛しないといけないから、しっかり掴んで離さないようにね。」
「は…はひ…」
顔を真っ赤にしたアンジュ嬢は、小刻みに震えながらも、俺の左腕をしっかり掴んでいた。
「それじゃあ、行きましょうか。」
リリのかけ声に、皆が歩き出す。
リリと繋ぐ予定で右手を出すと、リリは無視して歩き出した。
「ちょっと、リリ、手は?手を繋がないと迷子になるから、ほら、手。」
首を傾げて不思議そうな顔をしてから、首を横に振って、平気だとアピールする。
「私は、一人で大丈夫なの。真ん中を歩くからビアトリスや殿下達の側にいるわ。それよりも、ユーリもアンジュも、ちゃんと付いてきてね。」
「そうだね。ユーリアスはアンジュ嬢のエスコートに集中していいよ。私とビアトリスもいるし、オリヴァーとエリオットもいるしね。」
伸ばされた俺の手は、無情にもリリの後ろ姿を追いかけるだけで、天使を掴まえることは出来なかった。
それからも、アンジュ嬢は、不運に見舞われる。
「キャー引ったくりよ!誰か捕まえて!」
突然の叫び声。声のする方を振り向くと、男が全速力でアンジュ嬢の方へ向かってきて、勢い良くぶつかった。
「キャッ!」
よろけて倒れそうになるアンジュ嬢を引っ張り抱き寄せる。
「オリヴァー!あの男だ。捕まえろ!」
「まかせろ!」
瞬時に、オリヴァーが魔法で男を転倒させ拘束魔法で捕まえた。
「流石だな。オリヴァー。」
「これくらいなんて事無い。それより、二人とも平気か。」
咄嗟に抱き寄せてしまったアンジュ嬢を確認すると、驚くほど真っ赤になって放心状態になっていた。
「アンジュ、怪我はない?」
リリとビアトリス嬢が、アンジュ嬢に怪我が無いか確認する。
「どこも怪我してないみたい。よかった。」
「そうね。ユーリアス様に抱きつかれて、驚いただけみたいね。」
なんか、俺がわざと抱きついたみたいな言い方やめて欲しい。
「この男は護衛に任せて、一度休憩しないか。アンジュ嬢も落ち着かないだろう。ちょうどあそこにカフェがある。セドリック殿下、いかがでしょう。」
エリオットの提案に、殿下も頷いて同意する。
「そうだね。ちょっと休もうか。リリアーベルもビアトリス嬢もいいかい?」
カフェが目に入り、リリの目がキラキラ輝く。
「カフェ…ぜひ、行きたいです。お友達とカフェに行くのが夢だったの。」
「決まりだね。」
引ったくりは、そのまま騎士団に引き渡すため、一旦護衛が数名その場を離れた。
「花祭り限定のパフェがあるわ。私このパフェにします。」
メニューを見ると、かなり大きなパフェで友人や恋人など、みんなでシェアして食べられるようになっていた。
「これ、みんなでシェアして食べるものだよ。まさか、リリ一人で食べようとしてないよね?」
「もちろん、一人で食べるよ。えっ?これって一人用じゃないの?」
本気で一人で食べる気だったのか。恐るべし、甘党のパフェ好き天使。
「リリアーベルが食べたいなら注文してごらん。もし食べられなかったら、私が残りを食べようか?」
セドリック殿下が、挑発するようにリリを見つめて笑顔を見せる。
「殿下、何を言ってるんですか。女性の残したものを食べるなんて、冗談が過ぎますよ。」
エリオットが、眉間にシワを寄せて殿下に注意する。
ビアトリス嬢も、冷たい眼差しで殿下を見る。
「リリが残すなら、俺が食べます。殿下は余計なこと言わないで下さい。」
リリのパフェを食べようなんて怪しからん。絶対にリリのパフェは死守する。
結局、リリがパフェを頼んで、男性は飲み物を、他の女性もケーキセットを頼んだ。
「わぁぁ、美味しそう。」
注文したパフェは、大きめではあったが、リリは余裕で食べ進めていた。
「お友達と食べるパフェは格別に美味しいわ。アンジュもビアトリスも今日は付き合ってくれてありがとう。」
「私もリリアーベルとお出掛けできて嬉しいからいいのよ。」
ビアトリス嬢が、リリに向けて嬉しそうに今日一番の笑顔を見せた。
「わ…わたしも…リリアーベル様とお友達で嬉しいです!」
パッと顔をあげて、勢い良く声をあげるアンジュ嬢が、勢い余ってテーブルに足をぶつける。
その振動で大きなパフェが、リリの方へ倒れる。あっ、と思ったときには、リリはクリームやらアイスやらでベトベトになっていた。
「キャー、す…すみません。リリアーベル様に私なんてことを…。」
アンジュ嬢が、慌ててハンカチを取り出すも、慌てすぎて自分の紅茶も勢い良く引っくり返す。それも、何故かリリの方へ中身が飛び散った。
「キャー、また!す…すみません。すみません。」
クリームとお茶で大惨事のリリは、大笑いして、アンジュ嬢を宥めている。
「アハハハ。大丈夫よ。わざとじゃないんだから、気にしないで、それより、アンジュ慌てすぎよ。」
店員さんが惨状を見て、急いで拭くものを持ってきてくれる。
「リリアーベル、この格好じゃ、この後回るのは無理ね。風邪を引いたら大変よ。早く帰って着替えた方がいいわ。」
ビアトリス嬢が、リリの汚れたワンピースを見て、少し残念そうに、でもリリの事を心配した様子で告げる。
「ビアトリス、私ね、いいこと思い付いたの。あそこに洋服店があるてしょ。今から新しい服に着替えてくるから、みんなはここでお茶して待っていて。」
リリはそう言うと一人走ってお店を出ていってしまう。
奥の席に座ったばかりに、リリの動きより出遅れた。
「リリ!一人で言っちゃ駄目だよ。」
呼び掛け虚しく、すでにリリには届いてない。
「ユーリアス様、護衛が一緒に付いていきましたので、着替え終わったらこちらにリリアーベル様を案内致します。どうか学友の皆様とこちらでお待ちください。」
どうやら、ゴルドリッチ家の護衛が、付いていったようだ。
「ユーリアス、護衛がそういうなら私たちもこちらで待っていよう。」
エリオットの言葉に、不安は残るが大人しく待つことにする。
――それから、時間だけが過ぎていく。
「リリアーベル遅いわね。」
ビアトリス嬢が独り言のように、ポツリと呟く。
「俺、ちょっと様子見てくる。」
椅子から立ち上がると同時に、リリの護衛をしていた者が、血相を変えて店内の俺たちのところへやって来た。
「ユーリアス様、申し訳ございません。リリアーベル様を見失いました。」
窓の外には、大勢の人。その何処にも可愛い天使はいなかった。
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