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ある魔導士の帰還  作者: 勝 ・ 仁
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魔獣・老人・マレーナの町



洞窟を出発してから3日、ここまでは大きなトラブルも無く順調な旅路だ

ったが、4日目の昼前に魔狼の襲撃を受けた。

10匹以上の群れが馬車を狙って周囲を並走し始めたのだ。

俺が処理しても構わないのだが、ここは子供達の経験値を稼がせて貰おう。


「ガット、モルナ、バリスタを使って魔狼を撃て」

「サナ、御者席に座って、手綱を持ってくれ」

「デクシスは俺と一緒に死角の警戒だ」


馬車がやや速度を落とした途端に周囲にばら撒かれたバリスタによる死の

矢は、ものの数分で全て狩り尽した。

その数、なんと14匹。

そこら中に転がる、ハリネズミみたいになった魔狼を見て、感心する俺の

そばではサナの説教が始まっていた。

まあ、魔狼1匹に10本近く打ち込んでしまうのは効率が悪いし、矢の装填が

隙を作る事もある。

満点の戦闘では無かったからだろう。


 サナ「こんなに穴だらけにしたら毛皮の価値が下がるじゃない」

ガット「ごめんなさい、焦って、冷静になれなかった」

モルナ「次は、ちゃんと上手くやるわ」

 サナ「出来れば頭を狙ってほしいわね」

ガット「頭かあ、やってみるよ」

モルナ「もっと引き付ければ行けるんじゃない?」


………………違ったみたいだ。


デクシス「アル様、このままじゃ俺には1匹も回ってこない」


ああ、此処にも切実な問題が………………


そもそも何故こんな所に、こんなに大きな魔獣が居るのか?

