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#35 ルートに入ると三択になる




「にーちゃん、顎、どうしただね」

「それが、よくおぼえてないんですよ。目が覚めたら痛くて……。ねぼけてぶつけちゃったのかなあ」

 アレクくんが顎を撫で撫で答える。気のいい冒険者のお兄さんは「あー、あるある」と笑って、薬草をねりこんだ湿布を作ってくれた。


(わたしのせいです。まことにすみません……!)


 アレクくんとお兄さんがなごやかに世間話するそば、わたしは一人いたたまれない思いで押し黙る。心臓さえ動いていれば、胴をぶちぬかれようが四肢がもげようが完璧に治してしまう治癒魔法のスペシャリストであるはずのアレクくんが、なぜ半日を経過してもなお顎を傷めたままなのか。


 それはわたしが頭突きした際、彼が舌を噛んでしまったことにある。ようするに舌の痛みが気になって集中できないそうです。「ソウナンダー」と白々しく相槌をうったわたしに、アレクくんははにかむように頭を掻いて見せた。


「もともと自分に向けて使うの、あんまり得意じゃないんだ。このくらいなら大丈夫だな、我慢できるなって思っちゃうからかも」

 それより、とアレクくんがわたしの頬に目を向けた。「ちょっとごめんね」と断って伸びた指が、肌に付着した水滴をはらうようなしぐさで頬に触れる。ドキリとした刹那、肌に残っていた違和感が消えたことにわたしは気づいた。


(ぶたれたときの)


 わたしなんかそんなことがあったことすら忘れてたのに、もしかしてずっと気にしてたんだろうか。そういえば(ねぼけながら)謝ってくれてたなと思って、「ありがとう」って言った。

 アレクくんはまなざしで笑んだだけだったけど、くすぐったそうな色合いがこちらにまで感染したかのようで、わたしはドキリとしてしまう。何気なく渡したけど実はそれめっちゃ悩んで何日もかけてあちこちお店回って選んだんですよみたいな。実はそんな経緯のプレゼントなんだけど本人の前ではさもなんでもないようにふるまってみましたみたいな! やったねスマートに渡してやったぜみたいな!!


「ン゛ン゛ッ!」


 うっかり令嬢らしからぬ声が出てしまった。アレクくんとお兄さんがびくっとこちらを見るのへ、曖昧に手を振って返す。

「にーちゃんらさあ、もしかして恋人?」

 早朝から降りだした雨は刻々と激しさを増していくばかりで、わたしとアレクくんは早々にこの洞窟に逃げ込んだ。そこへ飛びこんできたのがこの冒険者のお兄さんだった。めずらしい素材をテイラーに売って生計を立てているそうだ。


「相棒って感じじゃないし、兄妹にしてはよそよそしいし、そしたらあとは恋人かなって」

「ち、違いますよ! 俺と彼女は、全然、そういう関係じゃなくて」

「いいねえ、オレも恋人欲しいなあ」


 アレクくんが真っ赤になって否定するのへ、おにいさんが明るく笑う。笑いながら、反応をうかがうようにこちらを見た。こういう状況下で空気を悪くしても仕方がないのでハハ、とわたしも笑い返す。

(恋人かあ)

 ある意味間違ってはない。だって現実にアレクくんは攻略対象なわけだし。まあ、ほかに二人いますけどね。


(そっか、乙女ゲーなんだから最終的にはそうなるのか)


 クロスオーバーした世界でエンディングなんて存在するのかな? そもそもここ、本当にゲームの世界なのかな? って思ってきた。確かに好感度とかスキルレジストリとかオートセーブとかメタシステム要素はあるけど、だってアレクくんもコセムくんもラアルさまも、みんなそれぞれ感情や人生のある“人間”だ。ゲームの“キャラ”じゃない。

 わたしだって。


「雨、今日はこのままやまないかもしれないね」


 流れ落ちてくる雨水が幕を張って滝中にある洞窟のようになっている入り口を見、わたしは言う。突然天井が崩れたりはしないだろうか。落ち着かない気持ちで洞窟内を見回していたときだった。

「ひあああああああっ」

 ひときわ大きな雷鳴がとどろいて、わたしは思わず伏せてしまった。光った、すごい光った。視界が真っ白になったよおおおお。


(腰、抜けた……)


 なのに雷は続いていて、わたしは小動物のごとく震えるばかりだ。ああ、何かにしがみつきたい。考えて、ラアルさまの美しいかんばせを思い出した。

(ラ、ラアルさま~~~~~)

 まあ、おねえさまったら。やさしく笑いながらラアルさまが、膝にしがみつくわたしの髪をよしよししてくれるの。

(ラアルさまに会いたい……聖女さま美少女さま……いったいどこにいるの……?)

 ちなみにあの後アレクくんとも探してみたけど、結局コセムくんやラアルさま、ユグノくんを見つけることはできなかった。


「……ジ、ジアンナさん」

「ア、……アレクくん……」


 うるさくしてごめんって言いたいのに、震えて言葉が続かない。情けない。化身の雷は平気だったのに涙まで出てきた。

「……」

 ごく、とアレクくんの喉が動く。大舞台に臨むような緊張した面前に、そして例のフレームが出現した。


 ▽怖いから雨が止むまでくっついてもいいかな?

 ▽こ、こんなの全然へっちゃらだよ!

 ▽ラアルさまたち、大丈夫かな


 間違えればバッドエンドになる乙女ゲーだ。初めて出現した三択についてもふれたいし、慎重に一個ずつ検証していきたい。いきたいけど、雷が気になってそれどころじゃない。

(もうおうち帰りたい)

 これ選んだら雷イベント終わる? わたしは藁にもすがるような思いで二番目にカーソルをあてた。



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