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ある魔導士の帰還  作者: 勝 ・ 仁
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旅立ち



やって来ました山口レーシング株式会社・洞窟工場。

まあ、同じ洞窟内なんだけどもね。

俺が持ってきたのは馬車だったよね。

もうね、なんだかね、突っ込む気も失せたよ。


見た目は四輪駆動車の足回りにキャンピングトレーラーがのっかった姿で

銀色の車体とやや大きめの真っ黒なタイヤ、御者席は左右と上部は視界を

確保したコクピット型。

馬の操縦も車体操作もすべて、ここにあるコントロールパネルで行う様に

なっている。

室内は全席総毛皮張りで開閉式窓付き。

車体は、休息時に右側面が上部方向に開閉。

テーブルやイスは折り畳んで車両下部に収納。

台所とシャワー室は後部に設置。

車体上部には二つの開口部に2機の自動装填装置付き小型バリスタ。

後、馬に関する装備として、真っ黒な魔獣の皮で作ったローブ型鎧が4着。

これは馬体全てを覆うように作られ、耐刃、耐熱、耐魔法を付与。

足元にはレッグウォーマー型皮鎧。


はい、もう戦車です。

馬車の痕跡が欠片も見えません。

改造の上に更に改造ですか、ごちそうさまです。

子供達の安全の為ですか、そうですか、もう、お腹いっぱいです。

過保護にも限度って物が有るんですが、直也は全く気にしてません。


サナ達が直也の作った、操作手引書を真剣に読み込んでいます。

全員が兵装や操縦を何回も確認しているし、ちびっ子3人組でさえ、大人

しく座席に座っています。

大体、何ですか、あのバリスタは。

毎分6発で弾数120発、交換ボックスは席の下、化け物ですか。

どうしましょう、何処からどう見ても過剰戦力です。

並の盗賊など子供達だけで殲滅できそうです。

もし子供達が、トゲトゲ付きのヘルメットやショルダ-ガ-ドを装着して

ヒャッハーし始めたらどうしよう。

ちょっと本気で心配になって来た。


夕刻、食事を済ませ、子供達を寝かし付けてから直也と明日からの大まか

な行動指針を打ち合わせた。


「明日からの工程を簡単に説明すると」


※此処から南東に5日の位置にあるマレーナの町へ

※出来れば戦闘なしで通過、無理な場合は山脈側へ迂回。

※マレーナから東へ5日でジリエの町へ。

※ジリエからはクノの町へ東に4日、多分全て戦闘になる。

※クノの町にいる聖王国の軍に打撃を与え、そのままクノッソス砦へ。

※そこからアルギス公国の公都に向かい子供達を一旦保護してもらう。

※あとは公国との交渉次第。


【 要約 】


※半月ほどかけて、クノッソス砦に行き、聖王国軍を、ぶん殴って

、から20日程かけて公都に行って公王に会う。


「と、まあ、大まかな予定はこんな所だ」


大きく広げた、落書きに毛の生えた程度の地図を挟んで直也の疑問や質問

に答えていく。


《このバゼ大河を挟んで、両方が睨み合いをしている訳か》

「もう三ヶ月以上、膠着状態らしい」

《アルギス公国ってのは、そんなに強いのか》

「俺の居ない間に、強力な軍隊に変貌したのなら別だがな」


少なくとも俺の知る限り、この大陸にある八つの国の軍隊は、四年前は、

それ程強く無かったはずだ。

どの国の軍も、主な仕事は大陸中央の広大なガヤ大森林から谷や山脈を

時折超えてくる魔獣を駆除するための戦力を確保する必要が有る為に、

他国を侵略する余裕が無かったはずだし、サイレージ海王国は国自体が

島国で人口も少ない。

だからこそ、グラム聖王国がここ迄、侵略出来た訳だ。


《こっちじゃ、たかだか四年やそこらで、急に軍が強くなる物なのか?》

「まあ聖王国の例もあるし、可能性はゼロじゃ無いかもしれないが」

《なら別の要因を考えた方が、理屈に叶っているな》

「別の要因?」

《聖王国側の事情で膠着している》

「はあ?ここに来て、侵略を止める理由なんてあるのか?」

《幾らでも有るぞ、補給の不足、戦力の補充、国からの指示、貴族同士の

 権力闘争、各現場指揮官の独走、疫病の発生、などだ》

「そんなに有るのか?」