それも14匹もの群れを作って。

1匹や2匹なら、腕に覚えの有る村人や町人でも倒せるが、こんな数の群れ

に対処するには、高ランクの冒険者か、軍の対応が必要となる。

要は両方の組織が機能していないのだ。

今から向かうマレーナの町がどうなっているのか考えたくない。

どう転んでも厄介事の匂いしかしないからな。


その場で解体しようとするサナ達を説得して、異空庫に魔狼を収納すると

早々に次の野営地に移動した。

血の匂いにつられて別の魔獣が寄って来るからだ。


日も高い内に野営の準備を終わらせたが、今日は、いつものように休息は

取れないだろう。

日が落ちるとすぐに子供達を馬車の中に退避させ、焚火を中心にかがり火

を馬車を大きく囲むように置いた。

こうしておけば魔物の襲撃にも対処出来るだろう。


日が暮れて暫くしてから、焚火の前で紅茶を飲む横では、どうしても戦い

たいと引っ付き虫になっていたデクシスが、闇を凝視していた。


デクシス「アル様、なんか来る」

    「数はわかるか?」

デクシス「1匹?いや2匹みたい」


ズズズズッズッズズズッズッズッズッズズズズズズ


闇の中から現れたのは2匹のグランドリザード。

深緑色の鱗に覆われた体長5mを超す大物だ。

もっとも見た目はトカゲではなく鱗のある大ヤモリだが。

とにかく、こいつらは悪食の大喰らいで、動くものなら何でも喰う。

だから、寒さで動きが鈍っているにも関わらず空腹に耐えかねて出て

きたのだろう。



「いいか、デクシス、こいつらの倒し方はこうだ」

「《《風の理::刃》》」


俺は、まずグランドリザードの短い両方の前足を風魔法で切断した。

頭が地面にめり込んで後ろ足だけでもがいている所で頭も落とした。


「こいつら、頭が異常に重いから、前足を潰されると全く動けない」

「当然、これで噛みつくことは出来ない」

「だから、後は振り回す長い尾に気を付けて首を落とせばいい」

「そうそう、1回で切れないなら何度でも、左右も同様に切りつけろ」

「よし、頭が地面に付き始めたぞ、もうこっちのもんだ」

「振られた尾が戻る瞬間に首を狙え」

「焦らなくていい、どうせ直ぐに尾は遅くなる、確実に行け」


暫くしてデクシスの刀がグランドリザードの首へ致命傷の一撃を入れた。

だらりと、力なく垂れた舌がその死を物語っている。


デクシス「ハアハァハァハァハァハァハァ」

    「よくやった!初討伐がこんな大物なんて凄いじゃないか」

デクシス「ハァハァハァ、必死で、ハァハァ、言われた、ハァ、通りに」

    「それが出来る事が立派なんだよ」

デクシス「ハァハァ、エへへへへへへ」


いつの間にか、ガットとクリッカが馬車から降りて来てデクシスを質問

責めにしているが、憧憬と驚嘆がその瞳で揺れている。

ガットとクリッカにとって、デクシスのやった事は偉業なのだ。

例えそれが、普通の冒険者にとっては楽な相手だったとしても。


いつの時代でも、どの世代でも、英雄の最初の一歩は小さいものだ。



 サナ「ねえ、これ食べた事ある?」

モルナ「昔、食べたけど何かパサパサしてた気がする」

 サナ「美味しくないのか、じゃあ皮の方が高く売れそうね、あと魔石も」

モルナ「そうね、肉は私達で食べちゃいましょうよ」

 サナ「そうね。でも余った分どうしよう、保存方法しらない?」

モルナ「うーん、聞いたことがないかな」 

 サナ「しょうがない、諦めましょう」



…………………………女の子も無事、主婦への一歩を踏み出したようだ。


取敢えずグランドリザードは異空庫にしまって置く事にした。

そしてモルナ、頼むから、少しはデクシスの方も見てやってくれないか。

ちらちら、こちらに視線を向けては、落胆するデクシスが痛々しいんだ。


ああ、デクシスの初恋は何処にいくんだろう………………………………


………………いい大人が大変申し訳ございませんが(汗)………………


………………王女に騙されて、死にかけたポンコツには判りません(涙)