《離間の計 なんて物もある》

「なんだそりゃ?」

《まあ、簡単に言えば仲間割れを起こさせるのさ》

「なんでそんな事で軍が止まるんだ?その前に攻撃すればいいだろう」

《今、俺が言ってる事は戦略で、今お前が言った事が戦術だ》

「なら片っ端から殲滅すれば、戦略って要らないんじゃないのか?」

《ほんと、これだから魔導士ってやつは》

「どこか間違ってるかな?」

《騙されて地球に吹っ飛ばされたのは何処のどなたでしょう?》

「………私です」

《用心に越したことは有りません》

「はい、肝に銘じます」


その後、直也と旧ドラン王国復活や獣人や亜人の保護などを話したが、余

りにも、不確定要素が多いのと、情報不足で全く方針が定まらない。

なので、俺が帰って来るまでの約二ヶ月間は、それぞれの考えで動く事に

した。

直也には何やら考えが有るらしく、追加の魔鉱石と金属をねだられたので

出せるだけ出したが、何故か鉄とミスリルは要らないらしい。

どうも自力で採掘を始めたらしく、珍しい結界石を幾つか採取していた。

後、魔鉱石が無くなったらその辺の大き目な魔獣を狩ればいいと教えたら

驚いていた。

初耳だったらしい。

それから俺は、翌日の出発に向けて眠りについたが、直也はデクシス達の

剣や短刀を、これから作るらしい。

どうも今の直也にとって、睡眠は娯楽や嗜好の類で、わざわざ取る必要は

無いらしい。

今度は俺が初耳だよ。



………………翌朝


みんな朝早くから出立の準備に追われていた。

直也が用意した服は、実用性を重視しながらも、十分な見栄えだった。

とくに女の子達の服はさすがの出来栄えだ。

サナとモルナはバトルドレス風、リリ・ルナ・ミアは魔法少女風だ。

伊達に長いことオタクはやってない。

男の子達は、うん、無難だ。


一旦、異空庫に馬車?を収納してから、洞窟の入り口で馬達に馬具を取り

付けた。

その間に子供達は直也とお別れの挨拶をしている。


かなりして子供達は直也からの贈り物をそれぞれの手に、洞窟から出てきた。

まずデクシス達の手にある剣や短刀は、やや反りのある日本刀で間違いない

が、3刀とも束頭が異様に大きく卵形をしいているのが気になる。

あの直也がこんなにもアンバランスな造形を良しとするはずがない。

恐らく何らかの仕掛けが有るのだろう。

そして女の子全員が首から大きな涙滴形のネックレス?をしている。

確かに綺麗なオレンジ色をしているが、これも直也らしくない。

サイズが卵ほど有る。

さらに、下側には鎖付きのリングが付いて引っ張れるようになっている。

もう、あれにしか見えん。


  「あーサナ、その首から下げている物なんだが」

サナ「直也様から頂きました。女の子の必須装備だとおっしゃいました」

  「そっ、そうか」

サナ「名前は〝お巡りさん、こいつです”って言うらしいです」

  「やっぱりか」

サナ「予備もたくさんいただきました」


サナの手には革袋が握られているが、20個ぐらい入ってそうだ。

あいつ、よくこんなもの思い出したな。

てか、わざわざ作るか?


俺が呆れている間に、子供達はさっさと馬車に乗り込み始めた。

それぞれ、お気に入りの席を確保したように思ったが、間違いだった。

サナは御者席に一番近い席に、デクシスは前部にある出入口のそばに。

ガットとモルナはそれぞれ上部開口部、それぞれ席を取った。

まあ、ちみっ子たちは自由みたいだが、それでも良く考えた席決めだ。


俺が御者席に座ると子供達が一斉に窓から顔を出した。


  「「「「「「いってきます‼」」」」」


振り返れば、手を目いっぱい伸ばして振る子供達と、それに答える様に、

洞窟の入り口に並んで両手を振る、蜘蛛型ゴーレムの群れがいた。


「はは、いってきます、か、直也にしっかり釘を刺されたな」


直也は告げているのだ。

俺には、子供達が望まない場所には絶対に預けるな、と。

子供達には、嫌ならいつでも帰って来い、と。


門をくぐった馬車はなだらかな坂をゆっくり南西に向かって走り出した。



      アルギス公国と新たな運命に向けて。


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