翌朝、出発して直ぐに6匹からなる魔狼の襲撃を受けたが子供達が難なく

倒してしまった。

順調に進む馬車は、日が沈む前にマレーナの町に辿り着いた。

残骸に近い門の傍に、3人の老人が、衛兵の替りなのか、槍を持って椅子

に座っているが、馬車を止めるそぶりも何も無い。

仕方がないので、馬車から降りて老人たちに話掛けた。

勿論ローブの上にさらに外套を羽織っているので威圧感は無いはずだ。


   「爺さん、ここはマレーナの町で合ってるか?」

老人A「そうじゃ、あんたらのお仲間なら、ほれ、あそこに見える屋敷

    に居るわい」

老人C「正面に見える一番大きな屋敷じゃ、3階建てはそこだけじゃ」

老人B「わかったなら勝手に行ってくれ、わしらは知らん」

   「随分、不愛想な門番だな」

老人A「なら、どうする?略奪する物などもう何も残っとらんぞ」

老人B「じじいの命なら、三つほど此処に有るがな」

老人C「確かにそうじゃ、欲しけりゃほれ、持っていけ」

老人A「あと、わしの家の裏庭にゴダ芋なら植わっとるぞ」

老人C「ありゃあ、わしら貧乏人の食い物じゃ、」

老人A「あんたみたいな貴族様の口に合うかわからんぞ」

老人B「合うわけなかろう、あんな不味いもん。ひゃひゃひゃ」

   「あ~、なんか勘違いしてるみたいだけど、俺は貴族でもグラムの

    兵士でも、ついでに関係者でも無いぞ」

老人B「あいつらの身内以外、こんな所になどおるもんか」

   「だから、身内とかじゃないって」

老人C「じゃあ、何者じゃと言うんじゃ!」

   「そうだな、グラム聖王国にとっては天敵だろうな」

老人C「はぁ?」

   「もしくは死神だ」

老人A「意味が解らん」

老人B「わしらに、それを信じろと?」

   「じゃあ、これなら信じるかい?」


俺は、老人達に見えるように、外套を開けて見せた。


 老人3「「「黒の魔導士‼」」」

    「それに、馬車を良く見なよ、それと、デクシス、降りてきてくれ」

デクシス「はい」


そこには、興味深々で窓から顔をだした笑顔の子供達と帯剣したデクシス

が居た。

笑顔の獣人、帯剣した獣人、どちらも聖王国では絶対に有り得ない光景だ。


老人A「おおぉ、おおぉ、おおぉ、」

老人B「違う、本当に違う、うおぉ…」

老人C「おぉ、おねがいじゃ、あいつらを、あいつらを」


跪き、両手を組んで懇願する老人達を立たせて、話を続けた。


   「此処にグラムの兵士は何人居座っている?」

老人A「たしか20人程じゃったと思うがのぉ」

   「1個小隊にも満たないのか、何でまだ居座ってるんだ?」

老人C「あいつら、おこぼれを待ってるんじゃ」

老人A「この町は小さくて余り裕福な町民は居なかったしのぉ」

老人B「町長とその一族は、侵攻の一報を聞いて真っ先に逃げたわい」

老人C「わしらを囮にしたのじゃ」

老人B「おめでたいわし等は、町長の言葉を信じた」

老人A「公国軍の補給部隊がやって来ると」

老人B「来たのは、聖王国の略奪部隊だったわ」

老人A「あいつら、床板まで剥がして探し回ったがな、貧乏なわし等から 、

    どれだけかき集めても知れとるわい」

老人C「今居るグラム兵は、配当も貰えなかった落ちこぼれどもじゃ」

老人A「しばらくして、ジリエの町から避難して来た人間が現れての」 

老人C「当然、やつら、それを襲ったんじゃ」

老人B「ジリエの町は此処とは比べ物にならん程、大きな町じゃからな」

   「当然、金目の物を持ってる。で、味を占めた奴らは次の獲物を待

    っている訳か」

老人A「正解。だからわしらは此処で門番しとる。協力するふりをしてのぉ」

老人B「もし来るような事があればこっそり逃さにゃならん」

   「しかし、よく信じさせたな、そんな事」

老人C「婆さん達があの屋敷で給仕をさせられておるからじゃ」

老人B「人質だと思っての、あいつら、喜んで任せおったわい」

老人A「もう、わしら年寄しか残っとらんのに、誰も命乞いなどせんわ」

老人C「底抜けの阿呆じゃ」

   「なら、俺が全部始末しても、構わないな」

老人A「もちろん、願ったり叶ったり、遠慮せず魔法をぶち込んでくれ」

老人B「婆さん達の事は気にせんでええ、覚悟はできとるわい」

   「全部で何人いるんだ?」

老人B「8人じゃが、無視してもらってええ」

老人C「みんなで話は、ついとるんじゃ」

   「……俺の魔法は少し特殊でな、相手の顔を見なきゃならんから、

    婆さん達が居ると効率が悪いんだ。何とか外に連れ出してくれ」

老人A「何とかやってみるが、全員は恐らくむりかのぉ」 

   「なら、夜中まで待ってみるか?」

老人C「余計に無理じゃ、飯が終われば、まとめて監視されるんじゃ」

   「なら、出来るだけでいい、裏口から逃がしてくれ、俺は正面玄関

    から四半時(約30分)後ぐらいに乗り込む」


それから老人達は薄闇に紛れる様に屋敷の裏手に消えていった。

そして一人、残った老人には馬車を見ているように頼んだ。

サナ達には、もし誰かこちらに来たら、この爺さんに敵・味方を判断して

もらい、敵なら迷わず撃て、殺すのが嫌なら、足を撃て、と言ってある。

馬車の天井から現れたモルナが、小型バリスタを構えて小さくⅤサインを

している。

なんか、短期間に色んな物を直也から教わったみたいだ。

ろくでも無い物じゃなきゃいいのだが、途轍もなく、不安だ。


暫くして、屋敷に向けて通りを歩く俺の横にはデクシスがいる。

戦闘に参加したいと、頼み込んで来たので条件付きで許可をした。

怪我を負う事も、死ぬ事も覚悟をする事。

直也に怒られるので(俺が)絶対に怪我をしない、死ぬなど論外な事。

相手を殺すのに躊躇しない事。

自分で考え、自分で判断し、自分の責任において自由に戦え。


そして最後に、


「此処の老人達は全員、死に場所と死ぬ意味を求めている。絶対、婆さん

 達に犠牲を出すな、一人でも死ねば全員、後を追うぞ」


無言でうなずくデクシスは、ちゃんと男の目をしていた。

子供だから、危険だから、女だから、等と言う理由で、戦う意志を妨げる

つもりは無い。

強くなりたいと、生き残りたいと、誰かを守りたいと思う揺らぐ事の無い

強固な覚悟さえ有れば構わない。

常に法律や国や常識が守ってくれる様な甘い世界では無いのだ。

ともすれば、その全てが逆に牙を向けて来る。

特にそれが獣人なら、なおさらだ。


そして屋敷に辿り着くと、そのまま玄関を吹き飛ばして、中に踏み込んだ。


「やあ、無知で無能な生きる価値の無いゴミくずの皆さん、今晩は」






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